①名前呼び&呼び捨て(該当者:有栖)
②名前呼び&敬称(該当者:茜先輩)
③ニックネーム(該当者:綾小路、龍園、一之瀬他)
④苗字&呼び捨て(該当者:橋本、Aクラスモブ)
⑤苗字&敬称(該当者:他クラスの生徒の大半)
2時間目のホームルームは全学年の顔合わせが行われる。総勢500名近くの生徒達と教師が体育館に集い、生徒達は赤組と白組でそれぞれ分かれていた。ウチのクラスは基本的に優等生揃いなので、集合するや否やクラスで固まっておとなしく並んでいる中、俺はというと……
むいーーーーーっ……
「………………」
たまたま茜先輩を見かけたので、後ろから忍び寄って両の頬を引っ張っていた。
「おおっ、すげーもち肌」
「……
「んー、後輩によるのどかなスキンシップ─おっとあぶね」
不意に鳩尾めがけてエルボーが飛んできたので、頬から手を離して肘を受け止める。
「な・ん・で、今のを防げるんですか!?空気を読んで当たってくださいよ!」
「結構無茶苦茶言いますね先輩。ハイハイわかりましたよ、今度引っ張ったときはおとなしく喰らいますから」
「いや今度とかありませんから!?」
まったくもう、とぷりぷり怒って自分のクラスのもとへ戻っていった。相変わらず可愛いなあの人。
好き放題玩具にして満足したので、自分のクラスの有栖の下へ舞い戻る。身体の都合上パイプ椅子に座っているのですごくわかりやすい。
「相変わらず橘先輩と仲が良いようですね。でもあまり度が過ぎると、いずれ大変なことになりますよ」
「ああ大丈夫大丈夫。あの人優しいから、あれくらいのじゃれ合いではいちいち目くじらを立てないよ」
「いえ、そうではなく」
「んむ……?」
「私の目の届くところであまり仲良くされては、私が彼女に何をしでかすかわかったものじゃありませんよ?」
なんか恐ろし気な警告をしたかと思えば、露骨に目線を逸らされた。よく見るとなんか耳元も赤い。
「どしたー有栖?もしかして妬いてんの?」
「……いけないですか?」
「いけなくないな、うん」
とりあえず可愛いからオールオッケー。
「……貴方と交際しているわけでもないのに束縛が過ぎると自覚していますし、橘先輩は堀北会長に懸想してらっしゃるから大丈夫だと存じ上げていますが……それでも胸が締め付けられる思いがします」
「いやマジかよ、緊急事態じゃんそれ」
心疾患持ちが胸を締め付けられるとかシャレになってない。今後二度と茜先輩と関わらない方がいいか……?少し寂しくなるが、有栖の体に障るなら背に腹は代えられない。
「……あくまで比喩ですのでご心配ならず」
「絶対ダメでしょお前がそんな比喩使うの」
「その点については申し訳ありません。……貴方に橘先輩と関わるなとは言いませんが、ああいったやり取りはできれば、私の視界に入らないようお願いします」
「ん、りょーかいりょーかい」
さて、ようやくどの学年どのクラスもまとまりだしたことだし、そろそろおとなしくするか。
集められた生徒達が床に座ると、上級生らしき生徒数名が前に出てきた。
「俺は3年Aクラスの藤巻だ。今回赤組の総指揮を執ることとなった。……まず1年生には1つアドバイスをしておくが、体育祭は非常に重要なものだと肝に銘じろ。この経験は必ず別の機会でも活かされる。これからの試験には一見遊びのようなものもあるだろうが、それら全てが生き残りをかけた重要な戦いになる」
教師だけじゃなく生徒までこうなのか。この学校では誰かにアドバイスするときは、必ず抽象的に伝えなければならない決まりでもあんのかね?
「今はまだ実感もやる気も無いかもしれない。だがやる以上は勝ちに行く……その気持ちは全員が共通の認識として持っておけ」
前回と前々回の特別試験で勝つことを放棄した俺には耳の痛い話だぜ。反省反省。
「最後の1200mリレーを除き、どの種目も学年別のものばかりだ。今から各学年で方針を好きに話し合ってくれ」
藤巻先輩の言葉を皮切りに、AクラスのメンバーはDクラスのもとへ集まったので、俺も有栖をパイプ椅子ごと持ち上げて集団に合流する。
「奇妙な形で協力することになったがよろしく頼む。こちらとしては仲間同士の揉め事は避けたいと思っている」
「僕も同じ気持ちだよ葛城君。よろしくね」
平田君とランスはお互い友好的な態度で歩み寄っているが、仲間といってもこれまで争ってきた相手と、いきなりおててつないで仲良しこよしとはいかないだろう。……ほら、Dクラス男子の大半から俺に向けられた敵意とか怨嗟の視線がそれを物語っている。原因はたぶん有栖の血迷ったベロチュー。
やがてランスがクラス間の協力関係について話を進めようとしたが、何やら突然白組サイドがやけに騒がしくなった。
「話し合いをするつもりはないってことかな?龍園君」
卍解ちゃんの声がした方を見ると、リュンケル率いるCクラスが体育館から立ち去ろうとしていた。卍解ちゃんの問いかけに、両ポケットに手を突っ込んだイキリMAX状態のリュンケルは振り返って不敵に笑う。ちょ、やめて。ジャージ姿でそんな態度取られたら腹筋がヤバイから。
「こっちは善意で去ろうってんだぜ?俺が協力を申し出ようが、どうせお前ら信じねえだろ。ならはっきり言って時間の無駄だ」
「なるほどー。私たちのことを考えての判断なんだねー。なるほどー」
「そういうことだ。感謝するんだな」
「……ねえ龍園君、協力しないで勝てる自信があるの?」
「クク。さあな」
卍解ちゃんがどうにか説得しようとするもリュンケルは鼻で笑い、結局Cクラスはさっさと引き上げてしまった。
「彼がCクラスの王様、リュンケルさんですか……なるほど、貴方からお聞きした通り随分と破天荒な人物のようですね」
「リュンケルも有栖には言われたくねーと思うけど……まあそうだね。きっと今回もさぞや悪辣な戦略を立てているだろうさ」
「となれば、一之瀬さん達との話し合いを拒否したのは英断かもしれないですね」
「リュンケルのやり口は基本ろくでもないからねぇ、卍解ちゃん達は間違いなく協力しないだろうね」
いつものように仲良く談笑していると、Dクラスの生徒達の関心がこちらの方……正確にはパイプ椅子に座る有栖に向きだした。ふむ……まあ立場上仲間だし、一言断りを入れておくべきかな?
「えー、Dクラスの皆。見りゃわかると思うが、有栖はボルボックスよりも弱っちいから戦力にカウントしないでくれ」
「貴方にとって私は微生物以下ですかそうですか。怒りますよ」
「ごめんちゃい」
「まったくもう……」
俺の軽口を嗜めてから、有栖はDクラスに社交辞令スマイルを向けた。うん、実に白々しい。
「しかし桐葉の言う通り、残念ながら私は戦力としてお役に立てません。全ての競技で不戦敗となります。皆さんにご迷惑をお掛けすることについてまず最初に謝らせてください」
「謝ることは無いと思うよ。誰だってその点を追及することはないから」
おお流石平田君、実に紳士的な対応だ。無人島試験でたかがマイナス30ポイントされたぐらいで不満そうにしていた、どっかのバカとは大違いだぜ。おい聞いてんのか戸塚?んん?
その後平田君とランスの話し合いで、協力関係は互いに邪魔し合わない程度に留め、参加競技の擦り合わせなどは行わないことに決まった。まあ情報漏洩のリスクを鑑みれば、手堅いランスらしい譲歩の仕方だな。
放課後になり、俺達Aクラスはグラウンドにて体力測定を行うことにした。プライベートポイントに乏しく、毎回テストのたびに赤点スレスレの生徒を多く抱えるDクラスなんかは、入賞の際の報酬を巡って揉めに揉めるかもしれないが、俺達Aクラスが第一に優先すべきはクラスポイントなので、有栖の提案した完全能力制でいくことに誰も異議を唱えなかった。
そうと決まればすぐさま次のステップ、Aクラスの運動能力を測ろうと言うわけだ。
「さーて気合い入れろよマスミン、ファルコン。君達頭を使う試験じゃクソの役にも立たないんだからここで目立たなきゃ」
「蹴られたいの?」
「よせ神室、悔しいが的を射ている」
「ハァ……面倒なのは遠慮したいんだけど」
「ダメですよ真澄さん。貴方は女子の中では推薦競技候補筆頭なのですから、しっかりしてもらわないと」
「勘弁してよ……」
本人はこの通り億劫そうだが、有栖の言う通りマスミンは美術部員とは思えないほど高い身体能力を有している。同性相手に遅れをとることはそうそう無いだろう。なんだったら男子でも戸塚程度なら一捻りだ。
まずは綱引きや、もしかしたら騎馬戦でも重要になってくる握力。学校側から借りてきた測定器で順番に測ることになり、まずはリーダーのランスが挑戦することに。
「ぬぅっ……!」
ランスは渾身の力で測定器を握り込むが、記録係を買って出た有栖が測定器に示された数値を覗き込むと、何故か呆れたように溜め息を吐いた。何事かと思い俺も測定器に目を向けると……うわぁ。
「49てお前……」
「……不服か?」
「不服ですよ。桐葉にも負けないその立派な体格は飾りですか?」
「こんなもん四捨五入したら0じゃないか」
「何故十の位を四捨五入した!?」
「まったく情けねーな。……それじゃここはゴリラから生まれた女、マスミン!その身に秘めた脳筋パワーで格の違いってもんを教えてやれい!」
「アンタいつか蹴るから、絶対蹴り殺すから」
俺が測定器を投げ渡すと、マスミンはぶつくさ文句を言いつつもおとなしく測定器を握りしめる。さてさて、どんなびっくり記録を叩き出すのか……
「葛城より低いじゃねーか!38てお前……それでもゴリラウーマンか!?」
「女子にしては高いんだから別に良いでしょうが!あと誰がゴリラウーマンよ!?」
「しゃしゃり出てきてこの程度ですか。ガッカリですよます……ゴリラウーマンさん」
「喧嘩売ってるの?ねえ、絶対喧嘩売ってるでしょアンタら……!」
額に青筋を浮かべ拳を握りしめるゴリラウーマン。まあ彼女の言い分もまちがってはいないし、これ以上煽ると俺はともかく有栖が危険なので、測定器を回収し橋本に渡す。
「橋本か、さっさと終わらせろー」
「どうせ面白味も無い数値ですし、期待するだけ損でしょうね」
「アレ!?俺に対して凄い塩対応!?」
釈然としない思いを抱きつつも、橋本はおとなしく計測を行った。結果は57.5……予想通りのまあまあ高めな数値でやはり面白味が無い。
「それじゃ皆さんお待ちかね!Aクラスきっての武闘派、ファルコンの測定を行いまーす!格の違いを思い知らせてやれ!」
「期待してますよ、鬼頭君」
「任せろ」
頼れる男ファルコンは有栖の激励にも、心を乱されることなく無言で測定器を握りしめた。……ここでも手袋は外さないんだな。
「79.6、か……」
「お見事です」
その気になればリンゴも潰せそうな圧倒的な数値に、クラスメイト達も驚愕を隠せない。流石はファルコン、頼れる男である。
「さーて次は……」
「お前だ本条」
ちょっとしたお茶目で戸塚あたりにでも振ろうと思っていたのだが、ファルコンはやや強引に測定器を握らせてきた。え?俺?
「このクラスで俺に張り合えるとしたらお前だけだ。お前の言う通り俺には学が無いが、筋力にはそれなりの自信と自負がある……俺の挑戦、受けてくれるな?」
「おいおい勘弁してくれよファルコン。そんな風に挑戦状を叩きつけられたんじゃ……真っ向から捩じ伏せたくなるじゃないか」
何やら大きな思い違いをしているようなので、俺は測定器を全力で握りしめる。体格の違いから純粋な力比べなら俺に勝てると踏んだのだろうが……ブッシュドノエルくらい甘い考えだね。
計測し終わった測定器を返すと、示された数値にファルコンが目を見開いて驚愕する。
「数値……100……!?」
「その測定器100までしか測れないから意外と不便だよね。……握力は体格や腕の太さだけで決まるもんじゃないよ」
「……どうやら俺はまだ青かったような」
ファルコンが己の未熟さを自覚した後は恙無く測定が進み、四方綱引きは握力上位4名……俺、鬼頭、橋本、清水に決定。そしてその後も様々な測定を済ませ、推薦競技に参加生徒を選び終えその日は解散となった。
……蓋開けたら推薦競技はほとんど坂柳派の古参メンバーで埋まった。有栖が自身が抱えるハンデを考慮し、運動能力に優れた生徒を優先して派閥に取り込んでたから当然と言えば当然か。
2年生編でのoaaの数値上では、何気に天沢さんの次に運動能力が高い神室さん。どうして美術部なんでしょうかね?