〜和平交渉会談より三日後〜
【和平交渉会談 内容報告書】
・今回の開戦の要因となった《皇都にて発生したテロ行為のレッドアクシズ関与》の撤回。
◎内容承諾、即日実施。
・今回の戦闘行為で発生した賠償金として純金100㌧相当を要求。※他希少金属での代用可
◯内容承諾、但し支払期限については保留。
・現在文明圏外の各国と結ばれている不平等条約の改正。
△一部内容承諾、各国毎での条約内容の精査に時間が必要とのこと。
・奴隷の献上要求、又は輸出の強要の全面禁止。
△上記と同様、条約内容の精査後に改めて承諾。
・今回の交渉とは別にアルタラス王国、フェン王国への賠償金交渉を行うこと。
◯内容承諾、但し期限についてはレッドアクシズ側からの指定は無いものとする。
・海軍をはじめとした外征可能な軍備の大幅縮小。
◎内容承諾、海軍再建自体を無期限延期を決定。
・上記の内容が履行されているかの確認としてレッドアクシズ側からの常駐する相談役兼監査官派遣の容認。
◎内容承諾、相談役兼監査官としてカグヤ・エムブラが就任すると決定。
これらの内容はレッドアクシズ総指揮責任であるカグヤ・エムブラの権限の下に締結したものである。
また同時にカグヤ・エムブラと皇帝ヘリオガとの間で結婚を前提とした付き合いを了承したとの報告あり。
[鉄血公国 皇城執務室]
Side“皇帝”
緊急として上がっていた報告書の最後の項目を見て思わず眉間を抑えて目を瞑る。
イカンイカン、ここ最近少しばかり働き詰めだったのが祟ったか?
あり得ない文章があったようだが………。
タップリと一分ほど現実逃避をした後、改めて報告書下の文章を読む。
…………やはり内容に変化無し、受け入れたくない現実に頭を痛めていると、ノックも無しに乱暴に扉が開けられる。
「おい“顎髭”!我等のエムブラちゃんが何処ぞの馬の骨と結婚とはどういうことだぁー!?」
「うるさいぞ“チョビ髭”こちらも今知ったところだ」
相変わらず耳が早い“チョビ髭”こと
“皇帝”であるこちらを“顎髭”呼びなど不敬罪で投獄されても文句を言えぬ暴言を吐いてるこの男は皇帝教育機関にいた頃の同期だ。
十数人いた同期の中ではパッとしない成績ではあったが、カリスマ性が高く【人を扇動すること】に関しては自分以上であった。
事実、広報局の長官となり自身より優秀な同期らを複数人部下にして血統主義派の代表として政界にも顔がきく侮れん男だ。
『鉄血の血統こそ優良種の証であり、我ら鉄血公国国民が世界を引っ張っていくのだ!』
『鉄血KAN-SEN達こそ鉄血の精神が具現化した姿!彼女らが存在する限り鉄血公国は不滅である!』(おっぱいプルンプル〜ン!ロリペタペロペロ!)
血統主義を掲げる傍らKAN-SENを偶像崇拝推奨することにも余念がなく、何気に国民からの人気も高い。
………邪な感情も見え隠れしてるが優秀ではあるのだ。
なお血統主義とは鉄血の血統を持っていればいいので重桜との混血であるカグヤ・エムブラも問題なく、キューブ適性を持つ鉄血国民として情報局で大々的に取り上げだりしている。
「広報局長であるお前は別にレッドアクシズ指揮官であるカグヤ・エムブラの進退に口出しする権利はあるまい」
「関係大有りだ!純血派とかいう頭沸いた馬鹿共を根絶やしにしたのは九割九分エムブラちゃんのためだぞ!」
そう、かつてこの国で頭痛の種だった純血主義派組織を事実上の解散をさせたのはこの男の手腕によるものがおおきい。
元々は血統主義を都合よく曲解して過激にしたのが純血主義というもので“チョビ髭”も「大キライだ!バーカ!」と怒り心頭であったのもあるが。
大体鉄血の先祖なんぞ複数民族の混血なのだからそもそも純血という言葉は何を指すのやらだ。
正直、国の癌でしかないテロ組織なぞ滅びてくれて有り難いがな。
「今すぐに鉄血全軍に総動員をかけるぞ!あんなカビの生えた時代遅れの国なぞ3日で焼け野原にしてやる!」
「やめんか馬鹿者、まずはカグヤ・エムブラの真意を確認してからだ。それまでは動員をかけるな」
「ぬぅ〜、仕方ない。一般公表はこちらで止めておくぞ?」
「ああ、情報工作も頼む」
全く、厄介事ばかり起こすな指揮官殿。
…………この報告書を他の者らの反応が怖いな。
[重桜本土首都島 皇居]
Side“主上”
「………遺憾である」
我が長い生涯でもこれほどの怒りを感じたことはないだろう。
周りの空気がと建物がに軋み、同室の護衛と世話役がガタガタと震えている。
「誠に、遺憾、である……!」
「どうかお気をお鎮めくだされ」
「周りに被害が出てしまいます」
付き人の進言を聞いて怒りを抑える、内心煮えくり返るような怒りを抱えたままではあるがな。
「うう、怖かったよ武ちゃ〜ん」
「よしよし、俺もだから安心しろ純夏」
む、
「取り乱したすまぬ、この報告書に偽りはないか?」
「はっ、報告自体に間違いないありませんが、不審な点が多いのは正しいかと」
「はい!カグヤちゃんが皆に黙ってこういうこと決めるとは考えにくいと思いま、モゴォ!」
「よ〜しバカ純夏、頼むから黙ってろ」
「ハハハ、良い良い。儂もそう思っていたところだ」
仮に本当にカグヤが相手を好きになって婚姻を決めたとして、報告だけで済ませるということは考えにくい、いやあり得ないと言っていい。
何かと律儀な子だ、挨拶回りもしないとは彼女らしくない。
「新世界側に常駐している者等に事実関係を早急に確認するように連絡せよ」
「「はっ!」」
「場合によっては“勅令”も視野にいれる、聖域にいる長門、武蔵にも知らせを出せ」
出来れば力尽くはやりたくないが、もしもカグヤに何かあれば遠くの地で死んだ"あの子"に申し訳が立たない。
[ロウリア新共和国近海 サディア・グローリア号内]
Side“女帝”
補佐官が持ってきた和平交渉会談の報告書を破れんばかりに握りしめ手にしていたワイングラスがバキリと折れる。
「こ・れ・は!どういうことだぁ〜!!!!」
怒りを発散するために報告書を紙くずと成り果てるまで破り裂き放り投げる!
「こちらかの要求内容、殆ど無期限扱いでわないか!こんなモノ数年後には有耶無耶にされるぞ!
いや、そんな些事はどうでもいい!"余のカグヤ"が婚姻とはどういうことだぁー!?」
「いえ、そもそも陛下のモノでもありませんが?」
「そんなことは無い!カグヤはいずれ余の伴侶となるのだ!!!!」ダンダンダン!
((((駄目だこりゃ))))
補佐官と使用人達から冷ややかな視線に気づいて慌てて地団駄を踏むのを辞める。
「んんっ!とにかく早急にカグヤの真意を確認する!通信を繋ぐ準備を……」
「あ、無理です」
「何故!?」
「この報告が送られて以降、衛星通信全般に不良が発生しているようです。恐らくは例の太陽風の影響かと」
「キィー!!!!この世界の太陽神とやらは味方ではないのか!」
いくつかの伝承には異世界から【太陽神の使者】という名で呼ばれていた者らがいたことは確認出来ている。
だからこそ太陽神の信仰はこの世界ではポピュラーだ、何せ人類の守護をしている神々の頂点だ。
なのに、その太陽に邪魔されるとはぁ〜!
火急で情報を集めねば、場合によってはパーパルディアに追加派遣も準備するか。
「まったく、ただでさえ
して治療の進み具合は?」
「眼球以外の外傷は治療出来ました。現在は投与されていた薬の中和をしております。しかし、よろしかったのですか?」
「ん?何がじゃ?」
「本来この船に載せている医療施設は陛下がお使いになるべき……」
「馬鹿者、あるモノは使わねば勿体ないであろう?それに余のモノを好きにして何が悪い」
この船に配備した医療施設は本国の最新鋭なものと遜色ない、わざわざ本国にまで輸送して手遅れになったのではコチラも困る。
「リットリオも余の家臣、家臣が困っていたら手を貸すのが主君であろう?それに近年は体調も良い、そう心配するな」
「………申し訳ありません、浅はかな進言でした」
「よいよい、それよりもこの報告は海上要塞にも届いているのだろ?向こうの様子は大丈夫なのか?」
補佐官が視線を反らした、あ(察し)。
…………とりあえず早まらんように
[海上要塞ヴァルハラ レクレーションルーム]
Side赤城
レクレーションルームの片隅、談話区画のテーブルに加賀、翔鶴らとともに熱弁を振るう瑞鶴の話を聞き流している。
瑞鶴に限らず、現在基地各所で響き渡る悲哀と怒号に怨嗟の声があがっている。
己の耳の良さを恨むことがこようとは思いませんでしたわ……。
指揮官カグヤの事実上の婚約騒ぎは予想以上にKAN-SENらを混乱のどん底へと突き落としている。
天城姉様も数日前から
「ちょっと先輩!私の話し聞いてるの!?」
「ええ、聞いてるわよ、そして当然却下よ」
「なんでよ!?」ダンッ!
「落ち着きなさい瑞鶴、ほら座って」
瑞鶴が机を叩き立ち上がるも、隣の翔鶴に言われ渋々と席に座り直す
。
「却下に決まってるじゃない。カグヤ奪還のために正面からゴリ押しで侵攻する作戦、作戦というのも烏滸がましい。
そんな馬鹿みたいなモノ承諾できるわけ無いでしょ?」
「この作戦は駄目なのか?姉さま」
「当たり前でしょ………」
加賀も瑞鶴の作戦(笑)に賛同気味であったことに頭を痛める、ここ最近暴れたりないせいもあるのでしょうが。
「あいては仮にも“国家”なのよ?であればそれ相応の大義名分と世論の支持を得られなければただの暴走と同義よ」
「だから!カグヤが攫われてるのよ!大義名分よ!」
「いや、攫われてないからね?本人が進んで行ったから」
「じゃあ洗脳!魔法とかで洗脳されたのよ!ゲームであるようなやつ!」
「一様クワ・トイネやロウリアの魔法士に聞いたけど必要な魔力量と要求技術力から殆ど御伽噺レベル、
そもそも仮に実用レベルの洗脳魔法なんてあったら殆どの国家破綻するわよ」
「そりゃ……、そうよ、ね」
ガクリと項垂れる翔鶴を見ながらも、決してあり得ないとは思っていない。
正直魔法に対する知識がまだまだ蓄積出来てないので可能性としては考慮しておかなければいけないわね。
それに本当にカグヤ自身がこの状況を決めたことならば、天城姉様も言っていたがカグヤが
ローンには悪いけど、私個人としてはあの子には普通の幸せを手に入れて欲しいのよ………。
[アニュンリール皇国 魔帝復活対策庁 神格観測課]
アニュンリールとの密約によって新規設立された【神格存在の観測方法の模索する部署】、神格観測課の一角にてーーー。
Sideオブザーバー
「「脳波に作用する魔法〜?」」
「ええ、魔帝時代でもマイナーな遺失魔法らしいけどね」
ピュリファイアーとオミッターが胡散臭げな顔でこちらの話を聞いている。
「ナニソレ?エロ本とかである催眠アプリ的なやつ?」
「語弊なくばほぼその通りね、本人の自我を希薄にすることで命令に従順な状態を維持するらしいわ」
「ヤバイじゃん!?カグヤがエロ同人みたいな目に!?」
「皇帝の婚約予定に手を出す程の馬鹿はいないでしょ。ヘリオガ自身まだ未成年だから“そっち”の流れにはならないと思うわ〜」
まぁ仮に悪い方に転がったとしても、人の悪意に絶望したあの子が人類に見切りをつけて
例えどんなことになろうと私は
「ただ本人の防衛本能なのかしらね?記憶を自己封印を行ってるみたいなのよ」
「記憶封印?前に送り届けてきた鬼人族の巫女みたいに?」
「あっちは魔法での記憶処理ね、ここで過ごした記憶に靄がかかってハッキリ思い出せない状態。
それに対してカグヤの場合は一時的な記憶喪失みたいなものよ」
「なんでまたそんな状態になってんの?」
オミッターが心底不思議そうに首を傾げる。
「多分だけど命令される範囲をカグヤ個人に抑えるためね。スサノヲとのリンク状態も最低限、私との繋がりもだいぶ希薄になってる。
仮にカグヤの本当の力を知って『世界を征服するために力尽くせ!』とか命令されてもカグヤ個人に収まるならほぼ問題ないしね」
「………つまりカグヤ・エムブラは私達のことを忘れている状態、なのか?」
珍しくテスターが意見をしてきたことを不思議に思いながらも答える。
「ええ、まぁ意識の外にはされてる状態だから忘れてるとも言えるかもね。そんなことより今後の方針だけど………」
…………この時、テスターの思考を読めてればもう少し対処も出来ていたと思うが、恐らくは些細な差でしかなかったのでしょう。
カグヤが私のことを忘れている?
そんなはずがない、そんなことあって有り得てはならない。
新たに任命されてレッドアクシズ指揮官への威力偵察をした時から。
その後も各拠点での交戦で何度もカグヤと相対してきた時から。
カグヤは私を意識してくれていた、そんなカグヤから忘れられる……?
有り得ない、あり得ない、ありえない、アりえナイ、アリエナイ――――。
ソンナジショウ、アッテハナラナイ――――。
――――バグハ、
文字数の割に話が進んでない?
………ユルシテクレメンス!