女王の女王   作:アスランLS

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水泳回は飛ばしました。
挿し絵も無いし、メインヒロイン見学確定だし、競争も主人公の設定的に負ける要素が無いし。


ようこそ実力至上主義の世界へ

俺が空手部へ入部した翌日。

いつものように4時に起床し、朝食と花への水遣りを済ませた後6時まで勉強。そして入念な筋力トレーニングを終えた後は走り込みという、決まりきったルーティーンをこなす。走り込み途中たまにMr.シックスこと高円寺と会うことがあり、そのときは仲良く談笑しながら並走したりもする。  

 

「おーい、そこの君ー!」

「おや?」

 

が、今日エンカウントしたのは高円寺ではないようだ。声のした方へ視線を向けるとストロベリーブロンドの長髪が特徴的な女子生徒。

ふむ、有栖が見たら嫉妬するであろう発育……おっといかんいかん、女性を胸で比較するのはコンプラ違反だ。セクハラで訴えられて刑務所で臭い飯を食う羽目になる。

 

「どしたのシャケ子ちゃん、俺に何か用?」

「シャケ子ちゃん!?」

「まるでサーモンのようなピンク色の髪をした女の子、だからシャケ子ちゃん」

「そ、そのネーミングはちょっと独特過ぎて遠慮したいかな、なんて……」

「ふむ?……ああごめんね、もしかして鮭子ちゃんの方が良かった?」

「いや問題はそこじゃないよ!?」

 

ふむふむ……書記ちゃん先輩ほどじゃないけど、中々楽しい子みたいだな。

 

「冗談冗談、流石に女の子を魚類にちなんだアダ名で呼ばれるのは嫌だよね。……それで君は誰だい?名前を知らないんじゃ、なんて呼べばいいかもわからないぜ」

「あっ……それもそうだよね。ごめんね、私は──」

「でも人に名前を聞くときは先に名乗るのが礼儀だよな、うん。俺は1年Aクラスの本条桐葉、今後もよしなに」  

「え、えーと……私は1年Bクラスの一之瀬帆波だよ。よろしくね本条君」

「ふむふむなるほど、どうやら君は優しい人のようだね。以前気の短い人に今のやったらキレたのに」

「じゃあやめようよそんな悪戯!?」

「それで話は戻るけど、一之瀬ちゃんはなんで俺に声をかけてきたのさ?」

「本条君って、大分マイペースな人なんだね……呼び止めちゃってごめんね。私もランニング中だったから、せっかくだからよかったら一緒に走らないかなって」

 

ほうほう、この俺と一緒に走る……ねえ?

 

「俺は別に構わないけど、ちゃんとついてきてね」

「にゃはは、これでも中学のとき陸上部だったからね。置いていかれないように頑張るよ!」 

「あとそれから……どうぞ」

「えっ、と……花?」

「カスミソウ、花言葉は“謙虚”と“気高い人”。気に入った人にアダ名をつけるのと、その人にピッタリな花を渡すのが最近のマイブームなのさ」

「な、なんだか気恥ずかしいな……ありがとう本条君」

 

親睦も深めたし時間は有限、俺達は風を切って走り出した。シャケ……一之瀬ちゃんはミスターとは違い運動能力はまあまあ速い女子生徒レベルだったので、俺はジョギングレベルまでペースを落とさなければならなかったが……まあ仕方がないか。相手が仲良くなろうと歩み寄って来たからには、快く応えてあげるのが礼儀だろう。たとえこの先敵対する相手であってもね。

 

 

 

 

 

 

 

一之瀬ちゃんと別れてから俺は自室で身嗜みを整え、いつものようにロビーで有栖と待ち合わせを……おや?

 

「なんで神室ちゃんもいるの?」

「……何よ、私がいると不都合でもある訳?」

 

不機嫌そうに睨んでくるこの女子生徒は同じクラスの神室真澄。入学式にクラスで行った自己紹介を名前だけで済ませたという、社会不適合者一歩手前のコミュ力の無さを持つ女の子だ。先日の水泳の授業では女子の中ではトップの成績と、身体能力はかなり高い。……なるほど有栖が欲しがりそうな人材だが、この子が有栖に歩み寄ろうとするとは思えない。

 

「真澄さんとは昨日些細なきっかけで意気投合しまして、お友達になっていただきました」

「ふーん……弱味でも握られたのか」

「っ!?」

 

驚愕した表情で足を止める神室。時間的にはまだ余裕あるけどあまりのんびりしてたら遅刻しちゃうぞ?

 

「坂柳、どういうことよ?あの件は秘密にするんじゃ無かった訳?」

「いえ、私に問い詰められましても」

「ちょっと考えればわかることだよ。君、さっき有栖に友達呼ばわりされたとき凄く嫌そうな顔してたよ?」

「……だったらどうだっていうの?」

「となると君は渋々有栖に付き合ってることになる。無理矢理人を従わせる方法は主に2つ。暴力で屈服させるか弱味を握って脅すかだけど、トイプードルより弱っちい有栖じゃあ力づくは無理でしょ」

「流石に怒りますよ桐葉」

 

実際そんなもんだろうに。

 

「まあ二人の秘密なら、詮索はしないけど」

「……私が何やらかしたか気にならないの?」

「全然。他人の失敗談なんて聞いてもつまらないし興味も無い。だけどまあ御愁傷様、これから三年間苦労すると思うよ君。この子見た目チワワだけど中身猟犬だから、一度噛みつかれたらそう簡単には離しちゃくれないぜ?」

「桐葉は私のことなんだと思ってるんですか」

「別に同情してくれなくて結構よ。こんな性悪の前で馬鹿やった私の自業自得と割り切ってるから」

「真澄さん、貴方もですか」

 

ふむふむ……表面的には物凄い嫌がってるけど、意外と仲良くやっていけそうな感じだな。有栖は同性の友達が少なかったから桐葉君もひと安心です。でもやっぱりちょっと気の毒だから“忍耐”を意味するシャスタ・デイジーを渡すと、苦虫を噛み潰した表情をしつつも受け取ってくれた。いや別に皮肉じゃないからね。

ちなみに俺と有栖は入学式以降も例のお姫様抱っこモードで階段を上っているのだが、今日階段を上るとき非常に神室ちゃんが居心地の悪そうな表情でできるだけ距離を空けようとしていたのは凄く面白かった。

 

「そんなこっ恥ずかしいことしておいて、なんで付き合ってないのよアンタら……」

 

そんなの俺達の勝手でしょうが。

 

 

 

 

 

 

 

三時間目の英語。授業開始のチャイムが鳴り担任の真嶋先生が入って来たときには、生徒達は皆静かに席へと着席している。有栖が橋本に調べさせたところDクラスなんかは酷かったらしいが、それはそれで面白そうな光景だ。

 

「今日は抜き打ち小テストを行う。内容は主要五教科の総合力。成績表には反映されないので安心してほしい。言うまでもないが、カンニングは厳禁だ」

 

成績表には……ねえ。なんでこの学校の教師はいちいち含みのある言い回しをするのかね?学習指導要領を一回見てみたいぜ……もしかしてそれもポイントで買えるのかな?

くだらないことを考えつつ、配られた小テストを黙々と解いていく。計20問の100点満点、教科ごとに4問で配点は一律5点のシンプルな内容だが、欠伸が出るほど難易度が低い。こんなテストでどうやって生徒の学力を計るのか……と思っていたら最後の3問だけ急に難易度が跳ね上がった。特に最後の数学の問題は非常に難解な数式を組み立てなければならない超難問で、高校一年生が解けるレベルじゃない。

こんなもん普通事前に答えを知っていなきゃ解けないだろうから、これも何か今後役立つ伏線なんだろう。まったく、つくづくこの学校はいちいち回りくどくて不親切だ。

……いやまあ、俺も有栖も普通に解けるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに時は流れ5月1日となる。世間では学生社会人問わずゴールデンウィークを満喫しているだろうが、残念ながらこの学校には祝日など存在しない。その分長期休暇はよその学校より若干長めなんだが、何だか損した気分になるのは否めない。

いつものルーティーンをこなした後、寮のロビーにて有栖&神室と合流し学校へと向かう。

 

「5月になりましたね桐葉。お願いしていたものは用意できましたか?」

「ああ、そういやそんなこともあったな。……はいよ、振り込んどいたぜ」

「ご苦労様です」 

 

俺は携帯を操作し頼まれていた例のものを送り、有栖はそれを確認する。そのやり取りを見ていた神室は怪訝な表情を浮かべている。

 

「本条アンタ、坂柳に何頼まれたのよ?」

「お前が普段やらされている雑用と似たようなもんだよ。今日までにポイントを集めろって言われててな、たった今それを振り込んだ」 

「へえ……いくらよ?」

「500万」

「ごっっっ……ゴゴゴ500万!?」

 

お、ナイスリアクション。普段ずっとムスとした表情ばかり浮かべてるだけあって凄い新鮮。

 

「ア、アンタそんなぶっ飛んだポイントをどうやって……!?」

「溜め込んでる先輩から巻き上げた。あ、勿論合法的にだから安心してね」

「Sシステムについて、こないだ真澄さんにもお話したでしょう?ポイントは今後重要になってくると推察したので、桐葉に集めてもらっていたんです」

「いやどうかしてるわよアンタ、そんなお遣い感覚で頼める額じゃないでしょ……言っとくけど、私にはそんなムチャクチャな仕事振ってこないでよね」

「心配せずともわかっていますよ真澄さん。桐葉に頼むような案件を真澄さんに任せるのは不安ですし」

「そういう言い方されるとムカつくんだけど」

 

難しい年頃だな神室も。

なお登校中三人で情報を共有した結果、学校から振り込まれたポイントは三人とも94000であり、その後念のため教室でクラスメイト達にも確認したが結果は一緒。

葛城が何やら有栖に向かって苦々しい表情をしていたが……まあ気づくよな。自分達のグループは少なからず動揺しているのに、有栖のグループメンバーが皆平然としているんだから。

ちなみに橋本が小耳に挟んだ話だと、Dクラスの生徒がポイントが振り込まれていないと騒いでいたらしい。……おいおいマジかよ、酷いとは聞いていたがそこまでか。

やがて始業を告げるチャイムが鳴ると、真嶋先生が丸めた白いポスターを二つ持って教室に入ってきた。いつも通り厳格な表情だが、心なしか若干頬が緩んでいる気がする。

 

「これより朝のホームルームを始めるが、今日は説明することが多い。質問はその都度受け付けるが、まずはこれを見てほしい」

 

そう言って真嶋先生は白いポスターを広げて黒板に貼りだした。内容は一目瞭然、A~Dまでの各クラスの成績だ。

 

Aクラス……940

Bクラス……650

Cクラス……490

Dクラス……0

 

そして真嶋先生はSシステムの詳細を説明する。

この学校におけるポイントはクラスポイント(cp)とプライベートポイント(pp)の二種類があり、生徒の実力に応じてリアルタイムでクラスポイントが変動する。この1ヶ月間の間では加点要素は無く、現在のクラスポイントは所属する生徒の素行不良、例えば遅刻欠席や授業中の私語や居眠り等の妨害行為により減点された結果である。ちなみに減点の詳細な基準を葛城が質問したが極秘とのこと。

こうまで綺麗な並びなのは真嶋先生曰く、クラス分けは優秀な生徒順にAからDへと振り分けられるからだそうだ。……すまん戸塚、優秀な生徒と説明されたとき思わずチラ見してしまった。

そしてクラスポイントとクラスは密接に関係しており、例えば仮に俺達Aクラスのクラスポイントが649ポイントまで減らされていたなら、Bクラスに降格していたらしい。

そして最後に……ここ高度育成高等学校は、希望する進学・就職先にほぼ100%応えることで有名な学校なのだが、その恩恵を受けられるのはAクラスで卒業した生徒のみで、Bクラス以下の生徒には国は一切責任を持たないんだそうだ。

これはまさに衝撃の真実だ。大半の生徒はこの謳い文句につられてこの学校に入学しただろうから、これから先B~Dクラスの生徒は死にもの狂いでAクラスを引き摺り降ろそうとするだろうし、Aクラスも必死に下位クラスを蹴落とすだろう。これから先の波瀾万丈なクラス間戦争を想像すると……

 

「心が踊りますね、桐葉」

「うむ。それでこそ俺の将だぜ」

 

はっきり言って俺も有栖も国からの補助など必要としていない。実力主義の学校でAクラスで卒業できなければ多少経歴に傷がつくだろうが、そんなもの俺達にとっては足枷にもならない。俺達が楽しめるかどうか、重要なのはそれだけだ。

 

「先生、質問をよろしいでしょうか?」

「坂柳か、許可しよう」

「クラスポイントを増やす手段について教えてもらえますか。推測では学業や部活動で結果を出すこと考えられますが」

「全てを明かすことはできないが、お前の推察は概ね正解だ。部活働の大会などで優秀な成績を収めた場合プライベートポイントが支給される他、クラスポイントが増加する。そして次の中間テストに限って言えば、成績次第で最低でも100ポイントのクラスポイントが支給されることになっている。まあこれは入学して初めての試験を乗り越えた褒賞のようなものだ」

 

乗り越える、か。上級生クラスの机の数からわかっていたが、ただ卒業するだけでも楽じゃないようだ。

やがて真嶋先生はもう一つのポスターを黒板に張り付ける。内容は先日の抜き打ち小テストの結果。俺と有栖は当然満点として……葛城は90点か。優秀っちゃ優秀だが、今後有栖と張り合うならもうちょっと頑張って欲しかったな。それ以外の生徒は大半が80~85点だったが……オイオイ戸塚、あのテストで65点はねーよ。まあ最後の3問は間違えても仕方ないが、それ以外は絶対間違えちゃ駄目でしょ。葛城の腹心がそんなことじゃ先が思いやられ……

 

……もしもーし神室ちゃん?俺の目に狂いがなければ、70って数字が見えちゃうんだが。

 

神室の方を向くと一瞬目が合ったが、気まずそうに反らされた。……可哀想だけど君、今後しばらく勉強地獄が決定したみたいだよ?さっきまで少し何かを考え込んでいた有栖が凄く楽しそうに笑って、いや嗤っているもん。

 

「この小テストを、仮に定期テストの結果だとする。平均点は82点なので、赤点ラインはその半分の41点となる。今回赤点となった生徒はいなかったが、定期テストで一科目でも赤点を取ればその時点で退学処分となるので気を付けるように」

 

赤点1つで退学、という厳しい措置にクラスの何人かがざわつく。この赤点の方式だと50点以上取れば安全圏なので、真面目に学習して名前無記名等のミス等に気を付ければ赤点など取らないから普通はそう悲観することでもない。しかしあんなアンバランスな難易度の小テストを実施する学校だ、現時点で問題の傾向はまるで読めない。不安になるのも仕方ないか。

 

「中間テストまで後三週間となる。お前達なら心配することは無いだろうが、これまで以上に熱心に取り組むように。お前達全員が五教科で満点を取る、という結果も決して不可能ではない。……さて、早めにホームルームを切り上げるので、クラス全員で今後の方針をちゃんと話し合っておくように」

 

そう言って真嶋先生は教室を後にした。最後に気になることを言っていたが……まあそれは置いといて、今から面白いことになりそうだ。

教壇に向かう葛城を一瞥し、俺は今から始まる激突を楽しみに待つ。

 

 

 

 




★現時点で桐葉君のお気に入りランキング★ 

①坂柳有栖
②高円寺六助
③橘茜
④堀北学
⑤一之瀬帆波

1位は別格として、2~3位は些細な切っ掛けで変動するくらい僅差。
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