※後半、とある北方連合兵士の話をに追加をしたので上げ直しました。
[ヴァルハラ北区 臨時捕虜収容所]
Sideレクマイア
フェン王国での戦闘の後、応急処置を受けてここまで運ばれてきたが、生き残りは俺ひとりだった。
治療後の経過検査を済ませて歩いていると、結構な人数が入って来たと思ったらまさか皇軍の連中だったとはな。
「アルタラス征伐は失敗か、あんたらも災難だったな」
「ああ、地獄のような光景だったよ……」
「しかしよもや我らよりも先に監査軍のものがいるとは、驚いたぞ」
「ああ、運良く生き残ったよ……」
俺は無くしたはずの右足の擦る。
………当然だが触った感触は手の方だけだ、やっぱりこれ義足なんだよな?
「………それはまさか義足か?かなり精巧なものだが?」
「見た目だけじゃないさ、なんと動かせるんだ。
信じられないだろう?」
足をあげて膝を曲げたりする動作を見せると周りの皇軍兵達が驚く。
「なんと!?ここは本当に文明圏外国か!?」
「ムーやミリシアルでもこんなの聞いたことないぞ!」
「魔力を感じない!?どうやって動いてるんだ?」
「捕虜にこんなものを用意するのか……!」
驚愕する皇軍兵達だが少しだけ問題もあるのだ。
「確かに軽くて動くと至り尽くせりなんだが、デンキなるものでジュウデンが必要らしいんだよ」
「デンキ?」「ジュウデン?」
「魔力の変わりになってるものらしい、だからここから出るとジュウデンが出来なくて1〜2日で動かなくなっちまうんだ。
あと元の足のように走るのは難しい、慣れもそうだがあくまで簡易のものだから耐久性が低いんだとよ」
「簡易?これがか!?」
「そ、だから捕虜とかに配れるほど大量に作れるらしいぞ」
さらに驚愕する皇軍兵達、そうだよなやっぱりオレの感覚は間違ってなかったよな!
………あ、これは早めに言っておいたほうがいいな。
「そうだった。ここではあんまり威張り散らすなよ」
「む?どうした?」
「あんな目にあって、さらに庇われてまで威張り散らす気はないが……?」
「ならいいんだ、ここな?美女ぞろいなんよ」
「……すれ違った亜人、すげぇボディだったなぁ」
「ここに連れてきた奴も可愛かった……」
周りの兵がいやらしい、だらしない欲望まみれな顔をで悦に浸る。
………オレもこんな顔だったなぁ。
「あいつら、生身でも阿呆みたいに強い」
「………なんだと?」
「流石に冗談だろ?」
「俺の隊は亜人の女一人が
沈黙、目を剥いて驚愕している。
「さすがに全員ではないと思いたいがな。
生身で飛竜を捻じ伏せれる奴がそれなりにいる可能性が高い」
「…………注意を徹底させよう」
後ろの何人かが顔を青褪めさせて縮こまっていた。
まぁこれだけ釘を差しておけばトラブルは少なくなるだろう。
[ロウリア共和国 新開発都市建設現場]
Sideとあるロウリア兵
「今日の稼働訓練はここまでだ、お前らの腕なら合格は問題ないだろうから焦るなよ」
「「「「ありがとうございました!」」」」
退室していく青年らの背を見ながら今の自分を振り返る。
クワ・トイネへの侵攻した海戦で腕を失いながらも辛うじて生き残り、エルベ殿達に助けられて立派な義手を貰えた。
その後僅かな期間ではあるが捕虜として過ごしたレッドアクシズの海上に浮かぶ人工島。
まさか海上に要塞島を作ってしまうとは、最早驚き疲れたというものだ。
しかし自分はそこで衝撃的な出会いをした。
立ち並ぶ鋼鉄のゴーレム、そしてそこから降りてくる人間の姿にに目を奪われた。
アレは一体何なのか?
エルベ殿に聞けばヴァンツァーと呼ばれる科学で造られたゴーレムらしい。
魔力がなくともセンスと体力があれば誰でも動かせると言われ、自分は立場も忘れて近くで見たいと願い出てしまった。
海将シャークン殿にも怒られてしまったがエルベ殿は別に構わないと我々を連れて案内してくれた。
そこにいたゴーレム乗りや整備士も色々教えてくれた。
民間向けのヴァンダー・ヴァーゲン(WAW)、軍用機のヴァンダーパンツァー(WAP)。
話を聞いただけでも自分や何人かが目を輝かせてその逞しい鋼鉄の兵隊を見上げていた。
悪乗りした向こうの兵達に作業用WAWの動かし方と注意点を教えられ、実際に動かさせてくれた。
あの感動はそうそう忘れることはできないだろう。
その数日後にロウリア王国が降伏して帰国、少し間をおいてレッドアクシズ傘下のサディア帝国の介入。
王国は共和国へと変わり政治形態も議会政治に変わった。
そしてロウリア首都の新開発事業にWAWを動かせる人手か欲しいとシャークン殿からお誘いを受けてここで働くことになる。
サディアからの教習官からも筋がいいと褒められた。
そしていつの間にか教習官の副官のような立場に収まって操縦適合試験の手伝いをしている。
給料は兵隊時代のざっと5倍、さらに今後WAWによる建設チームの班長に任命された。
あの時の出会いが今の状況を作っていると思うと死にかけたかいはあったと思う。
「さぁ、頑張りますか!」
城壁のない新設計の都市、ここがロウリア発展の中心地になるんだ!
[グラメウス大陸外洋 シータス級潜水艦]
Sideとある諜報員
グラメウス大陸への4度目の出撃、潜水艦内の空気は張り詰めている。
すでに3度の失敗をしており、その原因と思われる事態が発生した場合即時撤退も視野に入れられた今回の作戦。
僅かな異変も取り逃がさないように慎重な航海を続けているため気が休まらないのがキツイ。
「………どうですか?」
「何とも言えぬ、海流は比較的安定しているからな」
艦長は溜息を付きながら続ける。
「そうなると事故の可能性は低い、直接的な被害を受けた可能性のが高いだろう。
………行方不明になった船の艦長にはよく知る同僚もいた。
臆病なまでに慎重なあいつがつまらんヘマをするとは思えん」
艦長の言葉にピリピリした空気がより緊張感を持つ。
するとソナー員が何かを探知したのか機器をイジり始めた。
「どうした、些細なことでも報告しろ」
「………スクリュー音を探知」
「方角は」
「音の方角は3時方向より、海上ではなくほぼ同じ深度からと思われますが………。
音が小さな過ぎます」
その言葉に周りの船員が首を傾げる。
「潜水艦ではないのか?」
「スクリュー音は魚雷と大差ないぐらいです、数は恐らく2」
「機関落とせ、音をたてるな」
「了解、機関停止します」
機関が停止し艦が静かになる。
音を出さないように皆が静かになる中、ソナー員だけが声を出す。
「………ん?スクリュー音が無くなりました」
「なに?どうい……」
「「「「「!?!?!?」」」」」
金属を叩くような音がする、どこから!?
するとソナー員が顔を真っ青にして振り向く。
「…………艦長」
「どうした?」
「………潜望鏡を覗いて下さい」
「?わかった」
艦長が潜望鏡を覗く、この深度では到底海上には届かないのであまり意味はなさそうだが?
「…………?」(゚_゚)?
潜望鏡を覗いた艦長が鳩が豆鉄砲を食ったよう顔になってもう一度覗く。
「…………すまん、君も見てくれ」
「どうしましたか?」
「…………幻覚かどうかの確認だ」
「???解りました」
潜望鏡を覗く、ゴーグルをかけた白髪の少女の顔が潜望鏡に映っていた。
「…………は?」 (゚◇゚)?
「………何が見える?」
「ゴーグルをつけた、少女?」
「幻覚ではなかったかぁ……!」
艦長が頭を抱え、他の船員達が心配そうに見ていた。
ソナー員が震えながら言葉を出す。
「
『領海侵犯で連行する、速やかに浮上せよ。無視した場合は力尽くで浮上、または撃沈させる』
とのことです……」
「………要求に応じる、浮上開始!
申し訳ない、機密資料と暗号通信機を速やかに処分してくれ」
「………わかりました」
浮上を開始した船内を急いで進む。
資料はともかく暗号通信機が万一にでも敵の手に渡るわけにはいかない!
Side U−96
「浮上開始したな、U−37も注意しろよ」
「あいよ!さっさと終わらせて遊びに行こうぜ!」
ケラケラと笑うU−37に一抹の不安が過ぎるが仕事はキッチリこなす性格なので大丈夫だろう。
海面に浮上した所属不明潜水艦、恐らくはグラ・バルカスのだろうけどこれで鹵獲出来たのが3隻目だな。
ハッチが開くと艦長らしき人物がこちらを見て「………どうも」と挨拶をしてきた。
「このまま港まで案内するから悪いけどこのまま水上航行で着いてきて」
「要求に応じよう、見張員を2名立たせたいがよいか?」
「いいよ〜、この先寒いから防寒着用意してあげてね」
ここはまだマシだがグラメウス大陸に近付くと一気に冷え込む、
自分達でも寒いと感じるのだから人間はさらにキツイだろう。
しばらく洋上を進んでいると見張員のお兄さん達が声をかけてきた。
「なぁ、あんたらって人間……か?」
「違うよ〜、私達はKAN-SENだよ!」
「「カンセン?艦船……?」」
「こらU−37!」
「いいじゃんU−96、知られた程度でどうしようもないでしょ?」
もう、楽観的だなぁ。
その後もお兄さん達と他愛のない話をしているとようやく港が見えてきた。
[グラメウス大陸 北方連合仮設軍港]
Side潜水艦艦長
入植してまだ二ヶ月経っていないはずだが想像以上の規模の港に驚く。
しかもすでに他のシータス級潜水艦が鹵獲されていたようだ。
しかし何故か大きく凹んだような跡が目立つ、あれでは航行は難しいだろう。
「ご苦労さまです!」
「うん、あとはお願い」
少女達に敬礼する軍服姿の者達、やはり軍関係者ではあったのか。
というより結構気温が低いのだが水着姿で寒くないのだろうか?
とにかく上陸はできた、あとは騒ぎを起こして諜報員を逃せばよい。
部下達には申し訳ないがこのまま捕まれば恐らく拷問と劣悪な環境での拘留だ。
副長に目で合図を送る、数人の部下達が隠し持っていた拳銃や小銃を取り出そうと………。
タタターン!
「がっ!」「あぐっ!」
「なぁ……!」
部下達の腕と肩から鮮血が吹きでる!?狙撃、それも複数箇所からか!?
突然の銃声に固まる部下と私、だが軍関係者と思わしき男と少女達は溜息をつくだけで冷静だ。
「大人しくしていただきたい、我々も無闇矢鱈に殺したくはありません。
それでも抵抗したければどうぞ?うちの狙撃部隊は優秀ですので」
男が手を上げると担架を持った男達が現れて撃たれた部下達の応急処置と搬送を始める。
この状況はすでに想定済みであったということか……!
だめだ、もはや打つ手がない……。
諜報員の男に目をやると諦めたように首を横に振る。
「全員武器を捨てよ、我らの完敗だ」
[グラメウス大陸 北方連合収容所]
Sideとある諜報員改め、カーター
帝国の捕虜の扱いは程度によるがあまり良いものではない。
さらに蛮族どもでは情報を聞き出すために凄惨な拷問がされることもある。
ましてこの極寒の大地でどのような地獄が待ち受けてるかと覚悟を、して……たの……だが?
一面真っ白で明るい、まるで病院のような清潔感溢れる場所であった。
あと暖かい、暖房機らしきものは見当たらないがどうなってるんだ?
我ら一同が困惑していると警備員に連れられた何人かがこちらに近づいてきた。
「おお!カーター!」
「生きてここにたどり着けたのか!」
「ダント!ルーカス!生きてたのか!?」
消息不明であった諜報員の同僚が質素ながら清潔な格好で出迎えてくれた。
細い首輪と腕輪をつけてたがそれ以外は拷問の跡らしきものもない。
警備員に連れられて会議室のような所に案内されて「囚人服を持ってくるからしばらく待て」と言われて鍵を閉められた。
他の連れられてたのは潜水艦乗りだったらしく艦長や船員達と話をしていた。
この際だ、こちらも情報を聞こう。
「ダントはロデニウス大陸組だったよな?なんでここに?どうして捕まった?」
「到着連絡をした翌日に襲撃されてな。
服毒自殺する隙すらなく全員捕まったよ」
「やはり通信波が傍受されてる?」
「内容まではバレてないと願いたいね」
まずいぞ、これでは諜報活動をしても本国に連絡したと同時に捕まる。
かと言って通信以外の方法を使うにはあまりに遠い。
「ルーカスは?やはり潜水艦ごと拿捕されたのか?」
「いや、救助されたよ。海魔とやらの群れに体当たりを喰らいまくってなんとか浮上は出来たが操縦不能、
そのまま漂流してたところを発見された」
「海魔?」
「鎧鯨でいう甲殻鎧をつけたクジラみたいなやつらしい。
普段は深度の深いところを縄張りにしてるから水上船は大丈夫だが水中の潜水艦とかには敏感に反応するんだと。
しかも水系統の魔法まで使うとかどんな化け物だよ………」
生きた心地がしなかったと溜息をつく同僚を見てふと思う。
………もしや我らは彼女達に助けられたのか?
そんなのに群れで襲われたら一溜まりもない、
グラメウス大陸に向かった潜水艦が行方知れずなのはこのせいか。
「他の諜報員は?」
「元気にしてるぞ、女連中は別棟だ」
「食堂と図書館、レクレーションルームは共用だから会うことはできるぞ」
「………ここって収容所だよな?」
自身がイメージする収容所に似つかわしくない単語だらけで混乱する。
「どうやらここの人間も俺ら扱いに気を使ってるらしい」
「なんでかなと思って聞いてみたら、長い間捕虜を取るようなことがなかったらしい」
???どういうことだ?そんなに平和な国だったのか?
「何故捕虜がいなかったんだ?」
「………まだホントか半信半疑なんだが、まずはここの連中はこの世界に転移してきた転移国家だ」
「それは予想してた、それで?」
「転移前、人類総出で戦争をしてたんだと」
「………なにと?」
「"セイレーン"、突然現れて全国家を相手にし戦争を始めたんだと」
「しかも極一部を除いて無人で動く兵器が主力、そりゃ捕虜なんてでない」
…………SF映画か?確かにそんなのが相手だと捕虜なんて発生しない。
「その情報は確かか?」
「図書館の本の内容から警備員、軍人連中が全員口裏合わせしてたらお手上げだが……」
「さすがに無理だろうな、故におそらく事実だ」
「そして現在セイレーンとは停戦中、一部では協力関係らしい」
まずい、本国の決定次第ではそんなSF映画みたいな連中を相手にしなければならないのか!?
「さらにだ」
「まだあるのか!?」
「連中、どうやら元の世界とこっちの世界を行き来する手段があるらしい」
完全にキャパを超えた情報量に思わず気を失うのであった。
[グラメウス大陸 軍港統括司令部]
Sideとある北方連合兵士
司令部のミーティングルーム、本来であれば肩を並べて戦う歩兵小隊の同志達が殺気立った視線を向け合う。
とくに少隊長達7名からは並ならぬ威圧感が放たれている。
一触即発、そのような空気が出ている原因は部隊長達が取り囲むように置かれた上に穴が空いた一つの箱であった。
「いいな?」「恨みっこ無しだ」「吠え面かくなよ?」
「上等だ」「女神よ……!」「我らに祝福を……!」
「ではゆくぞ……!」
少隊長達がその箱に手を入れる、中の物を掴んだのをお互いに確認しする。
「せーの!!!」×7
手に取ったものを勢いよく頭上へと掲げる。
6人が掲げた青いボールには同志メルクーリアのデフォルメ顔が”ハズレ!ザーコ!”というセリフとともに描かれていた。
そして唯一掲げられた赤色のボールには同志ガングートのデフォルメ顔とともに”アタリだ!同志!”と描かれていた。
「よっしゃー!!!」
「チクショー!!!!」×6
自分達アタリを引いた部隊からは歓声が、ハズレを引いた部隊からは阿鼻叫喚の悲鳴が木霊し、血涙を流しているものまでいる。
「同志らよ!俺は勝ち取ったぞ!」
「ありがとうございます!」
「ガングート様とご一緒の任務だぁ!」
「お、俺!同志ガングートに秘蔵のウィスキー献上する!」
「あ!抜け駆けかてめぇ!」
俺は同僚と肩を組んで雄叫びを上げている。
今回グラメウス大陸西方の国家(仮)の調査のため一個小隊が同行することになったのだ。
当初は皆、この面倒な任務に誰が行くのか?と他人事だったのだが”とある情報”が事態を一変させる。
現地調査部隊責任者に戦艦KAN-SENガングートを任命。
この情報が流れると皆行動は早かった。
現在遂行中の任務がない連中が大挙として統括司令部に押し入ったのだ。
ぜひ我々にこの名誉ある任務を!×多数
最初皆面倒くさがってたのに現金なものである。
最終的に部隊成績が優秀な7組までに絞られ今回のくじ引き大会*1となった。
正直KAN-SEN達など一兵卒からしたら雲の上の人物だ。
こういう任務でなければお近づきになる機会もない。
特に陸軍では同志ガングートの人気は根強い、セイレーン大戦初期からその身を盾に国を守り、火力を持って敵を薙ぎ払ってきた英雄である。
そして腐敗し始めてた当時の委員会と前"主席"を自らの手を汚してまで処断し、
国のため守るべき労働者のために尽くしてきた方なのだ。
そんな彼女とともに任務に当たれるなど生涯自慢できる名誉だ。
同志ガングート!自分はこの名誉ある任務に全身全霊をもってあたります!
【海魔】
かつて魔法帝国が作った生物兵器が野生化した海中生物の総称。
【鎧鯨】※潜水艦KAN-SEN達が勝手に命名
クジラ型の海魔でも巨体かつ群れを形成するため危険度は高い。
全身いたる所を金属の甲殻で覆われており、水系統の魔法を使って水流弾を放てる。
海中深くにある魔帝のビーコンを守るように群れを形成している。
潜水艦KAN-SENからはクジラみたいと人気。
鎧鯨も最初はKAN-SENを怖がっていたがすぐ慣れたため現在は特に警戒しなくなった。