女王の女王   作:アスランLS

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スマホのフリックで執筆してると誤字がほんと多い……しつも誤字報告してくれる皆さんには頭が下がります……。


綾小路先生

 

その後も『ルビカンテ』にてコージー達の集まり……通称綾小路グループと幾度かエンカウントした。なんでも人が少ないし待ち合わせ場所に都合が良いらしい。植物をこよなく愛する俺としては、この施設がそんなハチ公みたいな扱いをされることにやや複雑な思いだが、まあ大して意味が無さそうなのにコージーを尾行させられているマスミンに免じて見逃してやろう。

しかし彼等のCクラスに対する愚痴りようからして、リュンケルはDクラスに潜む黒幕に対して本格的に絞り込み始めたようだ。Cクラスの生徒達はリュンケルの指示でDクラスの生徒をずっと監視しているみたいだが、おそらくそれはフェイク……好機と見るや否やリュンケルはコージーに対して本命の攻撃を行うだろう。

有栖は有栖で何やらみやびん会長と接触して、卍解ちゃんを追い詰める準備をしているみたいだし、3学期になる頃にはクラス間の勢力図が大きく変動していることだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこの君。すまないがちょっといいかね?」

「ふむ?俺ですか?」

「そう、君だ」

 

ある日の昼休み。いつものように決まりきった食事を決まりきったペースで食べ終えた俺は、適当にメンバーを集めてキックベースでもしようかなと思っていたところで、スーツを着た40代くらいの男性に声をかけられた。

 

「応接室に用があるのだが、どこにあるのか教えてもらっても構わないか?」

「ああ、そうなんですか。口で説明するのも面倒なんで直接案内しますよ」

「わざわざすまんな」

「いえいえ、困ったときは助け合うのが人情です」

 

おじさんを先導しつつ思考を巡らせる。

見かけない顔だ。少なくともこの敷地内で会ったことは1度たりともない。……が、身に纏うその雰囲気はどことなく友人の1人と重なる。

それに加えてこの人の鋭い眼光は、桁外れに強い意志と信念を宿している。身体を視る限り運動能力は凡庸そのものだが、片時たりとも警戒を解いてはならないと俺の本能が告げている。表面上の能力よりも心の強さを重視し、またそれを見抜くことが特技であり趣味である俺をして……これまで会ってきた人々とは比べ物にならない程に抜きん出ていると断言できる。この人はたとえどんな障害が立ち塞がろうと、またどれだけの犠牲を払おうとも歩みを止めることは決してないだろう。そしてこの特徴もその友人と若干重なる。

……ふむ、少し興が乗ったな。

 

「ところでおじさん、1つ聞きたいことがあるんすけど」

「別に構わんよ。何を聞きたい?」

 

歩きながら周りに聞き耳を立てている人がいないか、あえて大げさに確認してから俺は極力小さな声で尋ねた。

 

 

 

 

 

 

「綾小路清隆を連れ戻しに来たんですか?ホワイトルームの責任者さん」

 

瞬間、空間が軋んだかと錯覚するくらい凄まじい重圧が俺の身にのし掛かった。おおすげぇ……気の弱い人なら卒倒しかねないほどの高密度のプレッシャーだ。

 

「……誰から私のことを聞いた?」

「おや、しらばっくれないんすか?」

「その単語を知ってる以上隠す意味は無い。それよりも何故お前が私を知っていることの方が重要だ。両親に聞いたという訳ではないだろう?奴等はどこまで行っても中途半端な人間だ、私の機嫌を損ねるような大それたことはできまい」

 

おやまあ、急に尊大な態度になったね。

 

「件の施設についてのざっくりした概要と、彼の父親がその施設の責任者だってことは有栖が教えてくれました」

「有栖……ああ、坂柳の娘か。しかしその娘は私と顔を合わせたことは無い筈だが?」

「別に確実な根拠があった訳じゃないんすよ。アンタの心拍、意識の波長……そして目的のためなら手段を選ばない鉄の意志に既視感を感じたんで、ちょいとカマかけただけです」

「……成程。話に聞いていた通り、とても本条と八神の間に生まれた子とは思えんな。その極めて特異な眼を抜きにしても、この平和ボケした国でぬくぬくと育ったとは思えない、強靭な精神を持っているようだ」

 

何やら満足したように頷くコージーパピー。いつの間にか圧も弱まっている。思えば死ぬほど警戒心が強いところもそっくりだな。

 

「いずれ勧誘するつもりだったが、この際丁度いいだろう。……本条桐葉、私と共に来い。お前がいれば予定よりも早く計画の遅れを取り戻せるだろう」

「……それはつまりこの学校を退学して、そのホワイトルームって施設で働けと?」

「色々と教育を施す必要もあるが、当面はそうなるな。だが清隆はいずれ私を超え、この国を動かしていく存在になるだろう。そのときお前にはあいつの右腕となってもらうつもりだ」

 

六助といいこのオジサンといい、なんでどいつもこいつも俺の進路を勝手に決めるたがるかね……だけどそれもまた面白い。

 

「申し訳無いけど、丁重にお断りさせてもらいます。所詮俺はまだ一介の高校生だし、この学校でやるべきことも残ってますので」

「バカバカしい。お前ほどの逸材がこんな所で何を学ぶというのだ。はっきり言って時間の無駄だろう」

「ほう、アンタの下でならここよりも有意義に過ごせると?」

「私の用意する道以上のものなど、この世には存在しない」

「そうまではっきり断言するとは、中々面白い方ですね……そこまで言うなら1つ勝負をしませんか?」

「……何?」

 

ああ、もう駄目だ。

この間有栖から話半分で聞いた内容が真実なら、この人は決して怒らせてはいけない人種だ。気分を損ねてしまえば、俺ではなく俺の周りに危害が及ぶ。しっかりした後ろ盾のある有栖はともかく、俺の家族を破滅させることなど赤子の手を捻るよりも容易いだろう。そしてそれを躊躇うような倫理感は持ち合わせていないときた。

危険だとわかっているのに、本能が絶えず警鐘を鳴らしているというのに……ああ駄目だ、挑んでみたいという欲求が止まらない。どうしても好奇心を抑えきれない!

 

「あなたの本来の目的は、清隆君を連れて帰ることですよね?彼とはこの半年多少なりとも親交があったのである程度予想はできますが、残念ながら彼が了承することは無いでしょう」

「あいつが拒否しようが関係無い。親である私がそれを希望する以上、学校側は直ちに遂行する義務がある」

「まあ普通の高校ならそうなんでしょうけど、果たしてそう上手くことが運びますかね?アンタの息子は徹底したリアリストだ。そう簡単に連れ戻されるなら、初めからこんな袋小路には逃げ込まないでしょう」

 

綾小路パピーは俺の推測に肯定も否定もしなかったが、半年以上経ってようやく接触してきたことからしてほぼ間違いないだろう。この人はとても大きな権力を持ってるようだが、少なくともこの学校に対して好き放題できる程のものではない。

 

「清隆がどれだけ反抗しようと結果は変わらん。自分の意志でここを去るか、私の手で強制的に去るかの違いでしかない」

「でしょうね。彼がこの学校に守られているというなら、学校が彼を庇いたてられなくすればいい……つまり何かしらの介入をして、彼を退学処分に追い込もうとするでしょうね」

「できればそんな無駄な労力は払いたくないが、最悪の場合はそうすることも視野には入れている」

「俺の持ちかける勝負ってのは、まあそういうことです。……どうしても俺をスカウトしたいなら、力づくで奪い取ってみろやオッサン」

 

暗に退学させられるものならやってみろと、あえてわざと挑発的な口調でそう告げると、刃のように鋭い瞳で射抜かれる。……俺がもう少しまともな人間だったらさぞや身が竦んでいたことだろう。しばらく睨み合った末、やがて綾小路パピーは薄く笑った。

 

「たかが15の若造が、よもやこの私に勝負を挑んでくるとはな。……まあいい。私がお前に求めるものは主にその唯一無二の眼と、極めて特異な精神構造の2つ。多少無駄な時間を過ごそうが特に支障も無いだろう」

「おや、俺の勝負を引き受けてはくれないんすか?」

「お前の予想した通り、清隆があくまで私に逆らうというなら検討だけはしておこう」

「なるほど、それじゃあ楽しみにしてますよ。……おっ、見えてきた。あそこが応接室ですよ。それじゃあ俺はこれで」 

 

仲良く談笑している内に目的地に辿り着いたので、俺は教室へ戻るため踵を返す。我輩の辞書に遅刻の文字は無いのだー。

 

「最後に1つだけ忠告しておく。過ぎた好奇心はいずれ己を滅ぼすぞ」

「それならそれで別に構わないっすよ。どれだけ危険だろうと何もせず無難にやり過ごす俺なんて()()()()()。飽くなき好奇心こそが俺のアイデンティティですから」

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「──とまあ、そんな感じのやりとりがあった訳よ」

「アホですか貴方は」  

 

みやびん会長との悪だくみがようやく済んだのか、放課後久し振りに一緒に下校している有栖に昼休みの出来事を話し終えるや否や、深い溜め息とともに罵倒された。なんでや。

 

「彼のお父様がどれだけ危険な人物なのかは、この前ちゃんと教えた筈ですよね?なのになんで躊躇いもなく喧嘩を売ってるんですか?好戦的にも程があります」

「いやお前にだけは好戦的とか言われたくねーよ。……だいたい体育祭でのコージーとのやりとりからして、お前W(ホワイト)ボールとやらに否定的なんだろ?」

「ホワイトルームです。ええ、確かに私はあの施設を絶対に認めることはできません」

 

自らの才能に絶対の自信を持つ有栖ならば、環境さえ整えれば凡人が天才を凌駕するなんて考えは意地でも叩き潰そうとするだろう。

 

「つまり有栖は遅かれ早かれあの人と敵対する運命にあるわけだ。……だったら配下である俺が喧嘩売っても問題無くね?」

「大有りですよバカなんですか?わざわざ自分から地雷を踏みに行かなくてもいいでしょうに……」

「好奇心の為せる業」

「疑ってどうもすみませんでした、貴方は紛れもないバカです。……もしその方が貴方を退学させようと本腰を入れたらどうするつもりですか?」

「勿論自力で対処できるならそうするけど……もしやばくなったら頼りになる有栖ちゃんに助けてもらおっかな?」

「…………まったく、調子が良いんですから」

 

再び呆れたように溜め息をついてはいるが、内心満更でも無いことを隠しきれてないぞ有栖。

俺はなまじ1人で何でもできるので人に頼ることが滅多になく、それは有栖に対しても例外ではない。だからたまにこうしておねだりすると、眼を使う必要が無いくらいあからさまにソワソワし始める。うん、可愛い。

 

「ところで話は変わるけどさ、卍解ちゃんを追い詰める算段はついたの?みやびん会長にあれこれ接触していたみたいだけどさ」

「ええ、彼女の決定的な弱味は手中に収めました。丁度今週の日曜日に貴方がセッティングしてくれた一之瀬さんとの話し合いですので、握った情報が真実かどうか彼女本人を揺さぶって確かめようと思います」

「ふーん……で、真実なら即攻撃を始めると」

「その予定でしたが、今の貴方の話を聞いて少し予定を変更しようと考えています」 

 

ふむ?……ああ、そういやコージーも卍解ちゃんとは仲が良かったっけ。

 

「あの子を壊すのはやめて、コージーを釣り出す餌にしようってわけか」

「ええ、綾小路君のお父様はいずれはこの学校にも何らかの干渉を行ってくる筈。そうなれば彼もその対処に追われ、私と戦っている余裕など無くなるでしょう」

 

どういう訳か有栖は、コージーの平穏を乱すことを避けている節がある。手段を選ばなければコージーが戦わざるを得ない状況に追い込むことも不可能では無い筈だが、あくまでコージーの意思で自分の挑戦を受けてくれるよう誘導しようとしている。

話を聞く限りホワイトルームとやらは倫理的に相当アレな施設らしいし、そこで実験動物のように育てられたコージーに何か思うところがあるのかもしれない。確かに有栖は真性のサディストで性格も悪いが、だからと言って血も涙も無い外道というわけではないのだ。

 

「この学校のルールに則って彼を退学させようとするなら、おそらく来年の新入生に刺客を紛れ込ませると思われます。ですのでそれまでには、彼と戦う約束を取り付けなければなりませんね」

「とはいえコージーは今リュンケル達Cクラスの対処で忙しそうだ。まあ最近の彼らの動きようからして、2学期のうちにはケリが付きそうだけど」

「となれば3学期に入ってから、入念な下準備のもと攻撃を仕掛けようと思います」

「ふーん……話を聞く限り俺の出番はどうやらなさそうだし、精々楽しませてもらうとするさ」

 

緻密な謀略に基づく作戦を行う際には、有栖はあまり俺を頼ってこない。すぐ飽きちゃうし、そのときの気分次第で適当に引っ掻き回すとわかっているからだ。

真っ当な人間ならこうして毒牙にかかろうとしている卍解ちゃんを助けるべきなんだろうが……残念ながら彼女は有栖より優先順位が低いし、特に止めようとも思わない。

そんな俺の考えを誰かが聞けば人でなしだと俺を非難するだろうが、実際わざわざ自発的に助ける価値も無いのだから仕方ないじゃないか。おそらく彼女ではどうなろうが、

 

 

 

 

たとえ目の前で惨たらしく殺されようが、俺の心が揺れることはきっとありはしないのだから。

 

 

 

 

 

  




桐葉君の抱える問題が、徐々に浮き彫りになってきました……。

綾小路パパと桐葉君の両親は知り合いなので、当然桐葉君のことは調査済みです。ホワイトルームの理念に反したような存在ではありますが、あんな使い道が無限にある眼を持っていれば目をつけられますよね。
今回桐葉母の旧姓が判明しましたが、もちろん二年生から登場するあのキャラと大いに関係しています。



桐葉君の両親は凡庸ながらも善良な人間です。真面目で礼儀正しく勤勉で、損得を抜きに困ってる人に手を差し伸べられる人間です。そんな二人に育てられた桐葉君は、まあどちらかと言えば善人寄りの人間に成長できました。
しかし善を貫ける程強くもなかったので、ホワイトルームの実情を知りながら見て見ぬふりをするしかありませんでした。その負い目もあってか桐葉君に「人が間違った道に進んでいるなら、正してやらなければならない」と教育することができなかったようですね。普通に常識も良識も備わってるのにら有栖ちゃんの蛮行を放ったらかしにするのはそういう理由もあったりします。


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