龍園君もしません。
第2種目はハードル競走。
100m走とは違いただ足が速ければ勝てるというものでもなく、ハードルを倒せば0.5秒、ハードルに触れただけでも0.3秒がゴールしたタイムに加算されてしまう。
ハードルは計10個設置されているため、全て倒せば5秒も加算され敗色濃厚だ。かといって接触を恐れてスピードを緩め過ぎては本末転倒なので、地味だけど中々難易度の高い競技だね。
「では次、2組目準備してください」
それじゃあ審判にも呼ばれたことだし、俺もコースに入るとしますかね。Dクラスは……平田君と幸村君か。
「お手柔らかにね、本条君」
「よりもよってこいつが相手か……!」
どうやら今回はミスターとは当たらなかったみたいだね、残念。B、Cからの参加は特に目ぼしい生徒はいないようだし。この面子なら戸塚も最下位は免れられるかもね。
スタートと同時に100m走と同じくらいのスピードで走る。当然ハードルに接触するようなヘマをすることもなく、悠々とゴールテープを切った。
戸塚が意外にも5位に食い込んだことを見届けつつ、俺は有栖の元へ凱旋し、残りのレースを見物する。
「あちゃー、惜しかったけどファルコン2位か」
「相手が柴田君では仕方ありませんよ。足の速さではDクラスの須藤君に匹敵するでしょうし」
「橋本も2位か……なんか全体的にパッとしねーなアイツ」
「仕方ありませんよ。何事もパッとしないのが橋本君のアイデンティティですし」
「いやひどくね?」
テントに戻ってきた橋本がそう鼻白むが、全体的に器用貧乏なのは事実だし謝らない。
男子の組が全て終了し、続いて女子の番に切り替わるのだが……
「Cクラスの参加メンバー……少し妙ですね」
「そだね。矢島ちゃんと木下ちゃん、同じレースに組み込むのはちょっと不合理だ」
2人とも陸上部に所属しており、ウチのマスミンにも勝てる可能性のある生徒達だ。そんなどのレースに組み込まれても1位を狙えるような2人を、同じレースで走らせて何のメリットがある?
「……Dクラスからは堀北さんが出場するようですね。私達の推測通り、リュンケルさんが彼女を狙い打つつもりで選出したなら辻褄が合いますが、しかしそうなると……」
「CクラスはDクラスの組み合わせを知っていることになるな。つまり……Dクラスの中に裏切り者がいる」
ホリリンは持ち前の負けず嫌いでどうにか食らいつこうとしたが、現役の陸上部には及ばず3位止まりとなった。
「まだ可能性の域ですが、もしそうだとすればDクラスの皆さんにとっては凶報になりますね」
「だな」
当然この体育祭の敗北はほぼ確定的になるし、それ以降の試験においても大きな足枷になるだろうね。この学校のシステム上、クラスに明確な裏切り者がいるのは致命的だ。
次の種目は棒倒し。現代では防衛大の体育祭ぐらいでしか開催されないような、武器を使わない戦争とも呼べる野蛮な競技だ。
「お前ら絶対勝つぜ!高円寺のアホがいない分気合い入れろよ!」
集まったDクラスとAクラスの男子達に、須藤君が大声で鼓舞する。相手は団結力に定評のあるBクラスと、卑劣な策略と山田アルベルト君が要注意のCクラス。これは中々ハードな戦いになりそうだね。
ルールは2本先取した方の勝ち。
俺達は事前の話し合いで、原則オフェンスとディフェンスを交互にすると決めてある。そしてまず最初に攻撃を行うのはDクラス。
「まあ心配すんな。何人立ち塞がろうがぶっ倒してきてやるよ」
「倒すのは棒だからな?人じゃないからな?」
「保証はできねーな。こちとら高円寺のことでイライラしてんだよ」
見るからにフラストレーション全開の須藤君をコージーは諫めようとするが、どうやら焼け石に水らしい。
「よし、打ち合わせ通りにフォーメーションを組むぞ。Cクラスが攻めてきた場合、ラフプレイには最大限の注意を払え」
クラスの男子達がランスの指示に従い、俺は棒から少し前に出て仁王立ちする。多分攻めてくるのはCクラスだし、山田君は俺かファルコンが引き受けるしかないよね。
試合開始の合図と共に須藤君を先陣にDクラスが突っ込んでいき、それと入れ違う形で予想通りCクラスが向かってくる。ちなみに攻撃陣同士のぶつかり合いはルールで禁止されているため、流石のリュンケルもDクラスにちょっかいは出さないだろう。
「アルベルト、潰せ」
「OK」
リュンケルの物騒な指示とともに、山田君は俺に向かって全速力で特攻してくる。うんうん、元気があってよろしい。
「……Oh!?」
「でもちょっと迂闊だねー」
俺に掴みかかろうと伸ばしてきた手を両方とも握り、それとほぼ同時に俺は山田君を引っ張りながら素早く後退して転倒させる。そして片方の腕はそのまま握ったまま捻り上げ、山田君の背中にもう片方の手で力を込めて押さえつける。
「はい1人目ー」
「アルベルト!?この野郎!」
石崎君が激昂しながら掴みかかってきたので、押さえつけていた方の手で石崎君の拳を握り、山田君の背中に叩きつける。
「Ouch!?」
「うぐぇっ!?」
「はい2人目ー。次はだーれだ?」
「クク、噂に違わない化け物っぷりだな。おいてめえら、棒の前にこいつから畳んじまえ」
リュンケルの号令と共にCクラスの男子が一斉に俺に飛びかかってくる。このまま相手をしてあげたいところだけど、何やらDクラスは手こずってるようだし……
「ランス、30秒でいいから持たせて!」
「「「っ!?」」」
「お、おい待て本条!?」
所詮は恐怖で成り立った継ぎ接ぎだらけの連携、緩急とハンドテックニックと足捌きを駆使してCクラスの包囲網から悠々と抜け出し、ランスの制止は無視して相手側の棒へ特攻する。
「なっ、本条!?」
予想外の奇策による動揺でBクラスがほんの一瞬フリーズした隙に、俺はフィジカルに任せて多少強引にでも棒へ接近して構えを作り……
「 破 ! 」
震脚とともに棒目掛けて発勁を叩きこんだ。
成人男性を片手で軽々持ち上げられる俺の怪力に加え、震脚により威力が何倍にも引き上げられた俺の掌底が直撃した棒は、ペットボトルロケットの如く後方へと吹き飛んだ。
「よし、まずは一本先取だね」
「美味しいとこ持ってくんじゃねーよ!というかなんでディフェンスのテメェがここにいるんだよ!?」
「防御陣が棒を倒してはいけないなんてルールは無かったしー。文句があるならさっさと倒せばいいじゃないか、無駄に手こずってからに」
「あぁ!?」
「まあまあ須藤君、お陰で勝てたんだからいいじゃないか。今度は僕達が守りだよ」
何やら噛みついてくる須藤君だが、平田君が肩を叩いてそれを諫める。
「……ちっ。そこまで大口叩いたからには次も絶対倒せよ」
「はいはい」
イライラからクラスメイトに軽い八つ当たりをしながら、須藤君はクラスを率いて棒の守りについた。入れ替わるようにAクラスの皆がこちらに来るが、まとめ役のランスは苦い表情を向けてくる。まあ彼はこんな博打染みた奇策は好まないだろうから仕方がない。俺には何を言っても暖簾に腕押しなのと、結果は出していることから何も言ってこなかったけど。
続いてオフェンス側になった俺達だが、相手のディフェンスはまたもやBクラス。よほど俺を警戒しているのか、Bクラスでも運動能力の高い5人が俺を棒に近づけまいと躍起になっていたが、適当にあしらっている内に鬼頭が棒を倒してフィニッシュした。確かに俺を棒に近づけたらアウトだけどよ、その対処に棒から5人も離れてちゃ守備力は大幅に低下するわな。
まあそんな風に俺達は危なげなく勝利したがDクラス……特に須藤君は、Cクラスが仕掛けたダーティプレイに大いに苦しめられたようだ。何でもリュンケルに背中を思いっきり踏み抜かれたとか。うわぁ想像するだけだ痛そう。
「あのクソ野郎、ブチ殺してやる……!」
殺しちゃダメでしょ流石に。
また平田君とコージーが諫めていたけど、限界はそう遠くないだろうね。
続く女子の玉入れは、接戦の末に白組が勝利した。だいぶ惜しかったけど、これはまあ仕方無いかな。
そして間もなく競技は男女別綱引きが始まる。ルールは棒倒しと同じ2本先取制。
「龍園達はわざと綱を離して俺達を怪我させようと目論むかもしれない。Dクラスも気をつけることだ」
「……ありえない話じゃないね。1戦捨てても残りの2戦で取り返せばいいと、龍園君ならそう考えてもおかしくない」
ランスが有栖から受け取ったダーティノートに書かれていた、リュンケルが仕掛けかねない不安要素を忠告すると、平田君も神妙に頷いて肯定する。
俺達赤組が打ち合わせ通りクラス別に左右へ分かれ、縄にムラなく力が加わるよう身長が低い順に並ぶ一方、Bクラスは前方に背の高い順にならんでいるが、Cクラスはすごい適当な並び順だ。明らかにまた何か企んでるねこりゃ。
「へっ、図体デカイのを前に持ってくるとかわかってねーな」
「そうとも言い切れんぞ。綱を引く位置は高い方が有利だからな」
「それでもまだこっちが有利なことに変わりはねぇよ。いくぞお前ら!」
須藤君の鼓舞とともに試合は始まり、一回目は順当に俺達が圧勝した。
「っしゃあ!どうだコラ、ざまあねえな!」
目に見えて調子に乗る須藤君に対し、Bクラスは真面目に取り組もうとしないCクラスに不満そうな顔を向ける。
「なー龍園、流石に俺達も協力し合わないとヤバイぜー?」
「……よしお前らちょっと配置変えんぞ、チビから順に並べ」
Bクラスを代表して柴田がそう提案するが、リュンケルはあくまで自分達の好き勝手にするつもりらしい。…だけど勝負を捨てた訳では無さそうだ。
しかしその光景を見たこちらの面々は早々に楽勝ムードになってしまう。ランスが油断するなと忠告するも糠に釘……あーあ、ダメだこりゃ。
そして始まる2回戦目。
俺の予想した通り、明らかに引っ張られる力がさっきより強い。
「おら根性出せお前ら。負けたら死刑だぜー」
リュンケルの暢気な警告と共に、引っ張られる力が一段と強くなる。これぞ恐怖政治の成果……だけではなく、あの弓なりの並び順は意外と力が伝わりやすいということだ。
そのまま2戦目はあっさりと敗北を喫し、案の定須藤君がキレ散らかす。
「なんで負けんだよ!どいつがぇ手抜きやがった!?」
「少し落ち着け。向こうが正しい陣形の1つをとったことと、1戦目で勝ったことによる慢心が原因だ」
ランスが須藤君を諫めつつ周囲にも叱咤とアドバイスをしていくが……すまん、どうせ負けるだろうから手抜いちゃいました♪
「お前らにしちゃよくやった。次も同じやり方で、勝てると思っているカスどもに思い知らせてやれ」
ふむ、様子を見るにあれはブラフだね。何かしら別の作戦を用いるみたいだ。
そして双方準備が整い、3本目の火蓋がいよいよ切られた。
「粘れよお前ら!絶対に勝つぞ!」
最後尾からの須藤君の激励のおかげか、僅かにこちら側が優勢に傾いた。総合的なパワーではこちらに分があるため、このまま順調にいけば問題なく勝てるだろう。
「気を抜くな、もう一息だ!引けぇぇぇえええええ!」
気合いを込めた須藤君の雄叫びとともに、赤組が一丸となって綱を-
「あぶねっ」
俺が飛び退いた直後、赤組の生徒達はドミノのように後方へ倒れ込んだ。どうやらリュンケルはこちらに勝ちを譲ってまで、ダーティな戦術を貫くようだ。Bクラスも想定外だったようで、一部の生徒が転んでいる。
「おいリュンケルー。急に綱放すなよな、危ないでしょうが」
「勝てないと思ったから休んだんだよ。正直テメェの無様な姿が見られなかったのは残念だが、そいつらの這いつくばる姿が愉快だったからよしとするか。よかったなお前ら、ゴミみたいな勝ちを拾えてよ」
負けたというのにリュンケルは実に楽しそうにせせら笑う。そんなスポーツマンシップを屁とも思わない態度に、須藤君は怒りのあまり駆け出そうとするが、手前にいたランスが慌てて阻止する。
「待て須藤、怒れば尚更龍園の思う壺だ。もしかしたら暴力沙汰を起こさせ反則勝ちを狙っているかもしれない」
「けどよ!」
「確かに奴のしたことは卑劣で最低だが、ルールに反しているわけではない」
おお、上手いこと須藤君をコントロールしたな。リュンケルもこれ以上は無駄だと判断したのか、手下どもを連れてさっさと引き上げていった。
「勝ったのにスッキリしねえぜ、クソっ……つーか本条、自分だけ助かりやがって!」
「俺だって間一髪で気づいたんだから仕方ないじゃん。だいたい綱を離してくるかもってさっきランスも忠告してただろう」
「勝敗度外視してまでそんなことするとは思わねぇだろ!?」
まあ確かに正論っちゃ正論だけど……リュンケル相手にそんな甘い考えでは、この後もっと酷い目に遭うかもね。
今回の龍園君にはAクラスを攻めようって気はありませんが、本条君を潰すチャンスがあれば見逃したりしません。