女王の女王   作:アスランLS

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今回過去最高にシリアスです。桐葉君の抱える問題の一端に、いよいよ触れちゃいます。


3巻エピローグ

【side:葛城康平】

 

試験結果が発表されて初めて、俺は大きな大きな過ちを犯したことを悟った。

 

「どう責任取るつもりだ葛城!」

「あの契約は大きな損害だぞ!」

「うるさい!お前達も納得していただろ!」

 

休憩所にて俺は坂柳派だけでなく、今まで俺を慕ってくれていた生徒からも糾弾を受けていた。弥彦や数人の生徒は必死に俺を庇ってくれているが、残念ながら俺を責め立てる彼等の方に理がある。今回の試験で勝利を収めるためにCクラスの取引に応じたのに、あんな結果で幕を閉じたのだから。

最終得点を逆算すれば何故こうなったかを推測するのは難しくない。おそらく俺達AクラスはDクラスのリーダーを外し逆に当てられた。そしてさらに……Cクラスにもリーダーを当てられている。

龍園がDクラスに潜り込ませたスパイが手に入れたキーカードをこの目で確認し、俺達は堀北鈴音を指名したが……何らかの手段でDクラスはリーダーを変更した。Cクラスが0ポイントであることから、Dクラスの指名を外したことは間違いない。では逆に何故彼等にAクラスのリーダーを当てられたのか……心当たりがあるとすれば初日、誰が見ているかもわからないのに弥彦が迂闊にスポットを占有してしまったので、俺がリーダーであるかのように芝居を打ったのだが……弥彦が占有する瞬間から見られていたのならそんな芝居に意味はない。おそらくDクラスの誰かがあの場に潜んでいたのだろう。

Dクラスに関しては特に言うことはない。弥彦の不手際や不運があったとはいえ、リーダーを見抜かれながらも会心の一手で勝利を引き寄せたことは称賛に値する。

問題はCクラス……龍園は自分から協力を申し出ておきながら、最初から俺達に牙を剥くつもりだった。お互いのクラスを指名してはならないと契約書にしっかり明記しなかった俺にも非があるが、ある種暗黙の了解といえるそれを平気で破るモラルの欠片も無い奴のやり口には、憤りを覚えずにはいられない。俺が犯した過ち……それは坂柳に追い詰められ功を焦り、手を出してはいけない悪魔との取引に応じてしまったことだ。

……しかし不可解な点が1つある。どうして龍園は弥彦がリーダーだと見抜けたのか?弥彦の迂闊な行動を2つのクラスに見られていたなど、偶然にしては流石に出来すぎだ。……もしや、坂柳派の誰かがリーダーの情報を漏らしたのか?Dクラス相手に漏らしたのではない。籠城作戦を行っているクラスの生徒から渡されたリーダーの情報など信じられるわけがない。だが裏側を知るCクラスになら……しかし何故だ?裏切ることを危惧し、坂柳派はもとより俺の派閥でさえほんの一部にしかリーダーが弥彦だと教えていない筈……

 

「不様だねぇ葛城君」

 

皆の非難を甘んじて受けつつ思考を巡らせていると、橋本ら坂柳の側近3人が近づいてきた。神室と鬼頭はいつも通り仏張面だが、橋本は馬鹿にするような笑みを浮かべている。龍園との契約で大きな痛手を負った筈なのに、まるで気にした様子もないその態度に、俺は裏切り者の正体を悟った。

 

「お前のような信用できない奴等がいたから、葛城さんは大人数で動けなかったんだ!そのせいで……」

「おいおい戸塚。結果発表前はあんなに勝ち誇ってたのに、負けが決まった途端に責任転嫁かよダッセェな」

「橋本……龍園と通じていたな?お前がリーダーの情報を奴に売ったんだろう」

「葛城君までとんだ言いがかりをつけてきたもんだ。俺達の裏切りを警戒して、リーダーが誰か教えなかったのはお前だろ?」

「おそらく本条に聞いたのだろう。奴ならばリーダーを見抜いても不思議ではない」

「挙げ句の果てに本条まで疑うのかよ。友達として弁明するが、あいつは約束を破る奴じゃないぞ?」

 

確かに本条は、自分はクラスには危害を加えないと約束した。奴が約束を必ず守るという保証はどこにもないが、そもそもそれ以前に……

 

「リーダーが誰だと思うかクラスメイトのお前に予想を教えるだけでは、クラスに危害を加えたことにはならない」

「なるほど、憶測にしてはなかなかどうして辻褄が合っているな」

 

俺が追求しても橋本はまるで余裕を崩さず平然としている。確かにこれはただの憶測に過ぎず証拠も無いため、どれだけ怪しくてもこれ以上橋本を糾弾することはできない。真相は既に闇の中だ。

 

「ありゃりゃ、やっぱりギスッてたよ」

 

呆れるように溜め息を吐きつつ戻ってきた本条に、クラスメイト達は道を開ける。坂柳派の生徒は勿論、俺の派閥の生徒のほとんどもごく自然に道を譲った。モーセのように開けられた道を本条は悠々と歩み、俺の目の前に立った。……気のせいか、いつもの本条と雰囲気が違う。

 

「今回の試験、ホリリンとリュンケルにはしてやられたね。まあお疲れさん」

「……その口ぶりからしてもしや、龍園の企みと堀北鈴音の企みに気づいていたのか?」

「そりゃあね。あのリュンケルが素直にお互いに利のある契約なんか持ちかけるわけないし。ホリリンは2日目の時点で随分体調が悪そうだったから、最後まで持たないと思ったしね」

「2日目……!?どういうことだ本条!お前まさか、Dクラスとつながって──」

「お前らが上から目線で口八丁に追い返した直後に偶然会ったんだよ。暇潰しに適当にカマかけたらドンピシャで当てちゃったからビックリしたね、うん」

「なっ……!?リーダーがわかったんなら、なんでそのとき俺達に言わなかった!?」

「俺が言ってもお前ら信じないだろうが。ホリリンの体調不良に関しては、女の子が苦しんでることに気づきもしない愚鈍な奴が悪いだろ」

 

責め立てるような弥彦に対して突き放すように言う本条は、やはりいつもと何かが違っていた。表面的な態度こそいつも通りなに考えているわからない飄々としたものだが、いったい何が……

  

 

 

違和感の正体に気づいた俺は、不意に全身に鳥肌が立つのを感じた。入学式のあの日、坂柳が自己紹介をしたとき以来になる……本能的な警戒。

 

「悪いけど負け犬の戯れ言に付き合っているほど暇じゃないんだ。……坂柳派の皆しゅーごー。あ、そっちの2人も集合してね」

 

本条が俺から僅かに距離を取りつつそう告げると、過半数の生徒が本条に続いた。

 

「お、おい!?山村と森重!お前らは葛城さんの味方だっただろ!?」

 

弥彦に耳を一切貸さず、二人は本条のもとに集う。……坂柳が俺のもとにスパイを潜り込ませていることは薄々気づいていたが、本条のセリフからしてどうやらあの二人がそうだったようだ。だが、何故このタイミングでそれを明かす……?

困惑する俺達を捨て置き、本条は幾度か咳払いしてから集まった生徒達に語りかける。

 

「とりあえず試験お疲れ様。有栖の指示とはいえ、つまらねー奴のつまらねー指示に従って過ごすのはさぞや不服だったでしょ?挙げ句の果てにそれで得た報酬が毎月2万ずつリュンケルに徴収されることとなれば……ふざけんなと怒りたくもなるよな」

「まったくだ」

「ほんと信じられない」

「葛城なんかに従って損したぜ」

 

優しく問いかけるような本条に、坂柳派の生徒は口々に不満をぶちまける。怒りで弥彦が突っかかりそうになるが手で制しておく。今回の結果は責められても文句は言えないのだから。……だが次に本条が優しい笑顔であっさり言ってのけたことは、

 

「でも大丈夫、安心しな。この場にいる坂柳派の21名が負担する分は……俺が全部肩代わりしたげるから」

 

俄には信じられないものであった。

 

「よっしゃー!」

「流石本条君!」

「坂柳さんについて良かったー!」

 

自分達の負担がチャラになったことで坂柳派は本条を褒め称え喝采するが、やはり到底信じられることではない。

 

「ありえない……本条お前、自分が何を言っているかわかっているのか!?毎月2万ポイントを自分含めて22人分……卒業まで払うとなると、軽く1000万を超えるぞ!」

「ふむ、確かに莫大な出費になるね。……でも俺にとっては些細な無駄遣いだ」

「っ……!?」

 

余裕を滲ませた笑みに俺は、いや俺達は戦慄を隠すことができない。こいつは一切冗談を言っていない……1000万程度の損失など大した問題ではないと本気で考えている!

そして、坂柳派の連中はそのことに微塵も疑いを持っていない!

 

「な、なあ本条!なんでそいつらだけなんだよ!?俺達のやつも肩代わりしてくれよ!」

「え?嫌だよ。なんで葛城に従う君らの分も負担しなくちゃいけないのさ」

「な、ならもう葛城君には従わないから!これからは坂柳さんにつくから!」

「俺も俺も!」

「お、おい!?お前ら何を勝手な──」

「有栖の味方になるなら好きにするといいけど、どっちみち君達の分は肩代わりしないよ」

 

友人達の離反に弥彦は憤慨するが、本条はそれらを冷たく一蹴する。

 

「ど、どうしてだよ!?」

「えー?本気でわからないの? だとしたら……

 

 

 

お前らはどこまでも愚かな奴等だな」

「ひっ……」

 

とてもあの本条のものとは思えない冷たい声色と能面のような無表情に、ほとんどの生徒が恐怖に駆られる。突き放すような冷たい言葉に込められたのは、怒り?嘲り?失望?

……そのどれでもなく、ただただ『無』だった。今の言葉といい、ここへ来てから奴の目といい、とても同じ人間へ向けたものとは思えない……無機質なものだった。

 

「お前らには自由に選ぶ権利が、そして選択する猶予があった筈だ。有栖と葛城……対立する二人のリーダーどちらにつくのが正しいかをお前らなりに熟考し、自分の将来を預けるに足ると判断した相手が葛城だったというなら、別にその決断を責めやしないさ」

 

励ますような言葉を述べつつも声色はどこまでも無機質で、身に纏う雰囲気は呼吸さえしづらくなるほど重苦しい。恐怖のあまり逃げ出したくなると同時に、心を縫い付けて動きたくなくなる……そんな矛盾を押し付けられる。

先ほど坂柳への鞍替えを申し出た女子生徒……田宮に本条はゆっくりと近寄るが、誰一人としてそれを阻めない。

 

「だがな……最初から有栖を信じてついてきた奴と、不利になった途端にあっさりと鞍替えするような奴を、どうして同列に扱わないといけないのさ?ありえないだろ常識で考えて。……ところで田宮ちゃん、人が話してるときは顔上げよっか?」 

「っ、う、ああ……」

 

本条は恐怖のあまり俯いていた田宮の喉元に手を添え、そのまま目が合うように顔を上げさせるが、あの冷たい目で真正面から覗きこまれた田宮は、さらに震えて今にも泣き出しそうになる。流石に危険だと判断し止めようとするが、俺が動き出す前にさっと手を離し俺に向かって制止する。

 

「まあ落ち着けよ田宮ちゃん。鞍替えに関しても責めようって訳じゃないんだ、したけりゃ別に好きにすればいいさ。今後何かあれば勿論俺は手を差しのべる。ただ2万ポイントの肩代わりはダメ。それはこの特別試験で有栖を信じて不自由を我慢した彼らに対する報酬だからね。……わかった?」

 

その問いに田宮が涙目で何度も頷くと、本条は優しい笑みを浮かべてその頭を撫でる。

 

「怖がらせてゴメンね?」

「う、うんっ。大丈夫だよ……」

 

いつの間にか目も普段通りに戻っており、重苦しい雰囲気も消えている。そして昨日まで身勝手な振る舞いをする本条に腹を立てていた筈の田宮は、顔を紅潮させて俯いていた。……もう俺達のもとへは戻ってこないだろう。

 

「それじゃあ船に戻るとするか。……ああそれと葛城、有栖から伝言」

「……何?」

「残りの7日間でもう1つ特別試験があるけど指揮は引き続き任せるから、名誉挽回目指して頑張れだってさ」   

 

俺が失態を犯すことをわかっていたかのようなその伝言に、やはり坂柳が俺を失墜させるよう橋本達に命じたと確信する……が、追求したところでもう無意味だろう。そもそも俺の失態に対する皆の怒りも不満も、本条が全て飲み込み消し潰してしまった。当の本人は普段の調子で悠々と船へと歩みを進めるが、奴が命じた訳でもないのにクラスの大半が当然のようにそれについていく。

恐ろしい男だとあらためて思う。

奴の突出した学力や運動能力など氷山の一角でしかなかった。そして今日見せた、坂柳や堀北生徒会長をも凌駕するあの威圧感と人心掌握力も、本条の数ある才の一部でしかないのだろう。

 

実力の底が、まるで見えない。

 

逆に何を持ち得ないのかと問いたくなるが、奴と本当の意味で敵対しなくてよいのは俺達にとって幸運なのだろう。……もしあいつがAクラスを率いるのなら、俺の気苦労も無くなるのにと思うことは、はたして贅沢な悩みだろうか。

 




Q.桐葉君の欠点は?(性格とかは除く)

A.ファッションセンスが無い。悪い、じゃなく無い。あと動物に懐かれない。何故な物凄く怯えられるし釣竿にもかからない。


桐葉君は有栖ちゃんと違い弱者を打ちのめすことに愉悦を覚えたりしませんが、別に忌避感や罪悪感とかも抱いたりもしません。結果必要とあらば作業のように無感情にギロチンを振り降ろします。
ただ今回は大好きな植物達から引き離された悲しみから、無意識に相手を威圧するような感じになってしまったようです。今にも泣き出しそうな田宮さんに、実は内心ちょっと慌ててました。

葛城「なんて人身掌握力だ……!?」
桐葉(なんか知らないけど泣いちゃったから、思わず咄嗟に髪とか撫でちゃったけど……あっぶな、田宮ちゃんがチョロくなかったらセクハラで訴えられるところだった)
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