葛城康平……信念は評価する
神室真澄……いつもお疲れ様です
鬼頭隼……手袋に何か思い入れあんの?
坂柳有栖……暫定“将”。大好き。
それ以外……興味無し
特別試験試験2日目。昨日と同じようにマスミンと昼食を済ませた後、グループディスカッションの場へと向かう。特に理由は無いがなんか気分が良かったので、コナンのメインテーマでも口ずさみながら。
「暢気なもんだな。つか縁起でもねぇことしてんじゃねえよ、船が爆発でもしたらどうするつもりだ?」
いつものように配下を連れたリュンケルが、呆れたように声をかけてきた。
「だとしたら犯人は君だね。なんかもう見るからに悪役だし」
「そういう場合明らかに怪しいような奴は逆にシロで、実はいつも鈴音といる金魚の糞みたいな奴が犯人なんだよ」
うん、大正解。
リュンケル本人はそんなつもりないかもしれないけど、実に見事な名推理だ。というか悪人面だって自覚あるんだね君。
「どうだ?優待者は絞り込めたかよ?」
「まあね。そういう君は?」
「俺の方はまだサッパリだなあ。俺のグループでどいつが優待者だと思うか、よかったら教えてくれよ?」
「別に構わないけどさ、そもそも君のグループには誰がいたっけ?」
「……知ってはいたが本当に今回の試験も流すみてえだな。どうりで教師共がお前を『竜』から外すわけだぜ」
そう言ってリュンケルは携帯をカチャカチャと弄ってから手渡してくる。画面には『竜』グループのメンバーがまとめられていた。
Aクラス:葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春
Bクラス:安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美
Cクラス:小田巧海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔
Dクラス:櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音
わーお、とてもじゃないが無作為に選んだとは思えない人選。卍解ちゃんが混じってないのが不自然だけど、多分俺か、気づいているならコージーの情報収集目的かね。星乃宮先生ってウチの担任と違って担当するクラスに肩入れしてるらしいし。……まあそれはともかく、このグループの優待者はというと、
「櫛田ちゃんかな」
「……クク、どうやらハッタリじゃないみたいだな。でもいいのか?他クラスの俺に教えちまってよ」
「そりゃ君が本当に優待者を暴いてなかったら俺も拒否してたよ。俺の予想を根拠もなく信じたってことは、要はそういうことでしょ」
正直櫛田ちゃんじゃない可能性が1億分の1ぐらいあったが、リュンケルの反応から俺の推測した優待者の法則は正解だと確信した。
「……つくづくふざけた野郎だ。どうやったかは知らねえが、お前も優待者の法則を掴んでるらしい。だというのに試験を放棄するなんざイカれてるぜ」
「それはリュンケルもだろ?君こそ優待者の法則を掴んだなら、さっさとケリ付けて一人勝ちすりゃいいのに」
「俺には俺のやり方があるんだよ。まあこのままテメエが何もしなきゃ、Aクラスはめでたく屈辱的な大敗を迎えるだろうな」
「へえ、そりゃ大変だ。葛城派も年貢の納めどきかね、可哀想に」
「可哀想の一言で片付けるあたり、お前も大概ロクデナシだな」
仕方ないじゃないか、これは優先順位の問題だ。有栖とランスが対立するなら俺は有栖の肩を持つ……ただそれだけの話だ。
そして迎えた3回目の話し合い。
「第1回!クラス対抗ミルクパズルタイムアターーーック!」
「あ、あはは……」
「……もう何も言うまい」
開始早々いつものように唐突にテーマを切り出すが、そろそろ馴れてきたのか誰も異論を挟まなかったので、それぞれに100ピースの真っ白なジグソーパズルが入った箱と、パズルを嵌め込むフレームを配る。
「今回はそれぞれのクラスの結束力が試される。それなら先の無人島試験で結果が出たじゃないかと反論するかもしれないが、それぞれのクラスに頼れるリーダーがいたからこそまとまれたという可能性もある」
「
「しかし今回試されるのは、急造メンバーでも上手く連携を取れるかということさ。まあリーダーポジの卍解ちゃんがいるBクラスが圧倒的優位だけど、そこはまあうん、頑張ってね」
「急に雑だな!?」
幸村君の指摘はもっともだが、だからといって卍解ちゃんを除け者にしたりしたらBクラスに恨まれそうだ。そんな中、当の卍解ちゃんは今回も隅っこで話し合いを拒否する町田達を見ながら俺に声をかける。
「ねえ本条君。クラス対抗といっても、町田君達は参加しないんじゃないかなー?」
「当然だ、誰がそんなくだらない遊びに──」
「必然的にAクラスは俺1人になるね。まあ大丈夫だよ、最初から戦力にカウントしてないし」
ド直球の役立たず宣言に町田が顔をしかめる中、何を思ったか軽井沢ちゃんが椅子ごと俺の隣に移動してきた。
「流石に本条君でも1人じゃ不利すぎるでしょ。ここはあたしが手伝ってあげる」
わー、いらねー。すごくいらねー。
「もしもーしDクラスさん、お仲間が堂々と裏切り宣言してますけどいいのかなー?」
「俺達は別に構わん。軽井沢がいなくなったところで何の支障も無い」
「は?どういう意味よ?」
「お前がいたところで何の役にも立たんと言ってるんだ。……外村も綾小路も異論は無いな?」
「拙者も別に構わんでござる」
「……2人が納得してるならオレも特に言うことはない」
「マジムカつく。アイツら見返してやろうよ本条君、実はあたしこういうの得意なんだから」
信憑性の欠片も無いが……まあいいか、多少足枷が着いたところで結果は変わらない。
「各クラス準備はいいね……それじゃあ、ゲーム開始ぃぃいいいいっ!」
掛け声と同時に俺は箱をぶちまけ、その中から隅の部分となるピースだけを抜き出していく。
「それじゃあ軽井沢ちゃん、まずは定石通り隅から揃えていってね。それ以外は俺がちゃっちゃとやっとくから」
「わかったよ本条君、あたしに任せといて!……って何これ!?全部真っ白じゃん!」
軽井沢ちゃんが初めて挑戦するであろうミルクパズルに悪戦苦闘する傍ら、俺は中の部分のピースを揃えながら各クラスの様子を伺う。
「むむむむむぅ……どれもこれも同じに見えて区別がまったくつかないでござるぅ……」
「……悪い幸村、オレもお手上げだ」
「軽井沢以外も役に立たないことを完全に失念していた……!」
Dクラスはコージーと外村君が早々にギブアップ。仲間への不満を隠そうともしない幸村君もかなり苦戦しているし、多分時間内に終わらないだろうね。名目上結束力を競う勝負なのに早々に仲間割れをするし、色々と問題外なチームだ。
「……このピースどこら辺だと思う?」
「こんなのわかんないよ~……」
「ちょっと伊吹さん、あなたも少しは協力しなさいよ!」
「ただでさえこんなチマチマした作業苦手なのに、あんた達なんかとやってちゃできるもんもできないわよ」
Cクラスは眞鍋ちゃん達3人は仲良くやっているが、伊吹ちゃんだけは早々にゲームを諦めている。その態度に眞鍋ちゃんは不満げだが、クラス内の力関係からか強くは言えない様子。リュンケルという絶対的支配者がいないから、正直Dクラスと似たり寄ったりだ。
「浜口君は枠をお願い、別府君は私と中のピースを区分しよっか」
「「わかりました」」
Bクラスは卍解ちゃんの的確な指揮のもと、効率的に作業に取り組んでいる。このまま順調に行けば時間内に揃えられるだろう。……全部予想した通りの結果か、つまらん。
「…………よし、できたよ本条君!」
「さんきゅー軽井沢ちゃん。後は仕上げに……」
きちんと端のピースで囲われたフレームに、揃え終わった中の部分を嵌め込んでフィニッシュ。
「えっ、もう揃ったの!?」
「経験者が遅れを取るわけにはいかないからね、慣れたらそこまで難しくない作業だし。……ともかくこれで俺達の勝ちだね」
「やったぁっ!ふん、偉そうにしてたくせに幸村君全然大したことないじゃん!」
「このっ……!ほとんど本条が揃えたくせに……!」
何やら幸村君が苛立ってるがそれでも負けは負けだ、甘んじて受け入れるがよい。
その後は軽井沢ちゃんと適当におしゃべりしながら残り時間を過ごした。よっぽど眞鍋ちゃん達に詰め寄られるのが怖いのか、どうにかして俺に好かれようと内心必死になってたな。前もって有栖のことを仄めかしておいたから、ボディタッチとかはしなかったけど。
うーん……俺の目の届くところなら庇ってあげてもいいけど、預かり知らないところで苛められても自分で何とかしてね。……いや、それともコージーが何かしら手を打つか?このゲーム中もずっと軽井沢ちゃんを観察してたみたいだし。
結局何のサプライズもなく、Bクラスがギリギリ時間内に完成させた一方で、DクラスとCクラスは似たり寄ったりの結果だった。
「さてとー。ちょっと行ってくるね」
「どこへ、ですか」
「葛城君に話をね」
配ったミルクパズルを回収して懐にしまっていると、卍解ちゃん達がそんなやり取りをしていた。籠城作戦をやめてもらうよう説得しにいくつもりなら、残念ながら徒労に終わるだろう。敵対する生徒に突っつかれたぐらいで心変わりするほど、ランスの信念は安くない。
「オレもついていっていいか?」
「全然いいけど、綾小路君も葛城君に?」
「堀北が葛城と同じグループらしいからな」
「なるほどー、じゃあ一緒に行こうか。あっ、本条君もどう?」
「興味にゃ~い」
時間をドブに捨てるのは嫌なので、俺は苦笑いする卍解ちゃんの横を通り過ぎ部屋を出る。さてと、それじゃあ今日もカジノでノルマをこなすとするか。試験終了した橋本は迂闊に退学にならないよう部屋でおとなしくしてるし、今日からは余計な茶々を入れられずに済む。
カジノにていつも通りのルーティンを消化し終えた後、何やら卍解ちゃんから少し話がしたいとのメールが来ていたので、指定されたデッキへと足を運ぶと兎グループのメンバー3人が待機していた。
「やっほー卍解ちゃんと愉快な仲間達、ついさっきぶりー」
「ええと、急に呼び出してごめんね本条君」
「別に気にしなくてもよろしい。それじゃ冷たいものでも飲みながら話そっか」
そう言って俺は懐から花束をバラけるようにして上に放り投げる。卍解ちゃん達は思わずそれに視線が集中し、気がついたときには彼女等の手にはアイスティーの入ったカップが握らされていた。
「ほんとすごいね本条君の手品……将来マジシャンでもやっていけるんじゃない?」
「あくまで趣味でやってることだし、ビジネスにするつもりは今のところ無いかな。……それよりどうしたのさ?嫌でも今日あと1回は会うのにわざわざ呼び出したってことは、緊急の案件だったりする?どんな悪巧み?」
「悪巧み限定なんだ……いやまあ当たらずとも遠からずだけど、そこまで緊急の用件という訳じゃなくてね……本条君にお願いがあるの」
ふむ、お願い……?
優待者が誰か教えてとかだったら失望せざるを得ないけど、流石にそんなバカな女ではないだろうし……何を頼まれるのだろう?
「話し合いはあと3回残ってるよね?……最後の話し合い時に勝負に出るつもりだから、本条君にはおとなしくしていてほしいの」
「ふむ?なんでそんなことを俺にわざわざ頼むのさ?」
というかそもそも一回目のディスカッションで進行を君に任せたんだから、わざわざ断りを入れなくても好きにしたらいいじゃないか。
「我ながら情けない話だけど……本条君と会話の主導権を奪い合ったら勝ち目がないって、これまでの話し合いで痛感させられたからね」
…………おお!思い返してよく考えてみると、ほとんど俺が仕切ってたわ。これはびっくり。
「うん、別に構わないよ」
「代わりに次とその次の話し合いは好きにしていいから……え?いいの?」
「どうやら難しいこと考えてたか知らないけど、俺がジェンガだのパズルだのを持ち出したのは、話し合いがグダグダになってつまらなくなるのが嫌だったからだよ。グループの主導権は気がついたら握っちゃってただけで」
多分卍解ちゃん達の頭の中での俺は、表向きは町田といがみ合いながらも実はグループをコントロールして、Aクラス籠城作戦を妨害する輩を前もって摘み取る恐ろしい強敵にでもなっていたのだろう。
「頼んでおいてなんだけど、本当にいいの?多分Aクラスにとって不利になると思うんだけど……」
「そんなもん興味無いよ。有栖が参加してない以上、そもそも最初から真剣に取り組む気無かったし。卍解ちゃん達が何やら面白いことを企んでるなら、邪魔する理由はどこにも無いね」
「そ、そうなんだ……」
本音を言えばここは実力で俺から主導権を奪い取って欲しかったな。卍解ちゃんの善性は利点でもあり欠点でもある。わざわざ俺の提案に耳を傾けてしまうから、あっさりとペースを持ってかれる。有栖やリュンケルがグループにいれば、多分こんな簡単に場を支配することはできなかっただろう。……まあ最初から高望みし過ぎるのは良くないな、うん。人生妥協も大事だし、今後の成長に期待しよう。それに今回の試験ではたまたまマイナスに働いたからといって、不要と切り捨ててしまうのは時期尚早だろう。
ちなみに彼が持ち歩いてる花は全て造花です。植物を橋本君よりも丁重に扱う男。
一之瀬さんは味方からの信頼と求心力では右に出るものはいませんが、敵味方入り乱れた混成チームにおいては桐葉君の支配力に大きく劣ります。
綾小路君や有栖ちゃんや龍園君のように、常に桐葉君に対して警戒心を持ち続けられる精神力がなければ、いつの間にかあっさりと懐柔されますからね。