女王の女王   作:アスランLS

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まず始めに謝罪します……後半遊びました。


2巻エピローグ

《side:堀北鈴音》

 

七月末、期末テストが終了した。

前回同様1つでも赤点を取れば退学なのは勿論、前回の過去問のような抜け道の無い試験だったが、どうにか退学者を出さずに乗り越えることができた。……まあ一部の生徒は相変わらずギリギリだったけど。特に須藤君……この間あれだけクラスに迷惑をかけておいて、あっさり赤点なんか取ったらどうしてやろうかと思ったわ。

茶柱先生が何かと注目している綾小路君も手を抜いてるのか、相変わらず箸にも棒にもかからないような成績のままだし……総じてDクラスはやはりまだまだ心もとない戦力だ。今のままじゃ到底()()Aクラスを倒すなど夢のまた夢だろう。

Aクラス……そう、私が目指すのはAクラスただ一つのみ。別にAクラスだけが受けられる恩恵、進学や就職等のサポートが欲しいのではない。私が望むのは兄さんに認めてもらうこと、そして兄さんのような優れた人間になることのみ……そのためには、何としてもAクラスに上がらなくてはならない。

この私が不良品の集まりであるDクラスなんかに配属されたのは、学校側のミスであったと確信している。確かに私は兄さんと比べれば大きく劣っているが、周りから見れば優れた人間であることに間違いない。今回の期末テストだって学年でもトップクラスの成績だった筈だ。たった今職員室に張り出されている成績表を確認しにきたが、学年で5位だという結果が出ていた。つまり私はAクラスの生徒の大半よりも優秀ということに他ならない。

厚顔無恥なことに学校側はそのミスを頑なに認めようとはしないが、それならばもう仕方がない……絶対にこのクラスをAクラスまで押し上げてみせる。

……ただ、不安が無いと言えば嘘になる。当然誰かに弱音を吐くつもりなどないが、まず間違いなく困難な道のりになるのは間違いないこともわかっている。私は確かに優秀だが、兄さんのように突出しているわけではない。……学力1つとっても、私より上の人間がいるのだから。

心の中でそう自嘲しもう一度成績表の最上位の部分、私よりも高い点数を取った生徒4名……特に、ある人物の名前へと向かい合う。

 

 

 

 

 

1位 Aクラス 坂柳有栖   500点

1位 Aクラス 本条桐葉   500点

3位 Aクラス 葛城康平   486点

4位 Bクラス 一之瀬帆波  484点

5位 Dクラス 堀北鈴音   483点

6位 Aクラス 山村美紀   481点

7位 Dクラス 幸村輝彦   480点

7位 Dクラス 高円寺六助  480点

9位 Cクラス 椎名ひより  478点

10位 Aクラス 西川亮子   475点

 

 

 

思わず顔が強張るのを感じる。脳裏にあの人を食ったような態度と余裕の笑みが嫌でも浮かび、苛立ちを抑えられない。いったいどうしてあんなおちゃらけた男が……。

 

本条桐葉

 

私達DクラスがAクラス打倒を目指す上で、まず間違いなく最大の障害となる人物。その理由はいたってシンプル、その桁外れな能力。

学力はこのテスト結果を見れば一目瞭然。学力最上位のうち10位から3位までは大した差は無いが、トップ2人だけは完全に別次元……もしこの二人が今後も満点を取り続けるなら、私がどれだけ勉学に励もうと引き分けに持ち込むのが精一杯ということだ。

そして先日の件で開示させた、彼の持つポイントとそれを得る手段……空手部には空手で、水泳部には水泳で、テニス部にはテニスで挑んで勝ち抜いたことからして、運動能力も並外れていると分かる。これらの情報だけで非常に悔しいが、彼は私よりも優れていると認めざるを得ない。

しかし何よりも危険なのは、彼の持つプライベートポイントの総数だ。先日目にした彼のケータイ画面が、まだ目に焼き付いて離れない。

本条桐葉、彼が現在所有するプライベートポイントの額は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8,276,002ポイント

 

 

ふざけるなと言いたくなる。

不正をしてポイントを得た訳ではないのだから理不尽なのはわかっているが、いくらなんでも無茶苦茶だと文句を言いたい。クラスを上げるために重要なのはあくまでクラスポイントだが、それだけの額のプライベートポイントなら使いようによっては非常に強力な武器になるだろう。

……彼のポイント額からしても、やはり個人でAクラスに上がることは不可能らしい。歴代で最も多くポイントを貯めているのが本条君なら、それはつまりあの兄さんですら1000万ポイントを貯められていないことになる。ましてや個人でAクラスに昇格する権利、2000万ポイントなど限りなく夢物語だろう。……正直頭を抱えたくなる。私はこの実に頼りないクラスメイト達と共に、あの強大な“個”に立ち向かわなくてはならないのだから。

さらに悪いことに、Aクラスには彼に指示を出す人間……つまり、彼と同等かそれ以上の人物がいる。それが同率学年1位の坂柳有栖さん……一之瀬さんの話では3位の葛城君とクラスのリーダーの座をかけて争ってるようだが、本条君の言う通りならいずれAクラスを率いるのは坂柳さんで間違いないだろう。クラスの総合力では圧倒的に負けている上、本条君をどう対処すればいいか未だ見当もつかないのに、さらにそれ以上の人物がいるのだからもう堪ったものではない。どうにか気をしっかり持たなければ、心がくじけてしまいそうだ。

……しかし、これは逆にチャンスでもある。

非常に悔しいことに兄さんは本条君と、何故か綾小路君に目をかけている。……それこそ不出来な妹だと見放されている私なんかよりもずっと。綾小路君の方は不明だが、兄さんが本条君に目をかける理由はやはりその優秀な能力だろう。でなければ100万なんて額のポイントを貸すわけがない。

つまり、私達がAクラスに上がる……すなわち私が本条君よりも優秀だと証明できれば、兄さんは必ずもう一度私を見てくれるんだ。だったら私は兄さんに言われた通り……

 

死に物狂いで本条君を越えてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《side:橘茜》

 

 

「どうしてだ桃太郎!?どうして……!」

「決まっているだろワンコ、主役はいつだって俺なんだよ。こんな美味しい場面……お前なんざに譲れるかよ」

 

不意をつかれ脱出ポットに閉じ込められた犬養が、怒りと困惑と悲しみが混ざり合った絶叫を上げるも桃太郎は取り合わず、脱出機能を発動させるべくパネルを操作する。そんな桃太郎に、犬養は両手から血が出るのも構わずに扉を叩く。

 

「ふざけるなよ桃太郎……アンタには、帰りを待っている人達がいるだろうが!アンタがくたばっちまえば、お爺さんとお婆さんがどれだけ悲しむと思ってやがる!犠牲になるべきは、どう考えても元は畜生だった俺だろうが!」

 

犬養とて死にたい訳ではない。だが脱出ポットが一人用な以上、生き残るべきは桃太郎で、死ぬのは自分であることに異論は無かったしそうであるべきだとも思っていた。長年苦楽を共にしてきた、親とも兄とも呼べる男を死なせたくないのは勿論、自分達三匹が人へと変わったあのとき共有した桃太郎の記憶……彼の両親が、どれだけ彼に愛情を注いできたかを知っている。故に彼を、畜生でしかなかった自分達に、優しさと温もりを教えてくれた彼を、こんな絶望の果てで見殺しになんてできやしない。

 

「今ならまだ間に合う!早く開けやがれ!」

「畜生とか自分を貶めるようなこと言うなよ。俺はお前達をそんな風に思ったことなんざ一度も無いぞ」

「話を逸らすんじゃねぇ!アンタの安易な自己犠牲で、悲しむ奴がいるか考えろ!」

「それはこっちの台詞だぜワンコ。……お前は雉美と、雉美の腹ん中のガキを残して死ぬつもりか」

「っ!?……なんで、そのこと……」

「ばーか、がきんちょが大人に対して隠し事なんて10年早いんだよ。何を後ろめたく思ってたのか知らねーが、ウジウジと思い詰めやがってアホンダラ」

「だって……俺のせいで猿川は……その上、アンタまでもいなくなったら!俺は!」

「いつまでも甘ったれてんじゃねぇ!」

「っ!?」

 

犬養が怒られたのは、それが初めてだった。口は悪いがしっかり者の犬養と、常に軽薄かついい加減な桃太郎。親と子、兄と弟のような関係の二人だったが、振り回すのは常に桃太郎で、怒るのは常に犬養だった。そんな桃太郎が犬養に向けての……最初で最後の叱咤激励。

 

「ガキ作っちまったからには、お前はもうお前だけの命じゃねぇんだよ!いい加減な俺がお前に教えることなんざほとんど無かったがよ、育児放棄なんてしやがったらただじゃおかねぇぞ!」

「桃、太郎……!」

「それになワンコ……俺は死ぬつもりなんざ一切ねぇよ。知らんうちにグレちまったバカ息子を迎えにいくだけさ」

 

パネルでの操作が終わり、脱出ポットが起動し始める。最早止めることはできないと悟り、涙を流しながらポット内で崩れ落ちる犬養に対し、桃太郎はガラス越しに最後の言葉を優しく告げる。

 

「じゃあな、ワンコ。お前を息子のように愛してたよ。……元気でな」

 

犬養が悲痛の叫びを上げる間もなく、脱出ポットは次元の狭間へと消えていった。先に離脱した雉美と共に、元の時代へと帰れるだろう。

桃太郎は次元の狭間を消してから煙草を取り出し、ジッポライターに火をつけると同時に、猿川が壁を壊して部屋に入ってきた。4足歩行で両手両足は5mほどまで伸び、3つに増えた顔はそれこそ桃太郎達の宿敵たる鬼のように醜悪な面になっており、体の所々が液状化し床へと滴り落ちている。

この怪物がかつては人間になった猿だと信じる者は誰一人としていないだろう。度重なる薬物投与の弊害か、もう猿川は長くは生きられないとわかる。……嫉妬とは、人をこのような化け物へと変えてしまうのだろうか。

 

「おいおい忙しないな。俺はお前を、ちょっとした一服の邪魔をするような無粋者に育てた覚えはないぜ?」

「■■■■■■■■■■■■■■■!」

「もう俺のことすらわかりません、ってか。……いいぜ、だったら1から教えてやらあ!6つもある耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ!」

 

桃太郎は剣を抜き、不敵な笑みを浮かべながら歌い上げる。既に猿川は埒外の怪物、ただの人に過ぎない桃太郎に勝ち目など無いことなど重々承知。それでも彼は謳い上げる。

 

死を恐れぬかのように。

 

己の勝利を疑わないかのように。

 

 

「我が名は桃太郎!

日ノ本一の……英雄だ!」

 

 

連続メール小説「桃太郎的な話」

 

完』

 

 

 

 

「うう……桃太郎……」

 

本条君から送られてきたメール小説を読み終わった私は、ハンカチで目から溢れ出した涙を拭う。

2週間前に本条君からこんなメールが送られてきたときは、試験中に何おバカなことやってるの!?……としか思わなかったが、毎日送られてくるメールを読み進めていくうちにすっかり引き込まれてしまった。「むかしむかし~」の書き出しで始まったのに、紆余曲折の末最終的にプレデター顔負けのSFアクションものになったのはどうかと思うが、そんなツッコミどころを抜きにしてもとても面白かった。特に桃太郎と三匹の絆、三匹同士の友情……それらが少し崩れていくのは胸が締め付けられるような思いに駆られた。

 

「っと……もうこんな時間」

 

夢中で読んでいて気づかなかったが、いつの間にかいつもの就寝時間を過ぎてしまっていた。夜更かしは美容の大敵だ、気をつけなければ。

すぐに歯を磨いてパジャマに着替え、布団に入ると良い感じに眠気がやってきて、そのまま深い眠りにつこうとする寸前に……どうしても見逃せないツッコミ所を発見し、布団から起き上がり思わず叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼は!?」

 

結局最後の最後まで鬼ヶ島放ったらかしでしたよあの桃太郎!?

 




順調に好感度を稼いだおかげで、今章にて桐葉君の本質の一端に触れて茜先輩でしたが、意外と暢気な性分のせいであっさり忘れてしまいました。


連続メール小説「桃太郎的な話」……期末試験では今後の為に何も仕掛けないことにした有栖と桐葉が、暇を持て余した末に思い付いた悪ふざけの産物。全14話。
打ち合わせ一切無しで1日ごとに交互に話を進めた(さらに二人とも好き放題悪ノリした)結果、非常に混沌としたストーリーへとなっていったが、最終的には奇跡的に感動のラストを迎えられた模様。


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