時は少し遡り、ムーが使節団派遣を議会にて決定していた頃。
遥か辺境の南方大陸【ブランシェル大陸】にて世界の命運を決める策謀が蠢いていた。
[アニュンリール皇国 皇都マギカレギア]
首都中枢管理区でも最も厳重な警備と防諜システムが施された一室。
国家元首である皇帝ザラトストラの名の下で緊急招集がかけられ、政府の重鎮から各部門の局長まで錚々たる人員が集まっていた。
そんな一室の中央には緊張から顔色を悪くしているダクシルド含む数名の研究員達。
そして明らかに場違いな装いで佇む人物が一人。
病的に白い肌に感情を映さない金色の瞳と青白い長髪をした女性、テスター。
一部の者から放たれる侮蔑や嫌悪混じりの視線を全く気にした様子は無く、
ガラス玉のような無機質の瞳に少数ながら寒気を憶える者もいるほどだ。
「……定刻になりました、これより緊急御前会議を開始します」
皇帝の側近からの号令がかかると場の空気は一層緊張に包まれるのであった………。
Sideザラトストラ
眼前に佇む薄気味悪い女、テスターとやらは周りからの奇異の視線に一切躊躇することなく自身らが訪れた経緯を話す。
・推定〘太陽神〙により転移させられた"計画"の重要存在と同胞らを追って自分達も世界を渡ってきたこと。
・推定〘太陽神〙に今後も干渉を受ける可能性を無くすために存在の抹消を目的としていること。
・しかし自身らでは〘神の証明〙さえ覚束ない状態。
・そのために各地を調査していたときにかつて存在した古の魔法帝国『ラヴァナール帝国』、
そして光翼人の末裔たるアニュンリール皇国の存在を確認したこと。
・推定〘太陽神〙の観測方法、または確実な抹消方法の情報提供を要請、
見返りに魔帝復活のための支援を惜しまないとのこと。
・現在も元世界とを行き来をしており、この世界には固執する理由はないため、事が終われば自分らはこの世界から撤退する予定であること。
………妄言だと切って捨てれればどれだけ楽だったことか。
どうやったかは不明だが彼女らは我が国の内情まで調べ尽くしているようであり、
事実徹底的に秘匿してきたはずの本国の位置を完全に把握していた。
その証拠に現在首都に1番近い港には真っ黒な船体をした戦闘艦どもが艦隊規模で停泊中である。
同席している研究員らが本国の位置を漏らしたのでは?
と最初に嫌疑をかけられたが、その嫌疑は直ぐに晴れることになった。
「彼らは一切喋っていない、
そう言ったテスターが掌を掲げると青い光とともに複数の映像が
周りからは驚愕の声が上がる。
「空間投影技術!?なんと鮮明な!」
「魔力も装置も無しにどうやって!?」
「いや!そんなことよりこの鮮明な上空映像、我が首都の直上ではないのか!?」
「防空体制はどうなって……ん?待て見覚えのあるモノが映像を横切ったぞ?」
「まさか……、【僕の星】!?」
「「「「「!?!?!?」」」」」
議会全体の空気が凍りつき、私は言葉を失う。
そんな馬鹿な……!ではこの映像は、衛星軌道上から撮られたものということか!?
しかも僕の星が映像に映ったということはさらに外縁を周回していることになる!
我々でも未だに僕の星へのアクセス方法さえ失伝しているというのに、これでは……!?
しかしテスター本人はコチラの驚愕など意にも介さないような反応だ。
「これで彼らの無実は証明されたとしてよろしいか?」
「………ああ、嫌疑は晴れたとする」
「そうか、では単刀直入に我々からの要求を掲示する」
ゴクリと息を呑む、僕の星のさらに頭上を抑えられている以上コチラは何も対策を取ることがてきない。
故にこの者からどのような無理難題を言われようと絶対に断れない。
はたしてどのような屈辱的な要求が下されるのであろうか?
「神の観測方法に関する知識以外には特には無い。
故に今後の必要になる支援のためにも魔法技術の基礎知識とラヴァナール帝国の復活に必要な事項を確認したい」
「………は?」
一瞬意味が理解できずに思考が停止する。
周りの者らも困惑と疑念の表情を浮かべている。
あまりにも要求が簡素だ、逆に何かあるのではと疑ってしまうほどには。
「………本当にそれだけでよいのか?」
「何か問題があるか?神の観測方法に関しての可能な限りの情報掲示は最低条件だ。
あとは………そうだな、ラヴァナール帝国が復活した後にこちらの目的が未達成であった場合、
アニュンリール皇国が神の観測方法に関しての情報を仲介してくれることを確約してもらえれば問題無い」
無機質な金色の瞳に一瞬狂気が宿ったように見えた。
冷や汗が流れる、コイツ又はコイツらは本気だ、本気で神を殺すことに全てを注ぐ気か……!
殺すために神を観測する方法を模索し、それ以外のことには一切興味無しとは最早正気の沙汰ではないな。
しかしここまで観測方法に拘るとなると殺害方法に関しても何かしらの手段を準備しているのか?
「それに関しては我々も全力を尽くそう、因縁深い太陽神が居なくなるのはこちらも喜ばしい。
………しかし観測方法ばかりに注力し過ぎて討伐方法がおざなりになってはいないかね?」
暗に討伐のために魔法技術が必要ならその方面でも協力を
してやってもいいぞ、と挑発する。
今1番の問題は彼女らが魔帝復活前に観測方法を確立し、協力関係を一方的に破棄され我々の存在を公にされることだ。
なんとしてもこちらが協力関係の主導権を握れるようにしなければ我々に未来は無いと言っても過言ではない。
こちらの質疑を聞いたテスターが思案顔で停止する、どうやら悩んでいるようだな。
彼女らに関して知り得る情報は少ないが一つだけ確実なのは彼女らが魔力をまったく持っていないことだ。
魔法も無しに星の外へと歩を進めたことは驚嘆に値するが、故に神の観測方法に関して手詰まりだ。
魔法技術という点では確実にイニシアチブを取れている、ここで我々の有用性を示せれば……。
「どうだ?そちらが持ち得ない魔法技術があれば取れる選択肢も増え…
「御高説申し訳ないけど、取り敢えず間に合っているから必要無いわ」
…!?誰だ!?」
聞き覚えのない声に驚愕し声を荒げる。
警備のもの等も異変に気づき警戒態勢に入るが、声の主は何処にも見当たらない。
焦るこちらが愉快なのか先程の声がクスクスと笑い始める。
「フフフ、コッチよ、コッチ」
ニュルリ、そのような音が聞こえそうな様子で"ソレ"は何もないはずのテスターの背後から現れる。
テスターと良く似た容姿だがその表情にはこちらを嘲笑するような薄気味悪い笑みを浮かべていた。
この厳重な警備と魔法干渉阻害を施した一室にいとも簡単に侵入するとは、
やはり魔法を使わぬ転移技術を持つというのは真実である様だな。
他の者らは事態を理解できずに混乱しており、暫く収まりそうにもない。
「オブザーバーか、わざわざ何の用だ?」
「ただの顔合わせよ、今後も末永くお付き合いをするのだから、ね?」
愛想笑みを浮かべる女性にここまで恐怖を感じることは今後一生ないと思いたい。
しかしこちらとて一国の長、弱腰など見せる訳にはいかない。
「オブザーバーといったか?先程の必要無いとはどのような意味で?」
「言葉通りの意味だけど?
そうね、なら見てもらった方が早いわね♪
元々デモンストレーションとして用意はしてたからすぐに準備するわね」
………?見てもらう?どういうことだ?
まだ場の混乱が収まっていない中、空間投影されていた映像閉じ、女性のバストアップ映像に入れ替る。
「アビータ・EmpressⅢ、予定を少し繰上げたいのだけれど、いい?」
『問題無い、準備は完了してる』
「そう、なら始めましょう。
【ティシポネー】の地上攻撃システムを起動、目標は惑星南方の火山島。
付近に待機してる観測班からの中継も開始」
空間投影された映像が増え、どこかの火山島らしきものを上空から映した映像が投影される。
……地上攻撃オプション?一体何をする気だ?
『ティシポネーの座標固定を確認、電磁射出機構の稼働問題無し。
投下弾頭の最終安全装置解除、効果範囲を最大の10kmに設定。
起爆地点を目標地点の地表+100mで設定、これよりカウントを開始』
バストアップ映像に赤い表示で60秒のカウントが追加される。
みるみると減っていく数字に言いしれぬ恐怖を感じる。
同席する議員の中には身を乗り出して食い入るように凝視しているものも少なくはなかった。
そして、カウントがゼロへと至った。
『弾頭射出、予定到達時間10秒。…………"M.I.D.A.S"起爆』
火山島を映していた映像が幾条もの光の柱が放射状に発生したことによって真っ白になる。
十数秒後、再び映し出された風景には
スプーンでくり抜かれたかのような不自然なまでに奇麗な窪地。
その端が海面より低いため海水が滝のように窪地へと流れていっている。
誰も声を出せない、今起きた光景が真実であることを頭が拒絶する、思考が虚偽であることを願う。
「あれは、コア魔法か?」
「違う、違う!いくらコア魔法でもあそこまで奇麗に破壊なんて不可能だ!」
研究者職の者が半狂乱で叫ぶ。
明らかに爆発のよう破壊痕ではない、綺麗すぎる。
窪地付近の林などは一切被害を受けたような形跡は無い。
「如何でしょうか?実力に不足はないと思いますが?」
「……ああ、十分だとも」
「では今後ともお互いにとってよいお付き合いができることを」
口元が裂けたのかと思うほどに不気味な笑顔をするオブザーバーがテスターとともに目の前から消えた。
………我々は、悪魔と契約をしたのか?
………………いや、悪魔のが遥かにマシやもしれぬ。
重い沈黙が一室を支配するのであった。
[鏡面海域 セイレーン中枢]
Sideオブザーバー
人格データだけを投影した仮想空間の会議場にはほぼ全ての自律思考持ちの端末個体が集合している。
さて、カグヤ達とは別に新世界での足掛かりも手に入ったことだし、
ようやく本格的に調査を始められるわ。
「それにしても派手にやったねぇ〜」
「ええ、何せ我らの”報復”のお披露目ですもの」
クスクス笑う私の発言に、ピュリファイアーとオミッターがツボに入ったのか爆笑する。
他の面々も失笑していたり苦笑していたりとしている。
だがどれにも共通しているのは"嘲り"である。
「あ〜、ウケる〜。我らの”報復”がいつからあんな”チャチなの”になったのさ!」
「ホント、この新世界に来て以来最高のジョークかも!」
「フフ、仕方ないでしょ?
後先のことを考えずに周りの国やレッドアクシズに助力を乞うわよ?
………我々を討伐するために」
口元が裂けんばかりにニヤけるのを自覚する。
他の人格も同様に三日月のような口元になっている。
「
各衛星の情報リンクはこの巨大な惑星でも運用可能。
オマケでつけた地上攻撃システム……、いえ、対地迎撃システムも機能に問題はなかったわ」
この三基の本来の役目は偵察と”親機”への情報リンク、攻撃能力なんて万が一の保険でしかない。
「衛星兵器【エリニュス】の試し撃ち、こっちでははしないの?」
「しないわよ、すでに廃棄した枝世界で試したでしょ。
結果は大惨事だったけど」
「いや〜最大出力とはいえ、まさか
「基幹部分はそのまま流用しているからほぼ同じ威力はでる、無駄にリスクの高いことをする必要もない」
アビータ・TemperanceXIV の発言には同意ね、大陸一つ簡単に消し飛ばせるようなものをおいそれと撃つわけにはいかないし、
搭載している兵器の性質上、空間への影響力が誤魔化しようがない。
魔帝の空間魔法技術が未知数である以上、感知される危険性も高い。
【
我々セイレーンが持つ兵器システムにおいて最大最強の殲滅能力を誇る禁忌の兵器。
"来るべき日"のために用意したものだが、あまりの破壊力と空間への長期にわたる悪影響により使用を禁じていた代物。
攻撃座標にあるモノを空間ごと粉砕する性質上、物質として存在しないものでも影響力はあると試算している。
「どちらにしろ目標を補足出来なければ意味は無い、暫くは宙域を漂ってもらうしかないわね」
「……ん?そういえばアビータ・EmpressⅢはどうしたの?ココにいないけど?」
コンパイラーがキョロキョロと確認するが、当然いない。
そう、アビータタイプで唯一この場にいない彼女はというと………。
「………カグヤのところ」
「アイツだけずっと衛星軌道上でお仕事だったからね」
「ああ、納得」
[海上要塞ヴァルハラ 指揮官執務室]
Sideカグヤ
ノックも無しに扉が乱暴に開けられたときは何事かと思ったけど………
「ねぇ、エンプレス?どうしたの?」
「…………」ギュ〜
椅子に座る私の腰を抱きしめて顔をお腹に押し付けた状態でまったく動く気配がない。
本日の秘書官である
いや、私もどうしましょ?という心境なんだけど……。
仕方ないので取り敢えず頭を撫でると、さらに力強く抱きしめ始める。
………もしかして暫く会ってなかったから寂しかったのかな?
ピュリ姉からは特に何も聞いてないから”言えない事”関係なのだとは思うけど。
まぁ今日くらい執務が滞っても大丈夫か。
そう思いながらニーミに軽食と飲み物を三人分持ってくるようにお願いするのであった。
衛星兵器【エリニュス】
全長500m、空間破砕砲を搭載した大型衛星兵器。
現在衛星軌道上からは離れた位置待機中、存在を隠蔽されている。
偵察衛星【アレクトー】【ティシポネー】【メガイラ】
全長100 m前後、エリニュスの子機でほぼ同一仕様。
主に地上の偵察とレッドアクシズ側の衛星へのハッキングなどの電子戦が主任務。