※流血、トラウマ表現注意
[パーパルディア皇国 皇都エストシラント]
Sideカイオス
第3外務局の膨大な記録資料、アルタラス王国に関するものに絞っても相当な量だ。
しかし調べる内容が内容のため下手に増員して調べるのは不味い。
故に深夜に目立たないように調べているのだが………。
「………さすがにキツイ」
これだけ探しても見つからないということはすでに処分されているか?
すでに数日間徹夜しており、これ以上は本来の仕事に支障が出る可能性が高い。
「仕方ない、取り敢えずは
やはり正式な手続きを踏んではいないな……」
やはり自身の記憶違いでなかった。
しかしそうすると一体どんなルートでルディアス陛下の元まで報告が上がったのだ?
「………まさか偽造か?私の証明印まで偽造したとなると相当な規模の可能性があるぞ」
公文書偽造は勿論犯罪、それも政治や軍の運営に深く関わるようなものなら一族処刑ものの大罪だ。
これはもしかすると相当闇が深いやもしれん。
ふと窓を見ると雨が振り始めていた。
まるで皇国の行く末を暗示するようであった……。
[皇都エストシラント 港倉庫]
Sideシルガイア
まだ雨が降る早朝、人通りが多くなる前に港倉庫付近の清掃活動を開始していた。
貨物や人通りの行き交いが増えると清掃がしずらくなるため仕方ないのだが、さすがに雨の中は堪える。
「だが人通りが多いと視線がキツイからな……、俺も落ちぶれたものだな」
学生時代にライバルであったバルスは今や海将で、自分はしがない清掃夫。
唯一の慰めはバルスが未だに俺のことを憶えていてくれたことか……。
気落ちしていると、視界の端で動くものが見えた。
その方向を見やるとボロ布を纏った人間、もしや浮浪者か?と思い近づいて絶句する。
ボロ布のいたるところに赤い紋様、足元には水溜りに滲んだ"赤"、まさか血か!?
「大丈夫か!?」
「……カヒュ、コレを、レミール様の……、ゴボ!」
「あ!おい!しっかり………うっ!」
男は既に死に体だった、左腕は肘からなく首には大きな裂傷、ボロ布の下は赤くない所を探すのさえ困難な状態。
それでも男は必死にカバンを私に押し付けてくる。
「た…のむ、もう……」
「馬鹿喋るな!死ぬ……、だめか」
体を弛緩させて息絶える男、先程の行動が彼の最後の力を振り絞ったものだったのだろう。
カバンを見やる、血濡れで解りづらいがもしやこの紋章ほ皇室のものではないか?
では”レミール様”とは皇室のレミール様のことか!?
なんてものを押し付けてくれやがった!
………クソ、絶対ヤバイものだよな?
周りを見渡し誰もいないことを確認するとカバンをゴミ収集箱の奥に隠し、
急いで警備室へと死体の報告をするために走り出す。
普通に考えれば関わらないのが頭のいい奴なのだろう。
だが生憎、俺は馬鹿なのでな!頼まれたことは断れんのだ!
とにかくほとぼりが冷めたらなんとかバルスの奴に会って相談しないとな。
しがない清掃夫の俺では皇室に”コレ”を届けられん、
海将であるあいつ経由なら届けれる伝手があると信じて……。
[皇都エストシラント レミール邸]
Sideレミール
雨降る陰鬱な天気に辟易しながら邸宅で以前調査を命じた属国の現在の状況報告を読んでいた。
「……ふむ、属国の状況はおおよそ問題無し、か。
税に対する不満は多少あるようだがこの程度なら大丈夫だろう。
しかし1名が亡くなるとは、申し訳ないことになってしまったな……」
調査に送った5名のうち1名が事故で亡くなったと報告があった。
何でも地すべりにあったらしく馬車の残骸しか見つかっていないそうだ。
せめて亡くなった彼になにかしてやれないかと思案する。
………このようなことを思案するとは、リットリオ様に会って自分は変わったと実感する。
むしろ以前の自分は何故あそこまで”格の差を刻む””格下を踏み躙る”ことに躊躇がなかったのだろうか?
………あれ?なんで………?思い出せない……?
頭がひどく痛い。昔の自分を、幼少の頃を思い出せない。
《皇■はあらゆると■■許さ■る》
《我ら■は命を弄■権■があ■》
《お前■人形であれ■よい》
………ああ、あたま、いたい、いたい。
やだ、おもいだしたくない……。
また、いたいことされる……!
「レミール様、お茶をご用意しました。……?レミール様?」
ヤダ!ヤダヤダヤダ!たたかないで……!とじこめないで……!
「レミール様!?しっかりしてください!」
「………?ルーナ?どうしたの?」
「どうしたのではありません!顔が真っ青ですよ!?」
………?はて、何故自分はこんなに気分が優れないのか……?
「ごめんなさい、体調が悪いみたい……」
「すぐに着替えて横になりましょう、公務はお休み下さい」
「………わかった」
………なぜだろう、無性にルディアス様に、リットリオ様に会いたい。
しかし公務に忙しいルディアス様に迷惑はかけられないし、リットリオ様はそもそもこの国にいない。
…………寝よう、寝れば体調も良くなるだろう。
[レミール邸 寝室]
Side皇室専属侍女ルーナ
レミール様に楽な服を着せてベッドに横にさせると、すぐに寝付いてしまった。
少し魘されているのは気がかりだが、ここ最近の心労が祟ったのだろう……お労しや。
レミール様はリットリオ様のおかげで本当にお変わりになった。
以前は些細なことで癇癪をおこし、宥めるのに苦労したものである。
自身はレミール様の乳母の娘であったおかげでお情けをかけられてたが、そうでない侍女にはきつく当たることが多かった。
しかしリットリオ様にお会いして以降、精力的に公務に励むことが多くなり、態度も随分軟化した。
タブレット端末なるものの操作もすぐに憶え、他国の情勢や文化にも興味を持つようになった。
私もレミール様とともに色々いじらせてもらったが、
これがどれだけ凄いものなのかは少しだけ解るつもりだ。
………ただ充電とやらのために人力発電をするのはどうにかならないだろうか?
存在を公にできないから実質私しか回さいので結構キツイの……(´;ω;`)
[皇都エストシラント 皇宮パラディス城]
大会議室
・皇帝 ルディアス
・皇国軍最高司令官 アルデ
・統治機構長 パーラス
・その他、軍関係者多数。
Sideルディアス
アルタラス王国での屈辱的大敗から1ヶ月、不明戦力の情報報告と軍の再編状況確認のために軍部関係者を集めての軍議を開いていた。
「では現在の軍の再編状況からご説明します。
まずは外務局の監査軍を一時解体、皇軍に組み込みました。
またそれに伴い旧式化していた装備を一新し、戦力の均一化もあと2週間以内に完了します。
皇国陸軍につきましても装備の更新と再編に合わせて指揮系統を一本化、陸軍全体での連携が可能になったと判断します。
皇国海軍では既存の最新竜母をワイバーンオーバーロードに対応できるように飛行甲板を延長・改造しました。
そして建造中であった超フィシャヌス級戦列艦2隻を改装して大型装甲竜母へと変更をしています。
ただ改装作業を急ピッチで行っていますが建造完了まで1ヶ月はかかる見込みです」
アルデの報告を聞いておおよそ予定通りと思う一方、歯痒いとも思ってしまう。
砲の射程距離が違いすぎて航空戦力と戦列艦による波状攻撃しか現状とれる戦略がないのだ。
相手の対応能力を上回る物量をぶつける、ということはそれだけこちらの損耗は激しくなるといことでもある。
我が皇軍が、このような方法を取らざるおえないという事実が腹ただしい。
「アルデ、ご苦労であった。では収集できた不明戦力の情報を報告しろ」
余として第二列強であるムーがどれだけ本腰をいれて介入しているのか、そこが問題と考えている。
仮に本国の艦隊も動いてるとなれば東と西、2正面作戦をしなければならないからだ。
………………………。
…………ん?
「どうした?はやく報告をしろ」
「あの……外務局からは?」
「外務局からの報告はレミールがまとめている。
軍部からの報告は余が聞く、ゆえに報告を上げよ」
沈黙、というより口にしたくないという雰囲気が出ている。
そのような中、情報局の代表が絞り出すように発言を始める。
「申し訳ありません、まだ精査できていない状態なので………」
「構わん、とにかく集めれた内容だけを報告しろ」
「…………不明戦力の正体について最も有力視されているのは現在グラメウス大陸を侵攻している文明圏外国の北方連合、
または同盟組織であるレッドアクシズそのものの可能性が高いです」
北方連合……、グラメウス大陸で大暴れしている蛮族どもか。
「そして調査の結果ですが……………荒唐無稽、その一言に尽きます。」
「ふむ?どのような内容だ?」
「はい、まずはムー国との関連性についてになります。
レッドアクシズとムー国は最近になり国交関係を築いたようであり…………、
ムー国はレッドアクシズに対して
………なんだと!?
「待て!聞き間違いか!?支援要請だと!?」
「技術提供の間違いないではないのか!?」
「………精査の必要はあります。てすがムーの技術官が手放しで称賛していたという報告もありますゆえ……」
馬鹿な!それではレッドアクシズは……!?
「ムー国が認める、科学技術文明であることは確定。
最悪、ムー国を凌駕する可能性も………」
「出鱈目を言うな!文明圏外国にそのような力かあるものか!」
激昂するアルデを手で制する。
「陛下?」
「アルデ、お前に確認したいことがある」
「………なんでしょうか?」
「グラメウス大陸、あの地を我が皇国が制圧せんとした場合、それは可能か?」
「………皇国が全力を上げれば、可能かと」
「世界ニュースでは2ヶ月未満で7割近くを制圧したと報道されたが、同じ期間で制圧は可能か?」
「………少々厳しい、かと」
苦渋するアルデの顔が物語っていた、限りなく不可能に近いと。
つまりは、そういうことなのだ。
「さすがに北方連合とやらが単独で行っているとは考えづらいので、
レッドアクシズの総戦力でことにあたっていると仮定したとしてもだ。
かの同盟国軍は我が皇国に出来ないことを成しているということだな」
「まさか!情報操作がなされているのでは?」
パーラスの言葉に、余は頭に血が上るのを自覚する。
「貴様は世界ニュースでの内容を誇張されていると言う気か!
あれはミリシアル帝国が威信をかけて行っているものだぞ!
たかが文明圏外国のために偽報を流すわけがなかろう!」
「も、申し訳ありません!」
顔を青褪めさせて謝罪するパーラスに冷たい視線が集まる。
まったく!もう少し頭を使って発言をしろというのだ!
「とにかくだ!レッドアクシズの正確な戦力分析を急げ!」
「「「はっ!」」」
………外務局からの報告も急ぎ確認する必要があるな、レミールに催促をするか。
[海上要塞ヴァルハラ サディアKAN-SEN区画]
Sideリットリオ
「…………連絡が取れん」
レミールから教えられた直通のはずの皇室印入の手紙
が一ヶ月近くたってもなんの音沙汰もない。
念の為にと3通を日数をずらして送っているのでトラブルで紛失されたとは考えづらい。
「何か不手際があったか?思い当たるフシはないが……。
こんなことならあの時にタブレットの通信機能をセッティングしておけばよかったな。
いや、あのタイミングだと衛星リンクが出来ないからだめか」
なお手紙が届いていないことにリットリオの不手際はなく、レミールが嘘を言ったわけでもない。
ただレミールが勘違いしていたことは皇室印の有効範囲に文明圏外国が考慮されていなかったことが原因であった。
仮に属国か第三文明圏国からので手紙であれば適切に処理されていたのだが、文明圏外国の手紙は確認さえ後回しされており1ヶ月たった現在でも整理棚の中に眠っている状態である。
「どうするか、流石に直接乗り込む訳にはいかんしな……」
現在の状態で無許可の機械動力船がパーパルディア皇国の領海に入ろうものなら全戦力投入待ったなしである。
「かといってシオン王国経由で行くにしても時間がかかる上に迷惑をかけることに成りかねん。
…………仕方ない、もう少し待つか」
取り敢えず出来ることはしておくかと各所への連絡や捕虜の様子を確認しに行くのであった。
…………なお、杜撰な管理で皇室印入の手紙が一ヶ月以上放置されてたことが発覚した文明圏外国担当部長が物理的に首が飛ぶことに恐怖するはめになったのは自業自得である。
ルディアスもレッドアクシズの戦力に気づき始めてますがまだ勝てないことはないと楽観視はしてます。