女王の女王   作:アスランLS

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暑い……まだ6月なのに暑過ぎる……。


体育祭準備(後編)

 

体育祭期間中は学校側の配慮か体育の授業が多くなり、なおかつその大半を自由に使っていいとのことだ。そんなわけで俺達Aクラスはグラウンドにて参加競技の練習を行うことにした。放課後とかだと他クラスの偵察とかを警戒してノビノビやれないからね。

 

「~♪」

「ぐっ……このっ……!」

「マジかよ……」

 

ただ今俺、橋本、戸塚の3人は仲良く競走を行っているのだが、浮かべている表情は余裕、焦燥、困惑と三者三様だった。……さらに俺と橋本は戸塚と違い、右足と左足と紐でがっちり括っているという状態だ。

 

「はいゴール。……戸塚さぁ、もうちょっと速く走ってくれないと練習になんないじゃんか」

「うるせぇ!なんでお前ら二人三脚なのにそんな速いんだよ!?」

「ただ君がトロいだけでしょー?」

「いや、正直俺も頭がついていかないぞ……言われた通り思いっきり走ったけど、なんでピッタリ合わせられるんだよ……?」

「そんなもんお前、まったく同じペースで足を動かせばいいだけだよ」

「なにそれこわい」

 

その後男女混合二人三脚のペアであるマスミンにチェンジして走ったが、やはり戸塚は大きく引き離されてしまいましたとさ。

 

「ハァ……ハァ……バカな、俺が女子に負けた……?」

「まあ2回目だし、マスミンも女子の中ではトップレベルに速いから情状酌量の余地はあるんじゃない?……情けねーことには変わりないけど」

「グボォッ!?」

「慰めたいのかトドメ刺したいのかどっちなのよ……というかペア変えてくれない?打ち合わせなしで寸分違わずピッタリ合わせてきて何か怖いんだけど」

「ワガママ言ってはダメですよ真澄さん。他でも無い貴方だからこそ私もギリギリ我慢できるのです。今さら他の方に代わるとなると、いったい私がどうなってしまうかわかりませんよ?」

「一番ワガママなのはアンタでしょうが……」

 

有栖は随分とマスミンを信頼してるみたいだね。マスミンの方も口ではぶつくさ言いながらも満更でも無さそうだし、意外と良いコンビかもね。

その後、まとめ役であるランスの指示で綱引きの練習を行うことになったが、ほとんどの生徒のモチベーションがいまいちだった。

うーん……どうやら特別試験において2度に渡る失態を犯したランスの指揮能力を疑問視しているようだ。仕方がない、今回は普通に勝ちに行くので俺がサポートを買って出るとするか。

クラスを半分ずつ分けて引っ張り合いをしている光景をざっと見回してから……

 

「塚地、中島、西、練習だからって手を抜くなー、全部バレバレだぞー?」

「「「えっ!?……ご、ごめんなさい!」」」

「それから竹本、島崎、里中、引っ張るタイミングが周りとズレてるぞー。パワー云々以前に基礎的なところからきっちりしていけー」

「「「わ、わかった!」」」

「なんで全部わかるんだよ……」

「……この際もう全部お前が仕切った方が良いのではないか?」

 

呆れたようにランスはそう言うが、有栖じゃなく俺の方がクラスをまとめるのに相応しい……とか言い出す輩が湧いてきたら面倒じゃないか。俺は絶対リーダーなんてやりたくない。シンプルに面倒だしつまらない。

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後、再びグラウンドにて騎馬戦の練習を行うことになった。

騎馬戦のルールは男女共通で時間制限方式で、3分間の間に倒した敵の騎馬と残っていた騎馬の数に応じて点数が決まる仕組みだ。

各クラスから4人1組の騎馬を4つ選出(余った人は予備人員)され、8対8の形になる。最後まで生き残るか相手の騎手の鉢巻きを捕れば50点入り、各クラスに一騎ずつ存在する大将騎馬は倍の100点を保持する。

総じて、結果次第では一気に数百点をぶん捕れる体育祭の目玉競技だ。

まあ大将騎馬は当然Aクラス最強である俺が務めるとして、今回俺が勝つために騎馬役に選んだ3人は……橋本、司城(つかさき)、里中だ。俺の人選の意図を理解できないのか、ランスが怪訝そうに尋ねてくる。

 

「何故鬼頭を外したんだ?確かに3人とも運動能力は優秀な方だが、大将騎馬なら万全を期すべきだろう」

 

なるほどランスらしい堅実な意見だが……俺はリスクを負ってでも攻撃を是とする坂柳派筆頭だぜ?大敗の可能性を上げてでも、圧倒的勝利を求めるのが美学ってもんだ。

 

「じゃあランスに1つ問題。俺を含めた4人の共通点は何でしょうか?」

「……女子生徒から一定の人気があることか?」

「ピンポンピンポーン!正解したランスには飴ちゃんをやろう」

「いらん」

「干し柿味だ」

「いらんと言っている」

 

そう、俺達4人は例外無く女子にモテる。ある筋からの確かな情報によると、女子生徒達による学年イケメンランキングにおいて、里中が1位、司城が3位、俺が4位、橋本が10位なんだそうだ。まあ俺は里中や司城ほど顔立ちが整ってるわけじゃないし、何だったら5位のコージーにもルックスでは劣っていると思うが、イケメンランキングなのに審査基準は顔だけじゃなく、色々と加点要素が多かったため4位なんだろう。まあ確かに顔だけなら司城が1位だろうしな。

閑話休題、とにかく俺達は女子から多くの支持を集めていて、こうして集まった現在女子側の大半から歓声が聞こえ、男子側の大半から昨日のDクラスと似たような敵意のこもった視線を多く感じる。

 

「練習でさえこうなんだ。きっと本番ではさぞかし目立つんだろうなあ、クラス学年問わず注目を集めるんだろうなあ、そうなれば野郎共はきっと面白くないだろうなあ」

「ま、まさか……」

「その上その騎馬が大将となれば、きっとまさにはぐれメタルのように血眼になって狙われるだろうね……それらを全て返り討ちにして鉢巻きを独占する」

「バカな!?自信過剰にも程がある!いくらお前でも複数で囲まれて狙い撃ちされたらひとたまりも-」

「では、試してみたらいかがですか?」

「何……?」

「それもそうだね、論より証拠だ」 

 

有栖がランスの言葉を途中で遮るや否や、俺は大将用鉢巻きを巻いて橋本達と騎馬を作る。

 

「男女は問わない、取り囲むのも自由、遠慮せずかかっておいで。俺から鉢巻きを奪うか騎馬を崩せたら、そうだね……報酬として100万あげるから」

 

クラスメイト達は困惑しつつも、高額報酬に釣られて各々が騎馬を組み、計8組の騎馬が俺達を取り囲んだ。数だけで考えれば本番で起こりうる最悪の状況と言えるね。

しかし俺は敢えて挑発的に笑い、騎馬を務めているランスに向かって腕を上げ、立てた指を揃えて手前に三度深く傾ける。

 

「さあ、かかっておいでよナッパ」

「誰がナッパだ!?」

「もし俺に勝てたら本番はお前の言う通り、堅実な布陣で臨もうじゃないか」  

「その言葉、違えるなよ?……西川、元土肥、矢野、かかれ!島羽、清水、町田、すぐその後に続け!時間差で畳み掛けろ!」

 

ランスの号令と共に女子の騎馬が3騎、3方向からこちらに向かってきた。そしてワンテンポずらして男子の騎馬もバラバラの方向から3騎が続く。なるほど、相手が女子と言えど3方向から狙われたら非常に厄介だ。仮に上手く切り抜けられたとしても、女子の騎馬に手こずっている内に男子騎馬の追撃を受ける……ランスの奴め、この有利過ぎる状況下でも確実性を取るか。

 

「うわぁ、欠片も容赦ねぇな葛城君よ……それで本条、俺達はどう動けばいいんだ?」

「とりあえず騎馬だけ崩されないよう注意しつつ、その場でじっとしてていいよ」

「「「は?」」」

 

さてと…………狩りの時間だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これなら本番でも問題無さそうだ」

「改めて思うが……化け物過ぎんだろお前」

 

何やら失礼なことをほざいている橋本は無視して、ぶん取った6本の鉢巻きを丸めて有栖に投げ渡す。

 

「お見事でした。葛城君の取った作戦は決して悪手ではありませんでしたが……ただ取り囲んだだけでは桐葉には決して勝てませんよ」

「おいおい有栖、なんかまとめに入ってるけどまだ終わった訳じゃないんだぞ?そこの2騎、ぼけっとしてないでさっさとかかって来なよ」

 

残る騎手……マスミンと戸塚に向かって手招きするも、マスミンはため息を吐いて騎馬から飛び降りた。

 

「おい、神室……」

「あんなの見せられて続けようと思う訳無いでしょ。それにむざむざ鉢巻き取られるよりかは合理的な判断よ」

「む……」

 

何やら難しそうな表情を浮かべていたが、観念したのかランスも騎馬を崩した。見事完全勝利を収めたので俺も地面に降り立ち、有栖と一緒にランスへと近づく。

 

「それじゃあ約束通り、俺の騎馬はあいつらで決定だよ?」

「……ああ、好きにしろ」

「それじゃこれ渡しとくから後は任せたよ。有栖、帰ろっか」

「そうですね。葛城君、私からはこれを」

「は?……おい待て、どういうことだ!?」

 

俺と有栖は一冊ずつ渡してさっさと帰宅しようとするも、察しの悪いランスは声を荒げて俺達を引き留める。

 

「どういうことって、ひと通り決めたしもういる意味が無くなったから帰宅するんだよ」

「坂柳は百歩譲ってそうだとしても、お前はこれから種目の練習をしないつもりか?」

「あのねランス、常日頃から欠かさず鍛練している立場から言わせてもらうけどさ……一朝一夕で運動能力が向上してたまるかよ。体育祭までのこの短期間でお前らが重点的にするべきは、身体能力よりも技術面の向上だ」

 

そこで一旦言葉を切り、俺が手渡した方のノートに指を差す。

 

「そのノートにクラスメイト1人1人の改善すべき点と、各競技に必要なテクニックをまとめて書き記しておいた。それに従って真面目に特訓を重ねれば、勝率は大幅に上昇する筈だよ」  

 

やや半信半疑になりながらもランスはノートを開き軽く目を通していき、読み終わる頃には信じられないといった表情になっていった。

 

「1人1人の運動能力が、とても詳細にまとめられている……こんなものをいったいいつの間に用意していたんだ?」

「昨日測った運動能力をもとにちゃちゃっとね。まあ少々手間もかかったけど、以前から有栖にも頼まれてたし丁度良かったよ」

「そして私が手渡したノートには、体育祭で仕掛けられそうなグレーゾーンの作戦をまとめています。どうも葛城君は龍園君を非常に警戒しているようなので、その対策にでも役立ててください」

「わかってると思うけどそのノートはウチのクラスの最重要機密だから、絶対他のクラスに見せちゃダメだよ。なんだったらクラスメイトにも見せない方がいいかもね」

 

渡した物の説明も済んだことだし、今度こそ有栖を連れて下校しようとしたが……

 

「待て坂柳。……いったい何を考えている?今回のお前はあまりにも消極的過ぎる。このノートに記されたグレーゾーンの戦略にしても、お前なら躊躇いなく実行してもおかしくない筈だ」

 

華の女子高生に対して随分失礼な物言いだが、まあ彼が不審に思うのも無理は無い。自分が参加できないから、なんて理由ではとても納得できないだろう。証拠を掴んだわけではないが、少なくとも無人島試験での敗北に有栖が間接的に関わっているとランスは勘づいているだろうし。

だが当の有栖はにこりと笑みを浮かべてから、ランスに背を向けて歩き出す。

まず前提からして違うよランス……そもそも有栖にとってこの体育祭は勝負ですらないのだよ。

 

「その疑問に対する答えは簡単、策を弄する必要が無いからですよ。龍園君達が卑劣な戦術を仕掛けてこようが、一之瀬さん達が団結してかかってこようが、堀北さん達が思わぬ伏兵になろうが……桐葉が全て捩じ伏せます」

「ま、そういうことだ。それじゃあ頑張ってね、応援してる」

 

知恵比べなら張り合う相手に有栖がいるけど……ことスポーツで俺が負けるのは、今のところ想像はつかないかな。ミスターやコージーならもしやとは思うけど……あいつらが本気で取り組む訳無いだろうしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おそらく学年問わずどのクラスもほとんどの生徒が、体育祭に向けて猛特訓を重ねている中、俺と有栖はお構いなしに優雅に下校する。

 

「さーて有栖、今回の体育祭リュンケルは何をしでかすと思う?」

「何かをしでかすのは確定なんですね。あくまで私の推測ですが、おそらくリュンケルさんはDクラス……正確には堀北鈴音さんを狙い打つでしょうね」

「ふーん……ホリリンの裏にいる誰かを探るため?」

「ええ。貴方から聞いた情報を整理すれば……無人島試験での敗北から、リュンケルさんはDクラスには堀北さんを隠れ蓑に、陰で暗躍する人物がいると考えています」

「まあ典型的優等生タイプのホリリンとは思えない勝ち方だったしね」

「続いての優待者試験で、リュンケルさんは敢えてDクラスを狙わず堀北さんについて入念に観察し、その結果やはり無人島試験の作戦は堀北さんのものではないと確信しました」

「ホリリン良いとこなしだったからねー」

「となれば次にリュンケルさんが行いそうなことは、Dクラスの黒幕さんが隠れ蓑に利用している堀北さんを、徹底的に追い込んでその出方を見ることでしょう」

「まあそうなればあの子もホリリンを助けるために根回しが必要になるだろうね」

 

どういう心境の変化か知らないが、コージーはAクラスを目指そうとしている。しかし相変わらず目立ちたくはないようなので、自らの功績を全てホリリンに被せるような形で。

つまりホリリンが窮地に立たされればコージーも助けざるを得ない。たとえリュンケルに見つかるリスクが大きくてとも。

 

「……桐葉。やはりDクラスの黒幕さんについて何か知っていますね?」

「うん。本人に黙っててと頼まれたから口が裂けても言わないけど、知りたきゃ有栖も自分で暴くんだね」

「勿論ですよ。私も貴方と同じで、ネタバレされるのは嫌いですから」

「そりゃそうか」

「ふむ、相変わらず仲睦まじそうで何よりだ」

 

後ろから聞き覚えのある声がしたので振り向くと、先日仲良くなった先輩が優雅に髪をかき上げながら歩み寄ってきた。二年生きっての変人……満足先輩こと鬼龍院楓花先輩だ。またの名を女性版高円寺。

 

「お久し振りです鬼龍院先輩」

「満足先輩じゃないすか。クラスの皆が一生懸命体育祭のため猛練習してるのに、さっさと下校とは良い身分すね」

「そのセリフ、そっくりそのまま君に投げ返そうじゃないか」

「だがしかし俺はバットを取り出し、投げ返されたそれをジャストミートし場外へ!満塁サヨナラホームラン!」

「クッ……私達の甲子園への夢もこれまでか……!」

「桐葉の悪ノリには付き合わないでください。どこまでも収集つかなくなるんですから」

「そう目くじらを立てるな坂柳。君は優秀な生徒のようだが、社会に出てからはちょっとした悪ふざけはさらっと受け流す、柳のようなしなやかさも必要だぞ」

「坂柳だけにな!」

「「HAHAHAHAHA!」」

「それじゃあ私は柳のようにしなやかに去りますね。お二人で延々とふざけていればいいじゃないですか」

 

俺達が肩を組んで意味もなくアメリカンな雰囲気を出していると、疎外感を感じたのか有栖がさっさと帰ろうとしたので慌てて引き留める。

 

「まあまあそう拗ねんなって。というかお前以外の女子と2人きりのとこなんて、誰かに見られれたら二股野郎のレッテル貼られかねないんだよ。俺の名誉のためにも帰らんといてお願い」

「知りませんよそんなの。だいたい私と貴方は付き合ってる訳じゃないんですし、好きにしたらいいじゃないですか」

「お前があのとき1年ほぼ全員の前で公開ディープなんてやらかさなきゃ、こんなに気を遣う必要なかったんだよこのやろー」

「昨日橘先輩と楽しげにしてたばかりじゃないですか、いったいどこの誰がどう気を遣ってるのでしょうねー?」

「茜先輩は別にいいんだよ、会長さんが好きなのほとんどの人にバレバレだから誤解されないし。というかなんで会長さん気づかないんだよありえないだろアレ」

 

離れようとする有栖と引き留めようとする俺、2人の攻防はしばらく続いたのだが、身体能力の差から逃げ切れるわけないので、やがて有栖は諦めて溜め息を吐く。

 

「まったくもう、有栖のヤキモチ焼きは筋金入りだなー」

「今回のはヤキモチではなく、貴方達のしょうもない駄洒落にイラッとしたからです」

「マジでか」

「マジです」

「まあ言われてみれば確かに寒かったな。でもまだ残暑も厳しいから丁度良くね?」

「良くないですよ。駄洒落の寒さで涼むとかどこの国の文化ですか」

「ありゃまあ手厳しい。……それじゃあ満足先輩もいなくなったし、俺達もそろそろ帰ろうぜ」

「えっ……本当ですね。いったいいつの間に……」

「俺達が揉めてるときにさっさと帰ってったよ?まったくあの先輩はマイペースだなー」

「鬼龍院先輩も貴方には言われたくないでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、鬼龍院先輩初登場です。
変人同士相性はばっちりですが、誰かがストッパーに入らないと大変なことになります。
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