[北方連合 最高連合議会決議室]
Sideソユーズ
レッドアクシズ陣営にいる同志達からカグヤの生存報告が複数上がったために開かれた緊急招集議会。
早期派と計画派で案の定荒れに荒れていた。
「よもやレッドアクシズの指揮官が生きていたとは……!」
「だからもっと早くに開戦をするべきだったのだ!」
「そうだ!我らは貴様らのせいで無為な三ヶ月を過ごしていたのだ!」
「何を言うか!半端な準備で勝てる相手はではない!
最初の計画通りにことを進めれば問題は無い!」
「馬鹿をいうな!すでに配給制でも追いつかなくなり始めてるのだぞ!」
「それは貴様らが配給計画に無理な変更をしたせいだろう!」
「そうだ!まだ一年は問題なかったのを台無しにしおって!我らは労働者らあっての国家なのだぞ!」
「その労働者を守るためにも早期に決着をつけるべきだったのだ!」
「論点をずらすな!だから貴様らは……!」
「何だと!どういう……!」
「………!」「………!」
………聞くに堪えない罵詈雑言が議会室を支配する。
チラリと隣に座る我らが同志"主席"が顔を伏せて震えていた。
"主席"は勢いよく机を殴りつけ、その大きな音が罵詈雑言を止めさせる。
白熱していた委員達の顔が青ざめる。
自分達の今の行いが同志の模範であるべき姿でないとして粛清されるのではないかと戦々恐々していた。
だが静まり返った議会室に響いたのは"主席"の嗚咽であった。
「………よしたまえ、同志たちよ。此度の判断の遅れは"主席"である吾輩の責任だ」
「そんな!"主席"に責任なんて……!」
「そうです!これは我々の……!」
「吾輩はこの国の"主席"、国の代表なのだ。
この国の同志たちの決定を代弁する者であり責任を負うべき者、
故に開戦の判断ミスも配給計画の乱れも吾輩の力不足からくるものである」
「うう、うぅ……!」
「同志"主席"……!」
委員達が己の不甲斐なさに、"主席"の言葉に涙する。
………皆わかってはいたのだ、どっちらにしても守るべき労働者たちに負担を強いるのだと。
だからこそ、早く勝利という結果を出してあげたかった。
だからこそ、計画を通りにして安心させたかった。
「それにだ、これは吾輩の我儘だとは理解している。
だがなどうしても思ってしまうのだ……!。
今まで人類の未来のためにと戦ってきた同志たちに、国のために隣人を殺せというのが正しいのかと……!」
同志"主席"の真意に早期派である軍人の委員達が泣き崩れる。
………私も静かに流れた涙を拭き取る。
この方は本当にお人好しだ、だからこそ皆で支えたくなるのだ。
「同志"主席"、格別の配慮ありがとうございます。
ですが我ら北方連合KAN-SENはこの国のため、すでに覚悟を決めています」
人類同士の戦争を起こそうとしてる我らにアズールレーン内での居場所はない。
先日のユニオン技術研究施設への訪問もアズールレーンの脱退前に施設からの撤収をするためであった。
………その結果、同志クロンシュタットが行方知れずになってしまったが。
「同志ソユーズ……!本当に、本当にすまない……!」
漢泣きをしている"主席"のお顔をハンカチで拭って上げていると扉のほうが騒がしくなっているのに気づく。
「ちょっと落ち着いて!今はまずいよ!」
「離しなさい!同志メルクーリヤ」
「いや〜!誰か止め……」
「同志諸君!クロンシュタット、只今帰還した!」
ユニオン研究施設で行方不明になっていたはずのクロンシュタットが巨大な白い物体を担いで勢いよく入室してきた。
………勢いよ過ぎて扉が外れて倒れる。
……………はぁ、先程までの感動が台無しだ。
「ち、ちょっと勢いが付きすぎたわね!そんなことより重大な話が……」
「無事の帰還おめでとう、だがくだらない要件であれば粛清も視野に入るぞ?」
「ひぇ……」
おっと、少々感情的になったな。周りの委員もガクガクと震えてるが気のせいとしよう。
「で?要件はなんだ?」
「(やば、マジで怒ってる!?)ええ!まずは”コイツ”よ!」
ドン、と担いでいた物体が地面に置かれる。
ただの金属の円柱に見えるが……?
そう思っていると開発部署の者が驚愕して指をさす。
「それは……!まさか、"M.I.D.A.S"ですか!?」
「ええ、ユニオンの切り札、"M.I.D.A.S"の指向性爆弾よ!起爆コードは完全に凍結させてるから安心して!」
「何!?」
「じ、実物だと!?」
"M.I.D.A.S"!?ユニオンの研究者が論文を出した新エネルギー理論の集大成!
北方連合では発電システムの方向で研究を進めていたが開発が難航しており、起動実験の失敗で大損害も出していたのだ。
そのシステムの完成形が目の前に……!
「同志"主席"!これの解析ができれば新発電システムの開発が一気に進みます!」
「本当にかね!?」
「はい!ですがやはり安全のためにも技術の成熟に2年はほしいかと……、申し訳ありません」
「むぅ、仕方ないか」
「すでに一度大損害を出してますしね……」
盛り上がった場がまた沈む。
すでに軍拡をしてしまった北方連合に研究に2年、そこから建造となるとあまりに長い時だ。
「何を勘違いしてるの?」
「「「「「ふぁ?」」」」」
「これはオマケよ、本題は別!」
「「「「「なんと!?」」」」」
"M.I.D.A.S"がついで、だっただと……!?
中央のモニターに映されていたエウロア大陸の地図が全く別の地図に差し替わった。
周りの委員も地図を見て首を傾げる。
……?何処だこれは?
「カグヤが飛ばされた異世界の地図よ。地図中央のここにヴァルハラ基地が転移したわ」
「異世界、本当にあったのか……」
「KAN-SEN達から接触記録は確認してましたが……」
「私が直接見てきたから間違いないわ。で基地の南側にある大陸がロデニウス大陸、ユニオン大陸並のサイズよ」
「「「おお〜!」」」
………ここがユニオン大陸並だとすると他の大陸はそれ以上か。
陸地が多いとは羨ましい限りだ。
もしや、レッドアクシズはここに手を付ける気か?
「ここには3つの国があってね、それぞれに重桜、鉄血公国、サディア帝国が技術支援と資源採掘をする予定よ」
「では我々もこれに乗っかれるのですか?!」
「なわけ無いでしょ、ロデニウス大陸はもう定員オーバーよ」
クロンシュタットが否定したことで周りの委員達が疑問を浮かべる。
そしてクロンシュタットが指し示したのは北の大陸であった。
「ほう、かなりの大きさですな」
「ここの一部でも相当ですな」
「国の名前が記入されてませんが……?」
「ええ、国がないもの」
………なんだと?
全員がクロンシュタットの方に振り向く。
「未来の同志、カグヤ・エムブラからの提案よ。
我々北方連合のレッドアクシズへの加入、そして未開拓地域、グラメウス大陸を調査、開拓の依頼。
報酬はこの大陸全部よ!」
………何を言ってる?
言葉の意味を理解しきれずにいるとクロンシュタットが続ける。
「このグラメウス大陸は長らく魔物、人間を食べるような害獣共の巣窟になっていてどこにもこの大陸に正当な所有権を持つ国はいない。
つまり、この大陸全部!新たな祖国にできるのよ!」
皆が口を開けて驚愕している。
それは、それは……!
「そしてこれはカグヤからの伝言よ!
「この大陸を人類の手に取り戻す、その手伝いを貴方方にお願いしたい。
共に人類に害する存在を駆逐し人々が安心して暮せる世界を築こう」
我ら北方連合にしか出来ないと、ここまで言われて断るか同志たちよ!!!」
「「「「「お、おおお!!!」」」」」
「………決まりだな」(( ̄ー ̄)ニヤリ)
「ええ同志"主席"、計画の変更案を……」
「その前にいいかしら?」
「誰だ!」
私と"主席"の後ろから聞き慣れない声がして反射的に声を上げた。
そこにはあまり会いたくない人物が気味の悪い艤装の上に座っていた。
「は〜い、お久しぶり〜」
「オブザーバー……!」
「このものがセイレーンの……!」
驚愕する"主席"を庇うように移動する。
だがそんな緊迫した雰囲気も向こうにはどこ吹く風という感じだ。
「あらあら、カグヤに頼まれて北方連合にもメリットのある話を持ってきたのよ?」
「なんだと?」
「移動手段よ。それも今すぐに使えて、そして大規模部隊を送れるとびっきりのが欲しくない?」
「それは、欲しいが……」
確かに、異世界に行くための手段によっては編成規模を変更する必要がある。
「"北の王冠"、あれを基点に使うわ」
「……わかった、どれぐらいのものが通れる?」
「言ったでしょ?"北の王冠"を使ったとびっきりのだって。
直径1キロ、調整は必要だけど高度はほぼ任意よ」
「それなら輸送編隊を組んでも十分だ。それで頼む」
「了解、クロンシュタットに通信手段を渡したからそれで連絡してね」
そう言い残してオブザーバーが虚空に消えていく。
やれやれ、あんな移動をされたら防諜は困難だぞ……。
とにかく移動手段は問題ない、急いで準備をしなければな。
その後再議会を開いたが、先程と打って変わって皆の口調は明るいものであった。
[皇都エストシラント パラディス城]
Sideレミール
「ロデニウス大陸……リットリオ様は文明圏外国の出身なのですか?」
「正確には違うのだが、まぁ似たようなものだ」
リットリオ様が苦笑しながら紅茶を飲む。
テーブルマナーは全然違うが仕草の一つ一つに気品が出ている。
いや、彼女であれば余程のことでない限りそれがマナー
の一種だと思いこんでしまうだろう。
彼女を半ば強引に皇城に連れてきてしまったが、まったく臆する様子はなかった。
やはりこの方は本物だ、改めて尊敬の念を感じてしまう。
文明圏外国出身なのは、第3外務局にいた時点で予想は出来ていたが、少しだけ残念だ。
「実際には基地ごと転移してきたのだがね」
「まぁ、お冗談が過ぎますわ」
転移、国ごと転移したとかはムーの神話であったような?
ムーの神話を使って話を作れてるということはそういう分野で造詣が深いのであろう。
「しかし勿体無いですわ、リットリオ様ほどの方であればパーパルディアの名誉国民になれますのに……」
「申し訳ないがこの身はわが祖国に捧げているよ。
エストシラントの風景も故郷を思い出して好きなのだがね」
「………え?」
今、彼女はなんと言った?
故郷を思い出す?エストシラントを見て?
「故郷に、似てるのですか?」
「ああ、我が故郷は伝統を大切にしてるからな。
石造りの街並みも城下町と港の一部には残っているんだ。
………もっとも、老朽化の関係で殆どが皮だけで建て直してしまっているがね」
え?あれ?話がおかしい?
・彼女の故郷はエストシラントに似てる。
・ただし城下町と港一部にしか残っていない。
・また老朽化で中身は別になっている。
それではまるで昔の景観を残そうとした結果、エストシラントに似ているようではないか!?
「あの、リットリオ、様……?」
「それにな、パーパルディアを見てるとかつてのわが祖国を、大エウロア帝国を思い浮かべるよ」
リットリオ様の顔に先程までな笑みはなかった。
何故です、なぜ、そんな、憐れむような目で我が国を見るのですか?
私は初めて、知ることの恐怖を感じていた。
Sideリットリオ
レミールが必死に思案をしてるようなので私は紅茶を入れ直す。
少々雑味があるが香りはとてもよい、製法を改善すればもっといい茶葉になるな。
(まるでこのセニョリーナのようだ……)
彼女は愚かだ。
視野は狭い、常識が偏っている、感情の起伏が悪い意味で低い。
だが馬鹿ではない。
今必死に自身の知識から話の整合性を作ろうとしている。
私の視線の意味を理解するだけの器量はあった。
だが偏った知識が、足りない知識が多すぎた。
「……すまない、困らせてしまったようだね」
「いえ、大丈夫、です……」
顔色が少々悪い、イジメすぎたか。
「その、大エウロア帝国は、どうなったのですか……?」
「………滅んだよ、搾取に耐えられなくなった人々と貴族の裏切りで、呆気なく」
「……そう、ですか」
「1000年の栄華もたった1代の馬鹿のせいで崩壊した、それだけさ」
「え?1000年が1代で……?」
「負けれない国、とはそういうものだよ」
「あ、ああ……!」
あり得るかもしれない皇国の終わりに震えていた。
やはり彼女は純粋なのだな、私は席を立ちレミールを抱きしめてやる。
「大丈夫だ、まだ間に合うさ。常勝の負けれない国ではなく、不敗の負けても揺らがない国にすればいい」
………やはり勿体ないな。
彼女がこうなったのは間違いなく周りの影響だ。
純粋であるがゆえに、先人達と同じになろうとしたのだ。
もしもただの村娘だったら?
きっと人一倍働く元気な女性だっただろう。
もしも商家の娘なら?
旦那に寄り添うよき妻になるか、はたまた女手一つで一財産を築いたであろう。
………いや、純粋過ぎるから騙されて大損していたかもしれん。
「リ、リットリオ様……!」
「同国の人間には相談しにくいだろう?
私であれば君専属の相談役になるさ」
皇国には悪いがこんな美しい原石を歪ませるような者たちに彼女は勿体ない。
だから、私が磨きあげてあげよう。
………その結果、皇国が分裂しようと、ね。
ロイヤルのようなバレバレの三枚舌外交なぞ二流だ。
アイリスのように契約後に曲解で歪ませるのはさらに三流。
鉄血と北方連合は論外、あそこは外交が基本的に力ずくだ。
重桜と東煌は……盟約を死ぬまで守り続けるのは美徳だが外交下手と言わざるを得ない。
一流の外交とは死ぬまで、死んでも気づかせないようにこちらの思惑に乗せることだ。
セイレーン大戦では役に立たなかったが、万国がひしめくこの世界ではサディア帝国はレッドアクシズの切込み役を担える。
ふふ、彼女の成長次第では国盗り……ゴホン、国を導くのも悪くない。
それがパーパルディアのより良い未来になるなら、彼女も喜んで協力するだろう。
だからこそ私を失望させないでくれよ、ルディアス陛下殿?
張り合いのある相手でないとつまらないからな。
[海上要塞ヴァルハラ 会議室]
Sideウォルター
会議室には基地にいるほぼ全てKAN-SENとエムブラ指揮官が集まってモニターを見ていた。
俺たちも手が空いたのでグレンやランディ達部隊員を連れて雑談をしていた。
「お!いよいよか……」
「同志ランディ!始まるぞ!」
「うぐぅ!……よし!完食!」
「「はや!?」」
小さい方のツェッペリンと重桜の夕立という駆逐艦KAN-SENがランディの早食いに驚いている。
ランディの奴、すっかりKAN-SEN達に好かれたな。
………幼年のKAN-SENばかりなのが少々不安だが、精神年齢が近いせいだろう。
「ウォルター、今滅茶苦茶失礼なこと考えなかったか?」
「何を言ってる?もう始まるぞ」
ランディの苦情を黙殺してモニターを見る。
そこには演説台に立つ北方連合代表の"主席"がいた。
『同志諸君らよ!我々北方連合は現在重大な国難の中にいる!
一重に吾輩の力不足からくるものであり、まずはそのことを謝りたい!』
どよめくような声がする。
国のトップがここまでハッキリ言うのもなかなかないことだろう。
『吾輩達連合議会は短絡的な解決策を求めたが故に、良き隣人を犠牲にするような決断をしようとしてしまった!』
『だがそんな愚かな我らに!レッドアクシズは!カグヤ・エムブラ指揮官は救いの手を差し伸べてくれた!』
「えっ!?私!?」
「間違ってはいないのでは?」
………どうやらこの件には彼女が絡んでたようだ。
『故に!大恩ある同志指揮官に報いるべく、我々はレッドアクシズへと合流するという決断をした!』
『我々はこれより新世界へと進軍を開始する!
目標はグラメウス大陸!かの大地は無辜の民を喰らう恐るべき獣の巣窟である!
苦しい戦いになるだろう!理不尽な地獄が待っているやもしれない!
だが!偉大なる同志諸君らであれば必ずや撃滅できると確信している!』
『同志諸君!これは決して侵略ではない!
恐るべき獣を打倒し人類にかの大地を解放する正義の執行である!』
場面が切り替わり空港の映像が映し出される。
戦闘車両に大量の物資が次々に積み込まれていく映像。
見覚えのない新型WAP複数機と巨大な4足歩行の多脚戦車と同じく巨大な逆関節の大型兵器が立ち並び移動していく映像。
鋭角な形をした全翼型の輸送機が次々に離陸していく映像。
待機していた8発ジェットエンジンの巨大輸送機が離陸していき、他のところから来た航空機と合流していく。
………ちょっとまて、あの巨大輸送機だけでも何機飛ばしてる?
「おい、グレン。おれの見間違いか?一番でかいのだけでも20機以上飛んでるように見えるが?」
「いや、あってるぞ。一機あたりにフル装備のWAPが12機積み込まれてた」
「全翼型は4機積み込んでたね」
………物量ここに極まれりだ。
これで先遣隊の空挺師団だけなのだというから恐れ入る。
『我々は偉大な一歩を踏み出す!かつて祖先たちがこの雪深い不毛な大地を切り開いたように!
我らの祖先たちのように新たな大地に挑戦するのだ!』
海上に浮かぶ無数の輸送艦と揚陸艦に量産型空母、巡洋艦、駆逐艦が氷の浮かぶ海を突き進む。
先頭には北方連合KAN-SEN旗艦ソユーズを含めた全てのKAN-SENが写っていた。
「………」(唖然)
「………」(白目)
ランディとグレンが固まっている。
………心底これを相手にするような事態にならなくてよかったと指揮官の英断に感謝した。
『さあ同志諸君!胸を張れ!声高々に叫べ!
これは我々にしか出来ない偉業になると!
これより【新祖国解放作戦】を開始する!
繰り返す、目標はグラメウス大陸!グラメウス大陸全てを我らの旗で満たすのだ!
全軍!進軍を開始せよ!』
ここに「史上最大の理不尽」と新世界で言われることになる
グラメウス大陸解放戦線の火蓋が切って下ろされた。
………もはや止めるものは無し、レッドアクシズの名は世界に響き始めていた。
これで序章は終了です。
第二章からは大きく原作から乖離します。