異世界にレッドアクシズの名を刻む!   作:有澤派遣社員

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各所にて阿鼻叫喚の中、平和な日常を謳歌する元凶。


幼帝の聖女

 

[皇都エストシラント パラディス城]

 

Sideヘリオガ

 

少し遅めの朝、身支度をメイドにしてもらいながら今日も楽しい一日が始まると思うと心が躍る。

母も父も居らず、叔父上と限られた使用人以外とは顔を合わせることもないかつての毎日。

寂しく色褪せた世界は“彼女(カグヤ)”のおかげで色付いたモノへと変わった。

自身の胸の内を告白した次の日、カグヤは相談役として滞在してくれると言ってくれた。

どうやら同伴者らには寝耳に水だったらしく少々揉めたがカグヤの決心が固いと悟るとそれ以上の言及はせずに報告を持ち帰るために鉄船と共に一部の者が帰国していった。

さすがにあの不気味な雰囲気の護衛達は残ったけど……、実際に向き合ってみると無口なだけでそこまで悪い人達ではないようだ。

ただ他の貴族や兵士らには威圧感を隠そうともしないのでそちらからの評判はすこぶる悪い、大丈夫だろうか……?

彼女らに何かあればカグヤは悲しむだろう、無用なトラブルは起こさないように両者に言っておかねば!フンスフンス!

 

「そういえばカグヤは?部屋にはいなかったけど?」

「彼女でしたらひと足早く起きて、陛下のご朝食を作っておられましたよ」

「今日は晴天ですので中庭でお待ちするとのことです」

「とてもいい匂いでした、今日も賄いが楽しみで……」ジュルリ

「コラ涎、仕事に集中しなさい」

「ん!……失礼しました」

 

愛想よく笑うメイドらの反応に思わず笑みが溢れる。

カグヤは自分と自身の分とは別に朝当番の使用人達の朝食も用意している。流石に全く同じという訳では無いが味は一緒とのこと。

初日の朝に“不出来な失敗作”として振る舞われた少し形の崩れたパンケーキが絶品だったらしく、不人気な朝当番が今や奪い合いが発生しそうな状態だとメイド長が頭を痛めていた。

着替えを終えメイドらとともに中庭へと向かうとテラスに彼女はいた。

今の姿は初めてあった時の黒っぽい軍服姿ではなく、真っ白な生地に金の刺繍が眩い文明圏で一般的である“創造神教(イル教)”の神官服を着ている。

教会としては信徒でもない人物に神官の地位を渡すのは抵抗があっただろうが、長年失っていた政治的な影響力を取り戻すチャンスと二つ返事で承諾したらしい。大人って汚い……。

 

「……お待ちしてました陛下」 

「むぅ~、今は公の場じゃないよ?」

「……ヘリオガ、一緒に食べよ?」

「うん!」

 

今日は香りのいい琥珀色のスープ(コンソメスープ)に彩り鮮やかな具材を挟んだ白いパンのサンドイッチ。

皇国では見ないふわふわで柔らかいパン、野菜と卵の味付けも今まで食べたことの無いモノ(マヨネーズ・ケチャップ)

いつも出されていた朝食は量が多くて食べきれず、脂ぽくて味もクドくて重いのが多い。

量が少なくとも正直カグヤが作ってくれた食事のが食べやすくて有り難い。

毒味の関係で冷めた食事が殆どだったが、カグヤが作るときには毒味を挟ませないので温かい食事が食べれる。

叔父上もカグヤが作るものなら問題ないと言ってたし、ホントに大丈夫なんだろう。

 

「……美味しい?」

「とっても美味しいよ!」

「……そう、ありがとう」

 

微笑むカグヤに自分も思わず笑顔になる。

視界の端では使用人らがカグヤの護衛から大きなバケットを受け取って喜んでいる姿が見えた。

 

朝食後、叔父上と大臣らと共にレッドアクシズへの賠償金に関する会議に出席。

当然相談役としてカグヤも出席してもらい、色々助言してもらってるのだが……。

 

「〜〜〜〜というわけでリチウム,ルビジウム,セシウム,ベリリウム,ストロンチウム,バリウム,希土類元素(スカンジウム,イットリウムとランタノイド),チタン,ジルコニウム,ハフニウム,バナジウム,ニオブ,タンタル,クロム,モリブデン,タングステン,マンガン,レニウム,コバルト,ニッケル,パラジウム,白金,ホウ素,ガリウム,インジウム,タリウム,ゲルマニウム,アンチモン,ビスマス,セレン,テルル,ニッケル,クロム,タングステン,コバルト,モリブデン,マンガン,バナジウム,インジウム,ガリウムなどが今回の賠償金にあたる希少金属に部類されるモノになります。

これらの希少金属であれば金銀宝石よりも重量単価もよく、この国での市場崩壊を回避するためにも……」

「「「待て待て待て」」」

 

いきなりの長文と理解不能な単語の羅列に叔父上と大臣が慌てて静止をする。自分?もうついていけて無いです……。

 

「その、え〜と、今羅列された鉱石?ですが、初耳なものばかりで」

「せ、専門家!専門家呼べ!!」

「(ちっ!洗脳だとこういう所が融通が効かんな)すまんが、素人の我々にも解るようにしてくれ……」

「………よろしければ写真・サンプル資料などを別途用意します」

「そうか、それで頼むぞ(国中の金銀が無くなるかの瀬戸際だから無視も出来ん、頭が痛いな……)」

 

叔父上でも理解出来ないことがあるのか……。

そういえば義姉上が持っていた光る板、タブレットだっけ?に今回の会議に有用な情報あるかな?

とりあえず会議の方はお互いに資料不足ということで後日に延期、予定よりも早く終わることになった。

 

 


 

 

会議後、昼食をとってから皇都防衛隊の陸軍基地を視察、司令直々に応対し、側近等とともに歓待を受けた。

女性であるカグヤがいるためか、わざわざ女性軍人も連れてきてくれている。

ただ一様に敬意を感じるが僅かながらの戸惑いや落胆も感じる。

恐らくは自分が幼いから頼りなく見えてしまっているのだろう。

兄上のような威厳ある態度は出来ないので、まぁしょうがないか……。

司令部へと案内されているとカグヤが立ち止まり別の建物へと視線を向ける、あれは恐らく竜舎かな?

 

「カグヤ?どうした?」

「おや?どうなされましたか?」

「すまない、連れが竜舎の方に興味があるようでな。先にあちらからでも問題ないか?」

「(連れ?……まぁ問題ないか)ええ!問題ありませんとも!」

 

そういえば叔父上の巨竜、ジャバウォックもこの基地にいると聞いてたけどあの竜舎にいるのかな?

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

[皇都防衛隊駐屯基地 竜舎付近]

 

Side魔信技術士パイ

 

新皇帝陛下直々の視察に役柄的にも家柄的にも不適切な私がなんで呼ばれたのかと思っていたが、どうやらこの"同伴者"が理由だったようだ。

レッドアクシズからの相談役カグヤ・エムブラと紹介された神官服を纏った黒髪の女性、いやまだ少女なのかな?

近くで見ると耳元にある飾り、小さな角なのね。亜人なのだろうけど年齢が判りづらい……。

竜舎前まで来ると何やら慌ただしい様子が見え始める。

 

ギャギャアー!!!

「お、おい!?どうした!?落ち着け!」

「待て待て!?暴れるな!?今は不味……!?」

ギガァアー!!!

 

バキン!ガタン!ドゴン!といった破砕音とともに竜舎にいたオーバーロード種数匹がコチラへと向かって突進して来る!?

さらにその後方からはドミディア公が連れてきた特大飛竜の姿まであるではないか!?

皇都でのクーデター以来、手狭な城が気に入らなかったのがウチの基地に居付いてしまった継ぎ接ぎのような不気味な飛竜。

ワイバーン達の数倍の食事量を平らげ、さらに気性が激しく迂闊に近づいた世話係が踊り食いされたこともあったと報告されてあえる大問題竜……!

食われる!?逃げなきゃ!と思うも同時に腰が抜けてへたり込んでしまう。助けを求めて後ろを振り向くもすでに司令や護衛は陛下を守るように距離を離し始めていた。

見捨てられた、と思ってしまうが幼い皇帝の安全と一部下の安全など天秤にかけるまでもなく前者だ。

同じ危機に直面している以上、僅かな希望もないだろうが隣のエムブラさんへと視線を向けると彼女は状況を理解出来ていないのか平然と立っていた。

そして同時にオーバーロード種達がこちらの目前まで来てるのも確認し、終わったと思って目を瞑る。

 

ああ、せめて彼氏くらい作りたかったなぁ。

 

そんな場違いな後悔をしながら回避できない惨劇から現実逃避するが……、一向に痛みが訪れない。

不審に思い恐る恐る目を開けると信じられない光景が広がっていた。

 

「………?」

キュウキュウキュウ……(ひっくり返って喉元を曝す体勢)

グルルル……(頭部を限界まで地面に伏せてしゃがみ込む)

 

聞いたこともない弱々しい鳴き声を上げながら犬の服従のポーズのような格好をするワイバーン達。

そして地面に体をベッタリと伏せてまるで跪くかの如き姿をする継ぎ接ぎの大型飛竜。

そのような異様な光景に僅かに首を傾げるだけのエムブラさん。

………え?何が起きてるの?

 

 

 


 

 

ジャバウォックは本能が命ずるがままに矮小である“はず”の人間の雌と思しき存在の前に平伏する。

 

新しく縄張りにした手狭な巣穴(皇城)よりものびのび出来る広さを持つ手下共の巣(駐屯基地)に居着いていた。

食料も人間共が用意してくれるし、たまに人間も食える。

 

“創造主達”のご帰還まではまだ刻があると同郷の輩(レオノス)も言っていたし暫くは人間共を余興に愉しめばよいと思っていた。……つい先程までは。

 

全身の細胞が泡立つかのように継ぎ目の部分が痛む、これ以上低い姿勢になれぬ己の巨躯を恨む日が来るとは想像だにしていなかった。

 

怖い恐いコワイ!この矮小な人間の雌が、心底恐ろしい……!

この場で服従の姿勢をしている手下共はまだマシだ。コイツラより弱い個体共は巣穴に籠もって震えてることしか出来ていないのだから……!

 

この場に居ないはず“ナニカ”が自分を見下ろしている。

存在しない八対の視線(・・・・・)がこの場を恐怖で支配する。

 

 

――――――――平伏せよ

 

――――――――服従せよ

 

――――――――跪け

 

――――――――我が(かんなぎ)に頭を垂れろ

 

 

 

 

本能が叫ぶ、全身が悲鳴を上げる。同郷の輩(レオノス)はこの存在に気づいていないのか!?

この存在は、きっと“創造主”に仇なす者……!?

 

 

――――――――不敬、死を持って償え

 

 

僅かな敵意に“ナニカ”が反応した。死ぬ、終わる、消される……!

 

ピトッ

 

鼻先に何かが触れる、恐る恐る眼を開けると人間の雌が微笑みながら鼻先を撫でていた。

“創造主”からでさえ施されたことのない安らぎと温もりに全てを忘れて身を委ねそうになる。

 

 

 

――――――――赦す、我が巫に感謝しろ

 

 

 

場を支配していた“ナニカ”の気配が霧散する、服従の姿勢をしていた手下共が起き上がり我先にと人間の雌へと殺到する。

 

群がる手下共の対応のためか鼻先の温もりが無くなったのを残念に思いながら命が残っていることに安心を憶えるのであった。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

[パラディス城 ヘリオガ寝室]

 

Sideヘリオガ

 

今日の業務が終わり夕食と就寝の準備を済ませるとカグヤとともにベッドにて"秘密の授業"を始める。

 

「……ここをクリックするとレアメタルの一覧が表示される」

「ん~~、使用用途も載ってるけど単語がサッパリだなぁ〜」

「……大丈夫、ヘリオガは飲み込み早い。直に解るようになる」ナデナデ

「えへへ~」

 

カグヤに頭を撫でられて上機嫌になるが、甘えてばかりいられない!

今日の駐屯基地での騒ぎ、カグヤがいかに凄い存在なのかを目の当たりにした。

ワイバーンのみならず凶暴なジャバウォックさえ容易く手懐けるその姿。

司令官などにも聞いたが、あのようなことが出来る人間はパーパルディア建国以来見たことも聞いたこともないそうだ。

タブレットで見た彼女のプロフィールには龍人(・・)の血統とあったからそれが影響しているのかな?

まだまだ彼女のことを知りたいと思う一方、自分は彼女に釣り合えるのか?と疑問に思う。

いや、釣り合えるくらいの存在になろう、それこそが自分の……。

 

「ンン…?ふぁ〜」

「……無理は駄目、もう寝よ?」

「うん、そうする。お休みなさい……」

「……お休み、ヘリオガ」

 

横になると頭を撫でられる。ああ、とてもあたたかい。

この幸せな時が、ずっとつづけば、いいのに……。

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

 

[パラディス城内 執務室]

 

Sideドミディア

 

深夜、あまり公にしたくない書類の整理を行う。内容としては"組織"(ノースフェイス)に関係したものが殆どだ。

自分が望んだ地位と権力とはいえ、好き勝手している同志らほど自由な時間が無いのはストレスも貯まる。

レッドアクシズの海上戦力がデュロや皇都全域を砲撃の射程圏内に収めてる以上、政治の中枢を内陸である聖都へと移動させる必要がある。

そのために色々と下準備やらを行わねばならんのだが、思った以上にやることが多い。

さっさと終わらせて早々に拠点である聖都パールネウスに戻りたいものだ。

そんな中での駐屯基地での騒ぎ、その報告書を確認しなが溜息をつく、何者だあの小娘……?

 

「レイノス、お前から見て"アレ"はどう感じている?」

『角のあるただの亜人、と判断していたがもしや竜人(・・)か?』

「竜人、にしてはエモールの連中と特徴が合わんな」

『見た目の特徴は血が薄れてるからやもしれんが、竜人にしても飛竜共の反応は異常だ。それにジャバウォックが魔帝様以外にあのような反応をするはずがない』

「ではまさか…?」

 

彼女が魔帝の血族なのか?そう暗に聞くとレイノスは高笑いをして否定する。

 

『ガハハハ!在りえん在りえん!魔法を使える人間以下の魔力だぞ?でなければ【支配者の瞳】が機能するはずもない!

魔力が高い魔獣やオレが貴様の"指輪"に従っているのは魔帝様に"そうあれ"と作られたからだ』

 

さすがの"指輪"も製造元である古の魔法帝国、光翼人には効くはずもないか。

自分らに使われたら困るようなリスキーな物をわざわざ作るはずもないから当然ではあるだろう。

まぁ魔帝の復活など遥か未来のこと(・・・・・・・)、自分が生きてるうちに現れなければそれでいい。

 

『(……などと考えるのだろうな、頭はキレるくせに浅はかな奴だ)

そんなに気になるならもう少しあの人間の情報を集めたほうがよいのではないか?』

「………そうだな、聖都に戻り次第本人から色々と聞き出すとしよう」

 

ヘリオガのご機嫌取りのためとはいえ面倒な女を引き込んでしまったものだ。

 




簡単な説明

カグヤは小動物全般からは目茶苦茶好かれます。自然公園で佇んでいれば周りに動物が群れるくらいには。

※大体こんな感じ

カグヤ(動物可愛い♡竜も怖可愛い♡)

小動物全般(あの人間安全地帯やん!最高!)


????(我の巫に手を出せば……、解るよな?)

魔獣全般(何アレ恐、近寄らんとこ)

飛竜達(うぉ〜!売るンゴ売るンゴ!媚を売るンゴ!)

ジャバウォック(魔帝様より恐い(泣))


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