女王の女王   作:アスランLS

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綾小路君が佐藤さんとデートしたり佐藤さんを振ったり軽井沢さんのハートを盗んだり桐山先輩とコンタクトをとったりしている一方、桐葉君達は凄く緩いクリスマスを過ごしています。


クリスマスデート(という名の総集編)

 

「今年ももう終わりだね」

「月日が経つのは早いものですね」

 

12月25日、クリスマス。

ケヤキモール辺りでは多分めでたくカップルになった子達や、それに近い関係の子達で溢れかえっているだろうけど、そんな混雑した場所に体の弱い有栖を連れていくのは気が引けるため今日は1日お家デートの予定だ。

 

「しかしアレだね、心なしか年をとるごとにどんどん1年過ぎるのが早くなっていってる気がするよね。この調子じゃ年寄りになる頃には音速で一年が過ぎちゃうかも」

「縁起でもないこと言わないでください。要はそれだけ充実した1年を送ったということじゃないですか」

「ふむ、そういう解釈もありっちゃありか。……よし、いい機会だからこの学校に入ってからの出来事を振り返っていこうか」

「…………」

「おろ?不服なの有栖ちゃん」

「……別に構いませんが、クリスマスにすることがそれですか」

「えー?それじゃあ本来熱帯地域に生息するポインセチアが、ただ色合いだけでクリスマスの代名詞みたいに扱われることが、はたして正しいのかについて議論しよっか?」

「これまでの出来事を振り返りましょう。貴方に植物を語らせたら日が暮れてしまいます」

「ありゃりゃ、それは残念……ところでもうこの体勢やめていい?いい加減飽きちゃった」

 

俺は有栖を膝の上に乗せつつ、後ろから抱き締めた状態……所謂あすなろ抱きの体勢のまま、かれこれ2時間が経過しようとしている。なんでも「女の子がされたら恥ずかしいけど、一度はされてみたい抱きしめ方ランキング第1位」らしく、やり始めた最初ら辺は有栖も顔を林檎のように真っ赤にしてすごく可愛かったけど、もう慣れたのか今はすごーくリラックスした様子だ。これはこれで癒されるが、じっとしているのはあまり好きじゃないのでそろそろどいてほしい。あと性的に意識しないよう我慢するのも楽じゃないし。

 

「ダメです。今日はクリスマスなんですから、少しくらい甘えさせてください」

「クリスマス関係なく最近は結構頻繁に甘えてきてるよね君」

「何か言いましたか?」

「イチゴ牛乳に使われる着色料って実は虫の体液らしいよ?」

「クリスマスムードを粉微塵にしかねない雑学を披露しないでくださいぶん殴りますよ?」

「なるほどなるほど。それじゃあ殴るためには、俺の膝から一旦どく必要があるよねぇ」

「……いじわる」

 

頬を膨らませ拗ねたように顔を背ける有栖。そのあざとい仕草にまんまとハートを射抜かれた俺は彼女をぎゅっと抱き締めながら、耳元で思いの丈を囁く。

 

「意地悪してごめんね。有栖ちゃん大好き」

「っ~~~!……どうして毎度毎度私だけが一方的に恥ずかしい思いをしなくちゃならないんですかっ。不公平ですっ」

 

膨れっ面のまま真っ赤に染まっちゃって、いよいよ林檎みたいだね有栖。よし、ジョナゴールドモードと命名しよう。あと俺が羞恥心を投げ捨てられるのは、生まれつきなんだからどうしようもない。

しかし夏休み辺りから加速度的に魅力的になってるねこの子。体型はまるで成長してないのに大したものだ。

 

「桐葉?たった今何か極めて失礼なことを考えてましたよね?」

「はて、皆目見当もつきませんな」

 

女の勘ってすごい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまずは、自己紹介にて俺のエンターテイメントが炸裂した入学式の日から順に振り返っていこうか」

「冷静に考えてみればキザッたらしいにも程がありますけどね。……ところであの頃の貴方はことあるごとに、その人にピッタリの造花を配ってましたけど、最近だと全然していませんね」

「ああアレ?もう飽きた。造花いちいち買い揃えるのも結構面倒だし」

「ああそうですか……」

 

そもそもあれは初対面でその人の本質にどれだけ近づけるかが醍醐味だ。既にある程度仲を深めてから渡したところで、別に面白くもなんともない。

 

「しかし真嶋先生の仰ったこの学校についての説明には、明らかに不自然な点が多々あったにもかかわらず、ほとんどの人は支給された10万ポイントに浮かれて見落としていましたね」

「毎月支給されるポイントが変動することと教室に、仕掛けられた監視カメラに気づいたのが、俺とお前を除けばランスだけだったってのも悲しい話だよね」

 

その時点でランスがクラス内で頭角を現してくるのは容易に予想できたので、超好戦的かつ決して誰にも従わないことが信条の有栖と対立するのは規定事項だった。加えて5月初頭の真嶋先生によるSシステムの詳細な説明から、格下クラスよりは同クラスのランスの方がまだ楽しめるだろうと判断し、クラスが真っ二つに分かれるよう誘導した……のだけど、

 

「今思えばとんでもない判断ミスをしたと後悔しています。他クラスには葛城君などよりも私を楽しませてくれる方がいっぱいいましたのに……」

「ポイントを使って夏休みに有栖が参加できない特別試験があると知ってたから、途中からはむしろランスの派閥の勢力を削がないよう細心の注意を払う必要があったよね」

「まったく、敵対している相手に丁重に扱われてるようじゃ話になりませんよ」

 

ランスの派閥にケチがつき始めたのは、生徒会入りを元会長に断られたあたりだろうな。元会長さんはランスがみやびん先輩に同調してしまうのを危惧して断ったらしいけど、何とも余計なことをしてくれたものだよ。みやびん先輩がランスの後ろ楯になっていれば、有栖ももう少し楽しめただろうに。

 

「……そういえば桐葉はこの頃には既に、綾小路君と親しかったんですよね。自分だけずるいです」

「仕方ねーじゃん本人から口止めされてたんだから」

 

それにあの頃のコージーは事無かれ主義を自称し、争いごとには微塵も興味が無さそうだった。過去に色々と因縁がおることもまだ知らなかったし、思考回路が世紀末覇王な有栖が興味を持つ相手ではないと判断しても仕方ないだろう。

 

「そして迎えた2つの特別試験では、対抗馬である私が不参加ということもあり葛城君が全体の指揮を取り……ものの見事に大敗を喫してくれたそうですね」

「何かすげー他人事だけど、派閥メンバーに色々裏工作を指示してたの知ってんだからね?」

「結果的に杞憂でしたけどね。私の干渉が無かったところで、葛城君では龍園君や綾小路君には勝てません」

 

無人島試験でランスはリュンケルと、Aクラスを支援する代わりにCクラスに毎月プライベートポイントを振り込む契約を結んでしまった。リュンケルは当然用意した契約内容の穴を突いてAクラスを攻撃し、さらにこの頃から何故か陰ながらAクラスを目指し始めた節のあるコージーからも攻撃され、その結果Aクラスは3位というしょっぱい結果に終わった。リュンケルとの協定で毎月プライベートポイントを搾取されるようになったこともあり、ランスの求心力は大いに低下してしまう。

しかし続いての干支試験でも指揮を取ったランスは、手柄を立てて名誉を挽回することよりも、あくまでリスクの少ない堅実な作戦を貫いた。当初は彼に失望もしたけど、後にランスが自身の地位よりもクラスメイトと己の信念を優先したと知り考えを改めたっけ。……まあでも結局リュンケルに食い散らかされてしまったんだけどね。ランスの作戦も別に悪くなかったけど、世の中堅実にやっても大失敗することだってある。

 

「ちなみにコージーは干支試験では、軽井沢ちゃんを手駒にするために色々と画策してたっぽいよ?」

「軽井沢さんを……なるほど、女子グループをまとめ上げる人材を調達したのですね」

「だろうね」

 

常に自分が頂点の有栖や孤高の女(笑)マスミンのような例外を除き、女の子は俺達男よりも遥かにカーストや力関係を重要視する傾向にある。もし最上位に位置する子を意のままに使役できるようになれば、実質女子グループほぼ全体を指揮下に置いたようなもの。コージーもおそらくそう考え、軽井沢ちゃんに目をつけたのだろう。

Aクラスを目指してはいるが依然として目立つことを避けているコージーは、どうやら目先の勝負より自分抜きでも他クラスと戦っていける基盤の構築を優先したようだ。

 

「ともあれ体育祭の頃には葛城君の地位は完全に失墜し、私がクラスの指揮を取ることに反発する人間はせいぜい戸塚君ぐらいとなりましたが……」

「その体育祭は自分が参加できないという理由で、ランスにほとんど丸投げしちゃったんだよね」

「桐葉が本腰を入れて取り組む以上、負ける方が難しいですからやる気も無くなりますよ。ただ真澄さんが学年最優秀に輝いたのは親友として喜ばしく思いましたね」

 

このセリフをマスミンが聞いたら苦々しく思うんだろうなあ……ただまあ体育祭で結果を残せたおかげで、マスミンの地位は大幅に向上しただろうね。美人だけど愛想がまるで無く、なのにクラスの中心にいる俺や有栖と仲が良いマスミンはさぞや同性から嫌われていただろうし、苛めに発展しなくて良かった良かった。

 

「やれやれ、女の子の妬み嫉みはおっかないね。……そういや有栖も中学のときも苛めのターゲットにされそうになったっけ」

「ああ、そんなこともありましたね。あのときはとても楽しかったです」

 

容姿に恵まれ、才能にも恵まれ、そして体に障害を抱えている……そんな有栖はマスミンの比では無いくらい苛めのターゲットにされやすい人物だろう。事実、これまでの人生で彼女は4回ほど標的になりかけたらしい。……色々とエグい方法とかを使って全部事前に潰してきたらしいけど。

まあ有象無象が有栖を妬み卑劣な手段で陥れようとしたところで、より卑劣な手段で地獄に突き落とされるだけだろうね。

 

「しかし綾小路君と再会できただけでも、体育祭は有意義な時間でした。あの頃の龍園君はDクラスの堀北さんを執拗に潰そうとしていたようですが、おそらくは彼に色々と妨害されたのでしょう」

「確実な証拠が無いから断定はできないけど、まあそうだろうね」

 

リュンケルが軽井沢ちゃんに目をつけていたことから推測すると……おそらく真鍋ちゃん達は干支試験中に軽井沢ちゃんに何かしら狼藉を働き、そしてそのコージーにその現場を抑えられ脅迫され、Cクラスへのスパイ活動を強要されたのだろう。

そしてリュンケルならクラスにスパイがいるとわかればどんな手を使ってでも炙り出す。その結果リュンケルは軽井沢ちゃんを襲ってコージーを誘きだし……こてんぱんに敗北して弱味まで握られたというのが、おおよそのシナリオだろうね。全部計画の内だとしたら末恐ろしい子だよ。

 

「で、最後にペーパーシャッフルがあるけど……特に振り返るべきところが1つも無いな」

「そうですね。相手が一之瀬さん達でしたから、真っ向からぶつかり合い順当に私達が勝ちました」

  

何せ取った戦術までまったく一緒なのだから、俺が全力で鍛え上げた以上負ける筈もない。それどころか下手に健闘したせいで有栖の興味を引いちゃったみたいだし……ボロ負けした方が卍解ちゃんにとって良かったんじゃないかな。

 

「……とりあえずはこんなところでしょうね」

「こうして振り返ってみると、俺達大分適当な特別試験の取り組み方してるね。手抜きとパワープレーしかしてないよ」

「3学期からはそうもいきませんよ。彼の父親が余計な干渉をしてくる前に、綾小路君と戦う約束を取り付けなければなりませんし、彼が相手では単調な戦略は通じないでしょう」

「……それで?コージーに負けたら当然リベンジするんだろうけど、もし勝ったらどうするつもりなの?」

「どこかの誰かさんが面倒な相手に余計な喧嘩を売ったそうなので、それのバックアップをしなくてはなりませんね」

「これなら退屈しないでしょ?感謝するがいい」

「あまり調子に乗らないでくださいこの愉快犯」

 

わーお辛辣。

 

「さてと……振り返ることもなくなっちゃったし、あとはどうやって時間を潰そうかな?」

「気のせいでしょうか?著しくデリカシーに欠如した台詞が聞こえてきたのですが?」

「よーし、それじゃクリスマスらしく……昔のドラえもん映画でも観ようか」

「質問に答えなさい。だいたいそれのどこがクリスマスらしいんですか」

「それじゃあ不朽の名作、鉄人兵団から行ってみよう。普段こまっしゃくれてる有栖も号泣間違い無しだ」

「だ・れ・が、こまっしゃくれてるですって?だいたいこの私がアニメなどで泣く筈がないでしょう」

「……その言葉、忘れちゃダメだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リルルさんっ……そんな、あんまりです……!」

 

約2時間後、マイルームにはハンカチで涙を拭うリトルガールの姿が!

……普段冷酷無情の愉悦部員のくせに、ちょっとボロを出せばほんとあざと可愛いなこの子。

 

 

 

 




この作品の有栖ちゃんは桐葉君のせいでどんどんポンコツ化している気がしますね。
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