異世界にレッドアクシズの名を刻む!   作:有澤派遣社員

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しばらく更新が不定期になります。

エスペラント王国決戦


変質した予言

 

[エスペラント王国 スダンパーロ区]

 

Sideガングート

 

南門側の小競り合いが終わったのを見届け、スダンパーロ区を一望できる監視塔で物思いに耽る。

現在エスペラント王国防衛にあたり一部防衛ラインを縮小、外縁部の住民を丸まる避難させている。

変わりに外縁部の侵攻ルートにはこれでもかとトラップを仕掛けてた。

原始的な堀や落とし穴から遠隔操作地雷に航空燃料を使った簡易燃料気化弾まで様々だ。

銃と弾丸の生産もなんとか必要数は揃いそうだ。

準備は可能な限り行っているがこの数日中にもそこそこの規模の襲撃が相次いでおり、

地味にトラップを消耗されていることが気がかりではある。

 

「大規模の侵攻になれば守りきれるか……。

いや、なんとかするしかあるまい」

 

本国の部隊が到着すれば一気に攻勢に出れる。

本来であれば我が砲火もって活路を開くべきなのだが、

闇雲に砲撃しては洗脳された黒騎士達ごと吹き飛ばしてしまう。

幸い既に10人ほどの黒騎士を確保できたのでそこは幸いだが……。

 

「………ままならんな」

「あ、あの、大丈夫ですか?」

 

北方連合軍服とフルフェイスアーマーで全身を隠したゼリムが心配そうに声かけてくる。

 

「心配いらん、それよりも銃の扱いは少しはマシになったか?」

「は、はい!このヘルメットと”さぷれっさー”とかいうののおかげで全然怖くないです!」

 

ゼリムは銃声が耳に響くのがダメらしく普通の銃を扱えなかった。

そのためサプレッサー付きのマシンガンとハンドガンを持たせたが、それでも腕前は中の下くらいである。

しかし空から戦場を見渡せるのは非常にありがたい存在であり、

目もいいことからもっぱら観測員として飛び回っている。

(なお翼膜を広げて飛び回っている姿は当然エスペラント王国の兵にも見られているが、

空から来た北方連合なら兵士も空を飛ぶだろうという謎理論により特に問題にはならなかった)

 

「援軍到着ももうすぐだ、無理はするなよ?」

「はい!」

 

ゼリムを連れて監視塔から降りていく、他の区画での戦闘結果も確認せねばな。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

 

[バグラ山 館地下研究所]

 

Sideダクシルド

 

「バハーラよ、西門と東門に全ての兵力を突入させろ。

この一戦で決着をつけるぞ」

「……ワカりましタ、しばシオまちヲ」

 

バハーラが退室するのを確認して溜息をつく。

ようやく封印の解除の最終工程まで来れた。

 

「なんとか間に合ったな、やれやれだ」

「ようやくゆっくりできますよ……」

 

本国に帰還したあとに提出する研究結果の報告書と北方連合なる蛮族の情報を可能な限りまとめる。

自身の保身目的ではあるが文明圏外国の状況を本国が正確に把握していない可能性もある。

流石に本国の軍が動けば負けることはないと思うが、

逆に言えば本腰をいれて戦わなければならないような連中であるということだ。

もっとも、封印から解放された邪竜をなんとかできればの話ではあるが。

 

「魔法も使えぬ下等種属どもめ、理不尽と絶望に震えるがいい………!」

 

我々をここまで愚弄してくれた礼だ、精々己の運命を呪って死ね。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

[ラボレーオ区 王宮科学院 物資集積所]

 

Sideガングート

 

魔獣らの巣窟にて大きな動きが始まったとの報告を受け、

部隊の再配置指示をしているとセイ技監とランザル殿が疲れ切った様子で姿を表した。

 

「セイ技監、ランザル殿大丈夫か?」

「大丈〜ぶ!」(目元隈あり)

「まだ若い、もんに、はぁ!」(フラフラ)

「いや休んでくれ、倒られたら取り返しがつかん」

「………そうだね、我々の仕事は一区切りだ」

「あとは、頼んだぞ……」

 

足元が覚束ない様子で休憩室に向かう二人を見送ると、

今度はサフィーネが慌てた様子で姿を表した。

 

「ガングート殿!今少しばかり時間を貰えないか!?」

「どうした?貴殿にも直に配備指示が来ると思うが?」

「どうしてもだ、頼む……!」

「う、うむ、まぁ私も指示を出し終わって配置につくだけだから問題ないが……」

「本当にすまない、ついてきてくれ」

 

あまりに鬼気迫る様子のサフィーネに少々戸惑いながらもその背についていくのであった。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

[マルノーボ区 東門]

 

Sideアビシ

 

2万を超える魔獣の東門に群がってきている。

その報告が貴族街を駆け巡った時、殆どの貴族は狼狽し逃げようとするものばかりであった。

そのことに失望を感じつつも当然かとも思った。

今まで安全圏で声だけ張り上げてたような連中がこの状況で動けるわけもなかったのだ。

故に、今のこの状況は以外だったのだ。

 

「父上、避難せすともよいのですか?」

「ふん!お前ばかりに負担は掛けさせれまい」

 

逃げ出さずに装飾品だらけの鎧を来た僅かな貴族、

アレンベルナ家を筆頭としたかつて戦功をもって貴族になった家系の者らだ。

緊張した面持ちの者、足が震えそうになっている者もいるが

それでも豪奢な鎧と合わない無骨な剣を持って東門へと向かっていた。

 

「貴族が不要な世が来る、ままならんな」

「父上………」

「ならばせめて最期の意地ぐらいは見せたいものだな」

「………必ず生きて帰りましょう」

「ああ、死んで笑い者になんぞ成りたくないからな」

 

互いに苦笑いをしながら歩みを進める。

死地に赴くとは思えないほど自身の心は軽やかであった。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

[ノバールボ区 ジルベルニク家]

 

Sideサフィーネ

 

………本当であればもっと早くに言い出すべきであった。

祖母の代で覆ってしまったかつての予言。

 

『導きの戦士は現れない、未来は暗雲に包まれた』

 

エリエゼル家が責務を放棄してまで遵守した運命の予言は無為と化した。

暗い顔をして嘆く祖母と落胆する母。

父を含めたもの等で今後どうするかで深刻な顔をで相談しあっていた。

結局はこのままの現状を維持し、王国が直接的な危機に直面するまでは雲隠れを維持するということに収まった。

そして月日が流れ、エスペラント王国存亡の危機が迫っている中、彼女達は来たのだ。

鉄の空飛ぶ鯨、圧倒的な武器の数々、鋼鉄の巨人。

そして太陽神の使者が使ったと伝わる広域殲滅魔法”カンポウ”を使う人ならざる者、ガングート殿。

彼女達と出会ってからの十数日間、王国に目まぐるしいほどの変化を呼び起こした。

黒騎士がかつての種族連合の盟友であり、今は洗脳されているということ。

新型銃の開発に新たな戦闘方式の訓練。

北方連合に触発された青年貴族達の意識変化。

そして、魔族ゼリムから聞いた封印された邪竜の存在。

祖母が描いた絵の中にある邪竜”アジ・ダハーカ”であるのに気づくのはそこまで時間はかからなかった。

そして祖母の絵が予言だったとすると無視できないものが邪竜とともに描かれていた。

それこそが邪竜と争うように描かれた”もう一体の白銀の魔獣”の存在。

祖母が描いたこの2体の魔獣がこの国の命運を握っていると思ったのだ。

故にゼリムにそれとなく氷の魔獣について聞いてみたが首を横に振られ、

訓練の空き時間に色々調べたがそのような文献はなかった。

北方連合では魔獣の使役はしていないとは聞いていたし、そもそも魔獣や魔法の存在を最近知った者達だ。

私の知る限りの情報では最早手詰まりだった。

だからこそ、せめてガングート殿にはこのことを説明しようと思ったのだ。

そもそもが根拠のない、既に覆ってしまった予言の残滓。

信用はされないのは覚悟はしていた、無為に混乱を生むだけの可能性もある。

故に伝えるかどうかをギリギリまで悩んだ。

それでもせめて彼女だけには伝えたほうが良いと思ったのだ。

だからこそ無理を押してガングート殿を我が家まで案内し、

養父であるバルサスとともにエリエゼル家のこと、運命の予言のことを話したのだ。

 

「…………以上がガングート殿に話したかった内容だ」

「サフィーネ氏がよもや王族の一家だったとは………。

予言ごときで王族としての責務を放棄したとのかと思わなくもないが……、

いや、魔法があるなら予言も信憑性があるのか?」

 

首を捻り思い悩むガングート殿の反応に、やはり予言とかをあまり信じていない様子なのはすぐにわかった。

会話をしたことのある北方連合の者達は信心深いものもいたが、現実主義な者達が殆どであった。

曰く、神を信じても腹は膨れない、とのこと。

特にガングートら北方連合の……カン、セン?とやらはその傾向が強いらしく、

実証・検証のできてない内容に対して否定的と聞いた。

確かに既に最初の予言は役立たずになっている以上、何も弁明できないのが悲しいところだ。

 

「悩ませるようなことを言って申し訳ない。

両親もこの国の危機的現状を見てみぬふりなんてことはしない、

すでに王城に馳せはんじている頃だろう」

「そうか、では御祖母殿が描いた予言の絵とやらを見せて貰えるか?」

「ああ、これがそうだ」

 

絵画にかけていた布を取り外す。

そこには三つ首の邪竜”アジ・ダハーカ”と四足歩行の白銀の魔獣が絡み合うような構図で描かれていた。

祖母もこの白銀の魔獣については名前も知らなかったようで名称は不明だった。

 

「…………!」

「この三つ首竜が邪竜として、白銀の魔獣についての情報は何も無かったんだ………。

取越苦労ならそれでいいが、もしもこの魔獣まで王国に攻め入って………、ガングート殿?」

 

ガングート殿は心ここにあらずといった様子で呆然と絵画を見つめていた。

様子がおかしいことは養父も気づいたようで声をかける。

 

「どうしましたかな、ガングート殿?」

「…く、くく……」

「あの、大丈……」

「はぁっははは!」

 

突然大声で笑いだしたことに思わずビクリと体を震えさせる。

 

「そうか、そうか!私がここに来たのは必然(・・)だったのか!

いや、失礼したサフィーネ氏、御祖母殿の予言は大変素晴らしいものだな!」

「な。なぜ予言を信じてくれたのですか?」

「当然だとも、ここに描かれたモノを知っているからな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

その言葉に今度は私達が驚愕する。

この白銀の魔獣を、ガングート殿は知っている!?

そのことを聞こうとしたとき、突如周りが激しく揺れ始めた。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

[バグラ山 館地下研究所]

 

Sideダクシルド

 

いくえもの魔法陣が火口の面積を覆い始める。

さぁ、最後の仕上げだ。

 

〈ーーー生ある者に死を、死せる者は奴隷に。

病を痛痒を瘴気を、あらゆる毒を杯に注いで祝福せよーーー〉

 

光の鎖が連鎖的に砕け始め、上位封印魔法が解除される。

 

〈来たれ暴君ーーーアジ・ダハーカ!〉

 

最後の一節を唱えると冷え固まっていた火口がみるみると赤熱していきダクシルド達の館が、魔獣達の住処が火の中へと溶けていった。

 

「……さて、巻き込まれる前にさっさと撤収するぞ」

「やっと本国に帰れますね!」

「あの蛮族どもも何日持つやら」

 

ダクシルド達は馬に必要最低限の荷物だけを乗せて山を下山していく。

あとは麓の隠してある飛行艇に乗って本国に帰るだけだ。

 

かつて古の魔法帝国でさえ手に負えず封印した存在、

”山より来る災厄””破壊の権化”と呼ばれし三つ首の邪竜【アジ・ダハーカ】は一万数千年の時を経て、

今地上へと再び姿を現した。

 

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

[フォンノルボ区 城壁上]

 

Sideガングート

 

バグラ山の噴火と巨大竜の出現。

サフィーネの家で揺れを感知してすぐに外に飛び出す。

観測班に連絡を繋げると、邪竜の出現を確認したと慌てた報告が入った。

城壁を駆け上り赤く燃えるバグラ山の方を見ると大きな影が蠢くのが見え、

段々とこちらに近づいてきているようだ。

途中で軍用バイクを同志達から受け取り城壁の上をフルスロットルで激走する。

そろそろ外縁部に着くかという頃に西側の方から二機のヴィーザフ・ロークが疾走しているのが見えた。

 

ヴィーザフ・ローク(アニーツカ機)

装備:スナイパーライフル ジェットバックパック

予備:ショットガン

 

ヴィーザフ・ローク(マキシム機)

装備:マシンガン ロケット砲 コンテナバックパック

予備:大型ロッド

 

 

『ガングート様!馳せはんじました!』

『ご指示を!』

陸戦形態(・・・・)でいく!援護頼むぞ!」

『わぉ!マジで!?』

『了解しました!お気をつけて!』

 

こちらの意図を理解してすぐに距離を置く二機。

それと同時に外縁部の城壁から最大速で空中へと飛び出た。

さぁ!派手にいくとしよう!

艦船を顕現できるほどのメンタルキューブが虚空から溢れ出し、

本来であれば艦船の形をとるキューブが別の形を取り始めた。

低空でキューブが球体状に集まりそこから冷気と氷の結晶が溢れ出る。

そして巨大な質量が落着、その姿が顕になる。

艤装に似た巨大な頭部、極太の4足脚に艦橋と砲塔郡が生えた甲羅の胴体。

所々から氷の結晶と冷気が発生し、足元の地面が凍てつく。

全長50m以上、全高30m近い機械仕掛けのゾウガメ、コレこそが……!

 

「これこそが北方連合の不落氷壁!我が”氷砦(ひょうさい)”の前に平伏せ!」

 

北方連合戦艦KAN-SEN達の切り札、陸戦機動砦”氷砦”の1体がその威容を降臨させた。

 

 





次回、炎の邪竜VS氷の巨獣

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