女王の女王   作:アスランLS

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橘「ついによう実2期が始まりましたね」
桐葉「茜先輩も大活躍でしたね」
橘「1話では会長に業務報告をしただけですよ……」
桐葉「今後も茜先輩が縦横無尽に大暴れするので、皆さんどうかお見逃しなく!」
橘「無計画にハードルを上げないでくださいっ。だいたい2期は多分7巻までだから、そこまでだと大して出番もありませんし……」
桐葉「といっても茜先輩、8巻まで続いたところでみやびん先輩に苛められて泣かされるだけっすよね?」
橘「誤解を招く言い方しないでください!?概ね間違ってはいませんけど!」






体育祭閉幕

 

昼休憩も終わり体育祭は花形である推薦参加種目に突入するが、俺は1度も土をつけられることなく順調に勝利を重ね続けた。

借り物競走は『好きな人』というお題を引いたのでノータイムで有栖をお姫様抱っこでゴールまで運び、四方綱引きではファルコンと共に山田君擁するCクラスをパワープレーで下して勝利をもぎ取り、男女二人三脚は眼の応用でマスミンのトップスピードに合わせて駆け抜けた。これでもうAクラスの学年別総合優勝はもう確定的だね。

しかし順調に勝利を重ねるAクラスとは対称的に、Dクラスは完全にお通夜ムードに突入していた。結局昼休憩後も須藤君は戻らず、ただでさえ乏しいプライベートポイントを平田君が消費して彼の代役を立てて臨むも、絶対的エースを欠いた状態で挑んだところでもうどうしようもなく、最後の種目1200mリレーの番になる頃には総合最下位が確定していた。

ホリリンもどの道あの怪我じゃ不参加だっただろうけど、さっぱり姿が見えないのはおそらく須藤君の説得でもしているのだろうね。だけどこの様子だと結局最後まで連れ戻せなかったか、残念ながら今回は俺の見込み違いだったのかも……  

 

……いや、そうでもなかったみたいだね。

 

「はあ、はあっ……悪い待たせた!今どうなってる!?」

 

息を切らせた須藤君がDクラスに戻ってきた。足を痛めているからか、彼より少し遅れるようにホリリンも。

……2人とも良い目をするようになったね。彼等の間に何があったか知らないが、おそらく2人は今まで目を背けていた己の弱さから、逃げずに向き合うことができたのだろう。自分の弱さを認めることは、簡単なようでいて中々できることじゃないし、それを乗り越えた彼等の心は比べ物にならないほど強くなったことだろう。

現に今、クラスの殆どから非難するような視線を向けられているというのに、須藤君は自らの過ちを認め素直に頭を下げている。戻ってくる前の須藤君なら天地がハンドスプリングしても有り得なかった光景だ。

そしてホリリンにしても、私情で体育祭を投げ出した須藤君を連れ戻すなど、以前までなら絶対にしなかっただろう。

この2人の成長を見届けた俺は、今後Dクラスはさらなる飛躍を遂げることを予感しつつも、そろそろリレーが始まるためグラウンドの中央へと向かう。

 

「それじゃあ頼んだよファルコン。緊張して大暴投しちゃダメだからね?」

「無用な心配をするな。……この1ヶ月、俺は欠かすことなく鍛練を費やしてきた」

 

流石ファルコン、頼りになる男だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

推薦競技最後の種目1200mリレーは、全学年全クラスが入り交じった12人同時スタートの6人によるリレーだ。12人分のレーンなど用意できないのでスタートは横並びで、レース中可能なら好きにインコースを取って構わないというルールになっている。

スタート同時に約1名が集団をごぼう抜きする。1年Dクラスは最強カードの須藤君をアンカーではなく敢えて1番手に回し、ぶっちぎりでリードを取ることで混戦を避けてインコースを取った……が、中盤に差し掛かるとどんどん追い抜かれていった。やはり序盤でリードを大きく奪うと余計なゆとりが生まれてしまうから、速い奴は後ろに回すべきだったと俺は思う。

ちなみに我らが1年Aクラスは巧みなバトンワークで中々の好順位につけている。この1ヶ月間、彼等は徹底的にバトン手渡しの訓練を行ってきた。身体能力では上級生に対して不利になるのは百も承知で、そういった細かいタイムロスの削減を重ねてアドバンテージを取ろうという目論見だ。

しかし現実はそう上手く運ばない。2年と3年のAクラスはそういった部分でもまるで隙は無く、さらに卍解ちゃん達も同じ方針だったのかバトン捌きにそつがない。結果、2年と3年のAクラスを1年Aクラスと1年Bクラスが後ろから追いすがるという形が続く。

 

しかしここで思わぬハプニングが発生。

 

4番手で走っていた3年Aクラスの先輩が途中で躓き転倒してしまう。その隙に1年のAクラスとBクラスはその先輩を追い抜かすが、レースはもう2年Aクラスの独走態勢となった。ウチのクラスは懸命に追い縋るも途中で3年Aクラスに追いつかれ、5番手の鬼頭が走る頃にはトップとは30mの開きができていた。

 

「どうやらこの勝負は俺達の勝ちっすね堀北会長。出来れば接戦で走りたかったですよ」

 

2年Aクラスのアンカーで次期生徒会長現副会長のみやびん先輩は、会長さんを見つめて笑いながら勝利宣言をしたかと思えば、その笑みを俺にも向けてきた。

 

「それに本条、お前もな。まだ1年でよくここまで個人成績で俺に張り合ったがこのリレーで俺の勝ちだ。……だが安心しな、ちゃんとお前の実力は認めてやるよ。どうやら堀北先輩が卒業した後も退屈しないで済みそうだ」

「……さてどうでしょうねみやびん先輩、勝ち誇るのは少しばかり気が早いんじゃないすか?」

 

俺がそう指摘するとみやびん先輩は笑みを消し、途端に不愉快そうな表情になる。

 

「お前のクラスと俺のクラスには、既に30m程の開きがあるんだぞ?お前の足の速さは確かに驚異的だが、この俺も随分と舐められたもんだな」

「いやいや流石にそんだけリードされたら、いくら俺でもみやびん先輩を追い抜かすのは無理ですよ。……だったらそのリードを奪うまでっす」

「は?」

 

怪訝そうなみやびん先輩に構わず、俺は後ろを向いて準備に入る。あともう少しで2年Aクラスの5番手走者、瀬川先輩がこちらに到着するだろう。

 

「この学校って面白いですよね。試験だっていうのに、ルールのいたるところに抜け穴が意図的に仕込まれている」

「……何が言いたいんだ?」

「少なくとも普通のリレーじゃ、こんなことしたら間違いなく即失格だ。それが許されてるのは多分、俺達下級生が上級生と競い合うための救済措置なんでしょうね」

 

そして今まさに瀬川先輩からみやびん先輩へバトンが渡ろうというところで……

 

 

「ぬうぅぅうううおおおおおっ!」

 

 

雄叫びと共に30m後ろから5番手走者ファルコンが、俺に向かってバトンを全力で投擲した。

 

「「「なぁっ!?」」」

 

コージーと会長さん以外のアンカーが驚愕する中、俺は軌道が大きく逸れたバトンに素早く飛びついてキャッチした。……何が無用な心配をするなだよ、暴投もいいところだあのノーコン野郎。もしこの眼が無かったら取り零すところだったよ……まあ文句は後でたっぷりグチグチ言うとして、とりあえず今は勝ちに行くとするか!

 

「っ!?くっ……!」

 

俺は即座にターンして疾走し、みやびん先輩もバトンを受け取り俺に並走するように走り出した。

 

「流石に想定外だったぜ、まさか最後の最後でこんなビックリ芸を用意してるとはよ!たしかに普通ならこんな暴挙、許される筈がねえ!」

「うちのお嬢様は用意周到でね、事前にルール確認も済ませてあるっすよ。だけど序盤から仕掛ければもしかしたら真似されるかもしれないし、ここ一番の奥の手ってわけです」

 

失敗すれば大きく順位を落としかねないリスキーな博打だが、仕掛けることにあのランスでさえ反対をしなかった。堅実に挑んだところで上級生との運動能力差は、そうそう埋められるものでもない。何よりこのリレーで勝とうが負けようが学年別総合優勝に揺るぎはないのだ、この局面ではたとえランスであろうと止める理由はどこにも無い。

俺とみやびん先輩は最初は並走していたものの、あっという間に差は開いていく。

 

「な、なんだと!?」

 

会長さん曰く優れた学力に高い運動能力に加え、突出した人心掌握力を兼ね備えた、やや危険な思想を抱いているが図抜けて優秀な人物らしいが……少なくとも単純な身体能力では、俺や六助には遠く及ばないようだ。

最終的に俺はみやびん先輩に10m以上差を付けてゴールテープを切った。遅れて2着でゴールしたみやびん先輩は、怒りと歓喜の入り混じったような目で俺を睨んでくる。

真っ向から完膚無きまでに敗北した悔しさと、何やらずっと探していた物が見つかったような喜び。

 

「やってくれたな本条。こんな屈辱は生まれて初めてだ。決めたぜ……次期生徒会長として、お前は来年俺がこの手で叩き潰す」

「来年って……屈辱とまで言う割に、随分と気が長いんすね」

「残念だが俺も今年は色々と忙しくなるから、お前の相手までしている余裕は無いんだよ。……それに堀北先輩が卒業する前に勝っておきたいしな」

「ふむ……でも当の会長さんはコージーがお気に入りみたいっすよ?」

「あ?」

 

おもむろに俺がグラウンドに視線を向けながらそう言うと、みやびん先輩は怪訝そうな表情で同じ方向を向き……凄いスピードで走るコージーと、同じく凄いスピードで追い縋る会長さんに、思いっきり目を見開いて固まった。

あっ、少し前を走っていた生徒が2人の驚異的過ぎる追い上げに驚いて転んでしまいコージーの進路を塞ぎ、その隙に会長さんが追い抜いて4着でゴールした。しかしコージーよ、下手したら俺や六助より速かったけど……目立ちたくないんじゃなかったの?こんな大観衆の中であんな走りしたんじゃ、確実に有栖にも目つけられたよ?

……憶測なため断定はできないが、ある程度理由は推測することはできるけど、どうしてもやっちゃったな感が否めない。

 

「多少不本意な結末だが……まあ競技にアクシデントは付き物か」

「どういうことっすか堀北先輩。1年Dクラスは精々7着だった筈……なんでアンタが後ろから追っかけてたんですか?」

「後輩から興味深い挑戦状を叩きつけられたんでな、並走するために3着を捨てただけだ」

「それは随分と不公平な話ですね。俺の挑戦は全然引き受けてくれなかってのに……」

「それはお前が周りを巻き込みすぎるからだ。……それにもう俺だけに執着しなくても、楽しめそうな相手なら見つかっただろう?」

「そういう問題じゃ……ないんスよ……!」

 

俯くみやびん先輩に構わず会長さんはその場を後にし、コージーもいつの間にかさっさとテントに戻っていた。

 

「あいつはたしか綾小路……何故堀北先輩はあいつと……しかしあの走り、これまでの競技では……何かあるのか?……」

 

みやびん先輩が何やらブツブツ言い出し始めて、正直ちょっと関わりたくなかったので俺もさっさとテントに戻る。

するとテントでは有栖が、めったにお目にかかれないほど上機嫌に微笑んでいた。なんかもう幸せなオーラが物質として具現化しかけてるようだ。……ここまで喜んでいる有栖は中学のとき、俺がこの子の下につくことを半分了承したとき以来かな。

体育祭で勝った程度でここまで喜ぶわけがないし、考えられるとすればコージーか?やだ、ヤキモチ焼いちゃう。

 

「随分とご機嫌じゃん有栖、どうしたの?」

「以前桐葉にも少しだけお話しましたよね?私の信条にかけて、勝たなくてはならない人物がいると。……その方と今日巡り会えました」

「ふーん、それがコージー……つまり綾小路清隆ってわけか」

「……随分彼と親しいようですね。もしかして彼が例の黒幕さんなのですか?」

「うん、俺達ズッ友」

「……こんなことなら、他クラスの方々にも目を通しておくべきでしたね。そうとわかっていれば、葛城君に無駄な時間を割くこともありませんでしたのに」

「まあ、後の祭ってやつだね」

 

そして閉会式となりトータル得点数が発表される。まず勝った組は当然赤組で、1年の総合順位は……

 

1位 Aクラス

2位 Cクラス

3位 Bクラス

4位 Dクラス

 

これで俺達Aクラスはプラス50。Cクラスは白組が負けたことでマイナス100。Bクラスは総合3位のマイナス50と白組の負けによるマイナス100合わせてマイナス150ポイント。Dクラスは最下位によりマイナス100ポイント。一番スポーツマンシップに則って臨んでいたBクラスが一番損するという、何とも後味の悪い結末だ。

そして俺は見事全学年最優秀賞に輝き、1年最優秀賞にはなんとマスミンが選ばれた。おそらく騎馬戦での大活躍と最後のリレーが最大の決め手だろう。

これで須藤君のホリリンを名前で呼ぶという悲願は、跡形もなく砕け散ったわけだが……

 

うぉおおおおおおおおおっしゃあああああああああ!!

 

当の須藤君は割れんばかりの大歓声を上げていた。少し気になったので本人に聞いてみることにする。

 

「どしたの須藤君?何やかんやでホリリンが名前で呼ぶこと許してくれたの?」

「おう本条か、まさにその通りだぜ!色々あったけだ、最高だぜ体育祭!」

「現金だね君も」

 

そんな感じて子供のようにはしゃいでいた須藤君だったが、急に静かになりまっすぐ俺と向き合う。

 

「今日はお前にもかなり迷惑かけちまったな……色々とすまんかった」

「別に気にしなくてもいいよ。大した手間でも無かったし」

「それに……俺の完敗だった。運動じゃ誰にも負けねぇと、自分が調子に乗っていたことを痛感したぜ。上には上がいるんだな。……だが、次は負けねーぞ」

 

そう言って須藤君は右手を差し出してきたので、当然俺も握手に応じる。

 

「ふむ、さっきとは違い力強い拳だ。何があったかのかは知らないけど、今回の経験を経て大きく成長できたようだね。……よろしい、リベンジはいつでも受け付けているよケン坊」

「おう-ケン坊!?」

「ある程度気に入った人にはニックネームをつけると決めているんだ」

「だからってケン坊はねーだろケン坊は!?ガキみてぇだろうが!」

「癇癪を起こして体育祭バックレかけたんだから正しくガキでしょうが。なあコージー?」

「何故そこでオレに振る」  

「ほら、コージーも反省しろクソガキだってさ」

「捏造するな」

「テメェらぁああ……!」

 

気が短いのは相変わらずなようで、俺とコージーがキレたケン坊から逃げ回っていると、面倒そうにしながらマスミンが近づいてきた。……最優秀に選ばれたってのに、ちっとも嬉しそうにしてないねこの子。

 

「盛り上がってるところ悪いけど、ちょっといい?」

「ん?どしたのマスミン」

「確かにアンタもだけど、そっちの……綾小路だっけ?この後着替えたら少しでいいから時間を頂戴」

「……どうしてオレが?」

「少し話があるから、5時になったら玄関に来て」

 

言うだけ言ってマスミンはさっさとその場を後にした。突然の出来事に、須藤君の怒りも消し飛んだようだ。

 

「なんだよ綾小路。お前にも春が来たのか?」

「本条も呼ばれているからそれは無いだろう。……本条、何か知っているか」

「うーんとねえ……多分呼んでいるのはマスミンじゃなくて、俺達Aクラスのトップだろうね」

「つまり……坂柳か」

「色々事情があるだろうけど、今回はやっちゃったねコージー。有栖に知られたからには、君の平穏はかなり遠ざかると思った方がいい」

 

変に希望を持たせないよう残酷な予言を残しつつ、俺もマスミンの後を追った。

 

 

 




【障害物競争】

係員「お題は、好きな人か……疑うつもりはないが、証拠としてこのマイクで愛を叫ぶのがこの学校の伝統-(マイクを奪い取られる)」



桐葉『有栖ちゃん大好きーーーーー!!!』


ウソオオオオオ!? 

ナンノタメライモナクイイキッター!?

スゲー!

ワアアアアア! 









有栖「公開処刑か何かですか……?(顔真っ赤)」
神室「ああ、うん……少し同情する」


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