………設定情報の把握を改めて行わねば。
[皇都エストシラント パラディス城 離宮前]
Sideリットリオ
レミールがパラディス城の離宮にて静養中という情報を頼りに城まで乗込んできたがどうやら"大当たり"を引けたようだ。
腰からサーベルを抜き構えると唖然としていた周りの男連中が正気に戻りこちらに対してマスケット銃やサーベルを向けてくる。
こちらの顔を見て下卑た想像でもしているのか殆どが気持ち悪い笑みを浮かべているが、中央の指揮者らしき男だけが呆然とした様子で固まり続けている。
状況を飲み込めず思考停止しているのであれば後回しだな。
姿勢を僅かに屈めると同時に一気に踏み込むと、その反動でひび割れていた石畳が砕け散る。
「は?」「え?」
「反応が遅い」
前列2名が構えていたマスケット銃の銃身とサーベルの根本を叩き斬る。
さらにそれぞれの片足をすれ違いざまに斬りつけておく、一様治療出来る程度に加減はしたが暫くは役立たずだろう。
激痛に倒れ込む2名を見てようやく自身らが“狩る側”ではなく“狩られる側”であることを理解出来たのか半ばパニック状態で発砲をし始める。
当たったところで大したことはないのだが、流れ弾が他の者に当たって運悪く死なれては困るので危なそうな弾丸だけを弾いていく。
先程の2名と同様にマスケット銃持ちを最優先に無力化していくと、他の連中が"救出対象"へと接近し始める。
おそらくはレミール達を人質にしようとしているのだろうが無駄だ。
カンッ!
「ひぃっ!?」「銃撃!?どこか……ぎっ!?」
城壁の上で待機していたカラビニエーレが手にしたライフルマスケットで救出対象に接近しようとした者らに銃撃を浴びせていく。
足元への威嚇射撃でも止まらなかった男の肩を容赦なく撃ち抜くと近づこうとしていた男達の足が完全に止まる。
当然そんな無防備な奴らに次の手を考えさせる暇は与えない、足や腕を斬りつけ無力化していく。
これでほぼ制圧完了だな、あとは指揮官らしき優男くらいか。
サーベルに付いた血を振り払って優男の方へと向き直ると今だに状況を飲み込めていないのか、無防備に立ち竦んでいる。
「さて、あとはお前だけだが?どう……」
「美しい……」
「………んん?」
恍惚の表情を浮かべて優男がフラフラと近付いてくると私の目の前で跪く。
「このケダン、貴女の美しさに目が眩み不覚にも対応が遅れてしまいました!我が運命の人よ!」
「………お前、頭は大丈夫か?」
思わず口元が引くつく、周りを見てみろ意識ある者ら全員ドン引きしてるぞ………。
だが優男はどこ吹く風と目を輝かせてこちらを見つめてくる。
「どうか私めに美しき貴女の名を……」
スッ「えいっ」ゴスン!
「アビャフュ!?」バタンッ
ケダンと名乗った優男が奇声を上げながら倒れると、後ろからカラビニエーレがライフルマスケットを逆手に持った状態で姿を現す。
どうやら銃床で思いっ切り殴りつけたようだ。
「………手間を掛けさせた」
「………いえ、問題ありません」
カラビニエーレがため息をつきながら周囲の警戒を開始する。
すぐに動けるような奴はいないがここは敵陣の真っ只中、警戒しすぎることに越したことはない。
私は今だにこちらを警戒する救出対象らへと向き直り声をかける。
「さて、これでようやくお話しができそうですね?美しきシニョリーナよ」
「……ご助力に感謝はします。が、貴女は何者ですか?」
正装の金髪女性が口調こそ柔らかだが警戒心丸出しでこちらを見つめてくる。
ふむ、彼女賀この一団のリーダーと思って違いなさそうだな。
「これは失礼を。サディア帝国所属、名をリットリオと申します」
「リットリオ……!?では貴女方はレッドアクシズの者ですか!?
私は第一外務局長のエルトと申します。この度はご助力ありがとうございます」
驚愕と安心感が彼女の顔に浮かぶ、私の名前を知っているということはレミールからある程度情報を共有されているようだな。
一緒にいるメイド服の女性も確かレミールの側使いだったはず、そう思い視線を送るとこちらに一礼をしてくる。
目を白黒させている初老の男性のほうも彼女らと共に行動しているということ"コチラ側"であるのだろう。
そして車椅子に乗るレミールへと目を向ける、どうやら眠っているようだが………。
「外傷がまだ残っている?何故治療らしい治療がされていない?」
「急激に魔法治療をすると体への負担が大きいからなのもあるのですが……」
「どうやら担当医が治療を遅延していたようでしてな」
「…………そうなると一刻も早く状態の確認をせねば」
一瞬殺意が爆発しそうになるのをなんとか堪えてプランの変更を決める。
本来であればレミールの安全が確保できた後にクーデターへの干渉も考えていたがその余裕がない可能性がでてきた。
「ダ・ヴィンチ聞こえるか?」
『はいは〜い!聞こえてるよ!どうしたの?』
「要救助者の状態が予想より悪い。予定変更してすぐに離脱する」
『え?そうなの!?それじゃメディカルポッドもすぐ使えるようにしとくね!』
「それで頼む。それと沖に待機してるトリチェリにも伝達任せる」
『オーケー!回収予定地点で待ってるね!』
通信を切り頭の中で回収地点への最適ルートを算出する。よし、ここからは時間勝負だ。一気に行くとしよう!
自身の周囲が青白く光ると同時に艤装を展開され、それを見たエルト達から驚きの声が上がる。
「おお!?」「何処から!?」「お、大きい……」
「私が彼女らを艤装に乗せて運ぶ。カラビニエーレは周辺警戒を頼むぞ」
「解りました!」
「そういうわけで、レミールは私が運ぶので申し訳ないが三人は艤装に掴まってもらっていいか?」
「「「ええ……?」」」
レミールを車椅子から降ろし、両手で抱えてから少し屈んで艤装に乗りやすいようにする。
三人は困惑しながらも主砲の上に座るように乗るのを確認して立ち上がる。
「おおっ!?」「わわわっ!」「持ち上がった!?」
「さぁ!しっかり掴まっていたまえ!行くぞ!」
城壁の扉を蹴り開けると同時に一気に目的地へと向かって駆けると、艤装の上に掴まった3人からの甲高い悲鳴が辺りに響きわたるのであった………。
[皇都エストシラント パラディス城 廊下]
Sideドミディア
まったく……!こちらは順調だったというのに……!
「レミールの確保に失敗しただと?」
「そ、そのようなに報告が上がってきました……」
怯える伝令兵を無視して思考にふける。
筋書きとしてはレミールには"処置の甲斐なく"体調悪化により死亡し、そのショックでルディアスは精神を病み"退位後に隠居"ということにするつもりだったのだが……。
こうなると少し厄介だ、ルディアスの奴への
さっさと始末できれば簡単なのだが、ヘリオガが思った以上にルディアスを"兄"として尊敬し過ぎている。
“最愛の人を失って朦朧した姿”を
はぁ……、仕方あるまい。暫くは
魔力の問題も魔帝の遺跡で発掘した高純度魔石にはまだ余裕はある。
暫くは茶番を演じながらヘリオガの様子を見るとしよう。
「ならばさっさと追撃隊を出せ。レミールの身柄を確保出来るのであれば死体でも構わん」
「りょ、了解しました!」
伝令兵が走り去って行くのを確認してから視線をレオノスへと向ける。
「どうする?君も鬼ごっこに参加するかね?」
『ふん!どうせ不完全燃焼だったしな!暇つぶしにはなるだろう』
「ではよろしく頼むよ」
レオノスがズシズシと音を立てて近くのテラスへと出ていき姿勢を低くすると勢いよく跳躍、反動でテラスが大きく陥没し崩れた石材が階下へと落ちていく。
………階下からの響く悲鳴と怒号聞くに運悪く下にいた連中がいたようだ。
「もう少し静かに出ていけばよいものを……。まぁこれでレミールの身柄
私を梃子摺らせた罰として
[皇都エストシラント 城下高級住宅街]
Sideエルト
周りの風景が風のように流れ矢継ぎに変わっていく、これが乗馬中の草原などであればそこまで珍しい光景ではないだろう。
しかし現在私が乗っているのは吹きさらしの鉄の塊の上であり、何よりも
一切の虚勢も見栄もなく言わせてくれ、滅茶苦茶に怖い!
「無理ムリむり、むぅ〜りぃ〜!?」
「ひぃ~!?擦った!?なんか肩を擦った!?」
「ーーーー!?ーーー!?」
悲鳴を上げるルーナと顔を青褪めさせているノイス、なお私は声に出す余裕すらない。
先導する"カラビニエーレ"と呼ばれた少女が建物の間を飛び越えると、それに続いて"リットリオ"殿も勢いよく跳躍する。
一瞬感じる浮遊感、僅かな落下感とともに凄まじい衝撃音が響く。
響く音の割に自身が受ける衝撃は軽いがなんの慰めにもなってはいない。
「乗り心地が悪くてすまないがもう少し我慢してくれ!
……!?チッ!追手か!」
リットリオ殿の叫び声を聞き、しがみつく姿勢のまま何とか首を捻って後方を確認する。
上空に竜騎士を背に乗せたワイバーンロードが4騎、こちらを捕捉したのか高度を下げ始めている。
「お、追い付かれますぞ!?」
こちらもかなり速いとはいえワイバーンの速度のが遥かに速い、このままでは追いつかれる!
そう思って焦っていると突然視線がガクリと落ちる、は?
ドンッ!という重い音とともに狭い路地へと着地、そのまま再び駆け始める。
当然景色が石壁に囲まれたものに変わる、もちろん速度はほぼそのままで。
先程までの解放された場所とは違い眼前に壁が迫っているかのような状況となり思わず悲鳴が上がる。
「「「ヒィ〜!!!!???」」」
「口を閉じてしっかりしがみついていたまえ!速度上げるぞ!」
「「「!?!?!?」」」
ガッ! ガッ! ガキッ!
そこらから石が削れる音が聞こえ振動がさらに増す。
おそらくは自身らが乗る鉄塊が石壁に擦れてるのだろうと理解して恐怖心がさらに増す。
………私の文明人としての尊厳は死守できるだろうか?
緩む下半身の力を必死に維持しながらそんなことを考えて現実逃避するのであった。
命綱も安全バーもないジェットコースターなんぞ絶対に乗りたくねぇ……。
自分は開放的なところよりもトンネルとか閉所を通る瞬間とかのが恐怖心があります。