振り返ると桐葉君、終始女の子とイチャついてただけですね。
翌日の放課後、俺はすぐさま生徒会室に直行する。審議はまだ始まってすらいないため急ぐ必要は別に無いのだが、そういえば今回の騒動の中心である須藤君のこと何も知らないと思い、審議が始まる前に一度会ってみるかと馳せ参じた次第だ。……あと茜先輩にも会いたかったし。
「むっ、本条君……」
「あ、茜先輩。……ウィイイイーッッス!!」
「やめてくださいなんですかその体育会系全快の挨拶はっ!?」
「だって俺運動部ですし?」
「あなたほとんど幽霊部員でしょうが!」
えっ、なんでそんなこと知ってんの?ストーカー?……って、そういえばウチの主将って3年Aクラスだっけ。
「じゃあ……チョリィィーッス☆」
「無駄にチャラい!イラッとするからやめなさい!先輩への敬意がまるで感じられません!」
「これもダメすか。じゃあ……
いあ いあ ア=カネ先輩」
「そんな冒涜的な神話生物に払うような敬意は求めてないですっ!?」
「だったら……שלום!」
「んんっ…どこの国の挨拶ですかそれ!?」
「やれやれ、茜先輩たら我儘なんですから」
「……今忙しいから見逃しますけど、今度時間があるとき覚えていてくださいね。先輩としてじっくりお説教してあげますっ」
「えっ、デートの誘いっすか?会長さんというものがありながら堂々と浮気とか……無いわー」
「お説教だって言っているでしょうが!?だいたい私と会長はまだ付き合ってもいませんよ!」
「へえ~、まだ……ねえ?」
「え─あっ!?その、えっと、ちょっと言い間違えただけで……」
「それに付き合って“も”いない、かぁ……つまり茜先輩は会長さんに、交際以上の何かを求めてるんすねー」
「ぅえあっ!?いや、それは、そのう……」
「ご祝儀は弾むんで式にはちゃんと呼んでくださいねー」
「…………………………あぅ」
羞恥で思考のキャパシティをオーバーしたのか、茜先輩は顔を真っ赤にしたまま復活までちょっと時間がかかった。俺は先輩のそういうところが大好きです。今後とも好き放題弄っていくのでご容赦ください。
「まったく……忙しいって言ってるのに、本条君のせいで酷い目に合いましたよ」
「自分で勝手に自爆したくせに……」
「何か言いました?」
「人は一生のうちに16回ほど殺人鬼とすれ違うらしいですよ?って言いました」
「いや言ってませんよね!?というかそんな豆知識聞きたくなかった!」
忙しいなら相手しなきゃいいのに、茜先輩はいちいち律儀にツッコんでくれる。そういうところも大好きです。
「それじゃあ審議の件、頑張ってくださいね。茜先輩の働きが一人の生徒の命運を左右すると言っても過言じゃありませんよ」
「いえ過言です、生徒会はあくまで中立ですから。……昨日のやり取りから察するに、本条君は何故かDクラスに肩入れしているみたいですが、私の助けは期待しないでくださいね」
「それぐらいわかってますよ。そもそも俺は別にDクラスの味方じゃないですし。気まぐれでホリリンを焚き付けたりもしましたが……
彼女が失敗して須藤君がどうなろうと、俺の知ったことじゃないしね」
「本条、君……?」
この人には極力嘘をつきたくないので、俺の偽らざる本音を洗いざらい打ち明けておく。
茜先輩は少し困惑した様子だったが、そろそろ審議の時間だったのでさっさと生徒会室に入っていった。それと入れ違いになる形でホリリンと、見るからに不良っぽい赤髪の男子生徒がやってきた。以前図書館でCクラスと揉めてた……なるほど、この子が須藤君だったか。
「っ……本条君……!」
「あ?テメーはいつぞやの……」
「Aクラスの本条桐葉だよ。バスケ部の須藤君、だっけ?ちょっと君に1つ聞いておきたいことがあるんだけど……」
「いきなりなんだコラ。こっちは忙しいんだよ、もしつまらねぇことだったら──」
「君、桜木花道に憧れてるね?」
「んなっ!?何故それを!?」
図星だったのか狼狽える須藤君。いや逆になんでわからないと思った?見た目不良で赤髪でバスケ部とか、まんま花道じゃん。
その後少々話し合い、気がつけば最初はあった彼の警戒心は跡形もなく消え去っていた。こういうタイプの子は、同じ趣味を持ってる人にはすぐ心を許すからね。
「やっぱ山王戦で花道と流川がハイタッチしたシーンは痺れたよな!」
「そうだね~。ベタと言われるかもしれないが、最初から読み進めていた人にとっては凄く感慨深いシーンだ」
「だよな!なんだよ話がわかるじゃねぇか本条!他にも海南大附属と戦ったときのゴリは──」
「そこまでにして須藤君。もうすぐ審議が始まるわ、バスケ漫画トークは無罪を勝ち取ってからにしなさい」
「うっ……すまん堀北」
流石歴戦のぼっちホリリン。和気藹々としてるところを躊躇なく一刀両断したよ。……まあ確かに審議まであと10分ちょいしか無いから仕方ないか。
「何しに来たのかしら本条君」
「君達の結末を見届けに、ね。随分自信満々だけど期待してもいいのかい?」
「当然よ。……例の約束はちゃんと覚えてるでしょうね?」
「約束は守るさ、たとえ口約束だろうとね」
俺の返事に面白くなさそうに鼻を鳴らし、ホリリンは生徒会室に入っていった。約束とやらが気になるのかこちらを気にしつつも、須藤君もホリリンの後に続く。ふむ、コージーがいないみたいだね……どうやらこれは期待しても良さそうかな。
次に来たのは会長さん。俺を僅かに一瞥してから、言葉を交わすことなく生徒会室に入っていく。
「おや?君は……」
「Aクラスの本条、か」
「んむ?ああ、お務め御苦労様っす」
そしてその次にやってきたのはCクラス担任の坂上先生と、Dクラス担任の茶柱先生。
「Aクラスの君がいったい生徒会室に何の用ですかな?これから大事な審議があるので、用件があるなら後にしてもらうことになるが」
「その審議で必ず無罪を勝ち取ると、Dクラスの堀北ちゃんに啖呵を切られましてね。打倒俺達に燃えるあの子がどんな答えを出すのか、少し気になって」
「……なるほど、昨日の暴走はそういう訳ですか。流石はDクラスの生徒ですな、よもや噛み付く相手も区別できないとは」
何やら勝ち誇った様子で坂上先生は生徒会室に入っていき、茶柱先生も会長さんのように俺を少し一瞥してからそれに続いた。
あらためて思うが、各クラスの担任の生徒への接し方ってバラバラだな。ウチの真嶋先生はどの生徒にもフラットに接しているけど、坂上先生や星之宮先生は明らかに自分のクラスに肩入れしているみたいだし、茶柱先生なんかはその逆で自分のクラスを見放してるのか、テスト範囲の変更を伝え忘れたこともあったらしい……文科省の審査どうなってるんだ?
そんなくだらないことに思いを馳せていたら、引くほど汗だくになったCクラスの生徒らしき3人を引き連れた、同じく汗だくになったコージーがやってくる。俺に対して何か言いたげなCクラスの3人を生徒会室放り込むのを見届けてから、俺はコージーに声をかける。
「どうやら仕込みは上手くいったようだね」
「ああ、堀北が打開案を考えてくれた。……その様子からして、堀北に勝負を持ちかけたときには既に気づいていたんだな」
「まあね。審議がどう進もうと須藤君を無罪にできないなら、訴えそのものを取り下げさせればいい」
例えば偽の監視カメラを取り付けて退学をちらつかせるとかしてね。普通に考えれば罠だって気づけてもいいけど、あの判断が鈍るほど蒸し暑い特別棟だと、人心掌握に優れる卍解ちゃんなら大抵の人は言いくるめられるだろうし。
彼等の目論見通りCクラス生徒と坂上先生は何かを言い合いながらすぐ出てきて、少ししてから須藤も出てきた。
「上手くいったようだな」
「おめでとう、と言っておこうかね?」
「何だかよくわからねぇけど、堀北が何かしてくれたんだよな?……あいつは俺のためにやってくれると思ってたぜ。へへへ」
多分色々勘違いしてるっぽいけど、なんか幸せそうだしそっとしておこう。世の中知らない方が良いこともある。
コージーと祝勝会の約束をしてからが須藤君が去ってからすぐに、茜先輩と会長さんも生徒会室から出てきた。
「Cクラス側が突然訴えを取り下げると申し出た。……これがお前達の、佐倉が嘘つきでないと証明する方法か。訴えを取り下げたとなれば、嘘を吐いていたのは佐倉ではなくCクラスだと噂が広まるだろうな」
「あんたの妹が上手く運んだだけだ。オレは何もしちゃいない」
別に何もしてないってことはないでしょうに。リーダーの立てた戦略がどれだけ優れてようが、俺達実働部隊が動いてこそ意味があるんだぜ。
「……まだ書記の席が1つ空いていたな。綾小路、お前が望むならその席を譲っても構わん」
……ほう?こりゃまた意外なスカウトだ。葛城や卍解ちゃんを差し置いて会長さんが誘うとは。しかもこのタイミングってことは………………今回の件、もしかしてコージーが全部裏で糸を引いて解決したっていうのか?
それはつまりこの俺を騙した、いや……
「か、会長……本気ですか?」
「不服か?」
「い、いえ。会長が仰るなら私に異存はありませんが……」
「そこはもうちょい自分の意見を持ちましょうよ茜先輩、会長が相手だからってビビってんすか?」
「話がややこしくなるから本条君は黙っててください!メールの返信無視しますよ!?」
おっとそいつは困るな、極力黙ってようっと。
「オレは基本的に事なかれ主義なんだ。生徒会なんて冗談じゃない」
「ええ!?会長からのお誘いを断るんですか!?」
「興味無いし……それに生徒会って能力を求められるんでしょ?パッとしない俺なんかよりも、本条を誘ったらどうですか?」
「あ、それは無理だぜコージー。生徒会って部活と兼任できないし。空手部員の俺は厳しい練習で日夜大忙しなのです」
「いやだから、あなた幽霊部員でしょうが!?それで結果を出してるのは凄いですけど!」
やったー茜先輩に誉められた。
内心俺が喜んでいると、会長さんも興味を示したのかこちらへ向き直る。
「ふむ……確かに原則兼任は認めていないが、どうしてもと言うなら許可してやってもいい」
「書記ってことは茜先輩と同じ役職かぁ……やめといた方がよくないすか?茜先輩がストレスで禿げちゃいますよ」
「何をしでかすつもりなんですか!?」
「問題無い。橘は優秀だ、後輩のやんちゃくらいそつなく捌くだろう」
「会長!?」
会長の無慈悲な宣告に、捨てられた子犬のように目を潤ませる茜先輩。俺が女だったら思わず抱き締めてるぐらい庇護欲をそそるなこの人。
「それに会長さん、葛城を面接で落としたそうじゃないすか?有栖とクラスのリーダーの座を争っているあいつが落ちて、有栖の取り巻きAである俺が通ったら面目丸つぶれでしょうが。何だか可哀想なので辞退します」
「取り巻きAにここまで憐れまれてる時点で、もう手遅れだと思いますけど……」
「茜先輩、それは言っちゃおしまいです」
葛城だけならともかく、卍解ちゃんにも悪いしな。それに生徒会役員は能力よりも、熱意と責任感を優先すべきだと個人的に思うし。
「ならばいい。……一応釘を刺しておくが、南雲の件を忘れていないだろうな」
「はいはい、約束は守りますよ」
入学式の日。俺はギャンブルの軍資金を得るため、会長さんにある条件と引き換えに100万ポイントを借り受けた。その条件は……生徒会副会長・南雲雅に今後決して味方をしないこと。会長さんがここまで警戒するからには、おそらく非常に高い能力と危険な思想を併せ持つ先輩なんだろう……めちゃくちゃ好奇心を刺激するが約束は約束だ、諦めるしかない。
そして会長さん達が去った後、やっと生徒会室からホリリンと合流して、彼女の望む通りの情報を公開した。……もしかしたら心が折れてしまわないかと少し危惧したが、俺への敵意が消えてない様子からして心配は無さそうだ。
……期末が終われば、いよいよ最初の特別試験か。有栖が参加できない上、葛城を転落させる予定のため俺が本気を出す機会が無いのが少々残念だが、ホリリンが、リュンケルが、卍解ちゃんが……そしてコージーが、いかにして俺達を引き摺り降ろすか楽しみだ。
……でも有栖は不参加なんだよなー。あーあ、そう思うと一気にモチベーションが……。
まだ詳細は秘密ですが、桐葉君は嘘や隠し事を見抜くのが凄く得意です。だから橋本君の思惑も秒でバレました。
しかし見抜き易さには個人差があって、大抵はできる人間ほどわかりずらくなっています。
ちなみに公式チートこと綾小路君ほどまったくわからない人間は、今まであったことがないそうです。
綾小路君が目立つのが嫌いな自称事なかれ主義者でなければ、ガンガン絡みにいっていたことでしょう。