一之瀬帆波……友人、警戒
神崎隆二……友人、警戒
白波千尋……恐怖
『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人として自覚を持って行動し試験に臨んでください。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。兎グループの方は2階兎部屋に集合して下さい』
特別試験1日目の朝8時。
学校から送られてきたメールによると、どうやら俺は優待者ではないらしい。隠しきれるかどうかのスリルは味わえなくなったが、こればっかりは仕方ない。
早々に朝食を済ませていた俺は船内を適当に散策しながら、昨日の説明で引っ掛かっている部分を頭の中で整理することに。
まずはグループの区別に十二支を選んだこと。12のグループを作るのだから十二支がちょうどよかった、と言われればそれまでだが……十二支を用いるためにグループを12にしたなら話は変わってくる。あくまで可能性なので囚われすぎるのはダメだが、頭の片隅には置いておこう。
次に、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を無視しろ、とは言われたが協力しろとは一言も言っていなかったこと。というか試験の内容からして協力させる気が欠片も無い。何故ならお手てつないで仲良しこよしで試験に取り組んでも、結果1では肝心のクラスポイントに一切影響が無いからだ。よってこの試験は誰よりも早く優待者を見破り仕留められるかが重要になってくる。ならば何故先生は何故あんなことを言ったのか……?
そして、優待者は学校側が公平かつ厳正に調整するということ。前の試験でもクラス間の公平さは極力徹底されていたので、おそらく優待者は各クラス毎に3人ずつと考えていいだろうけど、優待者の選び方もランダムではなく何か規則性があるだろう。だとしたらグループが十二支であることや、クラスの関係性を無視するという大前提は、その法則を解き明かすヒントになるかもしれない。
これらを手がかりをもとに考えれば優待者が誰なのか、いくつかの推理案が思い浮かぶが……ダメだ、手がかりが少な過ぎて全て憶測止まりだね。推理をおおよそ確定させるには最低でも自分のクラスの優待者を全員分、より確実にするためには他クラスの優待者をせめて1人は把握する必要があるかな。しかしいくらクラスメイトとはいえ自分が優待者だと打ち明けるのは少々抵抗があるだろう。今回の試験で有利なのは、平田君や卍解ちゃんのように自然と優待者の情報が集まってくる奴か、リュンケルのようにクラスメイトから強引に聞き出せる奴──
「ありゃ?噂をすれば……」
甲板にあるカフェで、ホリリンとコージーに絡んでいるリュンケルが見えた。引き連れている子は確か、伊吹ちゃんだったかな。ここからじゃちょっと遠いけど、好奇心には勝てないので近寄っていく。
「おーいリュンケルー、何してんのー?というか最近よく会うねー」
「本条……」
さっきまで凄く邪悪な笑みを浮かべながらホリリンに絡んでいたのに、俺の顔を見るや苛立った表情へと変わる。なんでや。
「テメェ、アドレス交換した途端くだらねえメール送ってくんじゃねえよ」
「くだらないとは失敬な。昨日から俺と有栖で始めた日刊メール小説第2弾『浦島太郎的な話』を愚弄するか貴様」
「1話の冒頭で浦島太郎が死ぬ話は浦島太郎じゃねぇだろうが」
「特別試験前に何してるのよあなた……」
「そうかぁ……そこまで迷惑だったならごめんね、もう送るのやめるから」
「あ?おい、ふざけんなコラ。あれで打ち切られたら逆に気になるだろうが、始めたんなら責任持って完結させろ。亀三郎は乙姫の魔の手から逃れられたのか?」
「しっかり熟読してるじゃないの。あとなんで乙姫がラスボスポジション?」
「……本条、気になるからその小説俺にも送ってくれないか?」
「綾小路君まで乗っからないの!」
「私も、ちょっと気になる……」
「伊吹さんあなたもなの!?」
ありゃりゃ、さっきまでコーヒーを優雅に飲んでいたホリリンは、あっという間に気苦労ポジションに成り下がっちゃった。真面目な人ってこういうとき損だよね。
「そろそろホリリンが気の毒だから話を戻すけど、こんな朝っぱらから何を揉めてたの?」
「別に揉めちゃいねぇよ。ちょっとした親切心で忠告に来たのさ、Dクラスにいる陰で暗躍している奴に鈴音を通してな」
「……なるほど。どんな手を使ってでも突き止めて、無人島試験での借りを返してやるって宣戦布告したのか」
「クク、話が早くて助かるぜ」
だってさコージー。
こんなまわりくどい言い回しをするってことは、リュンケルはまだコージーだと気づいてないみたいだ。
「私に出し抜かれて悔しい気持ちはわかるけれど、どうしてそんなに執着するの?他にも警戒する相手はいるでしょう?一之瀬さんや葛城君、噂に聞く坂柳さん……それにそこのおちゃらけた人とかね」
失敬な。
「葛城と一之瀬は既に実力が知れた。どっちも潰そうと思えばいつでも潰せる。……本条と坂柳は言わばメインディッシュだ。こんな早々に喰らうのはもったいねぇ」
「なあコージー、俺メインディッシュらしいぞ。豆腐ハンバーグらしいぞ」
「チョイスが渋いな」
「もう黙っててくれないかしら本条君。あなたがいると緊迫感というか、シリアスな空気が死滅するわ」
なんとも心外な言い分だったがリュンケルも同じ心境だったのか、なんとも微妙な表情で伊吹ちゃんとともに帰っていった。まったく失礼しちゃうぜ。
「なんかリュンケルに目をつけられちゃったみたいだけど、黒幕を暴かれないように頑張ってね。俺は黙っててあげるから」
「その口ぶりからして、龍園君の言う裏の人物とやらの話を信じるようね」
「この前会長さんに勧誘されてた人でしょ?」
間髪入れずにそう答えると、ホリリンは僅かに動揺する素振りを見せる。あのとき君が生徒会室の外で盗み聞きしていたの、もしやバレてないと思った?そしてコージー、君はほんと動じないね可愛くないなぁ。
「……何の話かしら?」
「悪いけど俺に嘘や隠し事は通用しないよ。……まあそのせいで今回の試験が茶番に成り下がっちゃうんだけども」
「っ!あなた、もしかして優待者も……!?」
「残念ながらすぐに見抜けるだろうね。でもまあ裏切らないから安心して。今回の試験で葛城には、落ちるところまで落ちてもらわないといけないからね」
そう言い残してその場を去る。
今回の試験じゃ、恐怖と暴力でクラスを支配しているリュンケルは圧倒的優位に立てる。他クラスの携帯を強引に見たりすれば退学だが、自分のクラスならグレーゾーンだ。優待者の情報が3人分も集まれば、おそらく優待者を選ぶ法則も解き明かせるだろう。
今回俺のやることは2つ……コージーが裏でどう動くのかを楽しみつつ、卍解ちゃんがこの試験にどう取り組んでいくのか観察する。無人島試験では正直ガッカリさせられたから名誉挽回を期待してるよ、卍解だけに。
昨日と寸分違わない昼食を済ませてから指定された場所……二階の兎と書かれたプレートがかけられた部屋に入ると、もう既に俺以外の11人全員が集まっていてクラス別に固まるように円形に並べられた椅子に座っていた。警戒やら敵意やら好意やらの視線を浴びつつ、俺は空いている席……確かBクラスの浜口君の隣に座る。程なくして試験開始の時刻を迎え、グループディスカッション開始のアナウンスが通達された。
「それじゃあ学校から指示されてる自己紹介から始めよっか。司会役の一之瀬帆波さん、どうぞ進行よろしくお願いしやす」
「にゃっ!?私!?」
「そうだよ君だよ。ちょっと周り見てみ?仕切れそうなの君しかいないでしょうが」
「いや、率先して話を切り出した本条君も多分できるよね……」
「あのね、俺が仕切るの大好きだったらおとなしく有栖に従ってねーよ。もう四の五の言ってないでちゃっちゃと済ましちゃおうよ」
「強引だなあ……でもまあ仕方ないか、本条君だし。それじゃあ任されたからにはしっかりやり遂げるよー!」
よし、丸投げ成功。わざわざ生徒会に志願するだけあって、やはり周りをまとめるのは嫌いじゃないらしい。しかしここで空気の読めないクラスメイト、町田が難色を示す。
「今さら自己紹介の必要があるのか?したい奴だけやれば──」
「はーい皆、今日からこいつのことはクソゲロって呼んでいいからねー」
「はあ!?本条お前っ!」
「いらん茶々いれんなバカモノー。自己紹介すらできない奴に人権なんて無いんだよ」
「流石にそこまでは言わないけど……学校が指定した以上、町田君がペナルティを受けても文句は言えないよ?それにもしかしたらグループ全体の責任になるかもしれないよね」
俺だけじゃなく一之瀬にも諭され町田はすごすごと引き下がり、そして始まる自己紹介タイム。無難な自己紹介(コージーのはひどかったが)が続く中、俺が自己紹介とともに全員のポケットからバルーンアートが飛び出すマジックを披露したら凄く盛り上がった。
「さてと、これで学校からの言いつけは果たせたことだし、これからどうしようか?強引に本条君に進行を任されたけど、嫌なら遠慮せず言ってね」
そんなことを言われても、話し過ぎて余計なボロを出さないのが鉄則の今回の試験で、進行役なんてやりたがる人などそういない。俺に丸投げされて嫌な顔一つしない卍解ちゃんの方がおかしいのだ。
「それじゃあ私が進めるけど、まず皆に聞きたいことがあるから質問させてもらうね。私としては皆で試験をクリアする……つまり結果1を追い求めるのが最善だと思うんだけど、みんなはどう思ってるのかな?」
はいダウト。
普段嘘をつかないからか凄くわかりやすい。もっとも態度にはいっさい出してないから、俺以外にはそうそうバレないとは思うが。
周りのほとんどが卍解ちゃんに同意する傍ら、俺は彼女達Bクラスの方針について分析する。
結果1が最善というのが嘘だとしたら卍解ちゃん……いや、Bクラスが狙っているのは結果3か結果4。やはり結果1では大量のプラベートポイントが手に入るものの、下克上に必要となるクラスポイントには一切影響が無い。プラベートポイントに比較的余裕のあるBクラスが結果1を最善だとは考えないだろう。……かといってここで結果3を狙うとなれば、これまで彼女が築いた清廉潔白な善人というイメージは崩壊する。それでは下手したら彼女の人徳で成り立っているBクラスの結束にも亀裂が入りかねないので、消去法で卍解ちゃんにとっての最善は結果4……もっと具体的に言えばAクラスかCクラス、できればAクラスに裏切らせて外させることだろうね。……だけど果たしてそう上手くいくかな?
「その質問はずるくないか?優待者でないなら報酬を期待するのは当然だ。それに堂々と裏切ると宣言する奴もいないだろう。これじゃまるで優待者であることを打ち明けなければ悪いと言っているようなものだ」
「試験としては妥当な質問じゃないですか?嫌なら答えなければいいだけです」
浜口君の切り返しにも町田は動じない。というか昨日葛城にあれこれ吹き込まれたのだとしたら、むしろここまでは想定内だろう。
「確かにその通りだな。なら俺達Aクラスは沈黙させてもらうことにする」
町田は腕を組んで拒否を示し、森重もそれにならい沈黙を決め込む姿勢のようだ。今回の試験も葛城が指揮を取るから、実は坂柳派だった森重が従うことは別におかしくない。しかし葛城め、今の崖っぷちの状況でも慎重かつ堅実な戦術を優先するとは……リーダーの座を死守することよりもクラスを第一に考えるか。そこまでいくと呆れを通り越して敬服するぜ。
……俺?誰が従うかよそんなつまらねー作戦。くどいようだけどそもそも俺そんな作戦聞かされてないしー。どっかのハゲにミーティングからハブられたしー。
龍園君がどんどん面白キャラになっていく……