「マジェコンヌ、お前の言い分は分かった」
守護女神に凶刃を向けるマジェコンヌに、ギンガは立ち塞がりながら言う。
「だが、理解はしても納得はしない」
「何……?」
「私は……いや、俺はお前のことなんて嫌いだ。女神様に不敬だし、言動も一々鼻につくし、それでヤケに強いし。こちとら日々強くなる女神様においてかれないようにするのが精一杯だってのに、お前はそれ以上のスピードで強くなりやがる。最悪だ」
「何が言いたい……?」
「でも、俺はお前のことを仲間だと思ってる。キセイジョウ・レイの時も猛争事変の時も、助かったよ。お前のことは嫌いだけど、お前みたいな奴が周りにいて欲しいって思っているんだ」
「……」
「だから俺はお前を止める。死なせはしない」
「やれるものならな」
満身創痍のギンガと、犯罪神の力を吸収し更なる力を得たマジェコンヌ。
側から見れば、戦いになるはずもない。
だが、ギンガが、空に手を掲げると、強烈な光を放ちなある物体が飛来して接近してくる。
「アレは……」
「本来、今を生きる女神様が創る世界に、アレは不要なもの……だが、お前を止めるのは俺の意思だ。女神様に仕える者としての使命ではなく、俺という人間のエゴだ」
「ちっ……」
「封印から解き放たれし聖なる剣よ! 我が元へ来たれ! 『創世剣サーガ』‼︎」
飛来した聖剣が、ギンガの手に収まる。
溢れ出した光が、ギンガの身体を癒し、更なる光を与える。
創世剣サーガとは、歴代のプラネテューヌの全ての女神の加護が授けられている聖剣。普段はプラネテューヌのダンジョン『初代女神の聖域』に封印されているが、そのあまりにもの加護の強さからギンガの危機に反応して勝手に飛んで来るため、ギンガは(ネプテューヌが嫌がっているからと)今の時代を守護するのは今の時代の守護女神であり過去の女神の加護が今この時代を守るべきではない、という思いで、その聖剣を更に強く封印していた。
また、その封印はギンガの意思でのみ解くことができるのだが、犯罪神マジェコンヌの瘴気によるゲイムギョウ界への侵食でそれが行えずにいた。犯罪神から身体を取り戻したマジェコンヌが侵食を食い止めたため、封印の解除が行えるようになったのだ。
「さぁ、行くぞマジェコンヌ」
「やはり……我が最大の障害となるのは貴様か、ギンガ。ならば来い!」
光の化身『サーガ』と化したギンガが、マジェコンヌに前進する。自らを光に変え接近して再び肉体を再構築することで、一瞬でその距離を詰める。
「『ギャラクティカ・エスペシャリー』」
そしてゼロ距離で、全身から必殺の光線を打ち出す。
「ふんっ!」
しかしマジェコンヌが身体の周りにまとうオーラで、光線は打ち消される。
「割と本気で撃ったんだがな」
「この程度が、本気か?」
「言う……!」
サーガが剣を振る。常人の目にも留まらぬスピードの斬撃だが、マジェコンヌは自身の槍で軽く受け止める。
マジェコンヌはもう片方の腕から、サーガの腹部に闇の波動を放つ。
「……っ」
サーガの脇腹が消し飛ぶ。しかし、傷跡から漏れた光が即座に肉体を構築し、消し飛んだ脇腹が再生した。
「ぬ……っ⁉︎」
サーガの再生能力に気を取られたマジェコンヌの一瞬の隙を付き、サーガがシェアエネルギーの光で伸ばした刃を振るう。
「『無限斬』!」
振るわれた斬撃は、余波だけでギョウカイ墓場を両断した。
「ち……」
マジェコンヌの身体に大きな傷が入るが、マジェコンヌも己の闇のオーラで傷を癒し、即座に肉体を修復する。
「ギンガ……マザコング……」
二人の激戦を遠くから見守る守護女神たち。女神たちもサーガ光臨の影響で力を取り戻しているものの、二人の戦いに割って入ろうとはしなかった。
絶大な力を持つ者同士の戦いに迂闊に入れないこともあるが、それ以上にギンガとマジェコンヌの個人の戦いに介入するのは無粋だと思っていた。
「ネプテューヌ、さっきのギンガの一撃でこのダンジョンが崩れてきているわ。私たちは脱出しましょう」
「みんなは逃げてて。わたしは……この戦いを見届けたい」
「……そう。なら、巻き込まれないように注意しなさい」
「ありがと、ノワール」
ネプテューヌを除いた全ての女神が崩れゆくギョウカイ墓場から離脱していった。
(奴も俺も……互いの攻撃力以上に防御力や再生力が高い。ならば……攻撃力を底上げし、一撃で削り取る他ないな)
予兆。
サーガの周囲に溢れるシェアエネルギーが濃度を増し、渦を巻く。何らかの行動の予兆。
「……!」
当然、マジェコンヌはそれを感知する。そして、その行動の正体も。
「良いだろう……!」
マジェコンヌも自身の闇のエネルギーを凝縮し、サーガの元と似た性質の技で迎え撃とうとする。
「『シェアリング・フィールド』!」
「『ダークリング・フィールド』……!」
同時に展開される光と闇のフィールド。
フィールド技は性質として、同時に発生すると発動者同士の間に押し合いが発生する。
発動者はその間、押し合いに負けぬようフィールドの維持に尽力しなければならないため、敵の攻撃にリソースを割けない。
そして、フィールドの押し合いでサーガとマジェコンヌ両者は拮抗していた。そうなると後は、どちらがフィールド展開の消耗により先に押し合う力が弱まるか、という我慢比べになる。
「マジェコンヌ……犯罪神の影響もあれど、短期間で今の俺と互角なフィールドを展開できるようになったことは誉めてやる」
「褒めてやる、だと? 余裕そうな口ぶりをしていても、貴様のその変身は消耗が大きいのは知っているぞ。このまま押し合いを続ければ先にフィールドが消えるのは貴様だ」
「それはどうかな?」
サーガのフィールドは、フィールドでありながら空間を形成していない。自身の力を張り巡らせたフィールドで空間を"閉じる"のではなく、自身が存在する周囲そのものをフィールドにする。例えるならキャンバスを用いることなく空間そのものに絵を描くような神業を、ギンガのシェアエネルギーへの理解と操作技術にて広げたフィールドの解釈で想像し、サーガのあまりあるエネルギーの総量と出力で実現させた。
このシェアリングフィールドの有用性、それは、マジェコンヌのフィールド範囲内では押し合いが発生するが、その押し合いの外側から一方的にサーガのフィールドがマジェコンヌのフィールドを破壊できること。
「……っ」
マジェコンヌのダークリング・フィールドが、外側からサーガのシェアリング・フィールドに破壊され、強制解除される。
「マジェコンヌ……」
フィールドによりエネルギーの出力が底上げされた創世剣サーガの剣身が虹色に輝く。
「俺は……お前に常に女神様の仲間でいろなんて言わないさ。俺たちと敵対しようが構わない。お前が何をしようが俺たちが止めてやるけどな」
フィールドの影響で威力が大幅に減衰されたマジェコンヌの攻撃は、サーガに当たったところでダメージにならない。
「けど、お前以外の何かが女神様や世界を滅ぼそうとする時は、また一緒に戦ってくれ」
穏やかな言葉と共に、最後の一撃が振り下ろされる。
「『クリティカルエッジ』」
サーガの必殺技かつプラネテューヌ守護女神相伝の剣技が、マジェコンヌを斬った。
斬り口から解き放たれた光が、マジェコンヌの吸収した犯罪神の力を浄化していく。
そして、戦場から漏れた光が、崩れゆくギョウカイ墓場を消滅させていった。
「……」
クリティカルエッジの一閃に全ての力を費やしたギンガは、変身が解け、朧げな意識で、何もなくなった空を自由落下していく。
飛行用のプロセッサユニットを起動しようにも、力を使い果たしたからか指一つ動かない。
(身体が動かない……手詰まりか。せめて着地の構えでも取れれば良いのだが……この高度から無防備で落下して果たして生きていられるだろうか。死にたいわけではないが……まぁ、ここで終わりでも大丈夫だろう。ネプギア様は成長なされた。他の候補生の皆様も同じように強くなれば、ゲイムギョウ界の未来も安泰だろう。あの方がプラネテューヌの女神様の座を継ぐ姿を見たかったが……)
「ギンガっ‼︎」
すると、落ちていくギンガの元に、パープルハートが追いつき、ギンガの身体を抱きしめて飛ぶ。
「パープルハート……様……」
「ギンガ……!」
「マジェコンヌ……は……?」
「もう一人のあなたが回収して行ったわ。ていうか、マジェコンヌのことより自分の心配しなさいよ! どうしてあなたはいつも……! 自分の命は後回しにするのよ!」
「後回しにしてはいませんよ……結果的にそうなってしまっただけで……」
「屁理屈を言う元気はあって安心したわ! もう! それに……!」
「む?」
「どうしてマジェコンヌにはタメ口で一人称も『俺』で親しげに話すのに! 私にはそんな感じなのよ! そこが一番許せないわ! あなた一体私とマジェコンヌのどっちが好きなわけ⁉︎」
「パープルハート様に決まってますが? 私がこの世で一番好きなのはあなたですよ。そもそもアイツはムカつくから喋り方がああなってしまうわけで好感度ではありません、断じて」
ギンガは身体は動かないものの、愛する守護女神の抱擁により急速に意識を回復させた。
「言葉だけじゃない。私から何しても反応薄いし」
「立場というものがありますからね。それがなければ常に抱きしめていたいと思っていますが」
「私が守護女神で、あなたが女神補佐官だから?」
「そうなりますね」
「私は守護女神として国民を愛しているし、あなたも愛してるわ。けどその愛って同じじゃないでしょう? ネプギアへの愛もそう、あいちゃんやコンパ、いーすんへの愛だって全部違うものよ」
「む……それは確かに……」
「だから、あなたを愛していても、他のみんなも愛せる。そこに差なんて付ける必要もない。だって違うものだもの」
「それはそうなのですが……なぜ今そんな話を……?」
「ん? えっとねぇ、ついこの間まではお互いのために言わないでおこうって思ってたけど、よくよく考えたら言わない必要はないって気付いたのよ。だから、愛してるわギンガ」
「んん……っ」
パープルハートからの言葉にギンガは目を背ける。しかし、それは拒否の意ではない。それが照れているものだと気づいたパープルハートは、今まで自分に見せなかったその反応に、驚きつつも歓喜する。
「照れた? 照れてる? 照れてるわよね?」
「……言わなくてください」
「嫌よ。もっと言うわ。好きよギンガ。大好き。愛してる」
「ちょっと待ってくださいマジで……」
「そうね。私はあなたを困らせたい苦しめたいわけでもないから、ここらでやめておいてあげるわ」
「ほっ……」
「だから……」
するとパープルハートは、ギンガの唇に自身の唇をそっと重ねた。
「……っ⁉︎」
「今はこれで勘弁してあげる」
ギンガは顔を赤くした。そのような姿は、生まれてから誰にも見せたことはなかった。初恋の相手であるプラネテューヌの初代女神相手にも。
そんなギンガの様子を見て、してやったりな表情のパープルハート。仕掛けた側でもあるが、少し顔を赤くしながら微笑んでいた。
「次は、あなたからしてね」
「ぜ、善処します……」
「あまり待たせたらまた私からするけどね」
「額や頬じゃダメですか?」
「ダメに決まってるでしょ」
「そんな……」
そんなこと言いながら飛んでいると、プラネタワーが見えてきた。
二人の帰る場所であり、プラネテューヌの過去と今と……そして未来の繁栄を示す場所。
こうして、ゲイムギョウ界を突如として襲った危機は去った。全ての脅威は無くなった……わけではないが、残ったその脅威を含めてのかけがえのない日常であり、たとえ敵対していても、世界を守るために手を取り合う時は来るのだろう。
また、一歩どころか何歩も進んだ彼と彼女の関係性がこの先どうなっていくのかは、今は誰にもわからない。
(無理だ。決壊した。今まではネプテューヌ様とパープルハート様がどれだけ愛おしくてもなんとか平然を保っていられたけど、もうここまでされたら無理ですね。どうしましょう……これでは、ネプテューヌ様とパープルハート様の顔をまともに見れません……くぅ……)
それはそうと、明日のゲイムギョウ界は平和であろう。
エピローグ的なのをやって終わりです。