女王の女王   作:アスランLS

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傘を持たずに出掛けたときに限ってピンポイントでにわか雨に襲われる呪いにかかりました。


混合合宿②

 

消灯時間まであと1時間。

俺は共同部屋にて結跏趺坐を組めなかった子達へ実践を踏まえたアドバイスを行っていた。

 

「……よし、とりあえず君達2人はある程度は形を取り繕えたね。あとは今日から毎日朝昼晩と入念に柔軟を行えば、もう少し洗練されるんじゃないかな」

「ありがとう本条君。……でもいいのかな?今日教えられたやり方と微妙に違う足の組み方だけど」

「念のため確認しておいたけど、明らかに無茶苦茶でなければ構わないってさ」

 

骨盤とか足の長さとか身体構造は人によってバラバラだ。画一的なやり方に拘り過ぎるのは不平等が生じるし、それに座禅において何より大切なのは心の平静を保つことだしね。ともかくこれで浜口君と別府君はもう大丈夫だろうし、あとは……

 

「うむ、なんていうか……マジで体固いね幸村君」

「すまないな本条……」

「いいっていいって、君が真面目に取り組もうとしてるのはわかってるから。……しかしこれだけ固いとなると、よほど勉強に打ち込んできたんだろうねぇ」

「ああ、俺は今まで勉強しかしてこなかった。年の離れた姉にいつも生徒役みたいなものをやらされていた。……明らかにおかしい難易度の問題を出してきたり、結構無茶苦茶な姉だったな」

「なるほど、それで幸村君はそんなに勉強ができるのか」

 

別に聞いてもいないのに何か語り出した幸村君に、浜口君が納得したように頷く。眼鏡同士通ずるものがあるのか、この二人は今日一日である程度親睦を深めたらしい。

 

「それもあるが、スポーツ選手にでもなる人間以外は運動能力なんて伸ばしても意味が無いと思っていたからな。元々運動が得意でなかったこともあり、ひたすら長所である学力を伸ばすことに重きを置いた。……この学校に来た当初は、何故勉強の出来る自分がAクラスじゃないのかと納得がいかなかった」

 

その時を思い出すかのように、幸村君は閉口して俯いた。……なんかどっかの誰かとカブッてるね。

 

「だがこの学校では、かつて切り捨ててしまったものも必要になってくる。足手まといだと思っていた須藤が、無人島や体育祭では俺なんかよりもよっぽど役に立ってた。輝いてる姿を、傍で見させられた」

「……」

「今回の試験もそうだ。きっと俺は運動面ではことごとく足を引っ張ってしまうだろうな……」

「そだね、だから頭脳労働は期待してるよ。運動面はまあ、そういう方向でしか頼りにならない子にでもカバーしてもらえばいいさ。……というわけで石崎君ガンバ!」

「おい待て!?誰が肉体労働専門のバカだコラ!」

 

えー?でもリュンケルも「事実だろうが」と言いたげな表情してるし概ね間違ってないよね?

 

「じゃあ石崎君に問題。おばあさんは帽子を1つ編むのに1時間かかります。そのおばあさんが50人いたとして帽子を50個編む場合、何時間かかるでしょう?」

「あ?そんなもん50時間に決まってるだろ」

「「「……」」」

「な、なんだよお前ら……」

 

石崎君が頭脳労働ではまるで役に立たないと証明されたところで、部屋の扉が軽くノックされた。

消灯時間間近に誰が来たのかと皆が不思議がる中、入ってきたのはまさかのみやびん会長。

 

「まだ起きてるか?」

「見ての通り寝てます」

「バッチリ起きてるじゃねえか」

 

みやびん会長が呆れたような表情を浮かべる中、彼に続いて副会長の桐山先輩に3年の石倉先輩と津野田先輩も部屋に入ってきた。

 

「どしたんすかゾロゾロと」

「同じグループとして様子を見に来たのさ。悪いがちょっとお邪魔するぞ」

「邪魔するなら帰ってください」

「新喜劇か」

「随分と肝の据わった1年だな。……それで南雲、1年生の部屋にまで連れてきてどう親睦を深めるつもりだ?」

 

石倉先輩はそう問いかけるが、みやびん会長が答える前に話の流れにまったく付いていけていないグループメンバー達を代表して、幸村君がおずおずと口を挟む。

 

「あ、あの南雲先輩……親睦とは?」

「グループとして様子を見に来たって言ったろ?ここじゃあパソコンだの携帯だの娯楽らしい娯楽はまるで無いが、まったく遊ぶものが無い訳じゃない」

 

ニヤリと笑いつつみやびん会長はジャージのポケットから小さな箱を取り出した。

 

「ほう、百人一首ですか」

「チョイスが渋いなオイ。トランプだよトランプ、合宿で定番と言えばこれだろ」

 

適当に空いているスペースに腰を下ろしつつ、みやびん先輩は未開封の箱のビニールを剥がし開封する。

 

「これからゲームを盛り上げるために何か賭けようと思うんだが、何かいいアイデアは無いか?」

「最下位の人は全裸で校舎1周」

「ペナルティ重すぎるわ。問答無用で退学だバカ」

「じゃあ死ぬまで語尾に『私は幸福です』と付け続けなければならない」

「何のカルト宗教だよ。ペナルティでけぇっつってんだろ」

「となると最下位は生徒会長にドロップキックで決まりっすね」

「決まらねーよ。どうあがいても俺が痛手を負う羽目になるだろうが。……朝食当番をこの賭けで決めるというのはどうだ?連敗に次ぐ連敗をすれば最悪合宿の最後まで朝食を作り続けなければならないし、逆に勝ち続ければ1度も食事当番をしなくて済む」

「おい南雲、それは大グループ全体で話し合うべきだろう」

「たかが朝食当番なんだし、これくらいの融通は利かせてくださいよ。……それにこのままだと本条が提案するろくでもない罰ゲームに決まっちゃいますよ?」

「……わかった」

 

いつものみやびん会長とはかけ離れたマジトーンの忠告に石倉先輩も引き下がり、幸村君達も同意するように無言で頷く。ちょっとしたジョークだったんだけどなぁ。

まあ我らが傍若無人コンビは知ったことかとばかりに無視していた。

 

「高円寺と龍園、お前らはトランプで決めることに反対か?」

 

放っておけばいいのに、何を思ったのかみやびん先輩は2人に近づいてそう問いかけた。この人後輩の態度にいちいち目くじら立てる人じゃないのにどうしたんだろうね。

 

「あ?知るかよ、勝手にやってろ」

「私も興味無いねぇ。すでに多数決の答えは出ているようだし、好きにしたまえ」

 

予想通り敬意の欠片も無い2人の態度に、しかしみやびん先輩は愉快そうに笑う。

 

「生徒会に入らないか高円寺?お前みたいな面白い奴は是非とも迎え入れたい。聞いた話じゃ能力もかなり高いらしいしな」

「あいにくと生徒会などにも興味は無いのでね。それに私は色々と忙しいので、暇であろうドラゴンボーイを誘ってはいかがかな」

「ドラ……?ああ、龍園のことか。嫌いなタイプじゃないが、俺の生徒会とは合わなそうだ。すまんな龍園」

 

返事を返すのも面倒になったのか、リュンケルは何の反応も示さない。六助は六助で先輩達などまるで眼中にありませんと言わんばかりに爪の手入れをしている。

その不遜な態度が嫌いなクラスメイトと重なったからか、桐山先輩が不快そうに顔を歪めるのを手で制しながら、みやびん会長が二人から視線を外し戻ってくる。

 

「それじゃあゲームを始めようか」

「何やるんですか?ナポレオン?」

「マイナーだし複雑だし、ルール説明しているうちに消灯時間になっちまうわ。シンプルにババ抜きでいいだろ。参加するのは各学年から2ずつで、全6試合だ」

 

ふむ、ババ抜きか。…………ババ抜き、かあ。

 

「参加する生徒の交代は自由だが、ゲーム中に代わるのはやめてくれ」

「うーむ、とりあえず1人は責任者の俺がするとしてもう1人は……幸村君、君に決めた!」

「俺かよ!?」

 

みやびん先輩がカードをシャッフルする中、俺は手近にいて色々と都合がいい幸村君に手招きして呼び寄せる。

みやびん先輩のシャッフルが終わると細工防止のため石倉先輩にカードを回し、やがて俺にも回ってきたのでディールシャッフルを華麗に決める。

 

「手慣れたもんだな。それだけ手際がよけりゃいくらでも細工できそうだ」

「心配ならもう1度切ってもらってもいいですよ?……結果は一緒でしょうけど」

 

俺の呟きに怪訝そうにしながらも、カードを受け取ったみやびん先輩はもう一度念入りにシャッフルしてからカードを配っていく。

 

「1回目は俺が配るが、2回目以降は最下位の奴がシャッフルして配る役だ」

「なるほど。じゃあここは俺から引きますね」

「いやなんでだよ、そういうのはちゃんと……よしわかった、お前から引け」

 

配られたカードからペアの数字を場に出していくとあら不思議、ゲームが始まる前に手札が1枚になってしまいましたとさ。ここで他の人からスタートすれば、俺はゲームに参加することなく上がってしまうので妥当な判断だろう。みやびん会長もそれを理解したのか、ややひきつった笑みで手札を向けてくる。

 

「それじゃあ勝たせてもらいますよ」

「初手には恵まれたようだが、そう簡単には-」

「はい、あがりです」

「……噂には聞いていたが、豪運にもほどがあるだろ」

「今回はまだマシな方ですよ?結構な頻度で配られた時点でカードが無くなっちゃいますし」

「もういい、それ以上は言うな。頭痛くなってくる」

 

俺の幸運は運に依存する勝負であればある程不条理さを増す。特にババ抜きと神経衰弱でははっきり言って負ける気がしない。

 

「だがこのゲームはチーム戦だ。まだ勝負はついちゃいないぜ」

「何を言ってんすかみやびん先輩。この、圧倒的優位の状況から!学年でも屈指の頭脳派たる幸村君が!不覚を取るわけないじゃあーりませんか!」

「無駄にプレッシャーをかけるな!どっちの味方だお前!?」

 

何故か味方である筈の幸村君から怒られちゃったので、仕方がないからおとなしく戦況を見守る。

 

「あがりだ」

 

やがて石倉先輩が手持ちを全て吐き出し、続いて桐山先輩、みやびん会長があがる。

 

「ゆーきーむーらーくーん?もたもたしてるから2年生二人ともあがっちゃったよー?」

「し、仕方がないだろ運否天賦なんだから!」

 

この子のクラスってリュンケル達のクラスとバチバチやってきた筈だよね?なんでそんな平和ボケした考えができるのかね?ほら、リュンケルに密かに嘲笑されてるよ。

残ったのは幸村君と津野田先輩の2人。どうやら幸村君がジョーカーを握っているようだが、津野田先輩にジョーカーを引かせることができれば勝負はまだわからない。

 

しかし俺の予想通り、先輩はジョーカーではない方のカードを引き当てた。

 

「よし、これであがりだ」

「……すまん、本条」

「気にしない気にしない♪」

 

適当に励ましつつ彼の手元に残ったジョーカーをひったくって、わざとらしくしげしげと眺める。

 

 

 

 

 

 

「ところでみやびん会長、なんでジョーカーに目印みたいなのが付いてるんでしょうね?」

「「「「っ!?」」」」

「ほう……」

「……え?」

 

幸村君が呆ける傍らみやびん会長は愉快そうに口元を歪め、他の先輩達はポーカーフェイスを保ちつつも脈拍を乱れさせた。……わかっちゃいたけど先輩ら全員グルかい。

 

 

 

 

 

 




石倉 健介(いしくら けんすけ)
クラス:3年Bクラス
誕生日:10月30日
身長:184㎝
体重:77㎏
部活:バスケ部元部長

学力……A-
知性……B+
判断力……B
身体能力……A-
協調性……C+

特技:3ポイントシュート
趣味:サーフィン
仲の良い生徒:須藤健、小宮叶吾、近藤玲音、津野田秋人
相性の悪い生徒:特に無し
好物:オムライス
苦手なこと:絶叫マシン


南雲も一目置くBクラスの中心人物。堀北と緒方擁する3-Aと渡り合ってきただけあった非常に優秀だが、バスケの実力は須藤に劣る。南雲と組んで後輩いびりを行った疑いあり。


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