それに比べて八神ェ……。
2学期が始まった。
一般的という概念をゴミ箱にダンクシュートしたかのようなこの学校でも、長期休暇明けはごく普通に始業式から始まる。誰が得するんだと問いたくなる校長の長い話はまあ仕方無いとはいえ、ちょっと全国大会で優勝したぐらいで全校生徒の前で表彰とか勘弁してほしい。俺が一心不乱に空手に青春を捧げていたなら胸を張れたかもしれないが、俺幽霊部員ですから。出稼ぎ目的で入部した傭兵ですから。肉体の鍛練こそ1日たりとも欠かさなかったが、肝心の空手に関しては以前はまっていたときに身に付けた技術頼みだったし、そんなんで栄光を掴んだとしても特に感慨も無いないなぁ……さっさと退部届け出しにいこっと。
しかし教師達の横に控えてる生徒会役員達の方から、やたら俺を値踏みするような視線をちくちくと感じる。ふむ……あのニヤニヤ笑ってる金髪のものすげーイケメンが噂の南雲先輩か。生徒の規範となるべき生徒会役員が金髪ってどうなのさ?……茜先輩の紫よりマシか。
午後の授業は2時間連続ホームルームになっている。次の特別試験の説明でもあんのかね?
「今日から2学期に入るわけだが、これから1ヶ月間体育祭に向け体育の授業が増えることになる。今から新しい時間割と体育祭の資料を配るので、しっかり確認しておくように」
担任の真嶋先生が前の席の生徒に資料を回す間、運動の得意な生徒からは歓声が、苦手な生徒からは落胆の声が上がる。うちのクラスは得意分野が学力よりな生徒が多いので、後者の方がやや多いかな。
「先生、この体育祭も特別試験の一環でしょうか」
「どう受け止めるかはお前達に任せるが、勿論クラスポイントに影響はある」
ランスこと葛城の質問に真嶋先生はやけに曖昧な返事を返す。相変わらずこの学校はひねくれた言い回しが大好きなようだが、クラスポイントが変動する以上適当にするわけにはいかなくなった。しかしまた有栖が参加できそうにないイベントかよ。あんまりうちのお嬢様のやる気を削がないでほしいんだけど。
まあとりあえずルールの確認をと思い、配られた資料に一通り目を通してみるが……
「資料を読み進めると気づくだろうが、今回の体育祭では全学年を2つの組に分けて競う方式を採用している。このうち赤組はAクラスとDクラス、白組がBクラスとCクラスという組み合わせになる」
ありゃりゃ、ババ引いちゃった。
格差が無いよう分けるつもりなら真っ先に思いつくであろう組み合わせだが、正直ウチのクラスは総合的にそこまで運動が得意でない。その上味方になるDクラスはただでさえまとまりが無い上に、凄いポテンシャルを秘めた生徒は複数いるがどれも扱いにくい。須藤君はすぐカッとなるし、コージーは手を抜くし、ミスターにいたってはまともに参加するかも怪しい。
味方にするなら柴田君やザキちんと優秀な駒を多数抱え団結力もある卍解ちゃん達Bクラスか、山田君を筆頭に肉体派が多くゲスくて狡猾な戦術を実行できるリュンケル達Cクラスが良かったけど……まあ、決まってしまったものはしょうがないか。人生切り替えが大事ということで、俺は肝心の体育祭のルールについて目を通す。
・全員参加競技の点数配分……個人競技については結果に応じて1位15点、2位12点、3位10点、4位8点が組に与えられる(5位以降は1点ずつ下がっていく)。団体戦の場合、勝利した組に500点が与えられる。
・推薦参加競技の点数配分……結果に応じて1位50点、2位30点、3位15点、4位10点が組に与えられる(5位以降は2点ずつ下がっていく)。なお最終競技のリレーでは3倍の点数が与えられる。
・赤組対白組の結果による影響……全学年の総合点で負けた組は等しくマイナス100クラスポイント。
・学年別順位による影響……1位のクラスはプラス50クラスポイント。2位のクラスは変動無し。3位のクラスはマイナス50クラスポイント。4位のクラスはマイナス100クラスポイント。
……旨味少な。
赤組が勝ち学年で1位でもたったプラス50なのに対し、 赤組が敗け学年で最下位ならマイナス200……実にハイリスクローリターンなイベントだ。全力で取り組む必要があるのに、これだけだとモチベーションも中々上げづらい。それについては学校側も理解してるらしく、個人で活躍するとボーナス的なものも貰えるとも記載されている。
・個人競技報酬(次の中間試験に適応され、他人への譲渡は不可)……各個人競技で1位を獲得した生徒には5000プライベートポイント、もしくは筆記試験における3点分の点数。
2位を獲得した生徒には3000プライベートポイント、もしくは筆記試験における2点分の点数。
3位を獲得した生徒には1000プライベートポイント、もしくは筆記試験における1点分の点数。
最下位の生徒はマイナス1000プライベートポイント(所持ポイントが1000ポイント未満である場合は筆記試験における点数を1点減点する)。ただしこの恩恵で点数が100を超えることはない。
・反則事項について……各競技のルールに違反した者は失格同様の扱いを受け、悪質な者については退場処分やそれまでの獲得点数を剥奪も検討。
・最優秀生徒報酬……全生徒の中で最も高得点を獲得した生徒には10万プライベートポイント。
学年別最優秀賞生徒報酬……学年で最も高い得点を獲得した生徒3名には各1万プライベートポイント。
やっぱ旨味少な。
特に俺にとってはメリットが無いに等しい。昨日学校に2億ほど返還したとはいえ、俺はまだ不必要なほど膨大なプライベートポイントを所持している。今さら5000だの10000だのをぶら下げられてもねぇ……。
点数にしたって他人に譲渡できない上に結局上限が100なら、自力で満点を取れる俺には何の意味も無いじゃないか。……いや、仮に上限が100を超えようが別に興味無いか。有栖との戦いは純粋な知恵比べでなくてはならない。運動能力の差が介入した上での勝利など興醒めもいいところだ。
さらにリターンがあるならば当然リスクもあるわけで、全競技終了後に学年で下位10名の生徒にはペナルティが科されるんだと。無人島試験で有栖が容赦なくペナルティを科されてたし、どうせ今回もそうなんだろうな。
「先生、ペナルティは学年ごとに異なるとのことですが、我々に科されるものはどのようなものでしょうか?」
「今年度の1年生に科されるペナルティは、今学期の中間試験における10点分の減点だ。どのような方法で減点されるかについては試験説明時に、下位10名の発表とともに通告する決まりになっている」
はい最悪。
ただの運動音痴な生徒なら中間試験までの間、自分にペナルティが科されるかどうかさぞややきもきさせられるだろうが、心疾患で競技に参加できない有栖はもう既にギロチンが振り下ろされているようなものだ。俺達の神聖な闘いにつまらねー横槍入れやがって。
「有栖、次の点数勝負はノーカンでいいぞ?」
「お気遣いは結構です。後で真嶋先生に中間テストの点数を10点分、売ってもらうよう交渉しにいきますので」
「……ちなみに何ポイントで買えるんだ?」
「以前尋ねてみたところ、1点につき10万ポイントだそうです」
つまり100万か。おとなしく俺の提案を飲めば払わなくていい大金を敢えて払うあたり、相変わらずこの子は負けん気が強いね。
ひとまずルールについての説明が終わり、続いて競技の詳細について先生が説明していく。『全員参加』は文字通りクラス内全員が参加する種目で、『推薦参加』はクラスから選抜された生徒……要は運動ができる奴のための種目。推薦といってもクラスの合意があれば自薦も可らしい。
……BとCは普通に敵だが、学年別の総合点で勝つためにはDにも注意を払う必要があるな。こんな団結しにくい仕様にするなら普通に四つ巴にしたらいいのに。
「種目の詳細は全て記載されている通りだ。変更は一切無い」
「……これを、1日で?」
全員参加種目
①100m走
②ハードル競走
③棒倒し(男子)
④玉入れ(女子)
⑤男女別綱引き
⑥障害物競走
⑦二人三脚
⑧騎馬戦
⑨200m走
推薦参加種目
⑩借り物競走
⑪四方綱引き
⑫男女混合二人三脚
⑬3学年合同1200mリレー
誰が呟いたのかは知らんが、なるほど中学の頃とは比べ物にならないほどギチギチなスケジュールになりそうだ。
「競技の多さに関しては当然学校側も配慮してある。この学校の体育祭では応援合戦や組体操などは一切用意していない。あくまでも体育祭は体力と運動神経を競う行事だからな」
逆に言えば適当に流せる種目は1つも無いということか。普段からちゃんと鍛えてない生徒は、後日筋肉痛で地獄の苦しみを味わうだろうな。
「それから非常に重要なことだが、今回の体育祭は競技に参加する人員や順番を全てお前達自身で決め、ここにある参加表に記入し担任の私のもとに提出することになっている」
「全てとは文字通りの意味でしょうか?」
「ああ。たとえば全員参加の100m走なら、何組目に誰が参加するかまでお前たちが話し合って決める必要がある。提出期限は体育祭の1週間前から前日の午後5時まで。それ以降は如何なる理由があっても変更は受け付けないし、もし提出期限を過ぎた場合はランダムに割り振られることになるので注意するように」
……もし仮に参加表の内容がよそのクラスに漏れたりしたら、さぞや苦しい戦いを強いられることになる。リュンケルあたりが狙うならそういう方向性だろうなね。
「当日欠席者が出た場合はどのようになるでしょうか?個人競技ならともかく団体競技の場合は、競技そのものが成立しない場合がありますが」
「『全員参加』の競技において必要最低限の人数を下回れば失格となる。例えば騎馬戦であれば1騎少ない状態で対決することになるな。ただし体育祭の花形でもある『推薦参加』競技の場合は、特例としてポイントを支払うことで代役を立てることを認めている。必要な額は各競技につき10万プライベートポイント。高いと見るか安いと見るかは自由だ」
いや高いよ。最優秀賞生徒報酬が跡形もなく打ち消されるってどうなのよ。
その他、体調を崩したり怪我をしても余程の重症を除けば、棄権するかどうかは生徒の自主性に任せるそうだ。まあ今後社会へ進出すれば、体調を崩そうが休めない状況なんて掃いて捨てる程あるからね。
「これで説明は以上だ。……質問がないようならばここホームルームで打ち切る。次の時間は第一体育館に移動し、各クラス他学年との顔合わせとなる。この時間の残り30分はお前達で有効に使うといい」
そう言って真嶋先生が教卓から退くと、クラスの大半は無言で視線を有栖へと向けた。
夏休みに行われた2つの特別試験で、クラスに大きな損害を与えたランスはリーダーの座から陥落した。今やランスに付き従うのは損得勘定抜きで彼を慕う戸塚のみ。鞍替えした者の中には内心有栖を快く思っていない生徒も多いだろうが、そいつらがAクラスで卒業したいと思うのならば、面と向かって逆らうなどできはしないだろう。少なくともランスが良いように翻弄されたリュンケルに、その取り巻きでしかなかった奴等が太刀打ちできるわけないしな。
クラスメイト達からの視線を受けた有栖は、カツカツ杖をつきながら露骨に億劫そうに教壇にたった。あっ、こいつ今回真剣に取り組む気ゼロだ。
「今回の体育祭の方針ですが……私が皆さんに出す指示は2つだけで、あとはもう葛城君にお任せしようとおもいます」
開口一番に丸投げを宣言した有栖に、クラス中はざわめきを抑えられない。まあ無理もない、根回しして特別試験を2つも棒に振ってまでリーダーの座を掴んだというのに、またランスに指揮を取らせるというのだから。
「……どういうつもりだ坂柳。この期に及んでまだ俺を陥れ足りないというのか?」
「陥れる、ですか?葛城君が何を仰りたいのかわかりませんが……知っての通り私は体が不自由ですので、どの競技にも参加できません。必然的に全体参加競技も全て棄権しなくてはなりませんし、クラスに多大なご迷惑をおかけすることになります。……そんな人間に色々と命令されたりすれば、きっと皆さんも少なからず不満に思うでしょう?」
うーむ、いい感じにもっともらしい理論武装をしたけど……実際は自分が参加できないイベントの指揮なんて正直面倒だから、どうにかうまいこと言って丸投げしたいのだろう。ランスもそれを感じ取ったのか、深々と溜め息をついてから席を立ち、有栖の隣に移動する。
「いいだろう、任されたからには責務を果たす。……それで、2つの指示内容はなんだ?」
「1つは全体参加、推薦どちらも完全能力制で組み合わせを決めること。もう1つは……推薦競技全てに桐葉を出場させることです」
「……なるほど、どうやら本気で勝ちに行くつもりのようだな。それを聞いて安心した。……しかし大丈夫なのか?参加競技全てに出場するとなると、いくら本条といえど体力の消耗がかなり激しいものになるぞ?」
「貴方の尺度で桐葉を測れるなどと思い上がらないでください図々しい。……問題ありませんよ、私のクイーンに不可能はありませんから」
丸投げしといて当たり強いなオイ。
まったく、ウチのお嬢様はほんとに人使い荒いなぁ……ただまあ好きな女の子がそんだけ期待してくれんなら、それに応えるのが男の義務ってやつだよね、うん。
原作との乖離点……(主に桐葉君のせいで)葛城派が既に崩壊しているため、わざと負ける必要がない。