続く競技、障害物競走もあっという間に最終組……なのだが、今までで1番死のグループと言っても過言ではない。
Cクラスの2人は凄く弱いから置いておくとして、Dクラスからは須藤君、Bクラスからは柴田君、Aクラスからは俺と、1年生男子最強決定戦かって面子が揃った。ここにミスターとコージーが加わったらオールスターだ。
「テメェには絶対負けねぇ……!」
「今度は俺が勝つぞー!」
片や敵意剥き出しに、片や凄く友好的に接してくる俺の対抗馬2人。……他の5人?お通夜みたいなテンションになってるよ。
そして始まる最終レース。
当然俺が最優のスタートを切り先頭に立ち、斜め後ろにいる須藤君に合わせてメリーゴーランド走法をしかける。
「うぉぉおおおっ!」
猛獣のような雄叫びと共に須藤君は早くもスパートをかけるが、俺もそれに合わせて同じ速度になるようペースを上げる。そして最初の障害である平均台へ到達する。
「待ちやがれクソがっ!」
「待てと言われてなんとやらってね」
須藤君は体格に似合わず細い平均台を異様に素早く渡っていくが、やはり俺との差は一定のまま少しも縮まらない。
平均台を渡り終え、また短距離を駆け抜けてからグラウンドに敷かれた網をスイスイとくぐっていく。
「がるぁぁあああっ!」
肉食動物のように唸りを上げながら突き進む須藤君だが、結局俺との差は縮まらないまま最後の障害物であるズタ袋まで辿り着く。……ふむ、ようやく彼にも焦りが見えてきたようだね。
「……しまっ-!?」
両足を袋に入れて全力で俺を抜かそうと奮闘したが、焦る気持ちが災いして須藤君は転んでしまう。
「お先ー」
「んなっ!?」
その隙に後ろにいた柴田君が須藤君を追い越し、最後の50mにてそのまま俺にも迫ったが、最終的に1位俺、2位柴田君、3位須藤君という結果に終わった。
「ハァッ、ハァッ……畜生……!」
「俺を抜かせないことからくる焦りか、俺以外を眼中に入れなかった慢心か……君の敗因はそんなところかな。どちらにせよ心の鍛練が足りんよ心の」
「うるせぇよ、クソが!」
俺に対して敵意に満ちた視線を向けてから、須藤君は肩を怒らせテントへ戻っていく。せっかくアドバイスしてあげたのに失礼な子だね。……あれじゃいくら運動能力が高くても宝の持ち腐れ、リュンケルに玩具にされて終わるだろう。
「本条お前、さっきより速いじゃんか。もしかして手を抜いてたのかよ?」
「体育祭はまだ始まったばかりなんだし、最小限の労力で勝つに越したことは無いでしょ?だったらスタートでトップを取りさえすれば、後は2位と同じ速度を保って走り続ければいい」
「2位と同じ速度でって……簡単に言うけどよ、それが出来たら苦労はしないだろ?まず誰よりも速く走れることが前提だし、そもそも相手のペースに合わせるなんて-」
「まあ、普通はそうだね」
敵対クラスにむざむざ情報を与えてやる必要もないため、俺は話を打ち切ってさっさとテントに戻る。
悪いけど柴田君、俺にとってはそう難しいことじゃないんだよ。誰よりも早くスタートを切ることも、相手と全く同じ速度で走り続けることも……『幸運』なんて他力本願なものとは違う、俺だけが持つオンリーワンの才能があれば造作もないことだ。
それから須藤君、負けて悔しいからってクラスメイトに当たるのはやめようね?
続いて女子の障害物競走では、またホリリンが矢島ちゃんや木下ちゃんと同じ組に入っていた……ふむ。
「そういや須藤君は2連続で野村君や鈴木君と同じ組だったっけ。となると……」
「9割方確定でしょうね。CクラスはDクラスの参加表を事前に入手し、狙い撃ちしているようです」
「須藤君のような最上位にはクラスの足手まといを、ホリリンのような上位には最上位の生徒をぶつけ駒損をさせ続ければ、最終的に泣きを見るのはDクラスだろうね」
「ええ。……ですがリュンケルさんの戦略は、より狡猾で非道なもののようですね」
「んー?……ああそういう……」
有栖が何かに気づいたようなので俺もレースに意識を向けると、死に物狂いで2位につけたホリリンが最後の50mで、やたらと後ろの木下ちゃんを何度も振り返る。その隙に追い抜かそうとした木下ちゃんは、ホリリンを巻き添えにして共倒れになった。
2人は倒れている隙にどんどん順位を落としていき、ホリリンは立ち上がって競技を続行したものの結局7位に終わる。一方木下ちゃんは最後まで立ち上がれず最下位に終わった。うーむ、一見どこからどう見ても不運なアクシデントだけど……。
「リュンケルのやり口はえげつないなぁ」
「やはり貴方にはわかりますよね?」
「まあね、明らかにホリリンに向かって倒れ込んでたよ彼女。というかよくあんな危ない役回り引き受けたね」
「見返りに高額のプライベートポイントでも提示したのでしょう。リュンケルさんは私達のクラスとの契約により、懐に余裕がありますし」
これがただDクラスの戦力であるホリリンを、怪我させて弱体化させるのが目的ならばあまりにも愚策だ。この体育祭はどれだけ良い結果を出そうと大したリターンが無いのだから、普通に考えればあれだけ危険な仕事の見返りに払う分のポイントを回収できるとは思えない。……そう、普通に考えれば。
「ところで有栖、俺には木下ちゃんがやったってちゃんとわかるけどさ……普通の人にはどう見えるのだろうね?」
「大半の人はアクシデントだと疑いもしないでしょうが、もしあれが人為的だと誰かが指摘したら、そしてさらにDクラスにいるであろう裏切り者さんが口裏を合わせたら……堀北さんが意図的にやったと判断されるでしょうね」
「だね。事故の直前、不自然に何度も木下ちゃんを振り返っていたりと怪しまれることをしているし。リュンケルはそれを利用して……」
「堀北さんから大量のプライベートポイントでも毟り取ろうという考えでしょうね」
半分は、と心の中でのみ付け足しておく。
もう半分は窮地に立たされたホリリンを救おうとする黒幕……コージーの正体を掴むこと。どちらに転んでもリュンケルにとっては勝利といえるね。……ホリリンが大事なら上手いこと正体バレないまま切り抜けろよコージー。もし有栖の興味を引けば君の望む平穏は、さらに遠ざかっちゃうだろうから。
続いて男女別二人三脚。まあ俺と橋本のペアは当然の如く圧勝したのだが、俺達の次の組に入った須藤君と池君のペアが、なんというか凄かった。
「どわあああ!?」
開始直後、池君は悲鳴を上げた。
ある意味では二人三脚究極の攻略法……須藤君が開始早々池君を持ち上げ、そのまま力任せに爆走するというものだ。
限りなくグレーゾーンだが見た目だけは二人三脚の体を成しているし、そもそも須藤君クラスの腕力が無ければ思いついても実行できない手段だ。まあこれも実力の範疇だろう。ファルコンのペアも頑張っちゃいたが、須藤君達を抜かすことは叶わなかった。
「マジかよ須藤……俺達と組被らなくて良かったぜ」
「そうだね。最悪俺が全速力で橋本を引き摺りながら走るしか無かったぜ」
「組被らなくてホント良かった!」
続いてコージーと平田君のペアが見事1位を獲得するが、その結果女の子からわーきゃー言われたのは平田君のみ。ルックスは引けを取らないのにコミュ力の差でこうも扱いが変わるのか。
続いて女子の番に移るが、2組目に出場したホリリン・櫛田ちゃんペアがまた矢島ちゃんのペアと当たるのはともかく、うちのマスミン・山村ペアともバッティングしてしまう……リュンケル抜きにしてもあの子運悪過ぎね?
「おやおや、あのようなアクシデントの直後に真澄さんとも当たってしまうとは……お気の毒ですね」
「そう思ってるならその楽しそうな笑顔引っ込めなさいこのサディストめ」
開始早々トップに立つマスミン達をホリリン達は追いかけるが、すぐに矢島ちゃん達に追い抜かれ安藤ちゃん・南方ちゃんのペアもホリリン達に迫る。
…………なるほど。
「なあ有栖」
「どうしました?」
「Dクラスの裏切り者……たぶん櫛田ちゃんだ」
「それはまた随分と意外な正体ですね。……念のために伺いますが、その根拠は?」
「目の前の光景を視ればわかる。ホリリンはさっきのアクシデントで負傷したのかペースがかなり落ちてるのに対し、櫛田ちゃんのペースがやけに速い。……怪我が悪化するようにわざとやってるね」
「なるほど。そういえば彼女、件の竜グループの優待者でしたね」
流石有栖、いちいち順を追って説明しなくていいから楽でいい。
船上試験で優待者の法則を見抜くには、クラス3人の優待者以外に他クラスの優待者も最低1人は知っておく必要があった。もし櫛田ちゃんがあのときからDクラスを裏切っていた……つまり優待者であることをリュンケルに教えていたのだとしたら、全ての辻褄が合う。
竜グループを結果1で終わらせたのは、櫛田ちゃんに見返りを与えて信用を確固たるものにするためで、何かやたらとホリリンが集中的に狙われているのは、参加表を晒す見返りにホリリンを狙えと要求されたのだろう。
何故櫛田ちゃんがホリリンを陥れようとしているのかは不明だが……どうでもいいか。人が人を嫌い憎むのに、複雑な理由なんて必要ない。
最終的にレースはマスミン達が1位、ホリリン達は途中で追い抜かされ最下位となった。どちらもDクラス主戦力のペアだけに、この敗戦は痛いだろうな。
「ところで桐葉。Dクラスの黒幕さんについてはあんなに口が固いのに、今回はどうしてあっさりネタバレしたのですか?」
「だってあの子つまらねーし、有栖の遊び相手も到底務まらない。……有栖も葛城のときみたいに時間を無駄にはしたくないだろ?」
「なるほど、では放置しておきましょうか」
ようやく10分間のインターバル。
体育会系の面々はまだまたま余裕そうだが、ガリ勉系の中にはもう半死半生といった状態の子もいる。彼らもこれを機に理解してくれるといいな……将来何をするにしても体力は必要になってくると。
「しかし二人三脚は残念だったなファルコン」
「……すまん」
「貴方が2位のときは須藤君や柴田君が相手だったのですから、そう気に病むことありませんよ鬼頭君。気に病むべきは橋本君でしょう」
「俺!?」
「二人三脚は桐葉と組んだのですから1位は当然として……ここまで1度も自力で1位を取ってないじゃないですか」
「かといって3位以下には落ちてもない、と……率直に言って何の面白味も無いな」
「まったくです。勝てないならせめて頭から地面にダイブするくらいのインパクトが欲しかったですね」
「お前ら俺に何を期待してんの!?」
「Aクラスのうっかり八兵衛たるお前に期待することなんてただ1つだろ?」
「そんな情けない通り名頂戴した覚えねえよ!」
じゃあAクラスの明智光秀か、明智光秀なら満足するのかコラ。
「……それに比べてマスミン、ここまで絶好調じゃん。このまま順調に行けば学年別最優秀狙えるんじゃね?」
「アンタがいる時点で狙える訳無いでしょ」
「大丈夫大丈夫、全学年最優秀とは重複しないってルールに書いてあったし」
「アンタならマジで取れそうなのがアレね……」
「当然でしょう。私の桐葉ですよ?」
対抗馬になりそうなのは、やっぱみやびん先輩だろうね。クラス全体にまんべんなくチャンスを与えてる会長さんに対して、みやびん先輩は自分が大差でトップを取れるよう、自クラスだけじゃなく他の3クラスの組み合わせさえ調整しているようだ。以前小耳に挟んだみやびん先輩が2年全体を掌握しつつあるって話はどうやら眉唾じゃないらしい。
こりゃ俺もトップを取るためには、騎馬戦で相当荒稼ぎする必要がありそうだ。
「さて、そろそろ狩りの時間だな」
「激励……は不要でしょうね。今日まで準備してきたその左手もそうですし、何よりあの切り札が貴方にある以上敗北はありえないでしょうから」
「あのね有栖、必要無くても激励は欲しいの。男は例外無く皆バカな生き物だから、好きな子に応援されるとそれだけで凄くテンション上がんの」
「フフ、それは失礼しました。それでは……頑張ってください、貴方の勝利を信じていますよ」
「了解だぜい☆」
「士気が下がるから自重してくれない?」
「諦めろ神室ちゃん、完全に2人だけの世界だ」
「……慣れが大切だぞ」
言いたい放題だね君達。
次回騎馬戦にて、桐葉君の真の力が明かされる……。