[ロウリア新共和国 新都ホートノス 港湾区画(建設中)]
Side海将バルス
あの時、黒い巨竜によって乗艦ごと海の藻屑になる覚悟をしたが、運良く両足の複雑骨折と指数本の損失だけで命拾いした。
今回の海戦で甚大過ぎるほどの犠牲を出してしまったが、離脱を諦めた友軍やレッドアクシズ側の迅速な対応のおかげで自分含めて救われた命も多かった。
捕虜となった現在でも地位に関わらず手厚い医療を受けれおり、今こそ車椅子が必須だが自身の両足も歩行可能なまでに回復する見込みがあるそうだ。
自由こそ制限されているが我が国では考えられないほどに捕虜生活の環境もいい、怪我した部下達も順調に回復していっている。
そんな中、一定以上の地位を持つ者等に召集がかかった。恐らくは本国から何かしらの通達があったのだろう。
しかし真新しい簡素な会議室のような場所に集められ、赤と緑の服装(サディア帝国)と黒服(鉄血公国)の担当官から告げれた内容に愕然とする。
「これが、我が国からの正式な通達ですか……?」
「………残念ながら、身中お察しします」
レッドアクシズ傘下、サディア帝国側の担当官から憐れみと同情の念を感じる。それほどまでに、あまりな内容だった。
我が国に文明圏外国の捕虜になるような弱卒は不要、よって返還の必要も無し。
生死も問わぬので好きに使い捨ててくれ。
長々とした美麗句や回りくどいいいまわしが並べられていたが簡潔に内容を纏めるとこれだけである。
あまりの内容に確認した周りの者等も罵倒や嗚咽がもれる。
「ふ、巫山戯るな!?こんな馬鹿なことがあるかぁ!?」
「命を賭けて国に奉仕した我々はなんだったんだ……!?」
「………あの海で死んでいたほうがマシだった!」
栄えあるパーパルディア皇国軍が新興国家に敗北。
確かに責任追及は厳しいものになるとは覚悟していたが、これはあまりに酷いのではないか?
嘆きに暮れる中、我感せずと鉄血公国側の担当官が淡々と話を始める。
「今回の件ですがコチラが降伏条件に提示した『外征能力を持つ海軍の縮小』というのが原因でしょう。
ようするに金をかけてまで貴方がたを連れ帰っても縮小する海軍では養えないから捨てる、ということでしょうな。
困ったものです、捕虜を維持するためにも此方は相応のコストを使っているというのに……」
「鉄血の、あまりそういうことを口にするのは……」
「事実でしょう?サディアの。捕虜の食事や環境意地も相応の“見返り”を期待してのこと。
それがないのであればタダ同然で養ってやるほど我々も暇や余裕はありません。そもそも彼らを仮に駐留させてる"ホートノス"の開発を早期に進めたいでしょう?」
「それを言われるとこちらも合意せざるないが……」
背筋に冷や汗が流れる。周りの者等も先程までの嘆きも忘れ顔を青ざめさせる。
返すあてもない捕虜の扱いなんぞどう考えても碌なものではない。
劣悪な環境での強制労働や最底辺の奴隷扱いなんてまだ生易しいもの、口にするのもおぞましいような凄惨なことにもなりかねない。
………いや、自業自得か。我々パーパルディア皇国とて戦勝国として敗戦国に好き放題にやってきたのだ。
無論自分が進んでそのような指示をしたことは誓ってないが、そのような低俗な行為を見て見ぬ振りをしてきたのは事実。
怪我の治療とて返還時の印象を良くするためだったのだろう、返還自体が無くなったのであれば………。
私は身を預けていた車椅子から痛みを堪えて降りるとそのまま跪くように地面に額を擦り付けると、周りからは戸惑いと驚きの声が上がる。
「海将!?」「バルス様!?」
「此度の戦争責任はパーパルディア海軍最高責任者であるこのバルスめにあります。いかような処遇処罰でも受け入れます。
ですがどうか!どうか部下達には最低限の尊厳を!治療中の者等も最低限の処置でもよいので!どうか……!」
帰る場所はなく、されど行く宛もない現状ではこの場で藁にも縋る思いで頼み込むしかない。
サディア側の担当官はこちら側に同情的な視線を向けてくるが、鉄血側の担当官は感情の籠らない瞳を向けるだけであった。
「そのような"無意味な行為"しなくて結構。貴方達の今後は既に決定おり我々はその通達と説明をしに来ているに過ぎない。
そもそも既に軍籍も抹消されてるであろう貴方個人に戦争責任を追求する意味が無い」
………そうか、既に私はその程度の価値しかない人間となってしまっていたか。
悔しさと不甲斐なさに涙が溢れる。海将などと持て囃されながらいざという時に役に立つことも出来ぬとは……!
周りの者達もこの世の終わりを悟った顔で"死刑宣告"を聞き入れようとする。
此方が黙ったのを確認した鉄血側の担当官が手にした文書を読み上げ始める。
・パーパルディア皇国より捕虜の返還を正式に断られたということに伴い、現在捕虜としている軍人らを領域侵犯をした犯罪者として刑に服すこととする。
・今後は新開発地区であるホートノスでの開発事業の労役に従事させることとし、逃亡並びに犯罪を犯した場合はそれに応じた刑罰を上乗せするものとする。
・現在治療中の者達については治療を続行、身体機能の回復を最優先とし自由行動には制限を設ける。
・労役に服す者達は現在の生活環境を保証した上で働きの貢献度に応じて娯楽品などの提供が許可される。
・反逆を企てたと判断した場合、武力による制圧を前提とした対処を行うものとし、他の受刑者らにも相応の連帯責任も課すこととする。
「――――以上となります。細かいところは省きましたのでおって正式な文書の周知を行…「ちょっと待ってくれ!?」……なんですか?決定事項なので内容を拒否したいならば共通語にて文書で書いて上申して下さい」
「いやいや!?犯罪者扱いなのはまだ納得だが、後の内容は色々と可笑しくはないかね!?」
「どのあたりが?労役に関しては給金が最低保証しか出ないこと以外は通常の労働者と同じ扱いですよ?」
「それが可笑しと言っているのです!そんな
「はて?仰る意味が理解できません。捕虜ではないのですから通常の犯罪者と同じように自分の食い扶持くらいは労働で返して貰わねばこっちが困ります」
全く何を言ってるんだこいつは?という顔をする鉄血側の担当官に皆揃って唖然と口を開ける。
今の暮らしとて捕虜の扱いとは思えぬほどの良い待遇だった。
それを労役の代わりに今後も保証する?怪我人の治療も続行?
「ホートノス、というのは今いるこの辺りのことですよね?」
「ええ、その通りです。なので主に建築や道路整備工事なります」
「………鉱山のような危険で過酷な労働は?」
「有るわけないでしょ。そもそも手掘り採掘とか非効率的なので現在作業の機械化に移行するために採掘機械の操作方法や安全基準教育で忙しいのです。
なのにわざわざ手掘り採掘を再開させてどうするんですか?身体能力に優れる獣人の方々でさえ効率が悪いのに貴方方でそれを超えれるとでも?
そもそも貴方方をこここら移送するコストだって馬鹿になりません。
歩いて向かってくれるんですか?主な採掘場所がクイラ王国なので山脈一つ超える必要ありますよ?」
「………奴隷扱いは?」
「現在ロデニウス大陸全国家で奴隷制度の完全廃止の真っ只中です。国が率先して例外事例を作ってどうするのですか?」
…………いかん、理解が追いつかん。パーパルディア皇国では天地がひっくり返っても有りえないであろう事態に周りもどよめき立つ。
「今の生活は続けられる?」「治療も受けれるのか……」「給金でるんだ……」「我が国とは大違いだな」
「正直に申し上げますと、貴方方パーパルディア皇国の方針が下劣かつ低俗なだけです。文明国ならこれが普通です」
そう言われ、皆目線を下に向ける。これが文明国としての"余裕"なのかと、我々が今まで当然と思っていた行為こそが蛮族の考え方であったのかと。
そういえばムーやミリシアルでは奴隷を寄越せなどと言っているとは聞いたことがない。
それは発展が停滞しているからで、我が国のように積極的な発展のための労働力を必要としたいないのだと思っていた。
違うのだな、奴隷による強制労働を必要としないのが真の文明国なのだな。
「国としても文明人としても"格"が違うか……」
技術力云々ではない、他者を見下さない精神性こそが文明人として必要なことなのだな。
[ロウリア新共和国 新都ホートノス 郊外]
Sideマルコ・ポーロ
新開発地区ホートノスを一望出来る丘の中腹に建てられてサディアの意匠が目立つ建物。
将来的にはロウリアの貴族層やサディアの裕福層を狙った高級住宅のモデルハウスとして建てられたものを政府が借り受けているかたちだ。
そこから見える景色を見ながらな紅茶を愉し……否、胸の内のドス黒い感情を押し殺すために飲み干す。
マナーもへったくれもない優雅さに欠ける飲み方だがそんなことに注意を払えるほど今の自分は余裕がなかった。
原因は単純明快、港に浮かぶ幾つのもの鹵獲されたパ皇どもの戦列艦だ。
それが目に入るだけでイライラが募る、今すぐにでも一隻残らず消し炭にしてやりたい!
「………景観を台無しにしてるあのゴミども全部海に沈めてやろうかしら?」
「ずいぶん荒れてるわねマルコ・ポーロ、貴女らしくもない」
「うるさいわね、説法はゴメンよ」
「フフ、申し訳ないわね。職業柄ついね」
そういって怪しげな笑みを浮かべるのは"友人"というより"悪友"と呼んだほうがしっくりくる仲であるヴィシア陣営戦艦KAN-SEN【クレマンソー】。
表向きアイリス教国は新世界側への干渉は見送っている体を示しているが、実際は元レッドアクシズでもあるヴィシア陣営を密かに送って情報収集をしている。
一応名目は『旧知の仲を深めている』であり、国として干渉しているわけでもないので、まぁ問題はないと言える。
「パ皇どもの国旗を見てるだけでもムシャクシャするわ」
「エムブラ指揮官殿が居なくて寂しいのは解かるけど、荒れすぎじゃない……?」
「さび…!?寂しくなんてないし!たんに
「やっと素直になったわね」
「グヌヌッ……!」
全て見透かしているという視線が気に入らないが、合ってはいるので否定も出来ない……!
「パーパルディアの連中、私のカグヤに何かあったらタダじゃ置かないわよぉ……!」
「大丈夫よ、アイリスの加護があの子を護ってくれるわ」
「………
「ええ、善良な行いをする者であればアイリスの加護は誰にでも平等よ」
欠片も思ってないという感じで言われ思わず溜息が漏れる。
さすがは陣営きっての現実主義者、こういうことを平然と言えるのはあの宗教国家でもコイツくらいだろう。
それ故に理解し切れていない、《信仰をしていない者》と《神を信じてない者》の違いを。
『神様?居るはずないよ、そんなもの』
『母を父を"先生"を、私の大事なモノを奪っていく存在なんて居てほしくない』
何気ない会話の中、普段の明るさが嘘のようにドス黒い感情を表に出したカグヤの姿。
――――そして、スサノヲ事件にて聞いた断末魔のような叫び声。
『なんで!なんでいつも!私から“大事なモノ”を奪うの!?私がナニをしたの!?』
『――――誰かを想うことが罪なら……ソンナ"世界"モ"神"もイラナイ』
『――――コワレテシマエ、ゼンブ!』
あの事件も最終的に失わずに済んだからこそこそカグヤは壊れずに立ち直れたが、あれ以来“タガ”が外れた感じはする。
独占欲が強くなったというか
ともかくカグヤが神を信じない以上、私が神を信じることも有りえない。
何故なら、カグヤこそが【マルコ・ポーロ】の“信仰”の頂点だからだ。
――――――――故に失せろ雑念、“オマエ”にくれてやる“信仰”は“このマルコ・ポーロ”には無い。
――――――――――――――――どこかで紅い瞳が静かに閉じていった。
???『………干渉先喪失、再選定開始』
どこかの誰かさん、干渉の基点を失って迷走中