[重桜本土 首都島]
Side瑞鶴
「今日もみんな覇気がないわね、しょうがないかもしれないけど……」
指揮官が消息を断って3ヶ月、殆どの重桜KAN-SENが何かしらの異常を発生させ始めていた。
軽いものでは小さなミスが目立つ程度だが、一部のKAN-SENは異常が顕著だ。
駆逐艦KAN-SEN、特に夕立、雪風、時雨を代表とした元気が売りの連中は殆ど笑わなくなった。
夕立なんて食事が喉に通らないと食事量が激減している。
巡洋艦KAN-SENも無理をしているのがハッキリと解るほどにカラ元気のものが多い。
中でも愛宕は指揮官の写真を片手に呆然としてることが多く、高雄が付き添いをしてる。
夕張は指揮官捜索のために連日徹夜で調査機械を弄っており、目元の隈がすごいことになっている。
戦艦KAN-SENは比較的いつも通りだが陰を落としてるものが多い。
長門様と陸奥様が祈りを捧げてる姿をよく目にし、伊勢や日向は酒がうまく感じないとぼやいている。
そして空母KAN-SEN、まさかの赤城先輩と翔鶴姉が再起不能レベルで寝込んでいる。
赤城先輩はさらに天城さんも居なくなったことのダブルパンチで心労が祟って体調不良となった。
現在は天城ちゃんが必死に介護しており、少しは良くなったがまだまだカラ元気である。
翔鶴姉は指揮官のことを猫可愛がりしてたので消息不明のショックで真っ先に倒れた。
「さらには"主上"まで落ち込んでるだからもうめちゃくちゃね。
あの方、指揮官を孫のように可愛がってらしたものね……」
"主上"が意気消沈してることで付き人からも何とかならないかと相談に来たほどだ。
軍施設の最奥、
「………オブザーバー」
「ううぅ、カグヤ、カグヤァ………」
………一番頼りにしたい人物が
最初はここまで酷くはなかった。
一週間程機能不全になってたらしいが、そのあとは遅れを取り戻すようにセイレーン側も痕跡の調査をしたが、一ヶ月間の調査結果は”追跡不能”という無慈悲なものだった。
空間操作技術をもつセイレーンでさえお手上げなのが現状なのだ。
鉄血のビスマルクが指揮官の艤装であるスサノヲを調査すれば何かわかるかと思って返還を要求したのだが、ユニオン側が拒否。
現在ユニオン陣営は海軍と陸軍の派閥争いで政変が起きかねない危ういバランスだ、下手な動きをしたくないのだろうが怒りが込み上がってくる。
さらには北方連合も陸軍の異常な増強など動きが怪しくなり始めてるとの情報が鉄血、サディア帝国、東煌の3陣営から入っている状態だ。
………平和になったはずが、そこら中で火種ができ始めている。
「指揮官、早く帰ってきてよ……」
もう皆、限界だよ……。
静かに涙を流すことしか、今の私には出来なかった。
[ユニオン本土大陸 アズールレーン本部]
Sideエンタープライズ
もうすぐ日付が変わろうとする深夜、ようやく指揮官が疲れた顔で執務室に帰ってきた。
「お疲れ、指揮官。すまないがこの束の資料だけは目を通してくれ」
「すまんな、エンタープライズ」
「……また陸軍の奴らか?」
「ああ、またいつもの中将殿だ。KAN-SENの指揮権を寄越せ、とな」
「セイレーンと停戦したからと我らの存在意義は変わらんのだがな……」
「セイレーン大戦中、活躍の場が限られていたからな。
何としても軍内部での勢力図を塗り替えたいんだろうな」
溜息をつく指揮官を見て心労が溜まっているのだろうと心配になる。
それに鉄血からのスサノヲ返還要請も海軍は快諾する予定だったのに陸軍の猛反対で白紙になってしまった。
スサノヲの研究に陸軍も結構な関わりを持っているため仕方ないがこれ以上レッドアクシズを追い詰めるようなことは避けるべきだ。
それとも陸軍の連中は本気でレッドアクシズを併合するつもりなのか?
「正直政治力は陸軍のが上手だ、世論も傾きかねん」
「指揮官、我々は……」
「安心しろ、お前らに誇れない戦いなぞ絶対にさせんさ。
……ん?クロンシュタット達が直接スサノヲの技術調査に来るのか?」
「ああ、定期研究報告を兼ねてだな。実は既に本部には来てて明日には技術者達と収容施設に直接向かうらしい」
今回来たKAN-SENはクロンシュタット、ベラルーシア、メルクーリヤ、ソオブラジーテリヌの4名になる。
「………またあのハゲダコ中将が怒り狂いそうだな」
「しかし表立って同盟国を蔑ろにはできまい」
「それはそうだな、そこまで馬鹿なら今の地位にはいないさ」
他の書類に目を通し初めた指揮官。
せっかくだ、眠気覚ましのコーヒーでも淹れてやろう。
そう思い私は部屋を一度出るのであった。
[トーパ王国 城塞都市トルメス]
Sideアジズ
現在、魔王軍が”世界の扉”を突破しトルメス北部が襲撃されている。
まだゴブリンやオーガ共だけなので城壁は突破されていないが時間の問題だ。
伝令を走らせてはいるが恐らく間に合わないだろう、ならば少しでも事態を……。
凄まじい轟音と土煙が上がる。
まさかと思い急ぎ確認すると城壁の一部が根元から吹き飛んでいた。
そこからなだれ込むゴブリンとオーク達、そしてあれは……!
「レッドオーガにブルーオーガ!さらには火竜までもが城壁に……!」
だめだ、勝てない。士気でどうこうなる次元の存在ではないと改めて痛感する。
最早防衛は不可能と判断して兵に撤退や民の避難を指示しようとしたとき、後方から聞き慣れない音が聞こえ始めた。
「まさか、廻り込まれたのか!?」
そう思い振り向くと同時に、頭上を馬車のようなものが凄まじい速さで通り過ぎていて、目の前に着地した。
馬車には4人の女性達が乗っており、そのうちの一人が声を上げる。
「こちらレッドアクシズのカグヤ・エムブラです!
状況の説明をお願いします!」
レッドアクシズ?確かロデニウス大陸からの客人がそのような名だったはずだ。
なんとタイミングの悪い時に来るのだ!
「お嬢さん方!今我々は復活した魔王軍による襲撃を受けてる最中だ!早く避難したまえ!」
「魔王の襲撃!?民間人の避難は!?」
「だから今から始めるからお前さんたちも……!」
「ピュリ姉出して!民間人を救出する!」
「了解!私のドライビングテクニックが冴えるぜ!」
「あ!待てお前達!?」
鉄の馬車は凄まじい速度で崩れた城壁の方へと走って行ってしまった。
ま、まずい!国賓が死んだとなったら外交問題だ!
儂は近くにいた若い兵二人に急ぎ追跡するように指示するのであった。
Sideガイ
くそ、騎士団長の爺め!無理難題を言いやがる!
国賓を連れ戻す指示を受けたモアと共に全力疾走で鉄の馬車が向かった方へと走る。
「てかさっきのなんだよ!あの馬車、馬もないのに走ってたぞ!」
「地竜とも違うな、ほんとに何なんだ!」
あー!頭がこんがらがるぜ!
ん?爆発音?それも結構な数が連続してする?
「あ、ガイ!さっきの馬車が見えたぞ!」
「やっと見つけ……なんだありゃ!?」
鉄の馬車に乗っていた女性二人が妙な鉄塊を身に着けていた。
そしてその鉄塊が光ると遠方で爆発がしたり、近くのゴブリンやオークがズタボロに穴だらけになる。
彼女達は魔術師なのか?それにしてもメチャクチャだ。
「さぁ!次に死にたいやつは前にでろ!」
「シアトルの実力、魅せてやるっす!」
スゲェ……まるで戦女神の如しだ。
瞬く間に魔物達が数を減らしていく、避難してる民や兵達も足を止めて見惚れている。
………いや!さっさと逃げろよ!
「モア!国賓様は大丈夫そうだ、先に避難済ませちまおう」
「いや、う〜ん、そうだな」
彼女達も兵達が邪魔になってる可能性があるしな、さっさと済ませねぇとな!
Sideドレイク
調査に来たらよもや魔物の軍勢とは!
艤装を展開し、目につくものから片っ端に砲撃と対空機銃を放っていく。
サーベルも片手にしているが近づいてこれる奴はいないな。
「そらそら!行くっすよ!」
シアトルのやつも器用にステップ踏みながら建物に隠れた奴らも見逃していない。
正直数が面倒だ、艦艇顕現をしようにも射角が取れない可能性が高い。
こういうとき、重桜や鉄血みたいに小回りが効く形態をもっているのが羨ましくなるな。
「ドレイク!崩落したところから新手!なんかでかいの来たっすよ!」
「本命のお出ましか!」
「人間、邪魔するな!」
「殺して食ってやる!」
城壁の崩落部分から赤と青の巨体がこちらに突進してきた。
それを見た兵の一人がこちらに大声で警告を放ってきた。
「気を付けて下さい!奴らはレッドオーガにブルーオーガ!魔王の幹部共です!」
「情報感謝する!」
向かってきた連中に砲撃を放つがギリギリで避けらた。
デカイのわりに動きがすばしっこい!
だが巨体の魔物のがコチラに対して二の足を踏み始めた。
「ま、魔法じゃない……!」
「あれは、まさか太陽神の使者どもの……!」
よくわからんが及び腰になっているようだ。
好都合、なら一気に方をつけてやる!
シアトルに視線を送ると直ぐに頷いた。
そしてタイミングを合わせるようとしたとき、巨大な炎の黒い鳥が頭上に現れた。
なんだアレは?魔法、か?
『焼き払え、ダークフェニックス』
鳥の尾が地面を薙ぐように動き私とシアトルを焼こうとしてきた!
時間にして20秒前後炙られ、こちらの艤装が一部融解し砲身部分が半分以上変形してしまった。
くそ、油断した!
慌ててシアトルの方を見ると軽巡洋艦である彼女のほうがダメージが深刻なのか立っているのも辛そうな状態だ。
「ほう?よもや原型が残っているとはな……」
「キキキ、しぶといですなぁ」
声のした方を見上げるとそこにはコウモリの羽を生やしたローブ姿の魔物と暗視ゴーグルのようなものをつけた黒い巨体の魔物が浮いていた。
「キサマが、首魁か……!」
「如何にも、我が魔王ノスグーラである。
魔力を全く感じない人形の貴様らは一体何だ?」
「………人類の守り手、さ」
「キキキ!面白い冗談だ!」
周りの魔物から嘲笑う声が上がる。
まぁ、この状態では笑われても文句はいえんな。
自嘲気味に頭を下げていると影ができた。
何かと思い顔を上げるとそこには指揮官殿がの背中が見えていた。
Sideカグヤ
二人が黒い炎に包まれた時は心臓が止まること思った。
幸い死ぬような怪我ではなかったがこれ以上の艤装による戦闘は困難だろ。
「ドレイク、シアトル、大丈夫?」
「ごめんなさい、油断しました……」
「も、申し訳ないっす……」
最初は二人共私が前に立ったのを焦ったようだが、
ピュリ姉が私の頭上で待機しているのを確認したら安心したのか慌てる様子はなくなった。
「ほう、貴様がその人形どもの術者か?」
「いえ?彼女達の指揮官ですよ」
「どっちでも同じだ、妙な混ざり物の気配をした奴よ。
で、そこの魔法もなく浮いてる貴様はなんだ?」
「はぁ?なんで答えなきゃいけないのぉ〜?」
ケタケタ笑いながら挑発しているピュリ姉に、ローブの魔物が激昂する。
「貴様!家畜モドキの分際で生意気な!」
………?家畜モドキ?
「家畜モドキ、て何?」
「キキキ!家畜の姿をした変なのだから家畜モドキで十分だ!」
「………家畜て人間のこと?」
「それ以外何がある?」
黒い巨体、魔王ノスグーラと名乗った魔物が嘲笑うように語り始める。
「貴様人間なぞ我らの食料としての価値しかないさ。
貴様も家畜を食っているだろう?それとなんにも変わらんさ」
「それに人間はとても栄養になる」
「元気出る、もっと人間殺せる」
赤と青の魔物が何かを言っている。
「貴様ら人間は我々にころされるか食われるかのどちらかなんだよ!」
ローブの
「貴方達は、ここの国と戦争をしているのですよね?」
「ふむ、そうだな」
「………相手への敬意とかはないのですか?」
「これは傑作だ!食われるしか価値の無い家畜に敬意など払うものか!」
黒い
それに呼応するよに
…………もう、いい。
貴様らには敬意を払う価値もない
矜持も持たぬというのであれば……
お前達は”敵”ですらない、ただの
”戦場”を穢す愚か者の存在なんてユルセナイよね……
ガラスの割れる音と共に空に奈落の逆さ穴が開いた
その穴から無数の黒いキューブと赤い稲妻が辺りに撒き散らされる
そしてその奥から這い出てくるは巨大な二頭の鉄蛇
かつて起きた地獄の
やったねノスグーラ!一話分寿命が伸びたよ!