有栖「これまでもう耳に胼胝ができるほど聞かれた質問ですね……」
桐葉「だな。ふーむ、俺と有栖の関係かぁ……友達、恋人、兄妹……どれもしっくりこないなー。遊戯王で例えるなら有栖が名も無きファラオ、俺が相棒といった関係だな」
有栖「待ちなさい桐葉。なんで私がファラオなんですか、相棒は私でしょう?」
桐葉「あー?何言ってんだ有栖。お前が王なんだからファラオはお前だろ。俺が相棒だ」
有栖「いえ私です」
桐葉「いや俺だ」
葛城「おいやめろ、二人して相棒を取り合うな。ファラオが可哀想だろう」
「みんな、少しいいだろうか」
真嶋先生が出ていった直後、ポイントをどう使おうだの入学式終わったらどこ遊びにいこうだのクラスメイト達が浮き足立つ中、葛城が椅子から立ち上がりクラス全員に向けて話しかけた。
「俺達は今日から三年間同じクラスで学校生活を送る。そのためクラスの親睦を深める意味も込めて、自己紹介の場を設けたいと考えているのだが、どうだろうか?」
「良いんじゃね?」
「ええ、私も賛成します」
長いものには巻かれるのが日本人の性。先ほど真嶋先生とのやり取りでクラスから一目置かれているだろう二人、ついでに入学初日に女の子をお姫様抱っこで運んだ俺が賛同した以上、反対意見は出ないだろう。提案自体も反対するようなことでも無いだろうしな。
「ありがとう。ではまずは提案した俺から始めさせてもらう。俺は葛城康平。全頭無毛症で物心ついたときから禿頭で、自分で言うのもなんだが厳つい顔つきをしていて近寄り難いだろうが、どうか気安く接してほしい。小、中学では生徒会に属していて、この学校でも志願する心積もりだ。よろしく頼む」
なるほど。真面目で誠実、意思も強く頭も切れる……髪は無いが中々骨のある男のようだ。有栖も玩具を買ってもらった子供のように楽しそうな笑みを浮かべている。この様子から、とりあえず対抗馬として合格らしい。
その後も自己紹介は机順に進む。名前だけで終わらせた無愛想な神室、見た目通りチャラい男だとクラス中に認知された橋本、葛城に続いて本当に同い年かと突っ込みたくなるような風貌の鬼頭と中々濃いラインナップ続き、とうとう俺の番が回ってきた。さて、ファンタジスタの腕が鳴るぜ。
「俺は本条桐葉。特技はスポーツ全般で、趣味はガーデニングと……最近だとマジックに嵌まってるかな」
「マジで?面白そうだから何か披露してくれよ」
「それじゃあ欲しがりさんの橋本のリクエストにお応えして……はい!」
俺はハンカチを取り出しヒラヒラとクラスの皆に見せてから、ゆっくり手のひらに被せてから一気に取っ払う。すると俺の手のひらに一輪の花……白いカサブランカが。何人かが感心したように拍手する中、俺はもう一度ハンカチを被せて取っ払うと、カサブランカは影も形も無くなる。
「君達、制服の右ポケットを確かめてみな」
クラスメイト達は首を傾げながらもポケットを探ると、全員のポケットから白いカサブランカが一輪ずつ。クラス中が言葉を失う中、俺は自分のポケットから取り出したカサブランカを持ち仕上げに入る。
「それではカサブランカの花言葉に従い、俺達の入学と今後の高校生活に…………“祝福”を」
先ほどとは比較にならない拍手喝采を浴びながら、全てをやりきった俺は着席する。
「見事な御手前です……と感心したいところですが、加減を知ってください。貴方の後だとやりにくくて仕方がありませんよ」
「自己紹介はエンターテイメントだからな~。それもクラス替えが無いんじゃあ今がラストチャンスだ。……それに、お前ほどの女がこの程度で尻込みするかよ」
「ふふ……それもそうですね。そんなことでは、貴方の将は務まらないでしょうし」
俺のパフォーマンスでエキサイトしていたクラスメイツは、有栖がゆっくりと席から立ち上がった途端嘘のように静かになった……というより静かにさせられた。有栖が特に何かしたわけではない、ただこの子の放つ覇気にクラス中が圧倒され飲み込まれただけだ。
「坂柳有栖と申します。私は先天性の疾患を患っており体が丈夫ではなく、手に持ったこの杖が無ければ日常生活にも支障をきたしてしまいます。今後ご迷惑をおかけしてしまうこともあるでしょうが、どうかよろしくお願いします」
いかにも自分は弱者ですと言いたげな自己紹介だが、内情を知ってる俺からすれば腸がよじれそうな程白々しい内容だ。病弱関係ない方向から迷惑かける気満々の奴が抜かしよる。ほら、俺でなくともクラスの誰一人として弱者を見る目で有栖を見ていない。特に葛城なんて険しい顔で冷や汗をかきながら露骨に警戒してるし。
その後俺達は自己紹介も(俺と有栖の後だから残りの奴等がすごく肩身狭そうにしていたのは正直悪かったと思ってる)、偉いさんの自己満足もとい入学式も終わった。
ウチのクラスは何人かは普通に帰宅し、葛城と有栖はそれぞれ10人ちょいの生徒とどこかで親睦会を開くらしい。
「じゃあな有栖。後で必需品の買い出し手伝うから、終わったら連絡くれ」
「わかりました、お手数おかけします」
「一度別れてからなんて回りくどいことしなくても、一緒に着いてくればいいじゃんか」
「ちょいと野暮用があってね、まあまた別の機会に誘ってくれ」
橋本のもっともな疑問に適当に理由をでっち上げて教室を後にした。親睦会と銘打っているが、実際は有栖による今後の方針の説明会となるだろう。長い付き合いだ、有栖の考えなんて一々言われなくてもだいたい理解してるので、そんな面倒かつ無意味な集まりに出席したくない。桐葉君退屈嫌いだもん。
さてと……とりあえず有栖が連絡してくるまで学校でも探索するか。
俺は至るところに設置された監視カメラに、逐一目線を合わせてピースしながら校舎を練り歩く。途中で食堂や二、三年の教室を通りかかり色々と確認を済ませ、そろそろ探索を終えて外でぶらぶらしようかと思いだしたそのとき、丁度最後であろうカメラを発見しピースをしている俺に二人の男女が近づいてきた。立ち振舞いからして隙が全く無いし相当できるなこの男。黒髪なのも好ポイントだ。
「何をしている」
「カメラを見つけるたび決めポーズをとりつつ校内を探索中」
「何故カメラに決めポーズをとる」
「理由は特に無い」
キリッとした表情の眼鏡をかけた男性と、ノートを手に持ったお団子ツインの女性……おい待ちなさいお団子ちゃん、何だその変人を見るかのような困惑顔は。桐葉君泣いちゃうぞ?
「生徒会長と書記が俺に何の用っすか?」
「……ほう?」
「な、なんで私達が生徒会役員だと?」
「そっちの会長さんがカイチョーフェイスだからっすね」
「会長フェイス!?」
「説明しようお団子ちゃん!カイチョーフェイスとは!生徒会長っぽい顔の人のことなのだ!」
「いやそのまんまじゃないですか!というかお団子ちゃんって何ですか!?私一応先輩ですよ!」
「説明しよう!」
「しなくていいですよ!」
「お団子ちゃんとは!」
「いや無視すんな!礼儀というものを顔面に叩き込んで差し上げましょうかこの野郎!」
うがーっと両手を振り上げて怒るお団子ちゃん改め橘先輩。やべぇこの人おちょくるとめっちゃ楽しいやめられない止まらない。
「落ち着け橘、新入生相手に感情的になってどうする。生徒会役員としての品位を損ねるつもりか」
「っ……申し訳ありませんっ……」
おっと何か罪悪感。
「あー……すみませんね橘先輩。先輩があまりにも良いリアクションなんで、つい調子に乗ってからかい過ぎちゃいました」
「そ、それで謝っているつもりなんですか……!」
「それじゃあ機嫌を損ねちゃったお詫びに……」
俺は橘先輩の手を取りハンカチを被せる。
「えっ、ちょ、何するんです-」
「1・2・はいっ」
「……えっ、花?」
ハンカチを取ると橘先輩の手は、一輪のギボウシを握りしめていた。
「ギボウシの花言葉は“献身”。貴方の日々の行いはきっと、会長さんの支えになっていますよ。……いやまあ俺達初対面だから実際はどうなのかは知らないっすけどね」
「……ふふっ、何ですかそれ?最後の最後で締まらない人ですねっ」
口に手をあててクスクスと笑う橘先輩。よかったよかった、どうやら機嫌を直してくれたらしい。
「なるほど……中々ユニークな生徒のようだ」
「生粋のファンタジスタなもんで」
「自己紹介がまだだったな。俺は3年Aクラス、生徒会長の堀北学だ」
「同じく3年Aクラス、書記の橘茜です」
「あー……1年Aクラス、『ガーデニング愛好会』会長の本条桐葉っす」
「いや張り合って余計な肩書きを持ち出さないでくださいっ」
メッと俺を叱る橘先輩。この人何から何までいちいち可愛いなオイ。
「そうか……お前が本条か」
「なんすかその俺を知っているかのような口振り」
「今年度の入学試験で満点を叩き出した生徒が二人いると俺の耳にも入ってる。お前はその内の一人だ」
いやいや生徒会長とはいえ生徒にそんな個人情報流出させるなよ。コンプラがなってないんじゃない?
「……ちなみにもう一人は有栖でしょ?」
「そうだ」
ですよね。また引き分けか。
「ところで本条……お前はSシステムについて、どれほど把握している?」
「んー……さっきまでの探索でほぼ10割方っすね」
「ほう?」
「─その後色々あって100万も貸してくれたとさ。生徒会長ともなると随分と溜め込んでるみたいだねー」
「ふむ……流石お父様の経営する学校と言うべきでしょうか、今後どうなっていくか楽しみですね」
その後ちょっとしてから親睦会が終わったと連絡が来たので、有栖と合流して寮生活に必要なものの買い出しをしつつ情報の共有を行う。有栖はこの学校の理事長の娘だが、ルールに実直な坂柳パピーはSシステムについて有栖には何も伝えていなかった。まあ有栖も俺と同じく娯楽に飢えた人種だから、そんな小説のネタバレみたいなことは好まない。こういうのは自分で探りを入れて解き明かすから面白いのだ。
「まあ他のクラスのことは一旦置いといて、とりあえずは有栖がウチのクラスを牛耳らないとな」
「そうですね。どうやら葛城君は中々頭の切れる方のようですし、リーダーの資質も十分に備わってるでしょう。……ですが集団にトップは二人も必要ありません」
名将二人は凡将に及ばず。
かのフランス皇帝はそう言ったらしいが、そもそもおとなしく誰かに従う有栖なんて有栖じゃない。
「……念のため一応聞いておくけど、これから起こるであろう政戦ごっこに俺は表立って参加しなくていいよな?」
「はい、というかお願いされても表立って参加させませんよ。私と貴方が組めば無敵過ぎて、葛城君がどう足掻こうと結果は見えてしまいます。せっかく見つけた私の玩具を取らないでください」
「うむ、正直でよろしい」
君のそういうところ大好きだよ。
「じゃあ俺はしばらくは水面下で動くとして……当面は資金集めだな」
「話が早くて助かります。どうやらポイントはただのお小遣いではなく、使い方次第で身を守る盾にも、敵を討つ剣にもなり得ると見ていいでしょう」
「だな。具体的な使い道は追々探っていくとして……どれくらい欲しいんだ」
「手段は貴方に任せます、来月までに500万ほど集めてください」
「わかってたけど容赦ないなお前……了解了解、あくせく働きますよ。お前が俺の“将”であり続ける限りな」
「フフフ……では私も貴方を失望させないようにしないといけませんね」
俺は自分よりも無能な“将”に従う気は無い。葛城もまあ優秀な奴なのは間違いないが……あの程度の相手に手こずるようでは俺の上に立つ資格は無いぞ、有栖。
「……ところで桐葉、さっきから何を頓珍漢なことをしてるのですか?」
「監視カメラにピースを取り続けるゲーム」
「一緒に歩くのが恥ずかしくなるのでやめなさい」
有栖「普段から一体どれだけ花を持ち歩いてるのですか?」
桐葉「企業秘密だ」