紅眼の黒竜に懐かれた   作:Monozuki

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〜不死と可能性〜

 

 

 

 

 

「……割とキツいな」

 

 額から汗を流しながら、辛そうな表情をして歩いている紅也。抜け出して来た保健室で明日香が騒いでいる頃だろうと罪悪感を感じながら、未だにあまり言うことを聞かない身体にムチを打っていた。

 

「ありがとう。レッドアイズ」

『……』

 

 フラつく足取りの紅也を補助しているレッドアイズ。完全に実体化しており、足跡も残っている。自身の身体を支えにしながら寄り添う様は、完全に介護職の姿だ。

 

 現在彼らが歩いているのは森、朝とはいえ木々が日の光を遮っているので周りは暗い。整備されていない道を歩いているので、紅也としてもレッドアイズの補助はとても助かっていた。

 

(治らないもんだな……)

 

 内心で呟く紅也。相棒に頼らざるを得ない状態なのも、ダークネスから受けたダメージによるものだ。何日か眠っていたようだが、自身の身体が回復しているとは思えなかった。

 購買部で購入したおにぎりとお茶で手早く食事を済ませたので、空腹感は感じていないのが救いだ。トメに見つからなかったのも幸運だった。

 

 闇のデュエルで受けたダメージは回復し辛いのか、それとも自分だけなのか。転生者だから受けるダメージが大きいなどとは考えたくないが、自身が貧弱であると認めたくもなかった。

 

「……よし、もうちょいだ」

 

 たとえ今回の戦いが終わった後で自分が倒れたとしても、その他の"セブンスターズ"は十代や三沢が倒してくれるという安心感。万丈目に明日香、更には亮やクロノスといった実力者達も控えているため、その後の戦いを心配する必要は微塵もなかった。

 

(天上院にはまた心配かけるかな。……先に謝っとこう)

 

 目的地はもう目の前に迫っている。紅也は心の中で明日香へ謝罪した後、レッドアイズと共に決戦の地へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 太陽の光が存在しない暗闇の洞窟。しかし何も見えないという訳でもなく、等間隔で設置されている蝋燭の火によって照らされていた。蝋燭の立てられているスタンドが洋風なのは、この洞窟に潜んでいた者の趣味である。

 

 その者こそ、ダークネスに続くアカデミアへの刺客。

 ──第2の"セブンスターズ"であった。

 

 腰まで伸びる鮮やかな緑色の髪に、透き通るような白い肌をした女性。男の視線を集めること間違いなしの抜群のスタイルをしており、露出度の高い赤いドレスと合わせて恐ろしい程の妖艶な魅力を放っている。

 

 女性の名はカミューラ。

 正真正銘の吸血鬼一族の末裔であり、ヴァンパイアを名乗れるこの世で唯一の存在だ。永き眠りについていた所を起こされ、自らの野望を叶えるため"セブンスターズ"の一員となっていた。

 

 勝利を得るために手段を選ばない覚悟のカミューラ。彼女は"七精門の鍵"を守るデュエリスト達を確実に倒すため、配下であるコウモリに敵対する者達のデッキの中身を確認させようとしていた。

 最初から相手の手の内が分かっていれば対処するのは容易い。情報を持って帰って来る配下達を洞窟に身を潜めながら優雅に待っていた、そんな時だった。

 

 ──突然の来訪者が現れた。

 

 帰って来たのは愛おしい配下達ではなく、これと言って特徴もない平凡な少年が1人。侵入者に対しての警戒心が薄れてしまいそうになる程、何故か疲れた顔をしていた。

 

 しかし、ある物を身に付けていたことで状況を把握。現れた少年が自身の敵であることを確信した。少年の胸に光り輝くそれは、カミューラがこの島に来た目的である"七精門の鍵"だったからだ。

 

「……どうも。初めまして」

 

 やはり疲れているのか、覇気のない声が発せられる。歩き疲れでもしたのか、息も少し上がっているようだ。

 気高きヴァンパイアとして誇りを持っているカミューラ。予想外の来客ではあるが取り乱すことなく、気品のある振る舞いと共に返答した。

 

「レディの部屋に無断で入って来るなんて、礼儀知らずではなくて? 鍵の守り人さん?」

「……それは失礼。身体が動く内に貴女に会いたかったんでね」

 

 まるで最初から自分がこの島に来ていたことが分かっていたかのような言い方に、カミューラは形の良い眉を歪ませる。

 

 そもそもこの洞窟に身を潜めている(・・・・・・・・・・・・)と知っていること自体が可笑しな話だ。居場所を見抜かれる程、落ちぶれてはいない。カミューラは少年に対する警戒度を引き上げた。

 

「……貴方、嫌な感じね。ここで潰しておいた方が良さそう。情報収集する前に戦うつもりはなかったけれど、仕方ないわ」

「戦う気になってくれたなら良いんだ。……まあ、俺を逃すような甘い性格はしてないだろうけど」

「坊やのくせに、随分と知ったような口を利くじゃない」

 

 少し苛立ったようなカミューラの言葉にも、少年は軽く笑みを浮かべるのみ。人間に対して強い憎しみの感情を抱いているカミューラにとって、少年の態度は面白くなかった。

 

「……じゃあ、始めようか」

「──ッ! 後悔しないことね! 私は人間相手に手加減出来ないわよっ!」

 

 小さな火が照らす洞窟にて、三幻魔復活をかけた2回目の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いにデュエルディスクを展開し、向かい合う2人。洞窟とはいえスペースはそれなりに存在し、デュエルするのに問題はなかった。カミューラが滞在するためにと、配下達が洞窟内を削りまくった恩恵であった。

 

「分かっていると思うけど、これから行うのは"闇のデュエル"。文字通り命を懸けた戦いよ」

「ああ、分かってる。デッキの調整もしてきたんで、勝つ準備は整ってます」

「……可愛くない子ね」

 

 眉間にシワが寄りそうになるのを堪えつつ、カミューラは手を広げて優雅に声を上げた。

 

「お相手させて頂くのは私。"セブンスターズ"の貴婦人、ヴァンパイア──カミューラ」

「……竜伊紅也。普通の学生です」

 

 テンションの差が激しい名乗りを終え、カミューラと紅也は意識を切り替える。カミューラが言ったように行うのは"闇のデュエル"、腑抜けた気持ちで臨む戦いではない。

 

 最低限の礼儀を済ませた所で、2人はデュエル開始の宣言をした。

 

「デュエルッ!」

「……デュエル」

 

 カミューラ LP4000

 紅也    LP4000

 

 先攻を取ったカミューラは手札を確認した後、覚悟を決めてドローした。

 

「私の先攻……ドロー!」

 

 野望を叶えるため、カミューラは絶対に勝たなければならない。執念という力を糧に、彼女はカードを操った。

 

「『不死のワーウルフ』を召喚!」

 

『不死のワーウルフ』ATK/1200 DEF/1200

 

 現れたのは狼男のようなモンスター。攻撃的な牙と爪は、荒々しい威圧感を放っている。

 

「『おろかな埋葬』を発動。デッキから『ヴァンパイア・バッツ』を墓地へ送るわ。カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 低い攻撃力のモンスターではあるが、"アンデット"族には厄介な効果を持つモンスターが多い。紅也は気を引き締めながら、デッキトップに手をかけた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 6枚となった手札を確認。初手としては悪くない。

 

「魔法カード、『紅玉の宝札』を発動。手札から『真紅眼の黒竜』を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする。……追加効果を使用。デッキからレベル7の"レッドアイズ"1体を墓地へ送る」

 

【『紅玉の宝札』

『紅玉の宝札』は1ターンに1枚しか発動出来ない。手札からレベル7の"レッドアイズ"モンスター1体を墓地へ送って発動出来る。自分はデッキから2枚ドローする。その後、デッキからレベル7の"レッドアイズ"モンスター1体を墓地へ送る事が出来る】

 

 前世のデッキに投入していた"レッドアイズ"専用のドローカード。今回の戦いに備えて、ここに来るまでに済ませておいたデッキ調整の結果だ。思い描いていた通りの初動をすることが出来た。

 

「"レッドアイズ"……いい響きね。貴方のように平凡な子には不釣り合いじゃなくて?」

「更に魔法カード、『復活の福音』。墓地からレッドアイズを特殊召喚する」

 

【『復活の福音』

 自分の墓地のレベル7・8の"ドラゴン"族モンスター1体を対象として発動出来る。そのモンスターを特殊召喚する。自分フィールドの"ドラゴン"族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外出来る】

 

「む、無視したわね!」

 

 カミューラからの挑発を流し、フィールドに相棒を呼び出した紅也。不釣り合いなどの言葉は言われ慣れているので、最早挑発としての役割は果たせない。

 無視されたことに怒るカミューラを黙らせるかのように、黒竜は洞窟を揺らす程の激しい咆哮を上げた。

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DEF/2000

 

「……」

『グルゥオ』

「わ、分かってるって」

 

 順調にレッドアイズを呼び出した紅也だが、手札のカードを見て渋い表情をする。それを見ていた黒竜は、咎めるかのように1つ吠えた。

 

「……魔法カード、『黒炎弾』を発動。俺のフィールドに『真紅眼の黒竜』が存在するため、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える」

「なんですってっ!?」

 

 淡々と告げられた効果に驚くカミューラ。たった3枚のカードで自身のライフを半分以上消し飛ばそうというのだから、当然といえば当然だ。

 

「ああぁぁぁぁァァァアアッ」

 

 カミューラ LP4000→LP1600

 

 モンスターと伏せカードをスルーし、カミューラへ火球が直撃する。大きくライフが削られたことで発生した痛み。カミューラは苦痛の悲鳴を上げた。

 しかしポイントに見合った痛みではなかったようで、よろける程度の衝撃に収まっていた。そのため、カミューラはすぐに紅也を強く睨みつけた。

 

(……サンキュー、レッドアイズ)

『……』

 

 紅也の呼びかけに振り向くことなく、黒竜は相手から視線を外さない。どうでもいいから集中しろと言っているようだ。

 

 手札に来た発動可能な『黒炎弾』。ダークネスから受けた一撃に現在進行形で苦しめられている身として、紅也は発動するのを躊躇っていた。そんな思いを瞬時に汲み取った黒竜は、紅也を叱りつけると同時に火球の威力を調整。痛みを最小限に抑えたのだった。

 

「『黒炎弾』を発動したターン、『真紅眼の黒竜』は攻撃出来ない。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「おのれ……私のターン、ドロー!」

 

 美しい顔が若干崩れつつ、カミューラがカードを引く。開かれた口に見えるのは鋭く尖った歯。ヴァンパイアらしい一面だ。

 

「罠発動! 『リビングデッドの呼び声』! 墓地から『ヴァンパイア・バッツ』を特殊召喚! モンスター効果でこのカードが存在する限り、私のフィールドに存在する"アンデット"族モンスターの攻撃力は200ポイントアップする!」

 

『不死のワーウルフ』ATK/1200→1400

『ヴァンパイア・バッツ』ATK/800→1000

 

 効果で攻撃力が上昇したが、レッドアイズには遠く及ばない。しかしカミューラの表情に焦りは見えず、高圧的な笑みを浮かべていた。

 

「生意気な子には……お仕置きが必要ね。フィールド魔法『不死の王国ーヘルヴァニア』を発動!」

「……きたか」

 

 カミューラの周りに現れる古風な城の壁。洞窟内ということで全てがソリッドビジョンとして現れることは出来なかったようだが、たった一部だとしても言葉で表せない禍々しさを感じる。

 

【『不死の王国ーヘルヴァニア』

 手札の"アンデット"族モンスター1体を墓地へ送ることで、フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。この効果を発動するターン、そのプレイヤーは通常召喚を行えない】

 

「禁断のフィールド魔法。レッドアイズに敬意を表して、全力でお相手するわ」

 

 強力な破壊効果に加え、"アンデット"族モンスターと組み合わさることでデメリットも打ち消せる。禁断とされるのも納得のフィールド魔法なのだ。

 

「手札から『ヴァンパイア・ロード』を墓地へ送り、『ヘルヴァニア』の効果発動! ──全てのモンスターを破壊する!」

 

 赤い光が放たれ、フィールドに居る全てのモンスターに襲いかかった。しかし、カミューラはわざわざ召喚したモンスターを自分で破壊した訳ではない。

 

「『ヴァンパイア・バッツ』の効果発動! このカードが破壊される時、デッキの同名カードを墓地へ送ることで破壊を免れる!」

 

 デッキから取り出した『ヴァンパイア・バッツ』を墓地へ送り、破壊が無効となった。墓地へモンスターを送れただけでなく、フィールドがガラ空きになるのは紅也のみ。カミューラは思惑通りにいったと高揚するが、相手はそこまで甘くはなかった。

 

「……墓地の『復活の福音』の効果発動。自分フィールド上の"ドラゴン"族モンスターが破壊される時、墓地に存在するこのカードを除外することで破壊を無効にする」

「なんですって!?」

 

 神々しい光が発生し、降り注いだ赤い光からレッドアイズを護った。流石は前世でも強いと言われていた魔法カードなだけある。

 

「くっ! ターンエンドよ!」

 

 攻撃が決まらなかったことに苛立ちながら、カミューラはターンを終了した。

 

(……やっぱりか)

 

 この時点で紅也が確認出来たことは2つ。

 1つ目はカミューラのデュエリストとしての実力。十代や三沢、亮といった強敵と戦ってきた紅也からすれば物足りないものであった。眠りから覚めて日が浅いことを考えれば、仕方ないのかもしれないが。

 

 そして2つ目は──インチキカードの使用だ。

 先程自慢気に発動した『ヘルヴァニア』もそうだが、カミューラには切り札とも呼べる最強のチートカードが与えられている。原作通りならばこのデュエルでも使ってくると確信が持てた。調整に頭を悩ませた甲斐があるというものだ。

 

「どうしたのかしら? 怖気付いちゃった?」

 

 中々カードをドローしない紅也を見て、カミューラが嘲笑しながら言葉を放つ。予想外の侵入、レッドアイズ、『黒炎弾』と、冷静な彼女を焦らせる要素が畳み掛けてきたこともあり、自身が平静を装うために紅也を煽ったのだ。

 

 だがそんな幼稚な言葉は、恐ろしい一言によって潰されることになる。

 

 

「──貴女が願いを叶えるのは無理だよ」

 

 

 口に手を当てながら目を細めていたカミューラの呼吸が止まった。流れ出す冷や汗と共に湧き上がる恐怖の感情。たかが人間、しかし彼女は確かに目の前の少年を恐れたのだ。

 

「ヴァンパイア一族の復興は叶わない」

 

 ──何故そんなことを知っている? 

 

「俺を倒せても、他のデュエリストに必ず負ける」

 

 ──何故そんなことが分かる? 

 

「貴女の魂は……幻魔に喰われる(・・・・・・・)

 

 カミューラが放心していたのは、そこまでだった。

 

 

「貴様ぁぁぁァァァァッッ!!!」

 

 

 敵意剥き出しの瞳に、長い舌が口から飛び出る。まるで怪物のような顔に変わり、美しい女性としての顔は消え去った。カミューラの激昂具合は、デュエル中でなければ紅也へ直接襲いかかっていたようにすら感じられる程だ。

 

 そんな圧倒的な殺意を正面から向けられても、紅也は表情を変えず静かにカミューラを見つめている。少しだけ、悲しそうな眼をしながら。

 

「潰すッ! 貴様は必ずここで潰すッ!」

 

 声を張り上げ、荒ぶるカミューラ。

 紅也はそんな彼女の言葉を聞き、一度眼を閉じてから口を開いた。

 

「……俺達が勝つ。他の誰でもない、貴女のためにも」

「──ッ!?」

 

 まさかの発言に動きを止めるカミューラ。敵である相手からの予想外の言葉に動揺を隠せなかった。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 カードを引く紅也。

 必ず勝つという強い意志を持ち、戦いを再開した。

 

「『サファイアドラゴン』を召喚」

 

『サファイアドラゴン』ATK/1900 DEF/1600

 

 2体のドラゴンを並べ、攻撃態勢に入る。

 

「『サファイアドラゴン』で『ヴァンパイア・バッツ』を攻撃」

「くっ、『ヴァンパイア・バッツ』の効果! デッキから同名カードを墓地に送ることで破壊を免れる!」

「でも戦闘ダメージまでは無効に出来ない」

「ぐうっ!」

 

 カミューラ LP1600→700

 

 攻撃表示であるため、戦闘ダメージが発生。ライフポイントはレッドゾーンへ突入した。しかし、紅也はお構いなしに勝負を決めにいく。

 

「レッドアイズ……攻撃だ」

「終わるものか! 罠発動! 『妖かしの紅月』! 手札から『馬頭鬼』を墓地に送ることで攻撃を無効にし、攻撃してきたモンスターの攻撃力分だけ私はライフを回復する!」

 

【『妖かしの紅月』

 手札の"アンデット"族モンスター1体を墓地に捨てる。相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。その後、バトルフェイズは終了となる】

 

 カミューラ LP700→3100

 

 攻撃を無効にすると同時にライフを回復。更にはバトルフェイズまで終了させて難を逃れた。

 

「舐めるなッ! 私が抱く憎しみ……人間だけには終わらせない!」

「……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 感情を昂らせたまま、カミューラが吠える。一刻も早く目の前の男を倒すため、執念を込めてドローをした。

 

「ドローッ! 『強欲な壺』を発動! 更に2枚をドロー!」

 

 デッキもカミューラの思いに応えるように加速する。そして呼び込んだ2枚のカードを見て、カミューラは再び美しい女性の顔に変わった。

 

「ふふっ、いい子ね。これで生意気な貴方を潰せる!」

 

 愛おしそうにカードを撫でるカミューラ。どうやらキーカードを引いたらしい。

 

「墓地に存在する『馬頭鬼』の効果発動! このカードを除外することで、墓地の"アンデット"族モンスター1体を特殊召喚出来る! 『ヴァンパイア・ロード』を召喚よ!」

 

 "アンデット"族デッキに於いて強力な効果を持つ『馬頭鬼』によって、ヴァンパイアを統べる王が蘇った。しかしここで終わることなく、カミューラは自身にとって最強のモンスターを召喚する。

 

「『ヴァンパイア・ロード』を除外し──『ヴァンパイアジェネシス』を特殊召喚ッ!」

 

 紫色をした筋肉質な身体に、まるで鮮血のような赤い眼。カミューラのエースモンスターが、紅也を滅ぼすべく現れたのだった。

 

『ヴァンパイアジェネシス』ATK/3000→ATK/3200

 

「そして決め手は……このカードよっ!」

「……」

 

 カミューラが高らかに掲げた1枚のカード。

 それこそ紅也が最も警戒していたものであり、カミューラの切り札とも呼べる魔法カードだった。その効果は凄まじく、卑怯な手を使ったとはいえ、原作であのカイザー亮を敗北させた程だ。

 

 

「魔法カード──『幻魔の扉』ッ!! 

 

 

 発動させるのと同時に、カミューラの背後に禍々しい扉が出現する。見るからに普通ではない雰囲気を漂わせており、見た者を無条件で恐怖させる威圧感を放っていた。

 

「このカードを発動してデュエルに負ければ、貴方の言う通り私の魂は三幻魔への供物となる……でも勝てば問題ないわ。地獄へ落ちるのは貴方よ!」

 

 強力なカードには大きな代償が必要となる。『幻魔の扉』を発動するための代償は重いものだが、覚悟を決めたカミューラにとってはどうでもいいものだった。

 

「このカードはまず、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

 手始めに説明されたのは相手モンスターの一掃効果。

 

「更にこのデュエル中に一度でも使用したモンスターを私のフィールドに特殊召喚出来る!」

 

 続けて説明されたのは無条件での蘇生。どちらか1つの効果でも強いものが合わさったチートハイブリッド。アニメのみに登場したインチキカードだ。

 これでカミューラは手札を使い切ってしまったが、同時に勝負も決められるため問題はない。

 

 カミューラのフィールドに居る『ヴァンパイアジェネシス』の攻撃力は『ヴァンパイア・バッツ』の効果で3200となっている。モンスターを蘇生しなかったとしても、ダブルダイレクトアタックを決められれば4000のライフは吹き飛ぶ。カミューラは勝利を確信し、高らかに笑い声を上げた。

 

「これで終わりよッ! あははははっ!!」

 

 これで1つ目の鍵は手に入れた。このまま自分が全ての鍵を奪い、幻魔を復活させる。

 

 そうすれば、自身の願いは叶う。

 

 奪われた尊厳、奪われた自由、奪われた愛。

 憎むべきは人間、カミューラは復讐の化身となりこの戦いに臨んでいるのだ。

 卑怯な手も使う、手段は選ばない、何が何でも勝利する。悪魔に魂を売った彼女の前に、多くのデュエリストは敗北することになる。

 

 

 ──相手が竜伊紅也(転生者)でなければの話だが。

 

 

『グルォオオオオオオッッ!!!』

 

 

 黒竜が、吠えた。

 洞窟には強い衝撃が響き、地鳴りのような振動を起こす。

 

「な、なんなの!?」

 

 フラつきながら体勢を維持するカミューラ。黒竜から放たれる異常なまでのプレッシャーに身の危険を感じ取る。

 

 しかしすぐに自身の優勢を思い出し、後ろを振り返る。そこでは自身を勝利へと導く扉が──()()()()()

 

「なんだとっ!? 何故『幻魔の扉』が!! ……貴様、何をしたっ!?」

 

 再び殺意を込めた視線を紅也へ向けるカミューラ。こんな状況を引き起こした人物など、この場には1人しか居ないのだから。

 

 

「……カウンター罠、『王者の看破』

 

 

【『王者の看破』

 自分フィールドにレベル7以上の通常モンスターが存在する場合、以下の効果を発動出来る。

 ●魔法・罠カードが発動した時に発動出来る。その発動を無効にし破壊する。

 ●自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動出来る。それを無効にし、そのモンスターを破壊する】

 

「俺のフィールドにレベル7の『真紅眼の黒竜』が存在するため……『幻魔の扉』を無効にして、破壊したんだ」

 

 紅也の言葉が終わってから、再度レッドアイズが咆哮。崩れかかっていた『幻魔の扉』を完全に消滅させた。前世のデッキから投入しておいたカードが大活躍、紅也は狙い通りの展開に少しばかり緊張を解いた。

 

「……あ、ああ。私の、野望が……」

 

 何も存在しない空間へ手を伸ばすカミューラ。そんな彼女へ、紅也はゆっくりと言葉を放つ。

 

「幻魔の力は……消えたんだよ」

「──ッ! 『ヴァンパイアジェネシス』で『真紅眼の黒竜』を攻撃!!」

「罠カード、『和睦の使者』。このターン、俺のモンスターは破壊されず戦闘ダメージも0になる」

 

 紅也の言葉を、怒りの込もった攻撃で黙らせようとしたカミューラ。しかし罠カードによって防がれ、出来ることは無くなった。

 

「……ターンエンド」

 

 この宣言はターンを終了するためだけのものではなく、カミューラは勝負自体を諦めた。

 全ての覚悟を込めた『幻魔の扉』が目の前で破壊された衝撃は、カミューラの心を折るのに十分過ぎる威力だったようだ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 サレンダーする余裕もないようで、カミューラは俯きながら立ち尽くしている。腕からも力が抜け、デュエルディスクの構えすら解かれている状態だ。

 デュエリストが勝負を諦めた以上、この勝負は紅也の勝利に決まった。だがそれでも、紅也の闘志は途切れることがなかった。

 

 この勝負、勝てば終わりという単純なものではない(・・・・・・・・・)

 

 原作知識を知っている紅也だけが、カミューラを本当の意味で止められる。まだ彼女は誰も傷付けていない、卑怯な手も使っていない、憎しみをぶつけ合ってもいない。止められるとすれば、今しかない。

 だからこそ紅也は、ボロボロの身体で無理をしてここへ来たのだ。

 

「カミューラさん。貴女は気付いていない」

「……」

 

 紅也が言葉を発しても、カミューラは力無く項垂れたままだ。しかし紅也は構わず言葉を続ける。

 

「貴女に止まって欲しいと思っている存在が……貴女が傷付くのを見たくないと思っている存在が……貴女を大切に思っている存在が……すぐ側に居ることに」

「……私を……?」

 

 カミューラのか細い声にしっかりと頷く紅也。

 

「だから……俺達が気付かせる」

 

 紅也は力強く宣言すると同時に、手札から1枚の魔法カードを発動させた。普段から助けられている強力な汎用カードであり、この勝負の決め手になるモンスターを呼び出すキーカードでもあった。

 

「『死者蘇生』を発動。墓地からモンスター1体を特殊召喚する」

「……墓地から?」

 

 首を傾げるカミューラ。それもその筈だ、紅也の墓地にモンスターなど存在していない筈なのだから。

 

「……! あの時……!」

 

 しかしカミューラは瞬時に記憶を呼び起こし、紅也が墓地へモンスターを送っていたことを思い出す。最初のターンで発動した『紅玉の宝札』には、ドローする以外にもデッキからモンスターを墓地へ送る追加効果が存在していた。

 

 墓地から1枚のカードを取り出した紅也。カードを見て少し微笑んだ後、勝利の鍵として投入したモンスターをデュエルディスクへセットした。

 

 

「──真紅眼の不死竜(レッドアイズ・アンデットドラゴン)

 

 

 可能性の竜は死して尚、

 その眼に──真紅の光を宿らせた(・・・・・・・・・)

 

 

 

 




 前世カード何枚か使用したけど、カミューラもチートだからセーフセーフという考えです(笑)。

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