女王の女王   作:アスランLS

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定期的に知能指数が物凄く低下することに定評がある桐葉君です。


Aクラスの殺伐としたクリスマスイブ

 

12月24日、クリスマス・イブの早朝4時。

冬休みだからといって当然生活習慣を乱したりはしない。今日もいつものようにノルマをこなした後、朝食をテーブルに並べた頃に有栖が目を擦りながら杖をついてのそのそと起きてきた。……冬休みが始まった途端ごく自然にまた同じ布団で寝るようになったことに関しては、多分もうツッコんではいけないのだろう。

 

「おはよー有栖」

「おはようございます桐葉。それと……」

 

有栖は俺に近づき既に着席している俺の頬に手を添えたかと思えば、なんか唐突に唇にキスしてきた。

 

「誕生日おめでとうございます」

「ん、ありがと。でも唐突に唇奪うのはやめてね。いきなりされたら俺でもビックリしちゃう」

「おや、それはおかしな話ですね。貴方の眼は未来を視ることができるのでしょう?嫌ならどうとでも抵抗できた筈ですが?」

「ははは、何が言いたいのかわかりませんな」

 

俺は生粋の草食系男子。

両想いとはいえまだ交際してもいない体の清い女の子を布団に連れ込んだり、ましてや唇を貪るなんてはしたない真似などできる筈もない。桐葉君はモラルや倫理を重んじるのだ。

……だがしかし思春期まっさかりの有栖が何かしらアクションを起こしてきたなら、俺は別に拒否とかはせずそのまま受け入れる。というより拒否とかできない。

仲睦まじい関係を築いているとはいえ、俺と有栖は将と兵、主人と従者、肉食と草食……明確な上下関係が存在しているのだ。まだ完全な決着がついていないとはいえとりあえずは有栖の下につくと決めた以上、従属関係を覆すような行動は避けなくてはならない。だから俺は有栖に逆らえないし、求められれば拒否するわけにはいかないのだ。

……実は有栖がキスしてくれたり添い寝してくれたりするのが嬉しくて、何かいい感じにそれっぽい理屈を並びたててどうにか正当化しようとしている、とかでは断じてないことをここに宣言する。

 

「誤魔化しても無駄ですよ。貴方ほどではないにしろ私も嘘を見抜くのは得意なんですから。正直に答えてください……私にキスされてどうでしたか?」

「めっちゃ幸せな気分になりました。なんだったらもっとねちっこく貪られ続けたいです」

「ふふ、正直によく言えました♪ご褒美です♪」

 

有栖の仕掛けた高度な誘導尋問にまんまとひっかかった俺は、非常に上機嫌になった有栖になすがまま口内を蹂躙される。

ごめんなさい嘘つきました。ほんとは長期休暇特有の頭のネジが緩んだ有栖による、ちょっぴり過激なアプローチの1つ1つが愛おしかったりします。

いやだって仕方なくない?言い訳させてもらえるならさ、俺の立場で考えてみてよ全国の男性諸君。大好きな女の子がなんか唐突にキスしてきたり添い寝してくれたりして、果たしてノーと拒絶することができますかね?

少なくとも俺は無理です。どちらかと言えば襲うより襲われる方が好きだから尚更無理です。いやまあ男としてどうなんだと自分でも少しは思わなくもないけども、有栖は性格上間違いなく襲う方が好きな超肉食系だろうから、丁度良いといえば丁度良いじゃないか。

有栖も一応は淑女だから流石に交際前に一線を越えようとはしないだろうし、とりあえずはされるがままでも問題無い。無いよね?無いって決めた。 

  

結局、哀れな草食動物は恐ろしい獣におよそ30分くらいひたすらしゃぶり尽くされてしまうのでした。いや確かにねちっこく責められたいとは言ったけどさ、そこまで執拗にやるかね普通……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで朝の9時。いい感じに雪が降り積もっており、辺り一面見渡す限り銀世界へと様変わりする中、この間六助とリュンケル達が揉めていた休憩スペースにて、1年Aクラスの生徒30人ちょいが集結していた。

 

「第1回、Aクラス雪合戦バトルゥゥウウウ!」

 

いえーいとハイテンションに拳を振り上げるが、有栖を含む何人かが拍手をしてくれるのみで、ほとんどがレスポンスに困っている有り様だった。せっかくのクリスマスだってのにノリが悪いね君達。

 

「……えっと本条、どういうことだよ?俺達姫様がクリパ開くって聞いて来たんだけど」

「それに関しては有栖がちゃんと準備しているし、夕方の5時頃から『ルビカンテ』を貸し切って開催するので安心したまえ。……イブの日だし恋人と過ごす奴もいるだろうから正直そこまで集まらねーだろうなと思ってたのに、まさか予定がガラガラの奴がこんなにいるとは思わなくてちょっとビビった」

「「「ほっとけ!?」」」

 

来てないのは戸塚にランス(有栖が企画したパーティーとか、自由参加なら来るわけねーよな)、里中と司城(あのイケメンコンビの予定が空く訳も無し)、あと山村ちゃんの計5人か……そりゃ俺達Aクラスは他クラスからは親の敵のように敵視されてもおかしくないし、クラス内ではこれまで有栖とランスどちらを支持するかで散々いがみ合ったりしてきたけどさ、それにしたって独り身率9割なのは華の高校生としてどうよ?

 

「まあそれはともかくとして……とりあえず周りを見てみなさいよ橋本。これだけ見事に雪が積もったんだよ?これは俺達に雪合戦しろという神の啓示と言っても過言ではない」

「いや過言だろ!?ただ単にお前が雪合戦したくて呼びつけただけだろ!」

「えぇいやかましい、貴様らに拒否権などなーい。何故なら俺は今日誕生日だからな。誕生日の人は周りの人間を自分の都合で好き放題振り回しても許される権利が発生するのだ」

「その持論にもツッコミ処は山ほどあるが、お前普段から割と俺達を好き放題振り回してるよな!?」

 

あーあー、聞こえなーい。自分に不都合な意見になんか聞く耳持たなーい。

既に何人かの空気読めない連中が帰りたそうにしているが、俺は気にも留めず足下の雪を丸める。冬休みだからってだらしないなぁ……大幅に予定を変更することになるけど仕方ない、多少強引にでもちょっと気を引き締めてもらおうか。

 

「それじゃあルールを説明するからちゃんと聞くように。それから有栖、ちょっとこっちに来て」

「? どうしたのですか桐-」

 

 

バシャアアンッ!!

 

 

不思議に思いながらも無警戒にノコノコ近寄って来た有栖の顔に、俺は丸めた雪玉を思いっきりぶつけた。ごめんね有栖、ついやっちゃった☆

 

「「「─────!?!?!?」」」

 

クラスメイト達は有栖を崇拝している者、内心気にくわないと思ってる者、残忍きわまりない性格に恐怖心を抱いている者等様々だが、それら全員が例外無く言葉を失った。特に最後のカテゴリーに分類される子は、今にも気絶しそうなほど顔色が悪くなっちゃってる。

 

「……ふ、ふふふ、ふふふふふ。桐葉、どういうつもりか説明して頂けますよね?」

 

ぶつけられた勢いで地面に落ちたトレードマークのベレー帽を拾って被り直しながらそう尋ねてくる有栖は、いつものように微笑みながらも目はまったく笑っていなく、そして言葉遣いこそ丁寧であるものの「覚悟はできてるんだろうなぁテメェ」と心の声が聞こえてきそう。やっといて何だけど怒ったらむっちゃ怖いねこの子。

 

「制限時間は正午まで。チーム分けは俺VSその他34人。今からこの激オコ有栖ちゃんの指示に従って団結し、今やったみたいに俺に一撃でもぶち当てられたらそっちの勝ちだ。はいルール説明終わり!それじゃあ頑張ってね有栖、応援してる」

 

(俺が)より楽しめるよう入念に作戦を練ってから攻めてきてほしいので、言うこと全部言い終えた後はさっさとその場を立ち去る。

さあ有栖、たまには思いっきり喧嘩しようぜ。毎回毎回仲良しこよしじゃマンネリだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきの場所から少し離れた並木道にて、せっせと雪玉を丸めながら皆が攻めてくるのを静かに待つ。コソコソ隠れたところで俺はクラスの結構な人数と友達登録を済ませてるので、毎度お馴染み携帯のストーカー機能ですぐに位置を割り出されるだろう。そもそも隠れてやり過ごすなど退屈極まりない。俺はさぞや怒り狂ってるであろう有栖の考えた、それはもうえげつない戦術を思う存分楽しみたいのだ。

 

「っ、本条がいたぞ!取り囲め!」

 

町田の号令と共に11人が俺をぐるりと取り囲んだ。全部視えてるのに妨害もせずに待ってやったんだ。ひたすらがむしゃらに雪玉を投げまくるだけ、なんてつまらねー戦法は取らないでくれよ─オイ待て貴様ら。その手に持ってる空き缶がいっぱい入った袋は何だ?

 

「「「食らえぇぇえええ!」」」

「ちょっ、おまっ……!?」

 

学友達は後ろ手に隠し持っていた袋から空き缶を取り出し、俺目掛けてバンバン投擲してきやがった。投げるタイミングも飛んでくる空き缶の軌道も全部視えてるので余裕で避けられるけどさ、当たったら結構痛いんだぞ?

 

「オメーらなんつーもん投げてきやがる。雪合戦はどこいったよ雪合戦は」

「いや俺らもおかしいとは思うけどよ……雪玉以外をぶち当ててはいけないルールなど無い、というのが坂柳の見解らしい」

 

空き缶なんてぶつけられても負けにはならないけど、逆に言えば何度ぶつけられても勝負が終わらない。つまりこういう指示を出すってことは、よっぽど俺を痛い目に遭わせたがってる訳で……

 

「わーお、有栖ちゃん予想以上にキレてる」

「そりゃキレるわあんなことしたら!」

 

今更ながらちょっと罪悪感が湧いてきたが、だからと言ってこのままやられてやるつもりも無い。空き缶による弾幕攻撃を躱しながら、あらかじめ作っておいた雪玉を堅実に1人ずつ顔面にぶち当てていく。

 

「ぐわっ!?」

「へぶぅっ!」

 

無事全員仕留めたので俺は懐からごみ袋を取り出し、散乱した空き缶を回収していく。まったく、好き放題散らかしやがってわんぱく坊主共め。

 

「ぬうぅぅうううおおおおおっ!」

 

遠くの方からファルコンが空き缶を投げてきたがひとまず無視。彼の鍛え抜かれた強肩により、とんでもないスピードで空き缶がこちらに飛んでくるが……残念ながら俺から5mほど離れた木に激突した。

 

「ノーコンの君がそんな遠くから当てられる訳ないだろうに……」

 

呆れつつ空き缶を回収している間に、何を思ったのかファルコンは俺に背を向け一目散に逃げていった。

 

ふむ……

 

まあいいか。

俺は空き缶を詰めた袋を背負いながら、逃げるファルコンを追跡する。

空き缶が大量に入った袋に、色々と仕込んでいるせいで実はすごく重いスーツ等、複数のハンデを抱えながら学年でもそこそこ速い方のファルコンを追いかけるのは結構骨が折れたが、そろそろ俺の雪玉射程圏内に-

 

「うおっとあぶね」

 

咄嗟にしゃがむことで飛来したBB弾を躱し、同時に別の角度から飛んできたBB弾は空き缶袋ではたき落とす。

飛んできた二方向に目をやると、およそ50m先からマスミンと橋本がそれぞれがエアガンを構えていた。もうなんでもありだね君達。少しは雪も投げてこいよ。

それにスナイパーは不意を討ってなんぼだよ?こうして位置を把握できたらじっくり近づいて……

 

 

……あ、詰んでるわこれ。

 

 

いつの間にか残りの20人があちこちの物陰から、1人1人エアガンを構えながら姿を現した。

俺の眼ならその気になれば10㎞先にいようが余裕で捕捉できるが、流石に遮蔽物に遮られては見落としもする。……完全に対策を立ててきたね。

そしていくら未来が視えようが、流石に20もの方向から一斉に撃たれては避けることも防ぐことも難しい。スーツ内に仕込んである道具を駆使すればどうにか切り抜けられるだろうけど、俺まで好き勝手しだしたらいよいよ雪合戦ではなくなってしまう。

さてどうしようかと悩んでると……有栖が物陰から満面の笑みを浮かべながら、左手で杖をつきつつ右手に雪玉を握りしめながら無警戒にこちらへ向かってくる。

試しにしゃがんで雪を掴もうとすれば、引き金に添えられた20人の人差し指に力が入った……はいはい、抵抗すると蜂の巣にするってことね。

そうこうしている内に、有栖は俺の目と鼻の先まで接近してきた。この子を盾に活用すれば切り抜けられなくもないけど……流石にそれはあまりに無粋だよね。

 

「チェックメイト、ですね」

「そうだね。……一応聞くけど、土下座して謝るから許してくれない?」

「ダメです♪受けた苦しみと屈辱はちゃんとお返するのが私の流儀なので」

「ですよねー。……それじゃどうぞご自由-」

 

言い終わらない内に、顔面に雪玉を叩きつけられた。フィジカル弱者の有栖が投げたものなので大して強くはなかったが、ここは見映えを意識してあえて勢いよく後ろに倒れる。エンターティナーの悲しい性だぜ全く。

 

「さて桐葉、何か言いたいことがあるなら今なら聞いてあげますよ?」

「参りました有栖様。意地悪してごめんなさい、深く反省しています」

「はい、許してあげます♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後5時。前もってポイントで交渉して貸し切っておいた植物庭園『ルビカンテ』にて、有栖主催のパーティが開かれた。Aクラスを維持できたことを祝して、そして来年度も過酷なクラス争いを勝ち抜くための英気を養うため……と、建前はそんなところた。

 

「それで有栖、どうするの?」

 

ジュースで乾杯を済ませた後、各々が用意された御馳走(まあ全部俺が作った料理だけど、腕によりをかけたと自負している)に群がる中、気になっていることを有栖に尋ねる。

 

「? どうする、とは?」

「いやほら、朝にやった雪合戦対決で俺がめでたく完全敗北を喫したわけじゃん?長きに渡る俺とお前の戦いに終止符が打たれたと考えちゃっていいのかな?」

「冗談じゃありませんよ。あんな私に有利過ぎる条件で勝っても全然嬉しくありません。……貴方との決着は言い訳の余地の無い、完膚無きまでの勝利でなくては何の意味もありませんから」

「そうかい。相変わらず潔癖症だね君も」

 

その高潔さを尊いと思いつつも、同時にちょっと面倒臭いなぁとか思っちゃったり。

 

「桐葉にだけは言われたくありませんよ。……そもそも貴方、最初から負けるつもりだったでしょう?」

「ふむ、どうしてそう思うんだい?」

「あんな見え見えの囮作戦に貴方が引っ掛かるわけが無いでしょう。不自然に逃げる鬼頭君に無警戒についてきた時点で、今回桐葉には勝つ気が無いと気づきました」

「あーりゃりゃ……まあ流石にバレるよね」

 

今回有栖に喧嘩売った時点で最終的にボッコボコにされることは予め決めていたけど、向こうが雪じゃなく空き缶を投げてきた辺りで何か違うなと感じちゃって、もうさっさとケリをつけてもらおうという方向にシフトしちゃった。

 

「おかげで入念に考えた作戦が8つほど使わず仕舞いになりましたよ。……どうして負けるつもりだったのか伺ってもよろしいですか?」

 

なんだそんなことか。別にわざと負けて有栖の不安要素を取り除いてやりたいとか、そういった狙いがあった訳では断じてない。今回俺が負ける気満々だった理由はただ1つ……。

 

「いやだってさ……女の子の顔面に雪玉思いっきりぶち当てておいて、何のお咎めも無しとかありえないでしょ普通に考えて。……有栖さん頬をつねらないでください、痛いっす」

「だったら初めからやらないでくださいアホなんですか貴方は?」

 

好奇心には勝てないんだよ。

 




桐葉君が16歳になりました。
精神的な成長は何一つしていませんが。
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