催眠モノの定番、現実とのズレ
[パーパルディア皇国 パラディス城 離宮]
Side宮廷専属メイド
程よい気温になり始めた早朝、本来であれば皇室に連なる女性か
しか使用が許されない部屋へと向かう。
扉の前には部屋で眠る方の護衛である人間離れした雰囲気を出す色白の女性が2名、直立不動で立っている。
正直亜人なのかさえわからないこの人たちが未だに苦手だ。
もちろん決して悪い人たちではないのだが、表情が変わってるところなんてほぼ見たことないし必要最低限の応答しかしてくれない。
そのため彼女らの名前さえ知らない状態である。
そう言えば彼女らのリーダーである褐色女性はエムブラ様からストレングスと明確に呼ばれていたが、他の彼女らが名前で呼ばれているところは聞いた覚えがない。
「エムブラ様の身支度のお手伝いに来ました」
「………」|彡サッ
扉前にいた色白の女性らが無言で一斉に横へとズレる。ううぅ、やっぱり怖いなこの人たち……。
気持ちを改めてノックをすると短く「入れ」とストレングス様かの声がする。
部屋へと入ると豪奢なベッドで眠るエムブラ様とその横で立たづむストレングス様の姿を確認する。
古傷だらけの褐色の肌が目立つストレングス様は好色な貴族らからは"キズモノ"だとか"見栄えが悪い"などと散々な言われ方をしている。
当然ストレングス様の耳にも入ってるであろうに、そんなことは一切気にした様子はなく、それが余計に口差がない貴族を助長してるようでもある。
ストレングス様からの圧に内心ビクビクしながらベッドの中で眠るエムブラ様に声を掛ける。
「エムブラ様、お時間です」
「………ん。………?」
声を掛けて直ぐに起き上がり眠たげな目で周りを見渡す仕草をする。
「………
「っー!……エムブラ様、ここはパラディス城でございます」
「………ヘリオガに朝ご飯作ってあげないと」
「はい、すでに厨房のほうは空けてあります」
「……ありがとう」
こちらにお礼をしてくれるがその明るい笑顔の奥、僅かにある影に心が痛む。
寝起きやふとした時にここにはいない人物の名前を呼ぶことがここ最近多くなっている。
ヒドイときなど特徴が似ているのか世話係の女性を完全に間違えて呼ぶこともある。
きっと故郷に残した親しい友人なのだろう……。
心を殺してまでヘリオガ陛下に尽くしてくれていると思うと、この健気な子の力になってあげたいと思うのであった。
[パラディス城 使用人休憩室]
Side宮廷メイド長
ある程度業務が落ち着いた夕暮れ頃、軽い食事を取りつつ一休みしていると、休憩室に入ってきた較的若いメイドらが"例の女性"について熱く話している。
「でねでね!エムブラ様の手作りお菓子めっちゃ美味かったんだよ!確か"チーズケーキ"だったかな?」
「いいなぁ、こっちなんてまたエロ大臣に尻を撫でられてたっていうのに……!」
「尻撫でられるなんてまだいいじゃない!この前なんて配膳を頼まれた子がそのまま無理矢理部屋に連れ込まれそうになったらしいし」
「聞いた聞いた、エムブラ様が異変に気付いて助けてくれたんでしょ?」
「そうそう!ご自身の立場を顧みずに庇ってくれたって!」
まったくこの子達は……、栄ある宮廷付きの自覚はないのだろうか。
ここ最近、部下が緊張感を保てず緩くなっていることに頭を痛める。
これも全て"例の女性"ことエムブラ様が来てからだ。
どうも使用人達から人気取り……というほどではないが慕われてるようにしてる感じる。
まぁ元々貴族社会から縁遠い育ちらしいので懐柔とかは考えてはいないだろうが、他国の人間であることは記憶に留めておいてもらいたいものね。
「んんっ!あなた達、大声ではしたないですよ」
「あ!ゴメンナサイ……」「申し訳ありません……」「お疲れ様です!メイド長!」
「約一名言葉を理解できてないようね(#^ω^)……まぁいいわ、エムブラ様は?」
「はい!エムブラ様は陛下と寝室に向かいました!」
陛下がご執心であるエムブラ様との夜伽を過す……なんてことはなく、寝室に入り浸っているのも陛下が寝付くまであり、寝付いたらそのまま離宮へと戻っていっている。
最初に寝室にて夜を過ごしてると聞いた時はあまりの衝撃に失神してしまったが、よくよく考えれば陛下もまだ成人前なのでそういった性知識には乏しい……はず。
そしてエムブラ様もお話しした限り身持ちの固い印象が強く、同性の想い人がいると部下から聞いてもいる。
まず一時の過ちは有り得ないだろうとは思いつつ、変な噂が立ってしまわないかと心配になる。
「そういえばエムブラ様は本国に想い人がいるらしいですが……」
「同性の方でしたよね?確か"ローン"さんでしたっけ?どんな人?」
「あ!私聞きましたよ!えっと、ボンキュッボンのスタイル抜群でふんわりとした笑顔が特徴で趣味が料理、特にお菓子作りと――――」
「「「フムフム」」」
随分家庭的な女性像をイメージし……。
「それともう一つの趣味が、えっと“ホージョー?”ていうよく解らないので、あと軍艦の軍人さんらしくて――――」
「「「……ん?」」」
軍艦の軍人……?変な言い回しね?海軍所属とかとは違うのかしら?
「嫉妬に狂うことに至上の喜びを感じる、軍でも指折りの戦争狂いらしいっす!」
「「「ちょっと待て」」」
あまりの内容に混乱する。え?前半と後半の人物像違い過ぎでは?それ本当に同じ人間???
………やっぱり陛下と結ばれた方がエムブラ様のためなのでは?
[パラディス城 本城→離宮]
Sideカグヤ・エムブラ
スヤスヤと眠り始めたヘリオガをベッドに寝直させて部屋を退室する。
部屋の外には既にストレングス他2名が待機していたので、3人にご苦労さまと頭を下げる。
そして離宮へと向かう途中、明日の公務日程やヘリオガへどんなことを教えてあげようかと考えていると、頭が僅かにグラつく。
瞬間、脳裏に過る光景。
未熟な自分を支えてくれる人々。
家族のように慕ってくれるKAN-SEN達。
自分を気にかけてくれるセイレーン達。
そして掛け替えのない存在である………?
【お前は【ヘリオガの聖女】として尽くせ】
………あれ?ヘリオガ?
………………そうだ、大切なヘリオガに尽くさねば
あの子には自分が必要なのだ。かつての自分が受けたような孤独をあの子には味わってほしくない。
あの子の支えにならねば、あの子には自分しかいない。
自分があの子のための【聖女】として………。
頭の中のモヤが消える。明日からもヘリオガのためにも頑張らねば。
倒れそうになった自分を支えようとこちらを見つめるストレングス達に大丈夫だと目配りして歩みを再開する。
…………どこかでボタンを掛け違えたような違和感と、ポッカリと空いた心の隙間から目を逸らしながら
[海上要塞ヴァルハラ ローン私室]
Sideローン
一通りの業務がとりあえず終わり、無気力感が拭えぬまま部屋にて横になる。
カグヤがいなくなって2週間、大事なピースが欠けてしまった基地の状況は《辛うじて通常業務が回せている》といった具合。
最初の混乱からなんとか持ち直してきている者もいるが、未だに引き摺る者、又は悪化する者も多い。
特に酷い状態である大鳳は今日も部屋にこもり、最低限の食事さえ取っているかも怪しい。
………自分も他人事ではないが。
「カグヤ……、早く帰ってきて……、でないと………!」
瞬間、噴き出るドス黒い感情に脳が焼かれ、
否、事実右腕と右顔部からは蒸気のように
ウバワレタ、ウバワレタ!、ウバワレタ!!
ワタシノダイジナダイジナ“ハンシン”ガ!
ユルセナイ!ユルセナイ!!!ユ・ル・サ・ナ・イ!!!!!!
感情がグチャ混ぜになり激情に自我が飲み込まれそうになる。
しかし僅かに残った理性を総動員してなんとか自我を保つ。
駄目だ、こんなことで自分を見失うなど……!
「……ッ!ハァハァ!……ハァ、まだ大丈夫、大丈夫」
右手を右顔に当ててなんとか抑えようとする。
ここでタガが外れては帰ってきたカグヤに会わせる顔がない。
深呼吸を繰り返し、徐々に落ち着かせる。
「カグヤだって異国の地で頑張ってるのだから……、私達が足を引っ張る訳にはいかないわよね……」
きっとカグヤだって寂しさを感じながらも頑張ってるのだろうから……。
そう思い込むことで無理矢理気持ちを切り替え、軋みが収まった右眼から手を離す。
――――――――手をどかした右眼は白目部分が黒くなり瞳は金色に輝いていた。
ローンの状態については後日過去話で
………いつ書けるかな(白目)