人間は平等であるか否か。
生まれてから死ぬまでに少くとも一度や二度、人によっては何十何百と抱くであろうありふれた疑問だ。
そして、大抵の人間は「否」という答えを出すだろう。社会は平等を訴えて止まないし、世界中が人は平等であるべきだとされている以上、公の場でこの問いを聞かれのなら「是」と答える人も少なくないだろうが、本心から肯定しているものは多分極少数だ。まあ誰だって隣の芝は青く見えるものだ、それも致し方無いのかもね。
それらを踏まえて、俺がこの問いに答えを出すとしたら──
「─最終的には皆燃えて灰になるんだし、平等なんじゃね?はい終了」
「いや終わらないでください。流石に投げ遣り過ぎますし、その答えじゃ誰も納得しませんよ」
「ふむ?……ああ、そういや海外じゃあ火葬は主流じゃあなかったっけ」
「問題はそこじゃありませんよ」
呆れたように溜め息をつき、ジト目を向けてくるのはマイベストフレンド有栖。
「自分から話を振っておいて失礼な反応だね有栖。君のそういうところ正直引くよ」
「奇遇ですね桐葉、私も貴方の奔放過ぎる所は改善すべきだと思ってますよ。あと目つきが悪い所も」
「余計なお世話だし、それを言ったらお前もなんだよその髪。ビジュアル系崩れみたいな髪色しよってからに」
「地毛だからしょうがないでしょう。まあ確かに奇異の目で見られたりもしますが……おっと、面白味の欠片も無い黒髪の桐葉には無縁の話ですね」
「歪んだ性格腹黒女」
「ファンタジスタ気取りのドキザ男」
しばらくここぞとばかりにお互いの短所を遠慮無くディスり合う。俺達をよく知らない第三者にはさぞや険悪な雰囲気だと思うかもしれないが、俺達は普段からまあまあの頻度でこういうやり取りを普通に楽しんでやっている。この程度ではで波乱と激動の中学生活で育んだ俺達の絆に罅は入らないとわかっているからこその、遠慮のない罵詈雑言。
俺と有栖が初めて相対してから早三年。ただ今四月の入学式、俺達はこれから三年間通う高校へ向かっていた。……坂柳家のリムジンで。こんなTHE・テンプレ金持ちの送迎など悪目立ちすることこの上無いが、先天性心疾患の有栖にバス通勤させるのはアレなのはわかっているし、お友達からのお誘いを一蹴するほど桐葉君は薄情じゃない。こいつこう見えて意外と寂しがりだし。
そんなこんなでじゃれ合っている間に俺達にたどり着く。運転手にお別れの挨拶を済ませリムジンから降り少し歩くと、天然石を連結加工した門が見えてきた。市民の血税が惜しみなく投与されたであろうその門の下を、俺達と同じ制服を来た若者が期待と不安を胸にぞろぞろと潜っていく。
ここは東京都高度育成高等学校。
有栖の父親が理事長を務める、日本の未来を支えていく若者たちを育成する政府公認の学校。
「彼ら彼女ら一人一人が、全国から集められた原石達……どれだけ私達を楽しませてくれるかわくわくしますね」
「達、って……俺はお前みたいに格下を玩具にしていたぶる趣味は無いんだけど」
「これはまた酷い言われようですね。まるで私が人でなしのようではないですか」
「実際そうだろこのサディストが。この指の傷のこと、忘れたとは言わせねーぞ」
「いや忘れた覚えてる以前に知りません。初めて聞きましたよそんな傷」
「昨日ささくれ剥き過ぎた」
「…………はぁ」
だから溜め息吐くなっての。
「……なあ有栖」
「……なんでしょうか桐葉」
「俺達入学早々物凄く悪目立ちしてしまった気がするんだが」
「おそらく……いえ、ほぼ間違いなくあれが原因でしょうね」
「慣れって怖いな」
「そうですね」
振り分けられたクラスを確認し(ちなみに俺達二人ともAクラスだった)教室に向かう途中に階段があったのだが、中学時代の習慣が抜けずごく自然に
上り始めてから感じる四方八方からの好奇と怨嗟の視線の数々に己のしくじりを悟るが、中途半端な所でやめるのはなんか周囲の視線に負けた気がするので、横抱きの有栖とアイコンタクトで続行を決定、見事お姫様抱っこのまま階段を上りきった。その光景をクラスメイトになるであろう新入生に目撃されていたらしく、あっという間にこの出来事がAクラス中(多分高確率で他クラスにも)に広まってしまったらしい。なんてこったい。
教室に入り、ちょっとしたお茶目な仕込みをしつつ自分の机を探すと、俺と有栖の席はまさかの隣同士。坂柳パピーはルールや規則に実直な人だから無いと思うが、どうしても作為的な何かを邪推してしまうのは俺も人の子なんだなとしみじみ思う。
まあ遅かれ早かれ周知されるだろうし、周りから俺と有栖がそういう関係なのか聞かれても
「いやあ入学式早々見せつけてくれるねご両人」
「なんだ羨ましいのか橋本。代わってやろうか?」
「……え?マジで?」
「申し訳ありませんがご遠慮させて頂きます」
「『図々しいチャラ男だな、おとといきやがれカスが』だってさ。残念だったな橋本」
「いや何だよその悪意に満ちた翻訳!?このお淑やかな笑顔の下でそんなこと思ってるの!?」
「ふふふ、ご想像におまかせしますね」
「おいおい否定しないのかよ……思ったよりおっかない子なんだな坂柳さんって」
「まあとにかく無意味にチャラいのはマイナスだな。とりあえずそのピアス外せ、耳ごと」
「こっちはもっとおっかねえし……」
それにしてもこの橋本とやら、席が結構離れてるのにやけに俺達と絡んでくるが……まあ十中八九、今後クラスで頭角を表すであろう俺や有栖に早めに取り入っとこうという心算だろうな。俺は頭の中で橋本を『つまらない奴』リストに加えつつも、とりあえず仲は深めておく。いくらつまらない奴だからって、こうして友好的に差し伸べてきた手を振り払うほど俺は冷たい人間ではない。打算まみれの上辺の友情、歓迎しようじゃないか橋本正義君。
それからしばらくして始業のチャイムが鳴ると、担任らしき一人の男性が入ってきた。もう見るからに規律に厳格そうな教師だ。
「初めまして、新入生諸君。私はAクラスの担任を務める真嶋智也だ。担当教科は英語を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えが存在しないため、卒業までの3年間、私が担任としてお前達全員と学ぶことになるだろう。今から1時間後に体育館で入学式が始まるが、その前にこの学校に関する特殊なルールの説明をさせてもらう」
そう言って真嶋先生は資料をクラス全員に配布し、説明が始まる。そう、この学校は一般的な高校ではまず存在しい特殊な部分がある。
まず一つ、生徒全員が敷地内の寮での生活が義務付けられ、在学中は部活の試合や近親者の葬式などの特例を除き敷地内から出ることを禁じられている。しかし家族と連絡を取ることすらできないとは、刑務所でももうちょっと融通効くぞ……。まあ敷地は60万平米(東京ドーム12,3個分くらいだっけ?)と広大で一つの街と化しているので、生きていく分には何ら不自由はしないみたいだ。
そしてもう一つ……Sシステムの導入。あ、別に有栖は関係無いぞ?いや確かにこいつはサディストだけども。
「桐葉?何か失礼なことを考えてませんか?」
「さて、皆目見当もつきませんな」
先生が大事な説明してるだろ、黙って聞けや。さりげなく杖で俺の足を踏もうとしない。
「今から学生証カードを配る。この学生証は身分証であると同時に、敷地内の施設を使用するためにも必要となるので、無くさないよう気を付けるように。学生証にはポイントが蓄積されており、このポイントが金銭の代わりとなる。この学校の敷地内に存在するものならば、何でもポイントで購入可能だ」
……ふむ、さりげなく「何でも」の部分をほんの僅かに強調させたな。顔を動かさず目だけでクラスメイトを見渡すと、そのことにはっきり気づいたのは……二人か。一人は言わずもがな、隣で楽しそうに微笑んでいる有栖。もう一人はここから少々離れた席の髪が無くて厳つい顔をした男子生徒。うーむ、どちらも真逆の意味で同い年とは思えない容姿だ。
「桐葉?」
「知らんて」
だから杖で俺の利き脚を狙うなや。
「ポイントは1ポイントにつき1円の価値があり、毎月1日に支給される決まりとなっている。新入生には既に平等に10万ポイントが既に支給されているが、不具合があれば申し出るように」
おっと、思わぬ臨時収入にクラスが俄かにざわついたな。……まあ一般高校生の小遣いにしては貰い過ぎの額だから、先生のお茶目な言葉遊びに気づかないのも仕方ないか。あと有栖さん、随分楽しそうですな。どうせ「扱い易そうな奴等だ」みたいな黒いこと考えてるんだろうけども。
「支給額に驚いただろうが、この学校は実力で生徒を測る。この学校に入学を果たしたお前達には、それだけの価値と可能性があると評価された結果だ。遠慮なく自由に使うといい。ただ、このポイントは卒業後に全て回収され、現金化もできないので注意するように。使う必要の無いポイントは誰かに譲渡するのも構わない。勿論、カツアゲの類いは当然禁止だ。……さて、ここまでで何か質問があるか?」
怪しい点だらけだが……まあ放っておこう。ここで質問してクラスメイトに一目置かれるのは兵の俺じゃなく、将である有栖の役目だ。そのことを理解しているようで有栖と、あとさっきのスキンヘッドがほぼ同時に手を上げた。
「ふむ……では、葛城から聞こうか」
「来月から支給されるポイントは幾らなのでしょうか?」
お、ちゃんと引っかけを看過しなかったか。真嶋先生も心なしか嬉しそうに目を細めた。
「……今はまだ正確には答えられない。が、今後のお前達次第だと言っておこう」
その答えを聞いた葛城は一瞬監視カメラに視線を移すと、満足したのか真嶋先生に礼を言ってから着席した。どうやら中々頭のキレる奴のようだ、が……まあ今後に期待しよう。
「それでは、坂柳」
「先ほど先生は敷地内にあるものならポイントで“何でも”購入できると仰っていましたが、それは常識で考えれば本来購入できないものも可能である、ということでしょうか」
「……ああ、可能だ。勿論あまりに非常識なもの……例えば誰かの命、などでなければだがな」
それを聞いた坂柳は微笑みながら俺を一瞥して、同じように礼を言ってから着席した。はいはい、わかってるよ。
「他に質問のある者はいないか?……では、入学式までは自由にしていてくれ」
そう言って真嶋先生は教室から退出した。
桐葉君の外見は『黒子のバスケ』の虹村主将のイメージです。顔立ちは整っているけど少々目つきが鋭いので、人によってはやや怖い印象を持たれる『少しとっつきにくいイケメン』です。まあ中身はこんな感じなんですが。
あと、桐葉君の影響で有栖ちゃんの頭脳や厄介さやボケの処理能力が原作よりもアップしています。