新規計画艦開発完了記念その1
任務受諾編
※プリンツ・ループリヒトは今夜完成
[アズレン世界 東大陸 東煌"大帝"居城]
謁見の間の上座に座る男性は何もかもかが大きかった。仙人のように長い白ひげ、身長は2mを超え体型は並の男性の倍はあろうかというほどに筋骨隆々。
まるで老山の如くそびえ立つ彼こそ東煌の主にして国父、"大帝"。
そんな彼の側には東煌KAN-SENの纏め役であり「大姐」と慕われる軽巡洋艦KAN-SEN
そして上座の前には一人の女性が跪いていた。
「………ハルビン、儂の新たなる娘や。考えは変わらぬか?」
「恐れながら、自ら確認せねば気が済まないものでして」
「残念ね、貴女程の逸材であれば東煌海軍としても心強かったのだけれども……」
逸仙は心底残念そうに溜息をつく。
東煌陣営がアズールレーンや北方連合からの多大なご協力経て実施され建造した初の特別計画艦【ハルビン】。
他の東煌KAN-SENと比べて抜きん出た戦闘能力のみならず艦隊指揮においても人格面もとても優秀であった。
ゆえに、単独レッドアクシズへの異動を直訴された時は軍高官、政府高官関わらず反対が多かった。
大抵の娘らのワガママは笑って許す"大帝"も難色を示し諦めるように促したが、決意は固いようであった。
「申し訳ない逸仙、こればかりは本能に近いものだ。
東煌にもノア指揮官にも不満は一切無い。
だがどこかでズレのような、満たされぬ思いがあるのも事実。
レッドアクシズ指揮官、カグヤ・エムブラに直接会えばそれが何なのかが解るような気がするのだ」
周りに佇む高官らの中には明らかに裏切り者、恩知らずと蔑む視線が少なからず集中する。
東煌は勢力として他陣営に一歩遅れを取っている、だからこそ今回の計画艦構想は威信を賭けたものだった。
その結果が別勢力への転向では納得はされないだろう。
逸仙は思考を廻らす、個人としてはハルビンの思いには応えたいが軍人としては止めたい。
そう思っていると"大帝"が立ち上がり大きな声を上げる。
「ハルビンよ!お前には秘密裏の勅命を言い渡す!」
「秘密裏……?」
「秘密……?え?」
ほぼ主だった高官がこの場にいるのに外にまで響きそうな大声で秘密裏の話をする。
つまり”公然の秘密”というやつである。
「は!なんなりと!」
「レッドアクシズに
味方のいない辛い任務になるが、必ずや結果を出し帰還せよ!」
「!?はい!必ずや東煌の利となる情報を持ち帰ります!」
"大帝"の真意を理解してすぐにハルビンは力強く返事をする。
この言い方をすればハルビンが私情で東煌を抜けるのではなく、レッドアクシズに危険も顧みずに単身乗り込むという図式に早変わりだ。
高官らもハルビンが有益な情報が手に入れば文句も言えなくなる。
"大帝"はこれで終わりと退室をし始め、逸仙もそれに続く。
去り際にハルビンへとウィンクを飛ばす、どうやら彼女の入れ知恵であったようだ。
(逸仙……!本当に申し訳ない。必ずや私の答えを見つけ帰還しよう!
カグヤ・エムブラ、会える日が楽しみだ)
東煌KAN-SEN【ハルビン】、潜入任務開始
[同世界 ロイヤル本島首都 王城庭園]
ロイヤルの政府中枢を兼ねる王家の居城、その広い庭園の一角にて”茶会”が開かれていた。
【ロイヤルKAN-SEN】
戦艦 クイーン・エリザベス
戦艦 ウォースパイト
空母 イラストリアス
軽巡洋艦 ベルファスト
軽巡洋艦 ニューカッスル
軽巡洋艦 シェフィールド
そして………
「わざわざ呼び出して申し訳ないわね、プリマス」
「いえいえ、こちらこそご要望を叶えて頂く立場。
この度はこのような場にエリザベス様自らお呼びいただき、大変感謝しております」
ロイヤルの新計画艦、軽巡洋艦プリマス。
第二次セイレーン大戦後に建造された計画艦であり、ロイヤルメイドの一人になる
ロイヤルにおける5隻目の特別計画艦であり現在はKAN-SENとしての各機能の確認とアズールレーンでの連携戦闘訓練などを行っていた。
書類の処分を任せたらその場で砲撃処理したり、朝からサディアのコース料理を出したりと、
少しばかり熱意と行動が暴走しがちだが十分に優秀な人物だ。
「今回の派遣についてようやく上層部との話し合いか終わったわ。
現地のドレイクと合流してチェシャーの転移世界での”やらかし”の詳細調査と、
定期報告が滞っているモナークとネプチューンの動向調査よ」
「また物々しい感じですが、動向調査まで必要なのでしょうか?
確か通信環境が安定しない
「ホントならいらないわよ!小心者どもが三人がロイヤルを裏切ってるんじゃないかと馬鹿なこと考えてんのよ!
あの馬鹿共!自分らのその態度こそが!
あの三人のロイヤル離れの原因だという自覚が無いのよ!」
ムキー!と怒り狂うエリザベスをウォースパイトやメイドらが宥める。
自由奔放で細かいことを気にしないチェシャーやネプチューンはまだしも、
ロイヤル戦艦として色々と複雑な想いのあるモナークはかなり不快に思っていた。
何処にいようと自身の忠誠と誇りはロイヤルと共にある。
そう思っていたのに本国の連中はそれを疑っていると耳にすれば気分も悪くなろう。
「本来ならカグヤに挨拶だけして帰還してもらう予定だったのだけれど……。
そういうことだからドレイクとともにアルタラス王国にも向かってほしいのよ……」
「解りました、プリマスは任務を受諾します」
「…………一応確認するけど、調査終わったらすぐに帰ってくるわよね?」
「フフフ、噂の姫君が私を虜にしなければ帰ってきますわ♪」
楽しげに笑うプリマスを見てお茶会メンバーはかつてのドレイクを彷彿とさせる。
過去のドレイク(レッドアクシズの姫君が私を虜にでもしなければすぐに帰投いたしますよ、陛下)( ー`дー´)キリッ
※なお、現在進行形で帰ってきてない。
あ、これはダメな流れだ。
また誑かされる……!と溜息をついて項垂れるエリザベスに困ったわねと苦笑いするイラストリアス。
プリマスとしてはノア指揮官には恋愛感情に近い想いを抱いている。
そんなノア指揮官が凄い人物だと称賛するエムデン指揮官に興味がいくのは当然の帰結であった。
女性としての本能とKAN-SENとしての本能、どちらが勝るかは会うまではわからない。
(ノア指揮官も認める存在、心躍るわね)ニッコリ
ロイヤルKAN-SEN【プリマス】、調査任務開始
[同世界 北方連合中央区 技術研究所]
中央技術研究所、ここではヴァンツァーや新型陸戦兵器、KAN-SENの装備の開発、キューブの研究などが行われていた。
そして現在、新世界進出に伴い【異界特殊技術研究科】というものが新たに設立される。
基本的には魔法やそれに関する技術や新発見の物質特性研究などが行われている。
そのまだ出来たばかりの研究室にはかなりの大物が見学に来ていた。
北方連合KAN-SENアヴローラ
北方連合の中枢である最高委員会の永久名誉委員でもあり、現在の北方連合の基礎を組み上げた女傑。
そんな彼女の来訪に研究者らは緊張しながらも興奮冷めやらぬ様子で報告をするのであった。
Sideアヴローラ
「では此方の世界に持ちこんでも物質としての性質は変化してはいないのですね?」
「はい!やはり世界間の移動をしたからと物質の性質が変わることはないようです」
若い研究員が緊張しながら報告するのを見て少し申し訳なくなる。
自分はそんな大層な存在ではないのだが、本人らからすれば雲の上の地位にある人物だから仕方ないか……。
「では予定通り特性と注意事項の漏れがないか確認後、厳重に封印処置を行ってサンプルをアズールレーンへ送るわね」
「一度やらかしましたからね………」
「見た目ただの鉄鉱石同士が接触しただけでいきなり数百度にまで上昇、爆ぜつするとは思わなんだ……」
「幸い怪我人は出ませんでしたが滅茶苦茶になりましたなぁ〜」
正確には魔力を含む石と魔力に反応する鉱石ではあったが物理学的にあり得ないほどの速度で反応したため対処が間に合わなかった。
片手で持てる程度の大きさにも関わらず携帯迫撃砲でも撃ち込まれたのかという惨状であったと報告は受けている。
なので今回提出するサンプルには細心の注意を払っているのだ。
そんな会話をしていると私に同伴していた人物が興味深そうに鉱石や結晶のサンプルを手にとり眺めていた。
「こらチカロフ!危ないからだめですよ!」
「ああ、申し訳ない。つい手を伸ばしてしまった」
普段の気怠そうな表情とはうって変わって目を輝かせながらサンプルを見ている。
彼女こそ北方連合初の特別計画艦、空母チカロフ。
グラメウス大陸への進出したと同時期に開発が完了し、これまでの間本土で調整をしていた。
そして本人が異世界の研究を志願したのもあり、此度同士エムブラ指揮官の元へこのあと一緒に向かうことになった。
見た目は彼女のが大人っぽいのだが興味のあるものがあるとフラフラとしてしまう辺り、
普段とのギャップに微笑ましく思え手のかかる妹のようである。
(異世界…是非データ分析をしたい)
(向こうにいけば噂のエムブラ指揮官も居る、どれほどの人物か興味もあるしな)
北方連合KAN-SEN【チカロフ】、新世界調査任務へ出撃
[新世界 海上要塞ヴァルハラ 来客用港湾区画]
アイリス船籍の小型船が静かに接舷する。
船からは黒ショートパンツと上着代わりに軍服を羽織ったのポニーテールの女性と、
清楚と呼ぶには些か目に毒過ぎる真っ白な服装に金髪の長髪を靡かせる女性が降りてきた。
ポニーテールの女性は久しぶりの港、かつての我が家の風景に少しばかりの感傷に浸っていた。
Sideジャン・バール
港にいたオフニャや饅頭達がこちらに気づいて近寄ってきた。
その騒がしい動きに気づいた軍人らもこちらを見て驚いた顔で敬礼をする。
中にはアイリス教の熱心な信者なのかこちらに祈りの姿勢をするものもいた。
「やれやれ、今は一応別陣営なのだがなぁ」
「ジャン・バール卿がそれだけお慕いされていた証拠では?」
「ブレスト!む、むず痒くなることを平然というな!
あ!こら!お前ら足元に群がるな!危ないだろ!?」
『『『オカエリニャ〜ン!』』』
『『『オカエリダ、ピィー!』』』
だめだ、全く言うことをきかん!
肝心のブレストはクスクス笑いながら手頃な饅頭を抱きしめる。
アイリスの最新特別計画艦、超巡洋艦ブレスト。
おっとりとした性格でマイペース、悪い奴ではないし嫌いでもないが、どうも調子を狂わされる。
そんなことを考えてる最中にも足元はごった返しており歩くのもままならない。
『『『アネゴ!アネゴ!』』』×いっぱい
「こっちは仕事で来てるんだ!遊んでる暇は無い!
さっさと仕事に戻らんとローンの奴にサボりをチクるぞ!」
(ムンクの叫び)『『『スグモドルニャ(ピィ)!』』』×全員
ピュー!!!という音がしそうなほどの速度でオフニャと饅頭が去っていく。
………相変わらず怖がられてるなアイツ。
かわいいもの好きなのは確かだが制裁も人一倍容赦がない。
以前私服姿のカグヤのスカートの中に頭から入り込んだエロ饅頭が、
頭部が拉げるほどに握りつぶされて暫く形が元に戻らなかったな。
怪奇!首無し饅頭!、なんてネタにされていたことを思い出し少し口元がニヤける。
「………楽しそうですね、ジャン・バール卿」
「減らず口を叩くな、さっさと挨拶にいくぞ!」
「ふふ、噂の彼女が私の”英雄さん”なのか、とても楽しみ♪」
かつての我が家だ、細かいところは変わっていても大まかな所は変えようがあるまい。
それにカグヤを探すコツは簡単だ、KAN-SENか人型セイレーンが多そうなところに行けば大体いる。
まぁ、なんとなくってカグヤが居ると感じるから多分こっちだろ
(ふふ、なんでかしら?行きたい所がなんとなくわかっちゃうな)
ほぼ迷いなく二人は歩き出す、まるで何かに引き寄せられるように……。
アイリスKAN-SEN【ブレスト】、派遣任務開始
※その2、もしくはプリンツ・ループリヒト編に続く!