前半の特別試験が終了してから早3日。
「ほい、スリーカード」
「……ツーペア、です」
豪華客船地下2階のカジノにてギャラリーの注目を浴びながら、やや顔をひきつらせたディーラーから報酬のチップを受けとる。
「しかしお前ほんとポーカー強いな。……実はイカサマしてたりとかする?」
「カードに触れるの基本ディーラーなのにどうイカサマしろと?勝てる勝負を取りこぼさないだけさ」
坂柳派の側近が一人、ナイト(笑)こと橋本が茶化してくるも本気で言ってる訳ではないのか、呆れたように肩を竦める。というかそういうお前もそこそこ強いだろ。3日連続プラス収支なの知ってんだぞ?
「しかしここのカジノ……どれも1日にチャレンジできる回数に制限があるとか、随分とおかしなルールだよな」
「学校側も運で大量にポイントが稼げる仕組みを避けたいんでしょ。一応ここ日本の将来を担う人材を育成する学校だしね」
もしギャンブル中毒者をAクラスとして送り出したりしたら、この学校ひいては国の面目丸潰れだ。そうでなくてもプライベートポイントは国民の税金で負担されているものだし、大量にポイントを入手する手段は次々と規制されていくに違いない。以前俺の用いた稼ぎ方も来年からは通用しなくなるだろう。
「さてと……これ全部15番」
「うげ……やっぱ今日もそれするのかよ」
3万程度の利益が出るようチップを分けてから、それ以外を全部ルーレットに数字賭けする。そしてルーレットの中を転がる玉がどこに止まるのかを確認もせず、俺は分けたチップをプライベートポイントに換える。そのままカジノを出るが特に騒ぎが起きなかったことから、案の定外れたのだろう。
「毎度思うけど当たったかくらい確認しろよ」
「37分の1なんてそうそう当たるかよ」
「もったいねぇな~、30万近くあったぜあれ。いらないなら俺にくれても良いじゃん」
「この甘ったれが。初日に軍資金は貸してやったんだし、それで満足しなさいまったく」
「ちぇっ……だいたいなんで毎度毎度ドブに捨てるんだよ?」
「カジノで勝ちすぎる客は嫌われるんだよ。調子に乗って出禁とかされたくないし」
そう、ただでさえ俺は気を紛らわすための娯楽に飢えている。無人島での試験が終わったことで、大自然パゥワーによって封じられていた有栖欠乏症が再び猛威を奮っているのだ。学校側もさっさと次の特別試験を始めろよ何焦らしてくれてんだよああ退屈退屈暇暇暇暇……
「学校戻って有栖に会ったら……」
「また姫様の話かよ、ほんと仲良いな──」
「……訴えられてもいいから好き放題セクハラしてやろうかな?」
「いや待てぇぇえええ!?」
隣を歩いていた橋本が力の限り声を振り絞ってシャウトする。なんだようるさいな橋本、いつものスカした態度はどこ行った?
「……冗談だ」
「お前が言うとシャレにならないんだよ!?そんな髪伸ばそっかな?みたいなノリで人生棒に振らないでくれよ頼むから!」
まあ確かにこんなしょうもないノリで俺が退学処分になんてなったら、クラスにとって大打撃どころじゃないよな。
「わかってるわかってる。もしかしたら有栖はクラスの損害を考えて、訴えられず抱え込んじゃうかもしれないしな。そんな卑劣な真似は良くないか、うん」
あいつが泣き寝入りするなんてあり得ないとは思うが、1億分の1くらいは可能性がある。
「……いやちょっと待て、まず前提からして間違ってる気がする」
「あー?」
「坂柳がお前にセクハラされたとして……そもそも嫌がるのか?」
「………………おお、それは盲点だった」
「お前ら普段からしていちゃつきまくってる上に、アウトかセーフか判別しかねるグレーゾーンなこともなんかやってるみたいだし……」
「ふむ、確かに。この前悪ふざけでほとんど紐みたいな水着着てって頼んだら平然と着てたし、後ろから抱き締めて胸揉みしだきつつ顔中をペロペロと舐め回したところで、普通に流されそうでつまらねーか。よし、ここは高い高いしておちょくるだけに済ますか。あいつ子供扱いされんの嫌いだから間違いなくぶちギレるな」
「ゴメンちょっと待って流石に捌き切れない!?というかそのセクハラはお前らは良くても第三者に見られたら間違いなくアウトだから頼むから自重してくれ!というか毎回言うけどなんで付き合ってねぇんだよなんなんだよお前ら!?」
こっちも毎回言うけど俺達の勝手でしょうが。
そんな風に俺と橋本がしょうもないやり取りを繰り広げていると、どちらの携帯からもキーンという高い音が同時になった。……マナーモードでも強制的に音が鳴る重要性の高いメールだ。送られてくるのはこれが初めてになるな。
そしてほぼ同時にアナウンス流れる。
『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほど全ての生徒宛に連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認しその指示に従ってください。またメールが届いていない場合には、近くの教員まで申し出て……』
「……これは、いよいよ始まったな」
「待ちくたびれたよまったく。危うく人としての一線を越えそうになったぜ」
「マジでやめろよ、ほんと頼むぞ」
「わかってるわかってる。ちょっとお前で遊んでただけよ」
「……お前実は性格悪いよな」
「有栖の本性知ってて平然と仲良くしてる奴が聖人君子だとでも思った?」
送られてきたメールを確認すると、特別試験の説明を行うので午後6時までに2階201号室に時間厳守で集まれとのこと。橋本のメールにも目を通してみると、集合時間と集合場所が異なっていた。
「無人島試験と違って、クラスメイトと協力するタイプじゃないのかもな」
「かもねー。それじゃあ俺はそろそろ時間だから行ってくるわ。橋本も試験頑張ってね、応援してる」
「……一応聞くけど、本条はこの試験も適当に流すんだよな?」
「内容を聞かないことには断言できないけど、とりあえずそうなるね。この試験で葛城にとどめを刺す」
無人島試験の結果と俺のちょっとした思いつきのせいで、今やクラスの8割強は有栖の味方だ。有栖の伝言によりこの試験も葛城が取り仕切ることになるが、さらに失態を重ねれば派閥は完全に崩壊するだろう。……それどころか、ヒエラルキーの最下層まで落ちたりしてな、あぁかわいそ。
「……あ、リュンケルにポイントを肩代わりすること伝えとかなきゃ。橋本、リュンケルが何時に集合するか聞いといて」
「そんな回りくどいことしなくても、俺が代わりに伝えておこうか?」
「ダメダメ。お金のやり取りはちゃんと本人が出向かなきゃトラブルに繋がりかねないぜ」
「きっちりしてるのかいい加減なのか……」
呼び出し場所に指定された2階フロアはどういった場所か事前に説明されておらず、昨日までは全然生徒が立ち入らなかったのだが、今日は何人かの生徒がウロウロしてはバラバラの部屋に入っていくのが見えた。
俺がこのフロアに足を踏み入れた途端あちこちから警戒やら敵意やら好奇やらを孕んだ視線を感じるが、別に珍しいことでもないので気にせず指定された部屋のドア前に立ち、4回ノックする。
「入っていいぞ」
許可を得たのでドアを開け中に入ると、Dクラス担任の茶柱先生が椅子に腰掛けていた。……何故か警戒されてるんだけど、俺この先生に何かしたっけ?
部屋の中には既に二人の生徒……町田と森重が椅子に座っていた。スパイとして葛城派に潜り込んでいた森重と、無人島試験を終えてなお葛城についている町田。雰囲気がギスらない訳がなく、間の椅子を空けてお互いがお互いを視界に入れないようにしている。
「そこに座れ」
指示されたので特に気にすることなく間の椅子に座ると、案の定片側から敵意と警戒の視線が飛んでくる。
「Aクラスの本条、町田、森重だな。少し早いが全員集まったので、これより特別試験の説明を行う」
この時点でもう異質だな。試験の説明なんてどんな内容だろうと普通は、公平性を期すために全員同時にやるものだ。第一こんな少人数ずつバラバラに説明するとしたら、物凄い手間がかかるし非合理的だ。だいたいこのメンバーの人選何?接点ほぼ皆無なんですけど。
……まあとりあえず説明を聞こうか。
「今回は1年生全員を干支になぞらえた12のグループに分けて特別試験を行う。なお試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている」
……干支?数字でもアルファベットでもなく?何か引っ掛かるから頭の片隅に置いておこう。
「社会人に求められる基礎力は大きく分けて3つある。すなわちアクション、チームワーク……そしてシンキングだ。それら全てを備えてこそ優秀な大人足り得る」
チームワーク欠片も無くて申し訳ない。
「この前の無人島試験ではチームワークに比重が置かれた試験だったが、今回はシンキング……考え抜く力が必須な試験だ。現状を分析し課題を明らかにする力。問題解決のプロセスを導き出し準備する力。豊かな創像力で新しい価値を生み出す力……そういったものがこの試験で必要になるだろう」
要は有栖の得意分野か……つくづくあいつが参加できないのが悔やまれるな。
「ここまでで何か質問はあるか?」
「何故俺達3人だけで説明を受けているのですか?仮にグループ別に説明するにしても人数が少なすぎると思います」
町田のもっともな疑問に、茶柱先生は何故か薄く笑って答える。
「わかっているとは思うが、ここにいるお前達3人は同じグループとなる。そして今頃別の部屋で、お前達と同じグループとなるメンバーに同じ説明がされているだろう」
何かを察したのか町田と森重の目が見開かれる。Aに所属されただけあって地頭はそこそこ良いな。……わざわざグループ内で分けて説明するということは、おそらくグループの他のメンバーとやらは他クラスの生徒だ。
「お前達の配属されるグループは『卯』。ここにそのメンバーリストがあるが、退室時に返却させるので必要と思うならこの場で覚えておくことだ」
真ん中の俺は葉書サイズの紙を渡され、森重と町田はそれを覗き込む。……干支なのに『兎』グループなんだな。
Aクラス:本条桐葉 町田浩二 森重卓郎
Bクラス:一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太
Cクラス:伊吹澪 真鍋志保 藪菜々美 山下沙紀
Dクラス:綾小路清隆 軽井沢恵 外村秀雄 幸村照彦
おっ、コージーと卍解ちゃんがいるじゃん。どんな試験になるかはわからんが、どうにか退屈せずに済みそうだ。
「今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視しろ。そうすることが試験をクリアするための近道だ。試験中お前達はAクラスとしてでなく、兎グループとして行動することになる。そして試験の結果はグループ毎に設定されている」
今まで散々いがみ合い蹴落とし合いさせておいて、いきなりクラスの垣根を越えて協力し合えってか?相変わらず意地が悪いねこの学校。……いや、よく考えると協力しろなんて一言も言ってないな。またいつもの言葉遊びか?……だとしたらやっぱり意地が悪いねこの学校。
「特別試験の各結果は全部で4通りで例外は存在しない。わかりやすく理解してもらうために結果を記したプリントも用意してあるが、このプリントも持ち出しや撮影は禁止だからしっかり覚えろよ?」
今度は個別に用意されていた。書かれてあるルールの基本的な部分を要約すると……
・この試験は各グループに割り当てられた『優待者』を基点とする。
・試験開始当日午前8時、優待者に選ばれたかどうかを生徒全員にメールを送信する。
・試験の日程は明日から4日後の午後9時まで。
・1日に2度、グループごとに所定の時間と部屋で1時間の話し合いを行う。話し合いの内容は完全に自由。
・試験終了後、午後9時半から午後10時の間のみ、優待者が誰であったかの答えを受け付ける。解答は1人1回まで。
・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信する。なお優待者はメールにて解答する権利はない。
・自身が属するグループ以外の解答は無効
・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。
ここまでが基本となるルール。そしてこの試験、やけに禁止事項が多い。優待者かどうか知らせるメールの削除や文章の変更、または他クラスの携帯を強引に見る等々……要は不正な手段で優待者であることを隠そうとしたり優待者を暴こうとしたりといった、試験の根幹である『シンキング』から大きく逸脱した行為は全て退学処分とのこと。まあそれ普通の試験で言うカンニングみたいなもんだし当然の処置か。
それで、その試験の結果とやらは……
結果1:グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員にプライベートポイントを支給する(優待者は100万プライベートポイント、優待者以外の者は50万プライベートポイントが支給される)
結果2:優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで1人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。
ここまでならただ優待者が有利なだけの比較的平和な試験だが、残りの2つの結果で大きく覆ることになる。
結果3:優待者以外の者が試験終了を待たずして答えを学校に告げ正解した場合、その生徒の所属するクラスはプラス50クラスポイント、正解者には50万プライベートポイントが支給される。優待者を見抜かれたクラスはマイナス50クラスポイントされ、そのグループの試験は終了(優待者と同じクラスメイトが正解した場合、解答を無効とし試験は続行)。
結果4:優待者以外の者が試験終了を待たずして答えを学校に告げ不正解だった場合、答えを間違えた生徒の所属するクラスはマイナス50クラスポイント。優待者には50万プライベートポイントが支給され、優待者の所属クラスはプラス50クラスポイント。答えを間違えた時点でグループの試験は終了(優待者と同じクラスメイトが不正解した場合、解答を無効とし試験は続行)。
うん、やっぱグループで協力させる気無いわこれ。こんなもん優待者は必死になって隠そうとするし、それ以外は血眼になって炙り出そうとするだろう。
……仮に俺が真剣に取り組むつもりだったら、優待者に選ばれないとさぞやガッカリするだろうな。だって無人島のリーダーのときと同じで、探る側だと優待者多分すぐわかるもん。俺が楽しむ暇もなく速攻で終了するもん。こんなもんシンキングでも何でもねーよごめんね先生達って何か申し訳なくなると思う。
原作ではカジノがあるか不明ですが、「豪華客船なら当然あるだろ」という浅はかな考えで、この作品内ではあることにします。
【Aクラス主要キャラに聞く!桐葉君をどう思っているかアンケート】
葛城康平……警戒、畏怖、諦め
戸塚弥彦……畏怖、敵意
神室真澄……変人、さっさと坂柳と引っ付け
鬼頭隼……畏敬、さっさと坂柳と引っ付け
橋本正義……打算ありきの友情、それはそれとしてさっさと坂柳と引っ付け
有栖……この世で最も信頼するパートナー