7巻はよう実でも屈指の名ストーリーですので、興味のある方は是非とも原作を読みましょう。
今年も残すところあと2週間。
金曜日の放課後、有栖は卍解ちゃんで遊ぶために色々と下準備で忙しいとのことで、俺は久し振りに植物庭園『ルビカンテ』に向かう。
施設の中に入ると5人の生徒が何やら仲良く談笑していた。珍しいな、ここに訪れる物好きな学生なんてそういないのに。それに加えて……ってあれコージーじゃん。
「おーい、コージー」
「本条か。珍しい場所で会うな」
「それはこっちのセリフ。試験中は色々と忙しかったから来るのは久し振りだけど、もしかして俺が来れない間に常連になってたりする?」
「まあ、そんなところだ。期末試験中は主にここで集まって勉強会を開いていた」
「ふーん……しかしまあ随分と珍しい集まりだね。三宅君、幸村君、佐倉ちゃん、長谷部ちゃん……君も含めてあまり人付き合いが得意じゃない面々だ」
「試験期間中にちょっとした縁でできたグループでな、居心地がいいから関係を続けている。……しかし以前関わりのあった啓誠や愛理はともかく、明人や波瑠加のことまで知っていたのか?」
「やだなぁコージー。流石に同じ学年の生徒くらい皆覚えているよ」
ぶっちゃけ面倒だったけど、有栖に絶対覚えろと言われて渋々暗記したことは伏せておこうっと。……それにしても啓誠?話の流れからして幸村君なんだろうけど、複雑な事情をお持ちなのかな。
「あ、あの、本条君!」
「んあ?どしたの佐倉ちゃん」
「あの……1学期のとき、ハンカチありがとうございましたっ!」
「ハンカチ?……ああ、暴力事件のときのことね。気にしないでいいよ、泣いてる女の子の涙を拭ってあげるのは男の義務だしね」
「うーわ、そんな物凄くこっ恥ずかしいセリフを躊躇なく言い切っちゃうんだ……流石全校生徒の前で坂柳さんに愛の告白した人は違うねー。ゆきむーじゃ絶対無理だよ」
「俺に飛び火するな」
「坂柳と言えば本条、今日は一緒じゃないのか?」
「有栖は悪だくみで忙しいから今日は別行動だね。……というか三宅君、放課後は別にいつも一緒にいるわけじゃないからね?俺のフットワークに合わせてたら、有栖の体が持たないし。あの子ロッゲンシュロートより弱っちいから」
「お前の中の坂柳はライ麦パンにも負けるのか……」
最初らへんは少し警戒していたようだけど、不快にならない距離感を保ちつつ適当に雑談している内に、長谷部ちゃんや三宅君とも仲良くなれた。やや気難しいけどホリリンよりかは与し易いかな。
「そういやこの間のペーパーシャッフル、Cクラスに勝ったんだよね。こりゃクラス昇格も時間の問題かな?」
「そうなるな。……そっちも危なげなくBクラスに勝利したと聞いている」
「まあね。これで卍解ちゃん達は大きく減衰、もしかしたら近い内に君達に追い抜かれちゃうかもねー」
「もちろん、追いつき追い抜くつもりだ」
それまで口数が少なかった幸村君が、眼鏡をクイッとさせながら突然一歩前に出てきた。
「そしていずれはAクラスになる」
「ほほう、大きく出たね。元気でよろしい」
「……できもしないことを口にするなとでも言いたげだな」
「いーや?むしろ一番可能性があるんじゃないかな?六助を相手にするとなると、いくら俺でも常勝とはいかないだろうしね」
そしてコージーも……と心の中で付け足しておくと、何故か幸村君は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「六助、って高円寺のことか?アイツが真面目にクラスに貢献するわけないだろ」
「うん、そうだろうね。……でも体育祭のときのように相手が俺の場合に限り、彼は君達の力になってくれる筈だよ」
「そんなまさか、いや200m走では確かに……」
「……まあそれでAクラスに勝てると思ったら大間違いだけどね。俺達に挑むときは気を引き締めなよ?有栖は(たぶん)俺よりも手強いからさ」
俺の言葉を聞いて、コージー以外の子達が臆したような表情に変わる。船上試験や体育祭を通して俺の圧倒的な力は身に染みてわかっているだろうし、有栖がそれ以上と言われれば嫌にもなるだろう。
「……ところで君達、さっきから監視されてることには気づいてる?」
「ああ、Cクラスの小宮だろ」
俺達以外に植物園内にいる2人について指摘すると、三宅君はその内の1人だけに言及してきた。この態度からしてあの子には気づいてないのかな?……と思っているとコージーがさりげなくアイコンタクトを飛ばしてきた。なるほど、黙ってろってわけね。
「最近やたらとCクラスに見張られてるんだ。俺弓道部なんだけどよ、あいつら今日は部活にも顔出してきやがった。見学ってことて先輩達は認めてたけどよ、四六時中俺の方を睨んでたせいでやりづらかったぜ。何がしたいんだアイツら……」
三宅君はうんざりしたように肩が凝るポーズを取った。Cクラスの見張り……裏には確実にリュンケルがいるとして、いったい何のために?
「Dクラスの成長に関係があるんじゃないか?早々にクラスポイントを0にした俺達が、気がつけばCクラスと立場が入れ替わりかけている。龍園も相当焦っている筈だ」
幸村君がそう指摘するが、多分リュンケルはそんなタマではないだろう。彼は過程がどうなろうと最終的に勝てばそれでいいと考えるタイプだし、Dクラスに落ちたくらいで凹む筈がない。
「そういえばそうだよねー。あれだけ馬鹿にしてた私達に追い抜かれそうだし」
「……でも本当なら、まだ追い抜けなかったんだよね?」
佐倉ちゃんの言う通り、今回のペーパーシャッフルで100ポイントがDクラスに移動しても、Cクラスとの差はまだ80ポイントほどあった。が……
「ああ。詳細は不明だが先日Cクラスに重大な違反行為があったらしく、そのペナルティでマイナス100ポイントされたそうだ。それがなければ、俺達はまだDクラスのままだっただろう」
「何やらかしたらそんな大事になるんだか。まあCクラスらしいけどね」
何やら呆れてるけど長谷部ちゃんさ、Cクラスも1ヵ月で1000ポイント失った君達には言われたくないと思うよ?
「クラスの変動はそう頻繁に起こるものじゃないだろうし、最初に大きく出遅れたクラスに追い抜かされそうとなれば焦るのも無理は無い。龍園が急成長の理由を探ろうとしているなら辻褄も合う」
「普段偉そうにしている龍園君にとっては、メンツ丸潰れだもんねぇ」
「なるほどな、あいつらが必死になるのも無理は無いか」
悔しがるリュンケルでも想像したのか、三宅君もある程度の溜飲を下げたようだ、
しかしこのメンバーのほとんどはDクラスの躍進に関わりの無い生徒だったので、(表向きは)ホリリンの私兵として行動しているコージーが、これまで特別試験でホリリンがどう立ち回ったのかについてその軌跡をメンバーに共有することになった。ちなみに敵対クラスである俺がいるのは色々と不味いため、一段落するまで離れていることに。
「まあだいたい知ってるんだけどね」
しばらく疑似森林浴を満喫しているとコージーから連絡が入ったのでグループに合流する。
「話はまとまったの?」
「ああ。堀北の八面六臂の大活躍ぶりを再確認し終えた後、今はこのグループで誰もクリスマスの予定が入っていないという話で盛り上がっている」
「そんな悲しい内容でどう盛り上がるのさ……」
「うわ、憐れみの目で見られちゃった。やっぱり可愛い彼女持ちがいると違いますな。やっぱりイブの日は坂柳さんと2人きりで甘い夜を過ごすの?やらし~」
「女の子にあるまじきゲスい発想だね長谷部ちゃん。ご期待に添えず申し訳ないけど、24日は毎年有栖がパーティでも企画するのが通例になってるね。イブがどうとか以前にその日は俺の誕生日だし」
かの神の子と同じ誕生日と言えば聞こえがいいがこの日に生まれた人は、高確率でクリスマスやお正月とひとまとめにされるという悲しい運命を背負うことになる。俺は幼少期から物欲があまり無かったから特に気にしなかったけど。
「へえ~、坂柳さんときりぽんってこの高校に入る前からの付き合いなんだ?」
「まあね、中学時代からあの子の我が儘にはそれはもう散々振り回されて……きりぽん?」
「桐葉君だからきりぽん。私仲良くなる時はあだ名から入るから。きよぽんとは以前から友達みたいだし、お揃いでいいかなって……ダメ?」
「んーん、別に構わないよ。……しかしコージー、アダ名が2つもあるとややこしくて面倒じゃない?今後は俺もきよぽん呼びに変えよっか?」
「お前は今後ともコージー呼びで頼む。女子からでも大概恥ずかしいのに、男子からそう呼ばれるのはちょっと耐えられそうにない」
「というか本条はそういうの全然躊躇わないんだな……体育祭のときのアレといい、どんな心臓してるんだ?」
「無尽蔵の自己肯定感さえあれば、周りの評価などに左右されないものだよ三宅君。六助とかもそうでしょ?」
「……お前と高円寺が仲良くやれている理由が何となくわかった気がする」
うーむ……予想以上に打ち解け過ぎてしまったかな?コージーを除く4人の内、幸村君と佐倉ちゃんはまあギリギリ合格ラインとして、他の2人は正直欠片も興味が湧かない。
でもさっきの口振りからして今後もこの『ルビカンテ』を拠点にするみたいだし、とりあえず仲良くしておくに越したことは無いかな?無いよね?うん、無いってきめた。
「あ、あの……清隆君は、ク、クリスマスの予定とか入ってるの?」
脳内で今後の方針を定めていると突然佐倉ちゃんが、このタイミングだと人によっては告白とも取られかねない質問を投げかけた。
「うわ愛里、きよぽんを誘ってるの?だいたーん」
「ち、違うよ、そういうのじゃなくて!……違うからね!?」
「などと容疑者は供述しておりますが、長谷部氏はいったいどう思われますか?」
「そうですねきりぽん氏、きよぽん氏はつい先程フリーであると述べたばかりですので、これはもう誘ってると見て間違いないでしょう」
「お前ら打ち合わせでもしたのか……?」
「だからそうじゃなくってぇ!……ほら、その、1人でクリスマスを過ごすとき、何をしてるのか気になったからっ」
わざわざ眼を使わずとも嘘だと断定できるくらいの慌てっぷりだが、流石に可哀想なのでこれ以上は追求しないでおくか。
「なるほど確かに少し気になるかも。みやっちは部活として、ゆきむーは?」
「俺は勉強してるだろうな。これからは追うだけでなく追われる立場にもなるし、クラスに学力の低い生徒も多い。運動で役に立てない分、学力では牽引していきたい」
「そこまで勉強する努力は俺には無理だな……任せたぜ啓誠」
「任せるのはいいがな明人、もしAクラスで卒業できても地力が無ければ自滅するだけだぞ」
「逆に言えば俺のように地力があれば、B以下で卒業しようがどうとでもなる」
「確かに本条なら実際どうにかなりそうだな……けどそれじゃ、Aクラスで卒業する意味って薄くなるよな」
三宅君は何やら不満そうだが、俺から言わせればAクラスの恩恵なんてものをあてにする方が間違ってる。人生とは自らの手で切り開くものだし、もし彼等が俺や有栖を蹴落とせるだけの実力を身に付けたなら、尚更国の補助輪なんて必要無い。
「それで、愛里が気にしてるきよぽんは?クリスマスはやっぱり1人?」
「多分そうだな。特にすることも無いし、部屋でおとなしくしてるんじゃないか?」
「やること無くて暇ならチクタクバンバンでも貸そうか?」
ちょっとした親切心で、以前ネットで注文したブツを懐から取り出してコージーに手渡す。
「……ちょっと気になるから借りておこう」
「なんで持ち歩いてるんだそんな古いオモチャ……」
やだなぁ、ちょっとしたお茶目心じゃないか。
「折角集まったんだし、皆で晩御飯食べて帰ろうよ。あ、きりぽんもどう?」
「誘ってくれてありがたいけどごめんね、基本的に外食はしない主義なんだ。それじゃあ皆、また近い内に会おうね」
そう言って懐から花束──チョイスした花は友情を意味するアイリス──を放り投げて全員の視界を塞ぎ、花が全て地面に落ちる頃には姿を消しているという、最近習得したマジックを披露する。造花にはメアドが書かれたメモを添えておいたし、いい感じにミステリアス感を残しつつ退場できたぜ。
……それにしても、マスミンも気の毒な子だなあ。多分有栖の指示でコージーを尾行してたんだろうけど、たぶん全部バレてるよねアレ。
桐葉君は眼の補正もあって、相手が最も心地よいと感じる距離感で人と接することができる特技があるので、堀北さんや龍園君といったよほどの難物でない限り誰とでも仲良くできます。
【桐葉君による綾小路グループの評価順】
①綾小路
②幸村
③佐倉
④長谷部
⑤三宅