「ネプテューヌ様はどちらへ行かれたのでしょう?」
「ナスを使った研究するって言ったら、部屋に閉じこもっちゃって……」
「そうですか。しかし、あのネプテューヌ様が閉じこもるだけでナスの研究をする自体は許可するとは。普段ならゴネて研究自体させないように仰ると思っていましたが……」
もしこれがネプギアとギンガによる開発だったならばネプテューヌはもう少しゴネていたかもしれないが、ネプギアが新しくできた友人たちとの共同開発することに水を差すべきでないというネプテューヌなりの配慮なのだろう、とギンガはネプテューヌの真意を察する。
「できたぁ! 『ナス探知機』! 見て見て、ギンガさん!」
「ほぅ、良いですね。しかし、紫色の部分にもう少し光沢があると更に良くなるでしょう」
「なるほど! 機能も重要だけど、見た目も大事ですもんねー!」
「とりあえず、試運転しよっか?」
「おっけーぎあちー! よーし、早速、スイッチオ……」
マホが装置を起動する直前、巨大な揺れがプラネテューヌを襲う。
「……っ⁉︎」
「なんだ……何が起こった……?」
「見て、アレ‼︎」
ネプギアが指を差した方向は、空が黒く淀み要塞のようなダンジョンが隆起し始めていた。
それに呼応されるように、ナス探知機のセンサーがけたたましく音を立てる。
「あそこから高エネルギーのナスと似た反応を探知しています……」
「ということは……」
「あれはマジェコンヌの仕業だね!」
「探す手間が省けました。マジェコンヌ、今度こそ決着をつけてや……」
「ちょっおぉっと待ったぁ‼︎」
ギンガが要塞に突撃する意思を見せたその時、引きこもっていたネプテューヌが部屋から飛び出て、ギンガを制止する。
「ネプテューヌ様……?」
「わたしが行くって言ったでしょ。ギンガは待機。ネプギアたちもね」
「しかし……」
「大丈夫。ノワールたちも向かってるらしいし、チャチャっと片付けてくるよ」
「……かしこまりました」
「……ネプギア」
「お姉ちゃん……?」
「何かあった時は、任せたよ。ないと思うけど! ……じゃあ行ってくるわね!」
ネプテューヌは女神化し、そのダンジョンへと飛んで行った。
「お姉ちゃん……それフラグ……」
*
「ノワール!」
「ネプテューヌ、遅いわよ」
「あなたが一番近かったからでしょう? ブランとベールは?」
「今向かってるって。それにしても……なんなのよアレ……」
「マジェコンヌが関係してるらしいわ」
「あいつが? 性懲りも無くまた悪事を重ねようってわけ?」
「そういうわけじゃなさそうだけど……」
パープルハートたちの元に、二方向から接近してくる白と緑の光。
「よ、お前ら」
「もう来ていらしてたのね」
ホワイトハートとグリーンハートも駆けつけてきた。
「アレが例の変なダンジョンか……」
「なんでしょうね……この、見ていると気分が悪くなってくる……まるで、わたくしたちと相反する性質のような……」
「とりあえず、あの中にいる奴を叩けばいいんだろ?」
「でしょうね。わかりやすくていいじゃない」
「敵の根城に突撃するわけだから……危険よ。みんな、大丈夫?」
あまり時間をかけすぎると国民たちの不安を煽りシェアに影響が出てくる可能性があるため、四女神は危険を承知でダンジョンに乗り込む。
「何かあった時はあの子達がいるから大丈夫よ」
「……それもそうね」
そして、自らに何かあった時に後を託せる者がいる。
「……わたくしにはいませんけれどね」
「じゃあやばかったらお前だけ逃げてもいいぞ」
「そういうわけにもいきません。帰る時はみんなで、ですわ」
「そうだな」
「じゃあ、突撃するわよ!」
「ええ!」 「ああ!」 「はい」
ダンジョンに突入した四女神は、モンスターを軽く捻じ伏せながら、奥へと進んでいく。
「ふむ……そこらの雑魚モンスターよりはやるようですけれど……」
「私たちの敵ではないわ」
「思ったより手応えがねえな」
「みんな、アレを見て!」
パープルハートが指を差した方向、ダンジョンの奥には、マジェコンヌが佇んでいた。
「マジェコンヌ……っ」
「来たか……女神ども」
「あなたは何者⁉︎ マジェコンヌではないんでしょう⁉︎」
「私も『マジェコンヌ』さ。しかし、貴様らの知る『マジェコンヌ』ではないだろうな。何せ、この次元には『ギョウカイ墓場』も存在せず、わざわざこうして一から作らなければならなかったからな」
「『ギョウカイ墓場』……?」
「さて、私の正体だったか? 知りたいのならば教えてやろう」
「……!」
四女神はマジェコンヌの言葉に耳を傾ける。
「私は『犯罪神』と呼ばれていた者。名乗るならば『犯罪神マジェコンヌ』だ」
『ギョウカイ墓場』そして『犯罪神マジェコンヌ』。
どこか別の次元の四女神ならば聞き馴染みのある女神にとっては忌々しきその言葉だったが、この次元の四女神にとってはどれも初めて聞くものであった。
「犯罪……神……?」
「ブラン、何か知っていて?」
「私は辞書じゃねーぞ。ていうか知りもしねえし」
「それでも、私たちの敵であることに変わりはないわ」
「神なんつー大層な名前がついてるからには、最初から本気でいかせてもらうしかねえな」
「ええ、行きましょう」
ブラックハート、ホワイトハート、グリーンハートはハイパーシェアクリスタルを手元に顕現させる。
(ギンガ……あなたには背負わせないために、マジェコンヌは……私が倒す!)
続けてパープルハートもハイパーシェアクリスタルを掌の上に顕現させた。
「『ネクストプログラム』、起動!」
「……」
「……」
「……」
「……え?」
しかし、ハイパーシェアクリスタルは四女神に反応することはなく、その輝きは失われてしまっていた。
「どうなってやがる……?」
「ハイパーシェアクリスタルが……」
「使えない……⁉︎」
「知っているぞ? 『ネクストフォーム』、だろう? 今の私ではその変身で四人がかりで来られればひとたまりもないのでな。少し策を練り封じさせてもらった。そして、ネクストフォームのない貴様ら四人ならば、私一人で葬ることも容易い」
「舐めやがって……!」
「その言葉、後悔させてあげるわ!」
*
「まずい……侵食が始まっています……!」
「どういうことですか?」
「あのダンジョンから漏れ出たエネルギーが、ゲイムギョウ界を蝕んでいっています。マジェコンヌめ……今まで表立った行動をしていなかったのはアレの下準備のためか……!」
人並外れた感覚を持っているギンガは、『ギョウカイ墓場』から滲み出るエネルギーの性質をなんとなく理解していた。
『侵食』……『犯罪神マジェコンヌ』の邪なエネルギーが『ギョウカイ墓場』を起点にゲイムギョウ界中に散らばっているのだ。
「ネクストフォームの四人がかりならば、今のマジェコンヌを倒すことは容易いでしょう。しかしマジェコンヌもそれを分かっていたからこそ……この侵食により人間と女神のシェアの流れを阻害させたのです。今、ゲイムギョウ界はシェアとマジェコンヌの侵食による綱引きのような状態となっています。この状態ではまだ女神様の生命力に影響はありません。しかし……」
「ネクストフォームになれない……ということですか?」
「はい……」
ネクストフォームはその絶大な力を引き出すために、通常の女神化以上にシェアの流れが重要である。
マジェコンヌの計画は、直接女神そのものを弱体化させるのではなく、シェアの流れを阻害し間接的に力を奪うことだった。
「イストワール! 私もあのダンジョンへ向かいます!」
「『ギャラクティカエクスプロージョン』の影響で戦闘力が戻っていないギンガさんが向かって何ができるのですか?」
「それは……」
「焦る気持ちは分かります。ですが、ギンガさんが今すべきことはそうではありません、よね?」
「……すみません。ありがとうイストワール」
「いいえ」
「ネプギア様」
「はい!」
「ユニ様、ロム様、ラム様を呼び、今のうちから作戦を練ります。いきなりで申し訳ないのですが、マホ様とアンリさんも協力してください」
「モチのロン!」
「かしこまりました」
ギンガは、今集められる戦力を集中させ、事態の打開を図る。
(……侵食は女神様を弱体化させるにはうってつけの策だ。だが、女神様を倒すためのものとしては少々回りくどく、ゲイムギョウ界への影響も多くはない。おそらくは、次なる手があるはずだ……!)
*
「はぁ……はぁ……クソッ!」
四女神は苦戦を強いられていた。
「わたくしたちが与えたダメージが即座に回復する……これでは、キリがありませんわ……っ!」
ギョウカイ墓場の邪気により、四女神がマジェコンヌへ与えたダメージは即座に回復され、終わりの見えない戦いに、四女神は疲弊してきていた。
「ネクストフォームの火力がなきゃ、一撃でマジェコンヌの体力を削り取れない……!」
通常の女神化も決して弱くはない。しかし、マジェコンヌを倒し切るには少々パワー不足が否めなかったのだ。
「言っただろう? ネクストフォームのない貴様らを葬るなど容易い、と。私は根拠のない強がりは言わん。このまま貴様らの疲弊が進んだところを突けば良いだけのこと」
「……っ!」
「安心しろ。貴様らだけを葬るわけではない。このゲイムギョウ界ごと滅ぼしてやろう」
マジェコンヌが足元に歪な魔法陣を展開すると、大地と空が揺れ始めた。
「何をしたの……⁉︎」
「次元融合、と言えばわかるかな? この次元座標のすぐ近くに、うってつけの次元があったからな」
「うってつけの次元……? まさか……!」
「心次元ね……っ!」
「名称は知らんが、おそらくは貴様らの想定しているものに違いはない」
「心次元をどうする気⁉︎」
「この次元にぶつけるのさ。そうなればどうなるか……貴様らの想像するのも容易いだろう?」
「……っ!」
異なる次元が同一座標に存在する時、次元同士は一度崩壊を起こし、一つの次元となる。
かつて猛争事変の黒幕『暗黒星くろめ』が改革していた超次元の滅亡と同じ計画であった。
「やめなさい!」
「そう言われてやめるとでも?」
「この……っ」
女神たちに次元融合を止める手段はない。
「このままじゃ……ゲイムギョウ界が……!」
ネクストフォームへの変身が封じられている以上、マジェコンヌを止めることもできない。
万事休すと思われた。
*
「やはり……次元座標が再び近づいています」
(次元融合……これが奴の策か……!)
ギンガたちも次元融合を察知していた。
「私たちでは止めることはできません……っ」
「そんな……ゲイムギョウ界が……」
しかし察知したはいいものの、ギンガたちにも止める手段はない。
マジェコンヌを止めようにも、今からギョウカイ墓場に行ってマジェコンヌを倒せたとしてももう間に合わないこともわかっていた。
「……諦めるのはまだ早いぜ!」
その時、プラネテューヌ教会に"ある人物"が駆けつけた。
「あなたは……」
「うずめさん!」
現れたその人物とは『天王星うずめ』。
心次元の成り立ちとなる過去のプラネテューヌの守護女神。
「今から俺が心次元に乗り込み、心次元を切り離す。心次元は俺の心の次元、俺にならできるんだ。本当なら次元融合の影響を零にもできるんだが……それをするには足りねえんだよな、【オレ】の分の力と神格ってやつが……」
「……お待ちくださいうずめ様、心次元を切り離す際、あなたは心次元に渡る必要がある筈。もし心次元に渡った後に切り離してしまえば……あなたは超次元に戻って来れなくなります……!」
「そうです! そして、あの渦巻き型のゲーム機からはもう次元を繋ぐ機能は失われています。うずめさんは独りで心次元を彷徨うことになるんですよ……⁉︎」
「やっぱギンガとイストワールにはそれがバレちまうかぁ。けど、俺はやるぜ。今はそれしか方法がないんだ」
「しかし……!」
「わかりました……!」
ギンガとイストワールに代わってうずめの覚悟を受け入れたのはネプギアだった。
「うずめさんが決めたことなら、私は反対しません。けど、約束してください。必ず……戻ってくるって!」
「ああ!」
「もし戻って来なくても、私たちが何としても探しだしますから」
「そりゃ心強いな」
ネプギアが「良い」と言ったならば、ギンガはもう口を挟むことはしなかった。
イストワールもネプギアとうずめの意を汲み、うずめの提案を受け入れる。
「よし、ちょっくら行ってくる!」
そして、うずめは単身、心次元に乗り込んだ。
*
「……俺の心の中とはいえ、久しぶりだな」
うずめ自身も、心次元に立つのは久しぶりだったようで、猛争事変を思い出し、感傷に浸る。
「おっと、感傷に浸っている暇はねえな。早速次元を切り離すか」
うずめは心次元と超次元のリンクを断ち切り、次元融合を停止させた。
そしてその瞬間、うずめは超次元に帰還する手段を失った。
「……これでオーケーだな。そしてこれで独りか。ははっ、俺も弱くなったな……独りぼっちがこんなに寂しいなんて」
「……ならば、俺が話し相手になろう」
そんなうずめの後ろに人影ならぬ魚影が一つ。
「う、海男⁉︎ お前なんでこんなところにいるんだよ⁉︎」
「次元融合が始まったことをヒレのレーダーで感じ取ってね。ならば君がこうするだろうと思って、予め心次元に来ていたのさ。君を独りにさせないためにね」
「……良かったのかよ? 超次元に戻れる保証なんてないんだぞ?」
「いいや、戻れるさ。さて、お茶でも飲みながら、ねぷっちたちの勝利を祈ろうじゃないか」
「……そうだな。ありがとうな、海男」
*
「次元融合が……止まっただと……?」
うずめが心次元へ飛んだ直後に地鳴りが止むと、マジェコンヌは融合が止まったことを確信した。
「まぁ良い。ゲイムギョウ界滅亡の手段は幾らでもある。その内の一つが無駄になったに過ぎん」
そして、満身創痍の四女神の方に向き直す。
「さて、今の貴様らを消す"だけ"なら容易いが……ゲイムギョウ界ごと破壊するには今ここで貴様らを消すわけにもいかんか……女神だけ消したところで、人間の信仰心があれば女神など幾らでも生まれる。そうでなくても候補生という存在もいる以上、今ここで貴様らを消すのは得策ではない」
あくまでもマジェコンヌの計画の最終地点は、ゲイムギョウ界の滅亡であり、女神の排除は必須ではない。その先にはある女神への憎悪が秘められてはいるが。
今すぐ女神という信仰の行き先を消してしまうと何が起こるかわからないことから、次元融合が失敗したことも加え、慎重に事を進めようとしていた。