龍園「1クールしかないから尺がパンパンなんだろ。目玉である俺と綾小路の決戦に力を入れるためにも、駄キャラのシーンはどんどんカットしねぇとな」
伊吹「誰が駄キャラだ!?……あと私は伊吹“れい”じゃなくて伊吹“みお”だから!アニメスタッフは漢字もちゃんと読めないの!?」
今回の試験は男女別ということもあって、有栖は男子側の方針をランスに丸投げした。有栖が指揮を取らない以上俺は好き勝手に動くつもりだが、いい加減ランスも慣れてきたのか特に言及もしなかった。
バスが目的地に到着すると駐車場へ停車し、俺達は真嶋先生に資料と携帯を提出してから五十音順に下車する。
「山岳地帯だけあってかなり寒いね。それに少し年季の入った校舎が2棟……なんか殺人事件でも起きそうだね」
「縁起でもないこと言うなよ……」
全員が下車し終わるとすぐに整列が始まり、特に面識の無い先生の引率のもと、男女に分かれてそれぞれの校舎に向かう。今日から1週間会えるのは1日1時間だけか……。
「有栖大丈夫かなぁ……ここ寒いし風邪とか引いたりしないかなぁ……性格悪い子に苛められたりしないか-」
「お母さんかお前は!?」
「だってあの子ケサランパサランよりか弱いんだよ?俺抜きで特別試験受けんのも初めてだし、そりゃ心配くらいするだろうよ」
「……体調はともかく、あんな凶悪な女を虐められる奴がいるわけないだろ」
「今のセリフ、一言一句そのまま有栖に報告してもいい?」
「どうか聞かなかったことにしてください」
「今回だけだぞー?」
橋本の迂闊な発言を聞き流しつつ本棟と呼ばれる校舎の中に足を踏み入れると、ある木材特有の良い香りが鼻腔をくすぐる。……悪くないな、林間合宿。
「しかし相変わらず無駄に金がかかってるねー。市民の血税をなんだと思ってるんだか……」
「そうか?確かに清潔感はあるし管理は行き届いてるけど戦後の学校みたい建物だし、教室にはストーブはあるけどエアコンすらついてないぞ」
「お前の目は節穴か?机は古めかしく見えるけど使われている木材は檜だし、校舎も大部分は杉だけど重要な箇所は檜葉、欅といった高品質の木材で構成されてるじゃないか」
「いや植物オタクのお前じゃないんだから、見ただけで木材の判別とかできないから」
誰が植物オタクだ失敬な。
全学年の男子生徒が体育館らしき場所に集められると、学年ごとにそれぞれ集まり静かに指示を待つ。やがて3年Aクラスの担任である椿先生がマイクを持って壇上に立ち説明を始める。
「ではこれより小グループを組むための場と時間を設ける。学年別で話し合い全部で6つのグループを作るように。大グループの作成は午後8時から行うことになっている。……ちなみに大小問わずグループの作成において、我々学校側が関知することは一切無いと補足しておく」
説明が終わると同時に各学年別ごとに話し合いが始まる……前にランスが13人のクラスメイトを集め、他クラスの生徒達に告げる。
「見ての通り俺達Aクラスは、この14人で1つの小グループを組む。他クラスからあと1人加わればグループの規定を満たすので、加入希望者を募集する」
ランスに指揮を任せた時点でこうなるのは予測がついたが、はいそうですかと納得してくれる訳もなくケン坊がさっそく噛みつく。
「いきなり何勝手なことしやがる。お前らだけ汚えだろうが」
「別にルールを違反をしているわけではないし、この方法では仮に1位を取ったとしても報酬は最低限になるというデメリットが存在する」
「い、いやでも14人ってのはずるいだろ」
「ならばお前達のクラスも同じような構成のグループを作ればいいだろう。」
「そう、なのか?」
一見論理的な主張に思えるが干支試験のときと同じで、報酬が少なくても構わないのはクラスポイントで独走しているAクラスだけだ。他のクラスが同じ手法を取れば退学のリスクこそ減らせるが、同時に限りあるチャンスを棒に振ることになる。
駆け引きが苦手なケン坊はまんまと丸め込まれたようだが、各クラスの中心人物達は気づいているのか難しい表情をしている。
「ちなみにAクラスで残った6人は、たとえどのグループに配置されても文句は言わない方針だ」
「待て葛城。何故そのグループに本条を含まない?いったい何を企んでいる?」
Bクラスの神崎隆二……通称ザキちんが警戒するのも無理は無い。自分でいうのも何だけど、今回の試験内容がどうであれ俺を外す理由は何処にもない。……でもね、俺にも拒否権というものがあるのだよ。
「『他クラス他学年との交流がテーマなのに、小グループ内のほとんどが同じクラスとかつまらない』と本条が駄々をこねたからだ……」
「……お前も大変だな」
「親切心で忠告しておくが、安易な考えで本条をグループに引き込めば後悔することになる。足手まといにはならんだろうが、奴の手綱は坂柳にしか握れない」
「その忠告は素直に受け取っておくが……どちらにせよすぐの決断はできないな」
「だよなー。本条や他の5人がわざと足を引っ張る、とまでは言わないけどよ……」
柴田君もザキちんに同意したため、Bクラスは慎重に事を運ぼうと提案を保留にする。そう判断することは予想済みなだったので、ランスはさらに餌を放り投げる。
「ならば今から5分以内に限り特別枠を設けよう」
「特別枠?」
「俺達が我が儘を押し通そうとしていることは事実。なのでこちらも妥協点を用意しよう。このグループの責任者は俺が務めるが万一最下位となり俺が退学することになっても、わざとグループの足を引っ張るような行為をしていない限り、このグループに入ってくれる他クラスの生徒を道連れにしないと約束しよう」
「ま、マジかよ……」
この妥協点は各クラスの中心人物……つまり能力の高い奴等には特に旨味も無いものだが、退学する可能性を危惧している生徒達にとっては大いに価値のある代物だ。そんな生徒達にとってはAクラスの独走を止めることや下克上よりも、自分が試験を安全に乗り切ることが最優先だからだ。
「しかし有効期限は5分以内だ。それを過ぎて参加を決めたとしたら、このグループが最下位を取った場合容赦なく道連れにさせてもらう」
「面白い提案だが逆に言えば5分過ぎれば、お前達は道連れにされる可能性の高い地雷グループとなる。入りたがる生徒は誰もいなくなるだろう」
「だな。んなグループに誰が入るかよ」
「お前達がどう考えようと結構だが、俺達は方針を変えるつもりは無い」
ザキちんとケン坊はそう突っぱねるが、ランスは毅然とした態度でグループを引き連れ話し合いを拒否する姿勢を表した。
「無視して構わないだろう。グループは満場一致でなければ成立しない以上、いずれ向こうから話し合いに戻って来ざるを得ない」
「だな」
どうやらザキちん達Bクラスは、俺達Aクラスが守りに入るのをどうにかして防ぎたいようだけど……考えが甘いね、やはりあのクラスは卍解ちゃんがいないと大して脅威ではない。君達のクラスは退学になりかねない生徒がいないから強気に出られるけど……ほら、クラス内の生徒の能力差の大きいCクラスは不安な生徒を守ってもらう方針に片寄ってくる。仲間想いな平田君なら、5分以内には必ずランスの提案を受け入れてしまうだろう。
このままだと俺達の逃げ切りを許してしまうだろう……と、残り2分を切ったところでそれまで静観していたDクラスの眼鏡の子……金田君がザキちんの下へ近づいていった。
「神崎氏、ここは勝負に出るべきチャンスだと判断します。彼等の提案を飲めば残るAクラスの生徒は好きに配置できる……つまりこちらは全てのグループを最高倍率の4クラスにできるということです。上位を取ればAクラスとの差を大きく詰められます」
「そのチャンスはAクラスのグループに勝つことができれば、という前提でのものだ。先の試験で完敗を喫したばかりの俺達にそんな楽観視はできない」
「確かにリスクはありますが、彼等の切り札である本条氏をこちら側に引き入れられるのならば、ここは打倒Aクラスに動くべきでしょう」
金田君の提案には慎重なザキちんの心も揺れ動く。これまで散々俺に辛酸を舐めさせられてきたBクラスにとって、俺と敵対しなくて済むのは決して無視できないメリットだろう。
その直後に平田君も賛同し、肝心の特別枠についてはCクラスの何人かが壮絶なジャンケンの末、勝利した山内君が加わることになった。……Aクラスだけで構成されたグループで1週間過ごすのは居心地が悪いだろうなあ。
真嶋先生に報告しに行くランス達を見届けてから、いよいよ本格的な話し合いが始まる。
「これで残った我々が好きにグループを作れるわけですが……彼等のようなグループの組み方はせず、先ほど申し上げたように4クラス複合を提案しましょう」
「奴等の提案を飲んだ以上そうするべきだろうな」
「勝ちに行くなら必要なことだね。それには反対しないよ」
3クラスによるAクラス包囲網……一見危機的状況かもしれないが、Aクラスが話し合いに参加していたとしても同じ結果になっただろうとランスは考えている。
何せ3学期始めに開示された各クラスのポイントは俺達Aクラスが1169ポイント、卍解ちゃん達Bクラスが602ポイント、コージー達Cクラスが358ポイント、リュンケル達Dクラスが311ポイント……これだけ離されてなおAクラスの座を諦めてないなら、独走を防ぐためにも他の3クラスが結託するのは自然な流れだ。
ならばランスは強引に守りに入ることで、敢えて無理矢理結託させてしまおうという腹積もりのようだ。
進んで手を組むのとなし崩しで手を組むのでは意味合いが全然違ってくる。裏切ったり抜け駆けしないか猜疑心を捨てきれず、まともに足並みを揃えることなどできはしない。ましてやこれまでいがみ合ってきたクラス同士だし、放っておいても勝手に反発し合うだろう。
現に今も各クラスから信用できないだのあいつとだけは組みたくないだの、様々な不安が飛び交っている。
守りの姿勢自体は変わらないものの、あの堅実一辺倒だったランスが随分と成長したもんだ。
しみじみと感慨に耽っていると、どうやら手探りでいいからグループを作っていこうという流れになったみたいなので、俺も適当に一石を投じておくか。
「ねえ平田君、金田君、ザキちん。俺の入るグループは各クラスの生徒の割合を極力均等にした方がいいよ」
「お前達6人はどのグループに配置されても文句は言わないんじゃなかったのか?」
「うん、だからこれは単なる提案。俺達Aクラスのクラスポイントが抜きん出てる以上、今後の試験でも君達が手を組む機会は何度もあるだろうね。そのときのために禍根は残したくないでしょ?」
「禍根……?どういうことですか本条氏」
「俺の所属したグループは上位になるけど、もしグループの生徒の割合がどこかに偏ってたら、得る報償に格差が出て抜け駆けになってしまうでしょ」
「上位になるのは確定なんだね……」
そりゃあこんな俺に有利過ぎる内容じゃね……俺と戸塚×9くらいのハンデを背負わない限り負ける方が難しい。
「まあどうするのかは君達の自由だ、気が済むまで話し合いたまえ」
さて、あとは成り行きを見守るとするか。
……グループ決めに難航するようなら、たまには前に出るのも一興かね?
早く橘先輩を出したい……。