異世界にレッドアクシズの名を刻む!   作:有澤派遣社員

16 / 76
ローンのLive2Dが待ち遠しいです。


人と獣の違い

 

[アルタラス王国 王都ル・ブリアス アテノール城前]

 

Sideチェシャー

 

ぐすん、ルミエスちゃん達の前でみっともない姿を見せてしまった……!

あの海戦後、とりあえず修理のためにも何処か停泊しなければならないと言うと、

王都近くの港に船を停めればよいと提案してくれた。

丁度工作艦もそこに退避していたので可能な限り修理中である。

修理をしてる間に是非お父様に会ってほしいと懇願されたので王城まで来たのだ。

 

「ルミエスちゃんの故郷、のどかな感じがとてもいいにゃ!仲間と一度ゆっくりしに来たいね!」

「お褒めありがとうございます」

「この風景を再び見れたのもチェシャー様の頑張りあってのこと、もっと誇ってください」

 

リルセイドさんがベタ褒めしてくる。

な、なんか照れるにゃ〜。……ん?

 

「あれは何にゃ?」

「あれは……」

「パーパルディア兵ですね。恐らく降伏して連行中なのでしょう」

 

ロイヤルの博物館にありそうな軍服を着た人達が縄で繋がれながら連れられていた。

………ルミエスちゃんの頼みとはいえ人間さん相手にチョットやりすぎだったかな?

いやいや、この国をめちゃくちゃにしようとした連中にゃ、中途半端だと余計に被害が出てたはず。

それに捕虜ならちゃんとした扱いを………?

なんにゃ?なんか剣呑な空気が?

にゃ!?抜刀した!?

 

 

 

Sideアルタラス軍人

 

「ザマァねぇな!列強様よう!」

「お前らのせいで弟は…!」

「親父の、仇!」

 

パーパルディアという強大な敵に勝てたせいで気が大きくなってる連中が捕虜を私刑にしようとする。

………止める気はない。

それだけのことを列強の名のもとに横暴を振りかざしてきたのだ。

パーパルディア兵が怯えて命乞いをし始める。

だがそれは逆効果だ、一気に感情が昂ぶった奴がサーベルを抜き放ち斬り……

 

「なにやってるにゃー!」ヽ(#゚Д゚)ノ┌┛Σ

 

横からの飛び蹴りに側頭部を蹴られて吹き飛んていく。

………何が起きた!?

蹴った本人はその場で一回転して着地した、じゅ獣人…か?

胸元がはだけた給仕服のような格好の美女に思わず生唾を飲む。

だがその顔は真っ赤にしており、手を振り上げて明らかに憤慨しているのがわかる。

 

「お前ら〜!捕虜に手を上げるなんて!それでも軍人かにゃ!!!」ヽ(`Д´)ノプンプン

「オイオイ、イキナリだな姉ちゃんや!」

「あんま調子にの「フンッ!」(o゚Д゚)=◯)`3゜)∵ブヘェ!」

 

詰め寄った兵の一人が美女の鉄拳が顎にヒットして崩れ落ちる。

よ、容赦ねぇ女だな!?

周りの連中も抜刀を始めるが、後ろから静止の声が上がる。

 

「貴方達!彼女に危害を加えることは許しません!」

「ルミエス様!?」

「王女様が何故ここに!?」

「彼女はかの鉄船で我が国を救ってくださった恩人です!すぐに武器を収めなさい!」

 

な!?鉄船って、パーパルディアの連中を蹴散らしたアレか!?

 

「チェシャー様、いきなりどうしたのですか?」

「どうしたも何も!この馬鹿共が捕虜に危害を加えようとしたにゃ!

そんなもの見過ごせないにゃ!」

 

……?どういうことだ?

 

 

 

Sideルミエス

 

「戦争で情け容赦しないのは別に咎めない!でも勝ったなら!

勝者として敗者に最低限の保証をするのは義務にゃ!責務にゃ!当たり前のことにゃ!!!」ヽ(#`Д´)ノ ムキー!!

 

周りは彼女の言っていることが理解できずに困惑する。

 

「ヒトは理性を持って己を律するべし!

相手への敬意も己の矜持も持たないような奴は獣と同じにゃ!

お前らには軍人として誇りが無いのかぁー!」

 

チェシャー様の言葉に衝撃を受ける。

勝者として、強者として彼女はそれが当たり前だと思っている。

なんと高潔なのだろう、僅かでも捕虜の扱いを黙認しようとした自身を恥じた。

周りの兵も殆どが口を噤む、パーパルディアの兵も居心地悪そうに視線を逸していた。

列強の名を盾に好き勝手していた自覚はあるのだろう。

するとリルセイドがチェシャー様に問う。

 

「………レッドアクシズではそれが当たり前なのか?」

「そうだよ!うちの指揮官はそのあたりめちゃくちゃ敏感にゃ!

この前もノスナンチャラとかが逆鱗に触れて危うく大陸がキズモノになるところだったの!」

 

………ノスナンチャラ?大陸が、傷物?

よくわからないがとにかくそれぐらいに彼女の上官は規律に煩いのだろう。

 

「捕虜の扱いは勝者が保証するものなのですね?」

「そのとおり!」

「では最大の功労者であるチェシャー様にこそ処遇を決めて頂くべきです、よろしいですか?」

「……わかり、ました」

 

兵達は渋々といった様子だが納得してくれる。

………とりあえず捕虜は王城から目に届くところに置いておくべきですね。

お父様に説明してご助力を願いましょう。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

[グラメウス大陸中央 北方連合解放戦線本部]

 

Sideカグヤ

 

「……うん……うん、解った、オミッターはそのままチェシャーと合流して………失礼がないようにね?」

「オミッターから通信?」

「うん、チェシャーを見つけたって」

「………先程の通信はセイレーンの技術か?」

「うん、空間量子通信。本来はセイレーン同士でしか使えないんだけどね。

………ヴァグナー総指揮殿」

「ヴァグナーで構わん、昔のよしみだ」

 

現在私はグラメウス大陸の開拓の視察としてローンを連れて訪問していたのだが、

そこで懐かしい顔を見つけたので時間を貰って会談をしていた。

ロルフ・ヴァグナー、元々は鉄血公国に潜入していた工作員で、

後にレッドアクシズ本部に潜入していた人物。

実は、少しだけ昔のこの人が苦手だった。

任務のためなら民間人も仲間も捨て駒にできる冷徹な軍人。

それだけなら他にも該当する人は何人かいるが、この人は自分の矜持を持たない人だ。

矜持が無い、というより生きる目的を持たないのが正しいか。

戦いの中で自身の空虚を埋めるものを探し続ける迷人。

それがどうしても悲しく思えてしまった。

本人は気付いていないが胸の奥には愛国心と同胞への絆が間違いなくあった。

そのことを指摘したのだがヴァグナーは否定して認めなかった。

自分はそんなものに縋る弱い人間ではない、と。

それが遠因で副官のドランツらとともに"ヴァルハラ"でクーデターを蜂起、

最終的にはヴァンツァーによる一騎打ちの殺し合いもした。

結果は残念ながら引き分け、ヴァグナーの機体は行動不能になって私の機体は大破。

私がKAN-SEN並みに頑丈でなければあのとき死んでいたかもしれない。

フェアな戦いではなかったと思ったがヴァグナーなりの答えが見つけれたのか、

確保された時に少しだけ晴れやかだったのが救いか。

その後、鉄血側でのアレコレが発覚して軍内で処分をしたいと打診されたが、

私は無理を推して彼らを祖国に返還した。

 

「それじゃあ視察の予定ですが……」

「………帰還しなくていいのか?」

「あとで心配させたことをうんと叱ってやりますから」

「………甘いやつだ、無許可の軍事行動は重罪だぞ?」

「人道支援、ですよ」

「ものは言いようだな」

 

笑いを堪えるヴァグナーを見て少しだけ安心する。

よかった、こんな風に笑えるようになったんだ。

ここでの視察が終わり次第、リットリオを呼んで緊急会議を開かないとなぁ。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

[王都ル・ブリアス アテノール城内]

 

Sideチェシャー

 

ルミエスちゃんに案内されてお父様、アルタラスの王様に挨拶をすることになった。

作法が解らないのでロイヤル式であったが特にトラブルはなかったのて一安心。

 

「我が国を救っていただき、感謝しきれぬ思いです」

「いえ、チェシャーはKAN-SENとして当然の責務を全うしているにすぎません」

「「「カン、セン?」」」

 

にゃ、混乱させるようなことを言ってしまった。

とりあえずセイレーンのこととかを簡単に説明した。

 

・自分達はこの世界とは別の所から来た。

・その世界では人類総出で相手をしてた敵勢力セイレーンがいた。

 ・そのセイレーンに対抗するために造られたのがKAN-SENである自分達である。

 

………大まかにはこんな内容。

信じてもらえるかなと心配だったけど、ルミエスちゃんと王様は信じてくれたようだにゃ。

 

「そんな世界があるのか……想像もつかんな」

「そもそもチェシャー様が人でないことが信じられません……」

「証明は……どうしようにゃ?」

「いや、そなたに無理強いをさせたいわけではない。

ただ少しだ「オミッター様参上!」なぁ!?」

 

王様とチェシャーの間にいきなり現れた人物に、その場にいた人達がギョッと驚愕して身構える。

 

「何奴!?」

「え〜と《我こそは氷河の支配者にして虚空の……》」

「長ったらしいヘンテコ怪文並べるにゃ!」(# ゚Д゚)

「なんだと!?頑張って考えた自己紹介だぞ!謝れ!」ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!

「「グギギギ!!!」」

 

他国の王様の前で無礼千万傲岸無知な大馬鹿者と睨み合いになっているとルミエスちゃんの困惑した声がする。

 

「あの、お仲間の方ですか?」

「違うにゃ、王族侮辱罪で死刑にでも晒し刑でも好きにしていいよ」(#^ω^)

「ヒデェー!ふざけんなよ!なんでそこまで邪険に扱われるんだよ!」

 

ふざけるなはコッチのセリフだにゃ!ローンを殺しかけておいて何ほざいてるの!?

 

「うるさいにゃ!スサノヲ事件のときカグヤお嬢様を発狂寸前にまでした奴にはこれで十分にゃ!」

「あれば事故だろ!?カグヤを泣かしたかった訳じゃねぇーよ!」

 

ギャアギャア!ヤンノヤンノ!

 

………は!?口喧嘩に没頭しすぎた!

慌てて周りを見るとは対処に困るよな様子の皆様方……。

 

「御免なさい!場をわきまえずに……!」

「いえいえ!こちらは大丈夫です!

それよりも歓迎の食事会の準備も整いましたのでどうぞ召し上がって下さい!」

「わーい!メシだぁ!たのしみ〜!」

「お前は少し黙ってるにゃ!」

 

ああ、しまらないにゃ〜。

王様の苦笑いと周りの微笑ましそうな視線が余計に辛かったにゃ………。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

 

[皇都エストシラント レミール邸]

 

Sideレミール

 

執務を終わらせ、リットリオ様がくださった"タブレット端末"なるモノを弄る。

まだ機能の全てを理解できてないが、国立図書館並みの書物がこの薄いものに"電子化"して収められているらしい。

…………ミリシアルにもこんなものはあるだろうか?

 

「これがリットリオ様が居た世界……」

 

リットリオ様から頂いたここではない世界の資料を読む。

・陸地が殆ど無い海ばかりの世界。

・古き文化と伝統を重んじるサディア帝国。

・血筋を廃し徹底した実力主義の鉄血公国。

・独自の統治方式と文化を持つ重桜。

・宗教を国儀にするアイリス教国。

・王家の名もとに平民が国を動かす立憲君主制国家ロイヤル。

・平民だけで構成された民主政治なる奇天烈な国家、

 民主連邦合衆国ユニオン。

・全体主義を国儀に、血筋や富による特権階級を廃絶した国家、

 コミュニスト国家北方連合。

 

民主政治?何故平民が政治をしている?

特権階級の廃絶?何故そんな恐ろしいことが考えつく?

他の国はまだ理解できたがこの二国、特に北方連合が全く理解できない。

詳しくは書かれていないが北方連合の前身は大エウロラ帝国時代に反乱を起こした、

労働階級が祖先らしいのでそのせいかもしれない。

しかもこの二国が国力第一位と二位なのだから想像できない。

 

「………自分がいかに"外"を見ていなかったか痛感するな。

これでルディアス様の片腕になりたいなど、笑ってしまう……」

 

サディア帝国の歴史、大エウロラ帝国の時代を見る。

1000年以上の歴史を簡略にして大きな事柄だけをまとめたものだがそれでも膨大な項目であった。

………成り立ちはパーパルディアとそこまで変わらない。

国の規模こそパーパルディアほどではないが、この国がいかにして限界を迎えたかは解ってしまう。

そもそも植民地、属国を持つこと自体があまり良く書かれていない。

今はルディアス様が統治しているから大丈夫だが、次代は?

今より大きくなるならルディアス様以上の才覚が必要だ。

さらに次の、また次は?本当にその時の統治に見合った才覚が備わっているのか?

………他国の統治とはこれほどに困難なのだな。

ふと自身が行った行為を振り返る。

かつて円滑な統治のために見せしめに数十、数百人の処刑を指示した。

少し前までは当たり前の行為だと思っていた、寧ろ力の差を見せるために有効な行いだと……。

だが違った、上から押さえつけてもなにも解決していなかった。

………最近悪夢を見るようになった。

かつて処刑したものらが私にしがみつき引きずりおとそうとする夢。

必死に助けを求めてルディアスの名を叫ぶが、彼は血まみれで吊るさていた。

他にも顔見知りの者たちが晒し首にされていた。

唯一リットリオ様だけが生きていて必死に助けを求めるが……

 

『君がこんな野蛮な人間だとは……失望したよ』

 

リットリオ様が冷たい目で私を蔑み、その手に持った剣を私に振り下ろして……。

ここで目を覚ます、そしてかつての行いを後悔する。

………認めよう、私は愚かな行為をしたのだと、過去の過ちは決して消えないのだと。

今更だが、私が関わった国はどうなっているのかと思う。

パーパルディアの威光のもとに平穏を約束されているはずだが、

国を踏みにじられた恨みもまだあるかもしれない。

 

「………少し属領の調査をするか?」

 

不満が募る状況が反乱の根本的な原因であり、大エウロラ帝国の凋落に繋がったのは理解できた。

ならば属領の不満が反乱の火種になるのならそれを解決すれば被害は少なくなるはずだ。

 

「ルディアス様を説得するためにも、パーパルディアの未来のためにも……」

 

今のままではルディアス様の覇道はパーパルディアの破滅に繋がりかねない。

なんとしても、私がルディアス様を説得して方針転換をしなければ!

私は信頼できる部下数人に調査を命じることにした。

 

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

 

[アルタラス王国 港]

 

Sideルミエス

 

チェシャー様とオミッター様の歓迎会が終わった翌日、

港には出港の準備をする鉄船の姿を一目見ようと多くの人集りが出来ていた。

パーパルディアの捕虜達もチェシャー様が連れて行くこととなり、他の艦に乗船させている。

…………雛や二頭身の猫、マッチョな猫人?らしきモノたちに連行される捕虜達はとても困惑していたけど。

 

「では行ってまいります、お父様」

「ああ、チェシャーの上官殿にもよろしくと伝えてくれ」

「はい!」

「ルミエスちゃ〜ん!早く乗るにゃ!」

 

手を振りながらこちらを呼ぶチェシャー様に手を振り返す。

私は補佐官に任命されたリルセイドと共に胸を張って歩き始める。

つい先日、私は悲壮な覚悟を持ってこの国を旅立った。

しかし今日は違う、国民に見送られながら堂々と出港する。

まだ見ぬ外の世界を、そして出会いに胸を躍らせて……。

行ってまいります、お母様。

 

 

《ルミエス王女殿下、特使としてレッドアクシズ本部"ヴァルハラ"へ出港》

 

 

 

 




主人公は重巡洋艦KAN-SEN並みの身体能力と頑丈さを持つ設定です。
ただし他のKAN-SENと違い艤装は纏えない。
ヴァンツァーパイロットとしての腕前は熟練並み。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。