女王の女王   作:アスランLS

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桐葉「今日で二期アニメも終わりかー……」
有栖「作画も荒れ、重要なシーンのカットも目立ったりと、正直微妙な出来でしたね」
桐葉「有栖なんてただのメスガキだったもんね」
有栖「息の根を止めますよ?」 
桐葉「すんません」


胎動する悪意

 

翌日の放課後。

有栖と俺は暇潰しに10文字以上縛りしりとりでもしながら仲良く下校していた。何度かやっているがお互い語彙が豊富過ぎて、寮につくまでに決着がついた試しがない実に不毛な戦いだ。

 

「クリサンセマム ムルチコーレ」

「歴史的風土特別保存地区」

「クレマチス・アンスンエンシス」

「スリランカ民主社会主義共和国」

「クレマチス・ヴィオルナ」

「ナイジェリア連邦共和国」

「く攻めうぜーな有栖。クレマチス・フォステリー」

「桐葉こそクレマチス系統で凌ぐのは姑息ですよ。立盟館大学」

「クレマチス・アップルブロッサム。……ところで有栖、随分とつけられてるね俺達」

「武庫河女子大学。そうですね、ざっと見た限り……7人でしょうか?」

「そうだな。あからさまにわかりやすい子4人の裏に、しっかり隠れながら尾行している子が3人。ちなみに全員Bクラスの生徒だよ」

「やはり一之瀬さんはクラス中に慕われているようですね、羨ましいことです」

「クラスメイトを駒としか思ってないお前がそんなこと言ってもなー……」

「クラスメイトを有象無象としか思ってない貴方にだけは言われたくありません」

 

失礼な。ランスやマスミンやファルコンにミキティと、注目している奴も何人かはいるぞ。それ以外?知らん、興味ない。

しかし昨日の今日でこうも露骨にマークしてくるとはね。この隠す努力が見受けられない布陣……重要な局面では俺が動くと言ったことをクラスで共有したらしく、卍解ちゃんへの攻撃には絶対に加わらせないという鉄の意思を感じる。なるほど中々悪くない手だけど、尾行されれば撒きたくなるのが人のサガ。

 

「有栖、先に帰ってて。今回の勝負は預けておくよ」

「何もわざわざ撒かなくても、彼等は私達が不審な行動をしない限り何もしてこないと思いますよ?」

「うん、だろうね。ちょっと興が乗っただけだから」

「つまりいつもの悪い癖ですか、まったく……」

 

呆れたように嘆息する有栖。念入りな下準備と緻密な策略を是とするこの娘からしたら、俺の思い付くままの生き方は死ぬまで賛同できないだろうね。

そんなことをしみじみ思いながら俺は制服の懐に手を入れ、アワモリショウマ(花言葉は自由気まま)の花束を四方八方に散らばるように上に放り投げる。俺達を監視していたBクラスの生徒達の意識が宙を舞う花に逸れた瞬間、俺は全速力で手頃な隠れ場所……あの茂みでいいか……に身を潜めた。

 

「……ん?あ、あれ!?本条が消えた!?」

「何!?……坂柳は、まだいる……い、いったいどこへ……!?」

 

慌てて周囲を探し出す8人を注意深く観察しながら、視線による包囲網を避けるように落ちていた小石を明後日の方向に全力で投擲。カツーンと小石が地面にぶつかる小気味良い音に、彼等が反応し完全に気をとられた内にその場から立ち去る。

俺の消失マジックを体感した人はまるで煙のように消えたと感じるだろうけど、実際はこっちも失敗と隣り合わせのギリギリの綱渡りなのだ。

 

「ここまで来れば大丈夫だよね。……おやピヨリン、こんなところで奇遇だね」

「ど、どうも本条君……なんで後ろも見ないでわかったのですか?」

「んー、第六感?」

「そ、そうなんですか。凄いですね……」

 

いや納得しちゃうのかよ。こんなぽやぽやした天然ちゃんが、あの荒くれもの集団の中で上手くやっていけてるのか心配になるけど……意外と図太そうだし大丈夫か。

 

「でも本条君に相談したいことがあったので丁度良かったです。近くにカフェがあるので、よろしければ寄っていきませんか」

「おやまあ大胆なお誘いだね」

 

有栖との仲がほぼ全校生徒に知れ渡っている以上、無意味に誤解を招くようなことは避けるべきなんだけど……こちらを見る彼女の真剣な様子からして、そんな浮わついたお誘いでないことは明白。相談事……そういえばこの子確か、混合合宿では卍解ちゃんと同じグループだったっけ。

 

「……最近蔓延してる噂についてかな?」

「はい。……それも第六感でしょうか?」

「いいやこっちは推理。ダニエル・ネイサンの生まれ変わりと称される俺にはこのくらい造作もない」

「エラリー・クイーンシリーズの作者、フレデリック・ダネイの本名ですね!かのシリーズは名作揃いですが、私は特に『シャム双子の秘密』が-」

 

わーお、急に生き生きし始めたねこのミステリーオタクちゃん。あの作品は非常に完成度の高いロジカル推理小説だから俺はあまり好きじゃないんだけど、せっかく楽しそうにしているのに水を差すのは気が引けるので、歩きながら適当に話を合わせてあげる。2、3分くらい歩くとケヤキモールの中でも特に繁盛してるカフェに辿り着い……あれ?窓際の席に座ってるのって……

 

「コージーと、王美雨ちゃん?あの2人って同じクラスって以外に何か接点あったっけ?」

「え?みーちゃんと……あ、綾小路君?」

 

この天然ちゃんですら驚くくらいだ、珍しいなんてもんじゃない奇特な組み合わせであることなのは間違いない。

しかし『みーちゃん』、か。仲の良い生徒は王ちゃんのことをそう呼んでいるそうだけど、ピヨリンと何か接点が……あったね、そういえば彼女も合宿で同じグループだった。

コージーは軽井沢ちゃんと仲がいいので可能性は極小だけど、下手したら馬に蹴られる可能性があるがどうしても好奇心には勝てない。俺達は無言で目を合わせると店内に入り、適当にエスプレッソでも注文してから2人に近づく。

 

「やっほーコージーに王ちゃん」

「こんにちは、綾小路君にみーちゃん」

「本条とひよりか」

「あ、ひよりちゃんと……本条君もこ、こんにちは」

 

おっとわかりやすいほど怯えてますね。

俺は大抵の子とすぐ仲良くなれるという自負してあるが、王ちゃんは例外にあたる1人で、何度か話したことはあるけど何故か少々怖がられている。俺の目付きが悪いのか、よほど人見知りの激しい子なのか……それとも俺の本質に気がついているのか。

 

「もしかして、デートというヤツでしょうか?」

「ちちち、違うよひよりちゃんっ」

 

はいはい違うのはわかったから、そんなわざわざ立ち上がりながら身ぶり手振りまで交えて全身全霊で否定しなくてもいいじゃないか。心なしかコージー落ち込んじゃってるよ可哀想に。

 

「それを言うならひよりちゃんも本条君と-」

「「違うよ(います)」」

 

余計な噂が立つと面倒なのできっぱりと否定しておく。どこで誰が見聞きしてるかわからないからね、いやわかるけども。

 

「ではお邪魔してもよろしいでしょうか?」

「もちろんだよっ。……綾小路君もいいかな?」

「ああ」

 

許可が出たので俺はコージーの隣に、ピヨリンは王ちゃんの隣の席に座る。

 

「にしても随分と奇妙な組み合わせだね。何の話してたのさ?」

「え、えぇっとね、その……」

 

顔を赤くしながら、非常に答えづらそうにする王ちゃん。さっきコージーとのそういう仲を過剰に否定したことから内容は容易に推測できる。この子は確か平田君に好意を寄せてたし先日彼は軽井沢ちゃんと別れたらしいから、クラスで比較的平田君と仲の良いコージーに色々相談していたのだろう。……だけどそれを指摘するのはちょっとデリカシーに欠けるよね。

そんなことをぼんやりと考えていると、コージーが助け船を出してくれた。

 

「中国に興味があって、少し話を聞いていたんだ」

「なるほど、それで中国人の王ちゃんにどこがお薦めか相談してたんだね?」

 

俺がコージーの嘘に乗っかると、王ちゃんは慌てたように二度、三度と頷いた。正直大根甚だしかったが天然ピヨリンは騙されてくれたらしい。

 

「いいですよね、中国。私も万里の長城とか凄く興味あります」

「まあ中国と言えばそれだろうが、個人的には平遥古城に行ってみたい」

「俺は泰山や九寨溝の渓谷、武陵源かな」

 

丹霞や武夷山、三清山国立公園等も外せないぜ。

 

「ふ、二人ともよく知ってるね……」

「聞き齧った知識だ」

「俺は植物をこよなく愛する男だからね、自然遺産は余すところなく網羅してるんだよ」

 

中国は世界で最も自然遺産登録数が多い国だし、いつか是非とも訪れようと思う。……有栖ついてきてくれるかなー?あの子俺が植物について語り出すと露骨に面倒臭そうにするんだよね。

 

「ところで3人は、友達なの?」

「はいっ。2人とも大切な読書友達です」

「ありゃ意外、コージーもこの子のミステリー布教の餌食になってたの?」

「何か言い方が引っ掛かるが、まあそうなるな。……その口ぶりからして本条もか」

 

俺達の何とも奇特な関係に王ちゃんは首を傾げていたが、すぐに前向きな考えに変わったらしく笑顔になる。

 

「クラスを越えて友達ができるのっていいよねっ」

「私もそう思います。争うだけが学校生活ではありませんし」

 

俺は以前からそうだったけど、あの合宿以降クラスを越えて打ち解け出す生徒も増え出したようだね。今後学校側に無理矢理敵対させられたらどうなるからわかんないから、一概に良い傾向とは言えないかもしれないけど。

……それにしても橋本の奴、とうとうコージーの異質さに気づいてストーキングし始めたか。俺の指示した人脈作りをちゃんとやっているのはいいけど、あまりコージーに深入りすると有栖の不興を買っちゃうよ?

 

 

 

 

 

 

 

「それで話ってのは何だ?」

 

カフェでしばらく話し込んだあと寮へと戻り、王ちゃんと別れてから俺達はロビーに集まっていた。

 

「先ほどはみーちゃんの手前、お聞きするのが憚れたのですが……一之瀬さんのこと、何か聞いていますか?」

「妙な噂のことなら一応知ってる」

「俺もー」

「ええ、そのことです。どなたが言いふらしたことなのか、ご存知でしょうか?」

「いや……わからない」

「Bクラスの子達はAクラスの誰かではないかって疑ってるみたいだけど……とりあえず俺は身に覚えがないし、有栖からは何も聞かされてないかな」

 

面倒だからしらばっくれようとも思ったが、どうやらピヨリンはある程度の情報は掴んでいる様子だったので、勘ぐられないようある程度真実を織り交ぜておく。

 

「……私は一之瀬さんが苦しんでいるなら、何か力になってあげたいです。正直争い事は好きじゃありませんが……友達を守るためなら、時には戦う必要があると思っています」

 

へえ、この人畜無害ちゃんにここまで言わせるとは……どうやら卍解ちゃんの人徳と人柄は、クラスの垣根さえも超越しているみたいだ。

 

「一之瀬さんを助ける方法は、まだ思い付きませんが……協力してもらえませんか?」

 

彼女の言う協力とは、4クラスが協力して卍解ちゃんを貶める不届き者を炙り出そうってことなんだろうけど……これは流石に引き受けるわけにはいかないよね、うん。

 

「んー、残念だけど無理かな」

「……そうですか。やはり、敵対するクラスの問題だからでしょうか?」

 

悲しそうにしゅんとするピヨリンに多少罪悪感が沸くが、ここは心を鬼にして断らなくてはならない。

 

「さっきも言った通りBクラスの子達はAクラスを疑ってるから、俺達が協力を申し出ても相手にされないよ。でも同盟を結んでるCクラスなら大丈夫だと思うし、協力してあげなよコージー」

「Cクラスをまとめるには、平田か堀北の力が必要だが……一応話だけでも振っておこうか?」

 

ピヨリンはしばらく考え込んでから……

 

「すみません、やはりまたの機会にしましょう。下手に話を広げれば、一之瀬さんに迷惑をかけてしまうかもしれませんし……」

「そう、だな……そうかもしれない」

 

ふむふむ、まあ正しい判断だろうね。有栖は易々と尻尾を掴ませないだろうから、この件は卍解ちゃん本人が訴えるくらいしか解決方法は無い。……もっとも、それをしないと確信しているからこそ有栖は仕掛けたんだろうけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日間卍解ちゃんの悪い噂は日増しに広がっていき、金曜日にはおそらくもう全校生徒に知れ渡っていた。

しかし卍解ちゃんは学校側に被害届を出すことなく、日々を当たり前のように過ごしているそうだ。

降りかかる火の粉を払わない姿勢が正しいのかどうかは知らないけど、少くとも周囲は卍解ちゃんの毅然とした態度から、やはり出回っている噂は所詮デマカセだったという認識になっていった。ただでさえ学年末試験が差し迫り、さらにその10日前には仮テストが控えていることもあり、卍解ちゃんを陥れる策略は不発に終わるとほとんどの人が確信しただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

『一之瀬帆波は犯罪者だ』

 

 

そんな一文が印刷された手紙が、金曜日の放課後1年生全員のポストから見つかるまでは。

……黒幕は有栖として、誰がこれを投函させられたんだろ?万が一卍解ちゃんが学校側に訴えられたら特定されて退学ものだろうし……やっぱり弱味握られてるマスミンかな?いつもいつも御苦労様です。

 

「それでザキちん、俺に何か用かい?」

「っ……その手紙のことで話がある。悪いが少し付き合ってもらうぞ本条」

 

振り返ってみればあらびっくり。ザキちんを筆頭にBクラスの生徒10人くらいが、やや敵意のこもった視線を向けているではありませんか。これからどこへ連れてかれるんだろ。いやんこわーい。

 

 

 

 

 

 




※注文したエスプレッソには1口も飲まずに店を出ました。

みーちゃんが桐葉君によそよそしい理由……以前『みーちゃん』と呼んでほしいと提案したら『大して興味無い子はアダ名で呼びたくない』という言葉と共にバッサリ断られたから。
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