大怪獣バトル勃発!
[エスペラント王国 ラスティネーオ城]
Sideザメンホフ27世
エリエゼル家の者らの数百年ぶりの帰還に喜び合っていると、
突然の揺れと見張りからの報告を聞いて急いで装備を整えて出撃、バグラ山の方角を確認する。
見据える先、山が赤々と燃えその頂上からは巨大な邪竜が姿を現していた。
「あ、あれが古に封印された竜……!なんと恐ろしい……!」
「予言の絵の竜!ではやはりあの魔獣も……!」
「あの魔獣、とはなんだ?」
「母が見た予言を描いた絵にはあの竜ともう一体、白銀の魔獣が描かれていたのです。
母はこの2体の存在が王国の命運を左右するやもしれないと言っておりました……」
なんだと……!あの竜への対処だけでも不可能に近いのにまだ強大な魔獣がいるやもしれぬのか!?
驚愕していると今度は青白く光る球体のようなものが邪竜の近くに形成されていく。
一瞬眩く光ったと思ったと同時に一際巨大な轟音と振動とともにそれが現れた。
山に4本の脚が生えたような巨大な姿、全身の氷のような結晶が白銀に輝いていた。
もしやあれが白銀の魔獣か!?
唖然としている間に邪竜と魔獣が激突する、しかしこの構図は……、
まるで魔獣が邪竜から身を挺して守ってくれているような……!?
もしやアレは北方連合に関係する存在か!?
「すぐに北方連合の者に連絡を取れ!
あの白銀の魔獣がいかなるものか確認せよ!」
北方連合戦艦KAN-SENの陸戦形態であり国防の要にもなっていた、陸戦機動砦”氷砦”。
鉄血KAN-SENと同様の機獣形態ではあるが、鉄血が水陸両用の機動戦を重視したのに対し、
北方連合では陸戦特化、特に主力艦クラスは防御力を重視した形態が多い。
最重要警戒対象であった【王冠】が本土にほど近いこともあり、大規模防衛戦が殆どであったことから機動力よりも火力と防御力を重視した結果である。
特にKAN-SEN”ガングート”の場合は『同志らの盾でありたい』という想いから特に防御に振り切った性能をしている。
首元の甲殻の上でガングートが高らかに笑う。
「ははは!ヌルい、ヌルいぞ!その程度で我が半身を止められるものか!」
取っ組み合う形になったアジ・ダハーカが”氷砦”へと噛みつき装甲のように覆われている氷の結晶を噛み砕く。
しかし噛み砕いた端から結晶が生え元に戻ろうし、
左側の首にいたっては噛み付いた状態で結晶に埋もれ身動きが出来なくなり始めていた。
右側の首も”氷砦”の頭部ユニットに首を噛まれて今にも千切れそうな状態である。
このままいけば2つの首が行動不能になる。
《グルル……》
そう判断したアジ・ダハーカは仕方なく中央の首が左側の首の中ほどを噛み千切り、自切を行う。
まさか自ら首を切ると思わずガングートが驚愕する。
しかしすぐに意図を理解する、左側の首がみるみると再生し元の形に生え変わる。
”氷砦”に埋もれた首も溶けるように形を崩し凄まじい腐食を起こしながらついでに結晶装甲を融解させていく。
「再生!?なんと早い!?しかも厄介な置土産付きか!」
普通人間ならば一吸いで悶え苦しみながら死に至ることになる猛毒の腐食ガスに顔を顰める。
すると中央と左側の首から幾重もの魔法陣が発生し”氷砦”へと向けられる。
直感で不味いと思ったガングートは”氷砦”の前脚でアジ・ダハーカの胴体を叩く。
発射寸前の衝撃に直撃こそ逸れたが、放たれた空間断裂と振動波は右舷側の砲塔1基と甲羅部分をえぐり取る。
そして貫通した余波がエスペラント王国の上を通り過ぎ南門側の山をえぐり飛ばした。
「………!?」
その光景を見てガングートも流石に息を呑む。
直撃すれば確実に死ぬ。
抉れた部分は結晶装甲で応急処置をし、主砲1基をアジ・ダハーカへと向ける。
「
《ギシャー!!!》
胴体に着弾した砲弾がアジ・ダハーカが吹き飛ばし、噛み付いたままだった右側の首が引き千切れた。
ズズンン!!!
千切れた首元と抉れた胴体から夥しい毒血をまきちらしながら巨体が倒れ伏す。
しかし首と傷口はすぐに再生して起き上がり始めたタイミングで複数のロケット弾とマシンガンの弾が命中する。
外傷は大したことはなかったが爆風で怯んだところに、
中央の首の眼球に向けて一発の弾丸が命中する。
《ガァアア!!!》
『ああもう!デカすぎ!火力足らん!』
『ロケットの残弾あと斉射1回分……、注意を逸らすので精一杯です!』
「構わん!自身の安全を最優先にしろ!」
『『了解!』』
2機のヴィーザフ・ロークが距離をあけながらけん制射撃を続行する。
アジ・ダハーカの中央の首が片眼から血を流しながら怒りに震えが地上を這う虫に視線を向ける。
口を開いて魔法陣を展開した途端、”氷砦”の頭部モジュールからの頭突きが直撃し中央の首が大きくのけ反る。
左右側の首もそれぞれで魔法陣を展開して空間断裂を放とうとするが副砲群の攻撃を受けて攻撃が中断される。
《ゴォアア!!!》《グギャアア》
ボロボロになった2つの首が断末魔の雄叫びを上げて崩れ始めさらに二機のヴァンツァーからもロケット弾やライフル弾も着弾するが、
しかし直ぐに再生が始まり再び三つ首が揃って雄叫びを上げる。
『くぅ、なんてしぶとさだ!』
『キリねぇー!』
「確かに大したものだ、だが……」
前脚二本が片翼と尾を踏みつけ、主砲3基と副砲全てがアジ・ダハーカの方へと向けられる。
雄叫びを上げていた三つ首が絶句したように砲塔を凝視する。
「それなら息の根が止まるまで撃ち込むだけだ」
ドドドドドォーン!!!!!
《ーーーーーー!!!!!》
アジ・ダハーカの音にならない絶叫とともに
305mm三連装砲と120mm単装副砲、無数の機銃が着弾する。
砲身が焼きつくのも気にせず撃ちまくり、轟音を上げながら地面が激しく揺れ地震が起きる。
『うひゃ!』『うお!』
ヴィーザフ・ロークが慌ててローラーダッシュ機動を停止する。
吹き出した毒血は爆炎と爆風で蒸発し、肉片が焼き尽くされる。
およそ一分間もの連続砲撃に主砲砲身が赤々と赤熱し幾つかの単装副砲と機銃の砲身が熱で変形して使用不能になる。
そして爆心地には踏みつけていた翼部分と尾の一部を残し焼き尽くされた”邪竜がいた地面”が存在するだけであった。
「さすがに9割近くも吹き飛ばせば再生は出来んか。
これで仕留められなければ
ガングートが空を見上げる。
その先には幾つもの輸送機から降下を開始するヴァンツァーと空挺車両の姿があった。
[オキンパーロ区 西門 防衛ライン最前線]
Sideサフィーネ
貸与された狙撃ライフルで援護射撃をしていると衝撃音とともに地面の揺れる。
何事かと思いガングート殿が戦っている方角を見ると、
凄まじい土煙を上げながら白銀の魔獣が地面に向けて爆発魔法のようなものを放っていた。
暫くして攻撃が止むとそこには邪竜の姿はなく、白銀の魔獣だけがそこに佇んでいた。
………古の魔法帝国でさえ手を焼いたと言われる魔獣を討伐するとは、さすがですガングート殿。
邪竜がいなくなったことに魔獣の軍団が明らかに動揺し始める。
「隙あり、必殺顔面粉砕パンチ(てかげん)!」
『ぶほぉばぁ!!!』
「よし!無力化完了!ルサンカ褒めてぇー!」
「はいはい、顔面陥没しないようになるまでに犠牲になったゴブリンキングとオークキング十数匹に感謝ね」
人狼化したルルーカ殿が謎の呪文?とともに殴り、
黒騎士がヘルムごと洗脳魔道具を破壊されて後方へと引きづられていく。
………ガングート殿だけでなくルルーカ殿も大概だな。
ルサンカ殿も人狼化した腕で
他の北方連合兵らは黒騎士と他の魔獣らの分断に奔走しており、
黒騎士がいなくなった区画に装甲車両からの機銃やグレネード弾を放って次々に魔獣を殲滅していく。
「これでこの辺りの黒騎士は確保完了!あははは!じゃあ残りはミナゴロシだぁ〜!」
ルルーカ殿が背負っていた両手に重機関銃を二丁を構えて乱射する。
元々の人狼としての身体能力に強化外骨格のアシストも合わさって凄まじい重武装である。
そんな様子を見ていると北方連合の兵士らが慌てた様子で空を指差して後退するように指示をし始めた。
指差した方向を見上げると、何かが幾つも降ってくるのが見えた。
見覚えのあるシルエット、まさかあれ全てが鉄の巨人か!?
『こちら第25機甲中隊、遅参に謝罪する!』
『同志らよ、到着遅れて申し訳ない!これより人類の脅威の排除を開始する!』
後退するこちらと魔獣の群れの間に12体も鉄の巨人が下に火を吹きながら降り立つ。
よくよくみるとアニーツカ殿が乗っていたものよりも一回りゴツかったり、足の形が違うものも混じっていた。
北と東門の方を見るとそちらにも降り立つ何かがあるを確認する。
「………勝った、な」
巨人らの一斉攻撃による爆発音に耳を塞ぎながらそう確信するのであった。
[マルノーボ区 東門前 防衛ライン最前線]
Sideアビシ
ああ、クソ。しくじった……な。
「しっかりしろ!意識を保て!」
「この大馬鹿野郎!こんなところで死ぬのは許さんぞ!」
数匹のゴブリンに肉薄されて絶体絶命の貴族の同僚を救おうと援護射撃をしたまではよかった。
救われたはずの同僚が顔を真っ青にして後ろを指差して叫んだときにはオークキングの横殴りの棍棒がオレに直撃した。
銃ごと右半身が潰れ、右肩から先の感覚はすでに無い。
オークキングは平民の兵であるラジロアが直ぐに対処したためすでに死体だが、自分も恐らく助からないだろう。
救った同僚とラジロアが必死に此方に呼びかけながらオレを後方へと下げようとする。
地面が大きく揺れたような気がしたが意識が遠のきかけていたためよく解らなかった。
「アビシ!邪竜が打倒されたぞ!」
「魔獣どもも動きが鈍くなった!勝てる、勝てるぞ!
だからお前も死ぬな!」
………おお、ガングート殿がやってくれたのかな?
………………勝ち戦で、死にたくはないなぁ。
「おいしっかりしろ!目を瞑るな!」
「!?やばい、デカブツがくるぞ!?」
前方を見ると所々から血を吹き出す魔獣”ゴウルアス”が狂ったように突進してきている。
恐らく痛みで我を忘れているのだろう、多方向からの銃撃をものともせずにさらに加速する。
このままでは引きずる二人まで足手まといのオレと運命を一緒にしてしまう。
「お前ら……だけでも……逃げ……」
「喋んな!」
「くそ、止まれ!止まれよ!」
同僚とラジロアが銃を撃つが倒れる様子はない。
すでに”ゴウルアス”は目の前、同僚が庇うようにオレの上に覆いかぶさり、
ラジロアが諦めまいと手早くリロードしていたが間に合うはずもない。
………ガングート殿、申し訳ありません。
ここがオレの死に場所のようです………。
「おっ邪魔しま〜す!」
ドゴン!
《ブゴォー!》
突進してきていた”ゴウルアス”が横から現れた白いナニカに噛みつかれ停止する。
「いや〜、なんていうかナイスタイミング?
やっぱりクーちゃんは幸運の女神様よね!」
ゴリバキグチャ!!!!
事態を把握出来ない三人で唖然とそれを見上げる。
全長5mはある筈の”ゴウルアス”をまるで野ウサギでも咥えるかのように咀嚼する白い狼。
全長は15m、全高6m、全身は毛皮ではなく白い金属質の甲殻で覆われ、
所々から氷のような結晶が鋭利な刃物のように生えていた。
首元に座る女性がこちらを見下ろす、服装からしてガングート殿とご同輩か?
「お勤めご苦労さま!あとは私達が平らげるから早く下がりなさいな」
巨狼が身を翻すと一瞬で加速し魔獣の群れを轢き殺していく。
遠目に見ると鉄のゴーレムが次々と空から降ってきていた。
「……よく解らんが助かったのか?」
「ボサッとするな!今のうちに運ぶぞ!急げ!」
「お、おう!」
………最期の最後にツキが回ってきたようだな。
丁寧ながら足早に運ばれるのを感じながら助けてくれた幸運の女神様に礼を言えなかったことを思い出した。
(……死ねない理由できたなぁ)
僅かに口元が吊り上がる、意地でも生き残ってやるさ。
貴族とは礼儀にうるさいものなのだ。
エスペラント王国の存亡を賭けた一連の騒動は邪竜の討伐と魔王軍の壊滅により終息していくことになる。
王国内は多くの犠牲を払いつつも手にした勝利に酔いしれる。
故に今から行われるのは蛇足、祭りに参加できなかった者たちの八つ当たりである。
[グラメウス大陸南方 とある森林地帯]
ザッザッザッ!!!!
「探し出せぇ!絶対に逃がすな!」
「記録ではKAN-SENに傷を負わせれるような魔法も存在する!
目標もそれを使うやもしれん!注意しろ!」
「どこだぁ、どこにいるぅ」(邪悪スマイル)
「出ておいでぇ〜、何もしないよぉ〜」(大嘘)
アニュ皇達(ひぃ〜!なんでこんなことに!?)×全員
ダクシルド(落ち着け!とにかく隠蔽魔法で隠れ……)
「ああ!面倒だ!ヴァンツァー部隊と車両部隊に連絡!取り敢えず辺り一帯吹きとばせ!」
アニュ皇達(!?!?!?)
「え?生け捕りでなくていいんですか?」
「連中は魔法を使うんだろ?なら全力で防ぐだろ?
すると不自然に無傷の地帯ができる、そこに目標はいる、完璧だ!」(魔法に無知)
「「「「「おお!ナルホド!」」」」」(魔法に無知)
※彼らの脳内ではノスグーラ級の魔法使いがいると仮定してます。
「そういうことだ、なので一時撤収するぞ」
「「「「「へ〜い!」」」」」
ザッザッザッ!!!!
アニュ皇達(……………あ、これダメな奴だ)
ダクシルド(……死物狂いで走れぇ!)
20分後、森林地帯がひっくり返るほどの榴弾やロケット弾が撃ち込まれるのであった………。
???「………見つけた、死亡する前に確保する」
・補足解説
北方連合の巡洋艦・駆逐艦KAN-SENの陸戦形態”氷獣”。
陸戦での機動力と近接戦闘を主眼に置いたものが多く、
狼型や豹型、熊型のものがある。