[海上要塞ヴァルハラ 指揮官執務室]
Sideカグヤ・エムブラ
パーパルディア皇国から届いた書状を確認しながら眉間にシワを寄せる。
「………私を代表に指名、ねぇ?」
「ホーント考えが浅はかね、敗けたくせに未だに見栄が大事とか」
本日の秘書艦であるループレヒトが呆れたように溜息をつく。
パーパルディア皇国の新皇帝からまさかのご指名に最初は困惑したが、よくよく考えれば当然かとも思った。
列強第二位であるムー国に自分が直接訪問したのを何処かで知り、私を代表にするとで"格上のムー国と同等の扱い"ということにしたいのだろう。
「まぁ和平交渉の代表をするのもいい経験になると考えれば自分はいいけど……」
「………脳筋なアンタにできんの?」
「ウグゥ!」
ジト目で私の三倍以上の速度で報告書を処理するループレヒトからの言葉に心が痛む。
正直演算速度以外の頭の出来はあまり良くないので何も言い返せない。
「まったく!報告書の処理も遅い上に雑とか!そんな弱々な頭でよく今まで指揮官が務まってたわね!」
「返す言葉もありません……」(T_T)
自分の能力不足が確かにあるが、それを差し引いてもループレヒト自身がホントに優秀なのだ。
軍事、兵站、政治の基礎知識がしっかりしており、フリードリヒからも「経験を積んでいけばまだ伸びる」と太鼓判を押されるほどの逸材だ。
「ループレヒトは本当に秀才だよね、赤城やリットリオからも評価高いだけはあるよね」
「トーゼンでしょ?私は"最強"なんだから♪直ぐにでも指揮権を譲ってくれてもいいのよ?」
「ローンを御するなら検討するよ?」
「ヤメテ、ソレハホントムリ」
片言になってガタガタ震えるループレヒトを見て溜息をつく。
あの一戦以降、完全にローンがトラウマになっており未だに面と向かって喋れないほどだ。
さらに悪乗りしたローンが笑顔でグイグイと迫るので半泣きになって私に助けを求めるという状態。
………ローンとしては私に依存させることで"おイタ"をしないように仕向けてるのだろうが、さすがにやり過ぎである。
「冗談だよ、私も自分の責任を放り出す気は無いし。」
「……正直言うと、結構アンタのこと尊敬してんのよ?」
「えっ!?」
あまりに意外な評価に驚……
「出会う前は依怙贔屓の無能指揮官だと思ってた、出会って話してみれば……、お気楽な脳筋指揮官?」
……くと同時に頭を執務机に打ち付けて静かに涙がを流す。
ふーんだ、策略だとか腹芸が壊滅的に苦手ですよーだ……。(TдT)
「でもここで数日も過ごせば嫌でも解った、アンタだからレッドアクシズが纏まってるんだって。
私含めて我の強い鉄血、一癖も二癖もある重桜、自由人気質のサディア、独自の価値感が強い北連、そもそも不倶戴天の敵のはずだったセイレーン。
こんな曲者揃いを惹きつけれる一種のカリスマ性、キューブ適性が有無はあるのを差し引いても私が成り代わるのは無理、て判断したの」
一瞬柔らかな笑みを浮かべるループレヒト、しかしすぐに悪い笑みへとかわる。
「だ・か・ら♪アンタをトコトン骨抜きにして、私の傀儡として裏から組織を牛耳る方針にし・た・の♡」
「それ本人に言う!?」
ケラケラ笑う彼女に頭を抱える。か、完全に舐められる……!?
「ジョーダンよ!そんなことしたら大鳳とローン………、がががががぁ!!!!」
「はぁ……、自分でトラウマ発症させないでよ」
自身が口にした結末を想像したのが顔を真っ青にして震える、もう仕方ないなぁ……。
席を立ち、震えるループレヒトを背中から抱きしめながら頭を撫でる。
「大丈夫、ループレヒトに骨抜きにされないように頑張るから」
「…………それはそれでなんかヤダ」
ムスッと膨れっ面になるが撫でられることからは逃げる様子は無い、もう素直じゃないな〜。
「で?会談に連れてくメンバーはどうすんの?流石に全員でいくのは不可能でしょ?」
「それなんだよねぇ……」
和平交渉であることを考える相手に高圧的に見られるのは出来れば避けたい。
そえなると艦隊を組んでいくのは不味い……、というより皇都エストシラントの港が問題だった。
リットリオからの報告だと港全体の水深があまり無く、戦艦、空母級の大型艦艇は座礁する可能性が高いとのこと。
そのため行くなら巡洋艦か駆逐艦クラスでないと入港ができない可能性がある。
ムーへの訪問同様、途中から装甲ヘリに乗り換えて向かう案のも考えたが皇都には陸軍基地の空港しかないらしいので初訪問では避けるべきだろう。
となればやはり艦で向かうのがいいんだけど……、誰にするかが問題だ。
「ローンは自室謹慎中だしなぁ……」
「アイツ何やってんのよ……」
今回の海戦とは全くの別の所、グラメウス大陸付近の海域で北上していたパーパルディアの艦隊と交戦したと
本人曰く〘不幸な遭遇戦〙だったらしいがそもそもなんでその海域にいたんだということで……。
「衛星で捕捉はしてたから北連が対応予定だったんでしょ?なんで勝手に戦ってんのよ?」
「まぁ、ローンだし……。それに大鳳とかもだけど相手方が失礼な発言した瞬間、止める間もなく処しそう」
「………目に浮かぶわぁ〜」
そんな訳でどちらにしろローンは連れていけない。
そして同じような理由で重桜と鉄血のKAN-SENも連れていける人員は一気に絞られる。
ユニオン、ロイヤルの開発艦は何かしらのトラブルがあった時に責任問題がややこしいし、北方連合KAN-SENはグラメウス大陸開拓と周辺国への関係強化で忙しい。
そうなると、礼儀作法に明るく面倒な貴族への対応が問題無さそうなサディアKAN-SENが妥当だろう。
さらにそこから巡洋艦・駆逐艦クラスに限定すると……、この3人かな。
「旗艦に"トレント"、随伴艦に"マエストラーレ""リベッチオ"でいいかな?」
「………まぁ妥当じゃない?性格的にも多少の無礼は流せそうだし」
「あとは同乗する護衛を数人連れてけばいいとして……」
護衛はどうするか?と考えていると執務室の扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼いたします」
「ウォルター中佐?珍しいですね?」
てっきりKAN-SENの誰かかと思ったら機甲部隊のウォルターさんだった。
どこかバツ悪気な雰囲気を出してどうしたのだろうか?
「申し訳ない、少々ご足労願いたい……」
「え?いいですが、本当にどうしたんです?」
「………駐屯してるセイレーン達がストライキを起こした」
「なんて???」「はぁ〜!?」
ーーー中央広場ーーー
海上要塞ヴァルハラの中央区画にはそこそこの規模の森林公園がある。
基本的に殺風景な人工島である海上要塞で唯一の緑がある区画であり、ジョギングコースや各種スポーツコートもあるKAN-SENや軍人らの憩いの場となっている。
そんな広場にて人集りが出来ており、物々しいというか困惑気味な空気が流れている。
そんな人集りの中心、かつて世界を絶望のどん底に突き落とした不倶戴天の敵であるセイレーン達が………
〘働き方改革!〙
〘カグヤの独占を許すな!〙
〘労働環境の改善を!〙
…………なんかカラフルなボードを掲げて無表情で立っていた。
[海上要塞ヴァルハラ 中央広場]
Sideカグヤ
どうなってんの、これ?
周りのKAN-SENや軍人達もスゴイ困惑してるじゃん……。
人集りは私とウォルター中佐が来たのを確認すると道を開けて敬礼をする。
それに返礼をして人集りを抜けると、
〘一緒に仕事したい〙「ん……」ズイ
「よりにもよってアナタがナニやってるの?ストレングス………」
セイレーンの中では珍しい黒い肌に金の瞳と鋼色の長髪、巨大なガントレットに背面部から伸びる金属製の魚の尾。
【アビータ・Strength VIII】自我を持つセイレーンの中でも特に戦闘能力に重点を置かれたアビータシリーズの一人であり、見た目通り高防御と高出力でゴリ押し他を圧倒するパワーファイターだ。
必要以上に喋らないアビータシリーズの中でも特に意思表示なんかをしないはずの彼女がここまで自分の意見を主張するとは初めてだ。
よくよく見ると他の個体も無表情ながら期待と懇願の念が表情に出てるような……?
「そもそも、なんでストライキなんてことに?」
「………コレ」
そうやって見せてきたのは"守られるべき労働者の権利"と書かれた北方連合の書籍だった。
見せてきた頁の内容を要約すると〘労働者には労働環境を改善するように具申する権利〙〘不当な扱いに対して正当な権利の主張〙というものだった。
……頭が痛くなってきた、そもそもの前提条件としてこの権利の主張とは雇用契約があるかどうかなのだ。
当たり前だがここに駐屯するセイレーンには雇用契約どころか基本的人権さえも存在しない、悲しいかなストライキを起こしてもその要望が通る可能性はないのだ……。
しかし彼女らが自発的に意見を主張してくるというのはかなり珍しいことだ。
自我の強く独自判断で動くオブザーバー達下層端末に比べ、戦闘特化の量産型や中層端末達は『
なのでここで一蹴するのは躊躇われる、我ながら甘いとは思うんだが………。
彼女らがこのタイミングでストライキを起こしたのは間違いなく『パーパルディア皇国への和平交渉に同伴したい』ということだろう。
………………本人らとして"任務は二の次、一緒に居られる時間を増やしたい"というのが本音だろうが、はぁ〜。
「解った、要望を受け入れるよ。転移してからのこれまでの間、周辺海域調査や近海警備を長々とやってくれてたし」
よくよく考えればKAN-SEN達に代わり単調な長期間作業を延々と続けてきてくれた彼女らに報いるのには丁度いいかもしれない。
「但し!向こうで私がどんな非難や暴言、暴力を振るわれようと“命令有るまでは絶対に武力行使にでないこと”を厳守すること!それが最低条件!」
「………わかった」
ストレングスは勿論エセクキュータ達も目を輝かせて喜んでる。
周りにいた軍人やKAN-SENからも「万一暴れられたりしたらお手上げだしなぁ」「まぁ短期の護衛任務くらいなら大丈夫だろ」「海域調査に一ヶ月間24時間働き詰めとかもしてくれたし……」「ううぅ、今回は譲るのだ〜」と反対意見もでないようなのでこの場は大丈夫だろう。
とりあえず半ば決定事項になっちゃったけど天城やフリードリヒにも相談はしておくか。
そんなことを考えながら無表情で機械的にバンザイを繰り返すセイレーン達を眺めるのであった。
【パーパルディア皇国和平交渉使節団艦隊】
・重巡洋艦トレント(旗艦)
・駆逐艦マエストラーレ
・駆逐艦リベッチオ
【使節団護衛隊】
・アビータ・Strength VIII 1体
・オブストラクター、スカベンジャー、チェイサー、ナビゲーターコンダクター、スマッシャー、ダイバー型
各代表個体1体づつ選出
また服装について些か問題ありと判断、人数分の儀礼服を手配。
召集したサディアKAN-SENらが海上要塞にて合流後、エムブラ指揮官と護衛隊を乗せて出港予定。
もう少し更新速度上げたいです(願望)