女王の女王   作:アスランLS

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リーダーを当てるだけの簡単なゲーム

 

無人島生活2日目。

いつものように体内時計に従って4時に目覚めた俺は、周りを起こさないようにテントから抜け出す。洞窟内に張られたテントは計6つ、坂柳派と葛城派がそれぞれ3つずつに分かれて寝泊まりしている。葛城が今回の試験はクラスが一丸となって云々言っていたものの、両派閥の溝は思ったより深かったらしい。……あっ、勿論それぞれ男女別にも分かれてるからね?いやらしい妄想はほどほどにするように。

申し訳程度に身嗜みを整えてから洞窟を出てみると、まだ朝日が昇り始めたばかりだと言うのにやたらと蒸し暑い。

 

「さてと、絶好のファルトレク日和だ」

 

大自然で行う鍛練と言えばやはりファルトレクだ。全身を使って変化に富んだ地形を走ることで、総合的な体力アップを可能とする。今回の試験中は勉強道具を持ち込めないからいつものルーティンをこなせないので、ひたすら肉体の鍛練に重点を置くつもりだ。

しばらく森の中を縦横無尽に走り回っていると、見知った強面ロン毛……鬼頭隼と遭遇する。

 

「んあ?ファルコンじゃん」

「本条か。……ファルコン?」

「隼だからファルコン。ダメ?」

「好きにしろ。……お前もトレーニングか」

 

も、ってことはファルコンもトレーニングしていたのか。よく見ると全身汗まみれだ。……しかし何故手袋は頑なに外さないのか。

 

「試験中なのに随分ストイックだね」

「お前に言われたくはない。それに……俺は学業ではクラスに貢献できんからな、日々の鍛練を怠るわけにはいかない。この学校では強みを持たぬ生徒は、存在価値を無くしていくだけだ」

 

うむうむ、流石は有栖のルーク。社交性は低いが言動には一切の迷いが無く、シビアな現実からも決して目をそらさない不動の精神を持つ武闘派。……有栖を除けばやはり、クラスで一番気に入っている奴だ。

 

「いいね、向上心のある奴は大歓迎だ。それなら派閥の側近同士の親睦を深めるため、一緒にトレーニングしよっか」

「……俺としては願ってもない提案だが、いったい何をするつもりだ?」

「鬼ごっこ」

「……は?」

「それじゃあ最初は丁度鬼みたいな顔してるしファルコンが鬼ね、アバヨー!」

 

ファルコンが呆気に取られている内に、俺はさっさと一目散にトンズラする。

 

「あ、ちょっ、待っ──誰が怖い顔だ貴様!?」

 

朝の点呼の少し前まで鬼ごっこは続いたが、結局ファルコンは自在に森を駆ける俺を一度として捕らえることはできなかった。見かけに反して意外と素早かったが、大自然に慣れてない奴が俺を捕らえるなど不可能なのだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事朝の点呼を終えた俺は、今日も今日とて食糧を集めつつ全速力で森を疾走する。途中で何人かの生徒とすれ違ったが、なんか全員俺のことを野生動物か何かと勘違いしてるのかパニックになっていた。失礼しちゃうよもう。

 

「んむ?なんだこりゃ?」

 

ここら辺の地面やけに歩きやすいな。……というか明らかに不自然に平らだ。それこそまるで誰かが踏みならしたかのように。

少し興味が湧いたので痕跡を辿ってみると、あっという間にBクラスのベースキャンプ地に辿りついた。スポットとして活用している井戸の周りは木々が生い茂り、クラス全員分のテントを張るほどのスペースが無いが、その狭さをいくつかのハンモックで補っている。他にもざっと見渡しただけで、ポイントを最小限にしようという工夫があちこちに散りばめられている。……やっぱクラスの雰囲気と団結力じゃボロ負けしてるよな。

 

「あれ?本条君?」

 

俺の来訪に気づいたのか、水の入ったペットボトルを抱えながら卍解ちゃんが駆け寄ってきた。しかしジャージ凄く似合うね君。

 

「どうしたの?もしかして敵情視察かなー?」

「いやなんか不自然に地面が平らになってたから、興味本位で辿ったらここに着いた。あれ君らの仕業だったりする?」

「うん、まあね。はぐれないための目印になるかなって、昨日皆で踏みならしておいたんだ」

「そりゃまた用意周到なことで。……なんか色々と忙しそうだね、お邪魔だったらさっさと退散しようか?」

「少しくらいなら大丈夫だよ?そろそろ休憩しようと思ってたし。……それに、本条君とは色々と話もしたかったしね」

 

相変わらず良くも悪くも邪気の無い子だね。邪気の塊のような有栖と渡り合うには、もうちょっと黒くなった方がいいかな。

 

「しかしなんというか、随分統制の取れたクラスだね。これもひとえに卍解ちゃんのカリスマのお陰かな?」

「にゃはは、私はそんな凄い人じゃないよ。でも皆が積極的に協力してくれるからね」

「謙遜すんなって。ウチのクラスなんか方針の違いでクラスは真っ二つになるわ、初の特別試験だってのに足並みを揃えず好き勝手する奴はいるわ、君達とは大違いだぜ」

「いや他人事のように言ってるけど、多分好き勝手してるの本条君だよね?」

「まあそうだけど、なんでわかったのさ?」

「さっきクラスの子から本条君らしき人が、森の中を凄いスピードで走り回ってたって報告があってね……」

 

苦笑いとともに「少し自重してくれ」と言外に言ってくる卍解ちゃん。……もしかして怖がらせちゃったかな?だとしたらごめんね。

 

「まあ善処はしておくよ、うん。……俺に聞きたいことってそれ?」

「うん、それもあるけど……Aクラスはどんな風に取り組んでるのか、ちょっと教えてくれないかなって」

 

なるほど、確かにあんなガチガチに籠城されたら探りようが無いだろうしな。リーダーも普通当てようがない。

 

「あー……悪いけど教えられないかな。俺今回の試験完全に葛城に丸投げしてる訳だし、あいつが必死に隠したがっていることを勝手に暴露するのは、流石の俺でも気が引けるっていうか……」

「あっ、ごめんね!?別に無理矢理聞き出そうって訳じゃないからっ!そうだよね、クラスを裏切るなんてできないよね……」

 

何故か勝手に凄く申し訳なさそうになる卍解ちゃん。何か罪悪感湧くからやめてもらえませんかね?

 

「まあ気にすんな、そして安心しろ。俺も卍解ちゃん達の情報は、クラスには一切伝えるつもりないから」

「え?えーと……そこまで別に気を遣わなくても良いんだよ?知られても困ることじゃないし」 

「いやいやそんなことは無いでしょ?過ごしやすい環境作りの工夫とかだけならまだしも……リーダー当てられたら大損害なんだから、是が非でも隠さなきゃ」

「…………え?」

「どういうことだ本条」

 

俺の何気無い指摘が完全に想定外だったのか卍解ちゃんは目を見開いて驚き、慌てて一人の男子生徒……神崎隆二が駆け寄ってきた。

 

「あ、ザキちんだ。どうしたのさ?」

「今のはどういう意味だ?まるでBクラスのリーダーが……誰かわかっているかのような口ぶりだったぞ?」

「うん、わかったよ」

「「「っ!?」」」

 

卍解ちゃんやザキちん……いやこの場にいるBクラスの生徒全員が一人残らず、緊張感に包まれながら俺に視線を向けてくる。……ふむ、やっぱりこの子で間違いないみたいだ。

 

「そんな警戒しなくても大丈夫だよ。今回は葛城が仕切ってるって言ったろ?仮に俺がバラしたところで、あのバカみたいに慎重な男がホイホイ信じるかよ」

「……一応誰がリーダーだと思っているか、教えてもらってもいいかな?」

「そこにいるヘアピンの子でしょ?確か白波ちゃん、だっけ」

「う、嘘……どうして!?」

 

俺に指名された白波ちゃんは、顔を真っ青にして両手で口を覆う。……いやあのさ、せめてしらばっくれるなりして足掻こうよ?せっかく卍解ちゃんとかザキちんが必死に平静を装ってるのに台無しじゃん。

 

「……どうして千尋ちゃんだと思ったの?」

「んなもん視りゃわかる。お節介かもしれないが、もうちょっと上手く隠した方がいいぜ?……それじゃあ用事もできたしそろそろ行くわ」

「……用事?できたとはどういう意味だ?」

「ちょっと興が乗った。特に意味は無いけど暇潰しがてら、各クラスのリーダーでも見破ってこようと思ってね。それじゃあ試験頑張ってね、応援してる」

 

隠しきれない警戒を含んだ視線を全身に浴びつつ、Bクラスのベースキャンプ地を後にした。これで警戒レベルを吊り上げてくれれば万々歳だ。結束力には目を見張るものがあったが、それだけでこの先俺達と戦っていくには心もとないからね。

 

……だから今回Cクラスにリーダー当てられても恨まないでね。というかなんでスパイが紛れ込んでるのに誰も疑ってないんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事前に葛城から聞かされていたCクラスのベースキャンプ地では、豪勢なバーベキューが開かれていた。……で、何故か俺もご相伴にあずかることに。

 

「やー何か悪いねリュンケル、すっかりゴチになっちゃって。ちょうどタンパク質が不足してると思ってたんだよ、うん」

「クク、別に構わねぇよ遠慮するな。今回CクラスとAクラスは、手を取り合うべきお仲間だからな。それにさっき金田から連絡が入った。Bクラスのリーダーの目星を付ける手伝いをしてくれたそうじゃねぇか」

「他クラスの生徒を疑いもせず招き入れていたのは、正直どうかと思ったからね。俺達や君と戦っていく上では致命的だから、ちょっとした老婆心で千尋の谷に突き落としてやったのさ」

「なんだそりゃ?連中からしたらさぞかしありがた迷惑だろうなあ」

「そりゃ今後俺が楽しめるようにしたお節介だから、正しく余計なお世話だろうね」

 

それにしても壮観な光景だ。バーベキューセットはもとより、娯楽に必要なありとあらゆる道具のオンパレード……節約という概念を粉々に粉砕して液状化させる散財っぷりだ。俺達の取引を知らないホリリン達や卍解ちゃん達には、さぞや気が狂ったようにしか見えないだろう。……もうすぐしたらCクラスの生徒はほとんどリタイアするから、さらにびっくりするだろうな。

 

「ところであの契約内容からして、Dクラスにもスパイを送り込んでるんでしょ?」

「ああ、伊吹の奴をな。あっちはまだ探りを入れている最中だが……それも時間の問題だ」

「招き入れたのは多分平田君か櫛田ちゃんだろうね。皆危機感が足りてないぜまったく」

「Dクラスといえば、さっき鈴音が金魚の糞を引き連れて偵察に来たぜ。各クラスに周るだろうから、そろそろAクラスに探りを入れ始めるんじゃねぇか?」

「マジでか。だったらまた戸塚あたりが無礼やらかさないうちに戻らなきゃな。……それじゃあご馳走様。葛城とか戸塚がお前の手のひらの上でどう踊るのか楽しみにしてるぜ」

「クク、やっぱり契約の抜け穴にも気づいてるか。なのに指摘してやらないとは薄情な奴だな。……いいぜ、お望み通りダンサブルに踊らせてやるから楽しんで見届けな」

 

さてと、最後はDクラスか。

Cクラスのリーダーは案の定リュンケルだなこりゃ……まああの契約内容からして何人か島に残らなきゃいけないし、振る舞いからして自分しか信じてなさそうなリュンケルが、誰かにリーダーを任せて船で結果を待つ……なんてする訳ないよな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葛城さん!こいつら、俺達の寝床を偵察に来たんですよ!汚い連中です!」

「ビニール如きで大げさね。中を少し見せてもらうだけよ」

 

ありゃりゃ、戻ってきたら案の定揉めてやがる。状況を推察するに、ウチのクラスの偵察に来たホリリンとコージーを戸塚がどうにか塞き止めている間に、葛城が後から来たってところか。……中を見られたらCクラスと取引しているとバレちゃうよなこれ。さて葛城、どうやってこの窮地を切り抜けるのかね?

 

「別に好きにするといいが、覚悟はしておくことだ。指一本でも触れた瞬間、妨害行為として学校に通達する。その結果Dクラスがどうなるかは保証せん」

「戸塚君にも説明したけど、スポットの独占行為はルール上守られた権利じゃないわ」

「確かにそうだが、1つの占有スポットをベースキャンプとして1つのクラスが抑え、それを試験終了まで守り通しポイントを得続けることは、暗黙のルールだと俺は考える。それに踏み込めば大混乱が起きるし、当然俺達も報復としてDクラスのベースキャンプに踏み込むことになる。……不必要な面倒ごとは避けるべきだと思うが、違うか?」

 

ふむふむ、なんとかいい感じで口八丁に言いくるめたな。有栖に散々苛められてきたからか、少しは成長したようで感心感心。ホリリンも説得は不可能と判断したのか、踵を返し洞窟の入り口から遠ざかる。

 

「まぁいいわ。Aクラスの実力がどの程度のものか、結果を楽しみにしておくから」

「随分と威勢がいいな。君達がどう悪足掻きをするのか、期待しておくとしよう」

 

戸塚ほど露骨じゃないが葛城もAクラス特有の驕りがあるのか、ナチュラルに下位クラスを見下してるな。だからリュンケルの手のひらで戸塚とランバダを踊る羽目になるんだよ。

……さてと、

 

「おーいそこゆく少年少女達ー」

「本条か」

「っ……」

 

葛城達の姿が見えなくなるまで待ってから、とぼとぼと帰宅する二人に声をかけると、コージーはともかくホリリンは一瞬で最警戒態勢に入る。相変わらず嫌われてる……だけじゃなさそうだね。風邪でも引いたのか、近くで見るとボロボロじゃん。……ちょうどいいしカマでもかけてみるか。

 

「すまんねわざわざ来たのに追い返すような真似しちゃって。……まったくたかが寝床でケチケチしちゃって、あの妖怪ピカ電球め」

「酷い言われようだな葛城……」

「だってせっかく他クラス巡りを楽しんでたのに、これじゃもうDクラスのとこに行けないじゃん」

「ええ、断固として拒絶させてもらうわ」

「ちぇー……それにしてもホリリン、どうしたのさ?何かいつもより警戒してるみたいだけど」

「さっき一之瀬さんに聞いたのだけど、あなたBクラスのリーダーを見抜いたそうね。そんな危険人物が自分のクラスに来ようとしているのだから、警戒して当然でしょ?」

「卍解ちゃんに聞いたんなら、俺が見抜いても何ら支障無いのは知ってるよね?いくら君がリーダーだからって肩肘張りすぎでしょ」

「いったい何の話よ?私がリーダーだなんて言った覚えはないわ」

 

白波ちゃんに比べれば、体調悪いなりに立派にポーカーフェイスを取り繕えてはいるけど……ごめんね、嘘ってわかっちゃうんだ俺。

Dクラスはまとまりが無いからクラス単位でリーダーを任せるのではなく、しっかりした人に一任するだろうと思って当てずっぽうで振ったんだけど……まさかドンピシャだとは予想外だった。上手いこと交渉してじっくり見つけ出そうとしたのに、すごい損した気分。

 

「あっ、ごめんごめん。ホリリン他クラスへの認知度が低くてしっかりしてるから、てっきりリーダーなのかと思って」

「見当違いも甚だしいわ。……どうやら私はあなたを過大評価していたみたいね」

「嘲笑するならポケットからチラ見してるものをちゃんと隠してからにしなよ」

 

ほぼ反射的にホリリンは自分のポケットに目を落としてしまうが、勿論カードキーなどはみ出していない。からかわれた怒りからか、人を殺してそうな目で俺を睨んでくるホリリン。怖いなぁもう。

 

「私を謀ったわね……!」

「こんな単純な罠にかかるとは、随分判断力が落ちてるね。若いからってあんまり無茶したらダメでしょうが」

 

遠回しに風邪のことを指摘するも、ホリリンは余計なお世話とばかりに背を向ける。

 

「行きましょう綾小路君。真面目に試験を取り組む気の無い人に構ってるほど暇じゃないわ」

「お、おう」

「わーお随分な言われよう。それじゃあ試験頑張ってね、応援してる」

 

あの様子で最後まで持つのかねぇ。……いや、持たなかったらある意味好都合なのか?俺にリーダーを見抜かれてもコージーが平然としてたのはそのため……なのかね?コージーって俺の知る限りずっと機械みたいに平然としてるし五分五分だな。

 

 

 

 




桐葉君は嘘や隠し事を見抜けますが、内容までは見抜けないのでそれだけでは大した脅威ではありません。大半の人間は嘘や隠し事を抱えながら生きてますから。的確に相手を揺さぶる話術と駆け引きこそ彼の本当の武器です。
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