今回は別視点的な話、北連による初の第三文明圏への外交となります。
――――20年前
凍てつく極寒の北方連合、その鉱山採掘区域の一画で弟と共に飢えと寒さで震えていた。
父は数年前に崩落事故で他界、唯一の働き手であった母も無理がたたり倒れてしまった。
病院にかかるも大した処置はしてもらえず、挙げ句『
最初こそ亡き父の友人らや母の同僚らから僅かばかりの食料を分けてもらえたが、採掘区画全体での配給量が減ったことによりそれもなくなった。
そしてその母も一昨日亡くなり、住む家も追われて今の状況だ。
弟に目をやると無意識に指を齧り初めていたので慌ててその手を払い噛じるのをやめさせる。
そのため注意していないと齧りすぎで血塗れにするどころか指が無くなってしまう。
せめて、腹を満たせずとも気を紛らわせる程度に何かを……。
意識が遠のきそうになるのを必死に耐えながらグルグルと思い悩んでいると、微かに香る食欲そそる匂いとともに誰かが自分達の前に立つ。
「あ〜れ〜?君達大丈夫?」
真っ白な雪の妖精、そう思うような女性が此方を覗いていた。
[リーム王国 王都ヒルキガ]
Sideパーミャチ・メルクーリヤ
建ち並ぶ石造りの建物に整備された街路。
建築様式はパーパルディア皇国同様に古きサディアの様式に近い。
ただ所々に城塞都市だった頃の名残があり、密集気味の建物や撤去されてない城壁により日当たりの悪い所が点在しており湿度は低いのに異臭がする場所も多々ある。
また中央通りは広いが他の街路は狭く整備の進み具合に大きな隔たりがある。
「THE・過度期感!文明レベルは低いけど、避寒地と思えばなかなか過ごしやすい所じゃない!」
「大変失礼ですよ同志メルクーリヤ、ちょっと口を塞いでろ下さい」
「……他国への文明差別発言。ソユーズ様に報告」
「あんたらヒドくない!?」
「そんなことありませんね」「そんなことない」(生暖かい目)
「ムッキー!!!!舐められてるぅ〜!」
もう!この兄弟ナマイキすぎ〜!?昔はあんなにかわいかったのに……。
まぁそもそも興味本位で着いてきただけだからお荷物なのはそうだけどさぁ。
「取り敢えずクーちゃんはこのまま城下街ぶらついてるからお仕事終わったら無線お願いねぇ〜」
「なけなしの外貨を無駄遣いしないでくださいね?」
「また腰やって泣いて助けを呼ばんでくださいよ?」
あー!あー!聞こえませ〜ん!てかそこまて腰は弱かないやい!
……さて、いっちょ気合入れていきますか!
[王都ヒルキガ セルコ城 謁見の間]
Sideバンクス
「ようこそ我が国リームへ。歓迎しよう」
「国王陛下直々のご挨拶、感謝の念が尽きません」
「貴国からこれ程の歓待を受けれたこと、"主席"にも必ずやご報告させてもらいます」
「うむ、是非にとも頼むとしよう」
辺鄙な地方の文明圏外国からの使者が来る。それだけであれば聞き流して対応を任せていたが、今回ばかりは慎重さが必要となる。
何せ長年未開拓の大陸となっていたグラメウス大陸を平定したとされる北方連合なる“王侯貴族を排した国”。
そして
王侯貴族を持たず、かの大陸を武力を持って制圧した蛮族のような連中。
そう思っていたがこうして会ってみればそのような考えは当て嵌まらないようだ。
派手さこそないが整った装い、持ち前の武力を誇示するような振る舞いもせず粛々とした態度だ。
かと言って下手に出るようなこともない、良くも悪くも“対等である”というつもりなのだろう。
文明圏外国如きが対等などと烏滸がまし!と一蹴するのは当然愚策。
しかしこちらとて第三文明圏国としてのプライドがある。うまいこと折り合いをつけねばな。
不確かな情報ではあるが政変したパーパルディアもレッドアクシズの
高官*1をうまいこと抱き込んで譲歩を引き出そうとしているらしい。
向こう方の思惑はまだ不明だが侮るのは下策、しかし過度に警戒する必要もあるまい。
せいぜい我が国の利益になるよううまいこと利用させてもらおう。
[セルコ城 会談室]
Sideフェルダス
「改めまして、此度の会談担当となります外国家群対策部海洋国家課課長フェルダスです」
「北方連合外務省外交戦略課代表のマークと申します」
「その補佐官、スコットです」
対面で軽く頭を下げる二人に対する印象は悪くはない。
代表のマークは正直どんな蛮族思考な連中がくるのかと戦々恐々としていたのが馬鹿らしくなるくらいには粗暴さとは無縁に思う。
逆に補佐官のスコットとやらはガタイの良さと威圧的な声色はあるが、こちらの反応を気にしてる様子が伺える。見た目よりも繊細な方のようだ。
「このまま友好を交えたいところですが、まずはお互い仕事をするとしましょう」
「ええ、ではまずはこちらの要望と貴国からご要望のあった件ですが――――」
【北方連合側】
・魔法関係技術・知識の提供
・グラメウス大陸で採掘された魔法資源と生活需要品の輸出許可
・上記に伴うリーム国の一部土地租借と港湾建設許可の要請
【リーム王国側】
・科学関係技術・知識の提供
・科学式ゴーレム*2の実物提供
・現在使用しているマスケット銃の発展型の実物提供
・上記提供物二項目に必要な生産技術の提供
・輸出入にともなう関税・利権についての優先権
「――――以上になりますが、内容について誤読・解釈違いは無いということでよろしいでしょうか?」
「ええ、間違いありません」
テキパキと話をするマークの説明内容に曲解は無い。上位の文明国としてかなりふっかけてはいる。
無論このまま全て押し通ると思うほど"頭パ皇"ではない。
まだ噂話レベルだが2大列強のムーやミリシアル以上の軍事力を持つとされる連中に喧嘩吹っ掛けるのは時期早々。
無論噂を鵜呑みにする気はないし、誇張されている部分も多いだろうがパーパルディアに勝ったのは事実。
ならば今回の会談では得られるモノは手に入れ、そうでないものはスパッと諦めればよい。
国王や大臣らは短期の関係を前提に良いように利用しようと考えているようだが、長期的に良好な関係のが利益になると私は睨んでいる。
「土地の租借、というのは具体的にはどの程度のものでしょうか?港が必要なら我が国の港を使えばよいのでは?」
「現在ある港では我が方の輸送船が停泊するには水深が足らないのです。また大型クレーン、船のから荷下ろしするための設備を敷設する必要もあるからです。
そのため既存の港を大規模改修するよりも土地を租借して港と設備を建設した方が早いと判断しました。建設期間は半年以内に実稼働できる状態にできます」
ふむ、集めた情報では戦列艦が小船に見えるような巨大な鉄船を使っているというのもあったが、どうやら本当のようだ。
しかしそれほどの規模の港を半年で作るとは、なかなか大きく出るではないか。
「土地と設備の租借期間は5年とし、それ以後はこちらの人員以外全て貴国へと返還することになります。
設備や施設の予定耐久年数は10年保証とし、返還後も保証期間内であれば可能な限り無償対応するものとします」
「ご、5年でよろしいので?」
てっきりパ皇のような数十、百年以上とか言い出すかと思っていたが、てか施設や設備も丸々置いて行く気か!?
あまりにも(自国の常識的に)破格の内容に裏を勘ぐってしまうが……。
「租借期間5年で貴国の人員への教導も完了予定ではありますが、もしご不満があるようでしたら教導員の派遣は別口となりますのでご了承下さい」
「………ええ、その時になればお願いするかもしれませんね」
いかん、どう考えても裏が読めん!見越してるモノが違い過ぎているからか?
「そして港湾施設建設に伴い多数の重機やWAW、貴国でいう科学式ゴーレムも配備する予定となります。
そして要請あった科学式ゴーレムの譲歩はその一部を施設維持のため常備するという形でお譲りしたいと考えております」
「では生産技術などについても?」
「いえ、そちらについては申し訳ありますが許可が降りません。
根本的な問題として5年ではとてもではありませんが科学式ゴーレムの技術基盤の継承は不可能です」
「……それは我が国が科学技術後進国だからでしょうか?」
「はっきり申し上げればそうですが、そもそもの科学技術の最先端国であるムー国でも困難を極めるものと断言できます」
侮られたと思い眉を顰めるも、ムー国でさえ困難と聞いて目を見開く。
「それに後進国どうのというのでしたら
「う、うむ!そうだな、意地の悪い問いをしてすまん」
「いえいえ、此方こそ配慮ない言い分でした」
お互いに話しを流す形で落ち着いたが、こちらは正直内心冷や汗モノだ。
真偽はともかく本当にムー国を超える技術力を有するのであれば、もしや魔法分野抜きにしてもミリシアルにも匹敵する武力を持っているのでは……?(汗)
「その代わりといってはですが、もう一つご要望にありました発展型銃器に関してはご協力できると思います。スコット、実物と資料を」
「こちらをどうぞ」
スコット氏が持っていたケースから資料と発展型銃らしきものを机の上に並べる。
見た目は我が国のマスケット銃と違わないようだが?それとこの紙に包まれた物体はなんだ?
少し重たい紙包みを摘んでいるとマーク氏が説明を始める。
「今回ご用意したのは針打式ボルトアクション方式である【ドライゼ銃】とそれにつかう紙薬莢となります。
こちらは現在貴国が使っている前装式銃とは異なり後部から弾薬を詰めることが可能な後装式というものになります」
「後装式?」
「ええ、前装式の装填時間は熟練した者でも一分間に4発が限界ですが、こちらの紙薬莢後装式であれば一分間に12発を発射可能となります」
「おお!それは凄いではありませんか!」
単純に一人当たり3倍の投射量を得たに等しい!それに見る限り装填の仕方も簡単に見える。
それに構造が若干複雑にはなっているが現在の技術力でも再現不可能というほどではあるまい。
「またこちらは魔法技術関連に一切触れていない科学技術のみのモノとなります。
そのため装薬や構造強度についてはまだ発展の余地があります」
「成る程、その点は我が国で研究を行いその情報を共有してほしい、ということですな?」
「ご理解が早くて助かります。魔法技術がどのように活用されるのかの過程についても是非共有してもらいたいです。
それに合わせて提供する技術の更新も必要になりますので」
これは上手いな、発見した魔法技術での改修方法を機密などといって黙っていても問題ないが、当然提供される科学技術もそれ以上更新はされない。
逆にこちらが向こうにも有用な研究結果を出せればより進んだ技術が提供される可能性もありえる、と。
「軍へは情報の出し渋りはしないように徹底させましょう。
さて、それでは最後に関税などについでですが……」
「これについては実際に行ってみなければ影響が不透明なところが多いと思っております。
そのため関税に関する協定は現在他国で行っているモノを仮決定とし、不備・問題が出るようであれば互いに要請を行えるものとし改めて協議ということでどうでしょうか?」
他国、つまりは文明圏外国の連中と同列に扱われるということか。
………え?もしや文明圏外国の連中もこんな破格の条件で租借契約結んでんの?(汗)
そりゃ横暴なパ皇から鞍替えも喜んでやるだろうよ。
正直利益よりも損失のが大きそうな内容なのだが、自国民から不満出ないのか?
…………断る理由がないくらいに利点も利益も多い。
関税の優先権が得られないことについては若干不満もあるが、それに目を瞑る価値がある。
利権に口うるさい貴族や商家から不満は確実だが黙らせるしかあるまい。
「………一度議会に上げる必要があるので確定とは言えませんが、必ず説得してみせます。お互いのより良い関係のためにも」
「ええ、良き関係が続くことを切に願います」
マークとスコットと熱い握手を交わし、その後プライベートな話しで盛り上がるのであった。
[王都ヒルキガ 中央通り]
※三人称視点
人が行き交う中央通りの片隅にて異様な熱気を放つ人集りが出来ていた。
全体的に……というか八割以上はムサ苦しいオッサンどもだが。
そしてそんな人集りの視線の先、マイクを持った白い服装をした女性が大きな木箱に立ちウィンクをする。
「では改めて!サン!ハイ!!!」
「「「「「クーチャン!クーチャン!!クゥーーー、チャン!!!!」」」」(崇拝の目)
「は〜い♡よくできました!これから良き隣人になるわが祖国北方連合を!そしてその顔役!!パーミャチメルクーリヤこと“クーちゃん”を皆もヨロシクね♡」(投げキッス)
「「「「「■■■■■■■■!!!!!」」」」(最早言語にならない雄叫び)
警邏A「……………ナンダコレ?」
警邏B「知らん、てかアレ……」
警邏A「ん?なん……」
(群衆の先頭列)警邏隊数名「クーチャン!クーチャン!!」王都警邏隊長「うぉ〜!クーチャン殿ぉ〜!」(男泣き)
警邏A「(絶句)」
警邏B「………見なかったことにしよう、そうしよう」
警邏A「………そうするか、一杯やろうぜ奢るから」
何話かは【主人公がパ皇にいた頃、その他の場所では】的な話が続くかもしれません