有栖「2期には色々と不満もありましたが綾小路君の勇姿と、想像の3倍ボロ雑巾にされていたドラゴンボーイさんに免じて許してあげましょう」
桐葉(リュンケルがなぶり殺しにされてるところ、凄く愉快そうに観てたからねこのサドっ娘)
植物庭園『ルビカンテ』。
植物愛好家である俺の夢と希望の詰まった安住の地へ、俺はBクラスの子達に罪人のごとく連行されてきた。
「……俺の楽園に殺伐とした雰囲気持ち込まないでほしいんだけど」
「それについてはすまないとは思うが、この話し合いのことは一之瀬には聞かれたくない」
「あの子が例の件に君達クラスメイトを巻き込みたくないからだね」
「ああ。ここなら滅多に人が立ち寄ることもないし、万が一後から誰か来ても説得して帰ってもらうつもりだ」
「俺の楽園をうもれ木呼ばわりした挙げ句、堂々と営業妨害かい」
「俺の楽園って、別にお前のじゃないだろ……」
柴田君は呆れたようにそう指摘するが、この施設は俺が大金を払って建設してもらったんだし、実質俺の物と言って差し支えないんだよ。……そのことをわざわざ教えてあげる義理も無いけどさ。
俺と共に入園したのはザキちん、柴田君、渡辺君、網倉ちゃん、白波ちゃんの5人で、残る5人は外で待機するみたいだ。……白波ちゃんも俺が怖いなら外で待ってればいいのに。
園内の椅子とテーブルが並べてある広場に着いたので、俺は懐から取り出した大きな布をテーブルに被せつつ椅子に座る。
「さて、それじゃあ話を聞こうか。紅茶でも飲みながらね」
俺が布を取っ払うと、テーブルにはアッサムが注がれたティーカップが6つ並べられていた。目に見えて狼狽えるザキちん以外の4人。
「……どしたの?毒なんて入れてないよ?」
「いやなんだコレ、どうやったんだ今の!?」
「マジシャンが手品のタネをバラすわけないでしょ」
カップを手に取り一口飲む。うーむ、やはりちゃんと淹れたやつに比べたら味は落ちるね。
しかしこの子達随分と青いねえ。そんなにわかりやすく動揺してるようじゃ、クラス間の腹の探り合いに参加するなんて10年早いよ。
「……それで、俺に何か話があるんだったね。どんな内容か当てたげよっか?」
「いや、せっかくだがちゃんと俺の口から話す」
それに比べてやっぱりザキちんは中々見所がある。前回柴田君達はまんまと引っ掛かったけど、ここでみすみす思惑を指摘させたりしたら、その後の会話の主導権をあっさり奪われることになる。
「話というのはここ最近立て続けに起きている、一之瀬への根も葉も無い誹謗中傷についてだ」
「だろうね」
「俺達はクラスを挙げて噂の出所を調べ上げ、犯人はまず間違いなく1年Aクラスの人間であると突き止めた」
「ふむふむ、それで俺がその犯人と判断して問い詰めに来たと。失礼しちゃうねまったく」
「違うと言い張るのか?ここ数日お前のことはマークさせてもらったが、それら全てをお前は途中で撒いている。何か疚しいことを隠してるんじゃないか?」
「あのねザキちん、大勢につけ回されてずっと監視されてたら、普通は不快に思うってちゃんとわかってる?君達将来ストーキングに手を出しそうで桐葉君心配」
俺がそう指摘すると、5人ともややバツが悪そうに目を逸らす。どうやら似たようなことをリュンケル達が散々やっていたから麻痺していたようだね。……まあ不快云々は真っ赤な嘘なんだけど。むしろ今日はどうやって出し抜こうかみたいな感じで楽しんでさえいたけど。
「つまらねー駆け引きはやめにして、さっさと本題を話しなさい。俺もそう暇じゃないんだよ?テスト前だし」
「……わかった。確かに俺達が犯人だと疑っているのはお前じゃなく、坂柳だ」
「へー。その根拠は?」
「Aクラスの1生徒が、坂柳に無許可で他クラスに喧嘩を売るとは思えない。加えて坂柳は混合合宿のグループ決めの際、謂れの無い罪で一之瀬を糾弾したと報告を受けている。……全て状況証拠とはいえ、疑って然るべき相手だろう」
「なるほどなるほど、それで俺から情報を吐かせようって腹積もりか。……有栖がこの件に関わってるかどうかなんて知らないと、この前柴田君達に言った筈だけどなあ」
「悪いが、とても信じられんな」
「だったら直接有栖を問い詰めたらいいじゃないか回りくどいなあ」
「当然そうした。……だが─」
「あっさり言い負かされたか、上手いこと言いくるめられたってわけか。言っちゃ悪いけど頼りないね君達」
有栖は純粋な話術力なら俺以上、駆け引きで渡り合えるのはBクラスだとギリギリ卍解ちゃんくらいだ。ザキちんじゃちょっと力不足、卍解ちゃんにおんぶに抱っこのそれ以外は話にならないからまあ仕方がないね。
しかし何か気にくわないことでもあったのか、渡辺君は怒りに任せてテーブルに拳を叩きつける。……ちょっと紅茶溢れちゃったじゃないか勿体無い。
「いい加減にしろよ!お前といい橋本といい坂柳といい、口八丁で言い逃れやがって……お前らが一之瀬を苦しめてるのはもうわかってるって言ってるだろ!」
「お、おい!?落ち着けよ渡辺!」
「だけどよ柴田!」
「随分とカルシウムが足りてないね。紅茶にミルクでも入れようか?」
「ッ!お前!」
人のちょっとした親切心を挑発と捉えたのか、渡辺君は怒りの形相で俺に近づき俺の胸ぐらを掴もうとしてきたので、彼の伸ばしてきた腕の袖を摘まんで思いっきり引っ張って転ばせる。
「ぐぁっ!?」
「「「渡辺(君)!?」」」
「随分と乱暴だね、いつから君達はリュンケルになったのさ」
いや、それだけ卍解ちゃんのことで冷静さを欠いているってことなのかな。うーん……仲間想いなのは結構だけど荒事は好きじゃないから、ここはちょっと念入りに釘を刺しとくか。
俺は起き上がろうとした渡辺君の首根っこを掴んで起き上がらせ、間近で彼の目を真っ直ぐに見据える。彼の瞳に怯えが宿る……きっと今の俺は人間とは思えないとても無機質な目をしているんだろうね。
「ひっ……!?」
「有栖曰く、みやびん会長はコランダム先輩と違って学生に喧嘩は付き物って考えで、以前と違って多少の喧嘩沙汰は咎められなくなるらしい。だから脅して言うことを聞かせようとしたのは別に悪手とは言えない。でもね……」
恐怖からか渡辺君は俺から視線を外そうとしたけど、俺はそれに合わせて彼の視線の先に回り込む。残念だけど、俺の眼からは逃げられない。
「噛みつく相手はちゃんと選びなよ」
「う、うわぁああ離せぇえええ!」
とうとう耐えきれなったのか、渡辺君は俺の掴んだ手を強引に振り払って大きく後ずさる。呼吸脈拍とも乱れ2月だというのに汗だくになり震え上がっている。
そんな彼の身を案じBクラスの面々が慌てて駆け寄り、彼を庇うように立ち塞がり俺を敵意のこもった目で睨む。……ザキちん以外(特にあまり気の強くない網倉ちゃんとトラウマ持ちの白波ちゃん)には多少の怯えが見られるのに友達を守ることを優先するとは、ほんと人間できてるねこの子達。でも……
「話し合いはもうお開きでいいよねザキちん。渡辺君がその調子じゃ君達も気が気じゃないだろうし、俺としてもせっかく振る舞った紅茶に口をつけもしない、無粋な連中に協力する義理も無い。おとといきやがれ」
「坂柳のやっていることは決して許されることではない。一之瀬が学校に訴えれば、後悔するのはお前達なんだぞ」
「だったらそうすれば良いじゃん。以前までの噂話と違って、今はこうして決定的な証拠があるんだし」
例のプリントを突き付けると、ザキちん達は苦虫を噛み潰しような表情で押し黙る。
「寮のポスト付近にも監視カメラは当然ある。学校側に申告して調べてもらえば、これを投函した人間は容易く炙り出せる。……それで解決する筈なのに何故しないんだい?」
「生憎と一之瀬に止められていてな。こんなことをする輩にも、同情の余地はあると思っているんだろう」
「だとしたらあの子、リーダー失格だね」
「何……?」
ザキちんが不快そうに僅かに顔を歪める一方、他の4人は先ほどまでの恐怖が消し飛んだかのように敵意を向けてきた。卍解ちゃん喜びたまえ、君はこんなにも彼等に愛されてるよ。
「君達の話を信じるなら、犯人は俺達Aクラスの人間だそうじゃないか。こんな悪質なことやらかしたと学校に発覚したら、クラスポイントは大きくマイナスされるだろうね。……つまりだ、あの子は大きく広がった俺達との差を縮めるチャンスを無視してることになる。それはリーダーとして正しい判断とは言えないよ」
「「「っ……!」」」
俺の指摘にそれぞれ驚愕、困惑、悔しさを滲ませるBクラスの面々……流石に苛めすぎかな、反省反省。
俺は手品でティーセットを片付けつつ、卍解ちゃんのフォローをしておく。
「とはいえ、賢いあの子がそんなつまらねー判断ミスするとは思えない。つまりだBクラス諸君……卍解ちゃんが学校に訴えないのは、何か重大な理由があるってことさ」
「重大な、理由……!?」
「何なのそれは!?教えてよ本条君!」
「敵対してる生徒に助けなんか求めないの。それを解き明かすのが君達の仕事だよ網倉ちゃん。それができればたぶんこの問題は解決するだろうから頑張ってね、応援してる」
この子達じゃ絶対に解き明かせないと確信しつつも、形だけ激励を送りつつ『ルビカンテ』を後にする。
ああ無駄な時間だった。他人に踏み込むことを躊躇しがちなザキちんや、卍解ちゃんを過剰に神聖視する彼等じゃ毛ほどの役にも立ちやしないのに。
この問題はやはり本人にしか解決できないとつくづく思う。あまり失望させないでよ卍解ちゃん。一見先日の合宿の件とよく似ているけど、君のそれは茜さんのような『献身』じゃない……ただの『逃避』だよ。
2月14日、月曜日の朝。
いつものルーティンをこなしてからロビーにて有栖と合流……ありゃ?今日はマスミンもいるんだ。
「おはよー有栖、マスミン」
「おはようございます桐葉。今日はバレンタインデーですね。どうぞ受け取ってください」
有栖は抱えた鞄から綺麗にラッピングされた箱を取り出し、やや恥ずかしそうにしながら俺に手渡した。……なんか無駄にあざとかったので茶々を入れてみる。
「石鹸の詰め合わせね、いつもお世話になります」
「乙女の純情を軽んじるようでしたら、溶かして鼻から流し込んで差し上げましょうか?」
「すんませんっした、慎んで頂きますハイ」
「まったくもう……」
「……さっさと済ませてしまおうと思ったけど、やっぱ学校で渡すんだった」
俺と有栖による恒例の茶番を見て溜め息を吐いた後、マスミンは鞄から取り出したチョコを俺に投げ渡した。
「一応確認するけど義理だよね?じゃなかったら無意味な争いを招くことになる」
「心配しなくても義理よ、クラスの女子一同からのね。……多く貰ってもアンタは喜ばないって坂柳が言うから一まとめにするのは別に良いとして、なんで私が渡さなきゃいけないのかしらね?」
「それはまあ、私を除けばクラスで最も発言力のある女子生徒だからでしょうか」
「以前は元葛城派の西川ちゃんだったけど、体育祭で最優秀に輝いたことで株価が急上昇し逆転したんだろうね。よっ、ゴリラウーマン」
「流石は私の親友ですゴリラウーマンさん」
「アンタらほんとしばき回すわよ!?」
久し振りのマスミン弄りも楽しんだことだし、久し振りに3人で登校する。途中平田君や里中が女子生徒によるチョコのクラスター爆撃に遭っていたが、まあフリーのイケメンが背負いし宿命だと思って堪え忍べ。
「それで有栖、今後はどうするつもりだい?」
「私から仕掛けることはもうありません。真澄さんにお願いして餌はもう撒きましたが、食いついてくれるかは五分五分でしょう」
「なるほどなるほど。マスミン毎度ご苦労様」
「ほんとに苦労したわよ……」
もう懲り懲りだと不満そうに溜め息をつき肩を落とすマスミンに対し、有栖は楽しそうに笑っている。残念ながら今後も彼女は苦労させられそうだ。
結論から言うと今回の件の真の狙いは、卍解ちゃんを潰すことではない。有栖にとって卍解ちゃんは割とどうでもいい相手だからだ。本命は彼女を助けようと
「おや、茜さんだ」
「橘先輩……?どこにいらっしゃるのですか?」
「校門の前。どうやら誰かを待ってるみたい」
「わかるわけないでしょ、まだ学校まで何百メートル離れてると思ってんのよ……」
視えちゃったんだから仕方ないじゃないか。
やがて学校まで辿り着くとまだ校門の前にいた茜さんは、俺達を見つけると小走りでちょこちょこ駆け寄ってきた。……毎度思うが本当に高校生かね?この人と有栖─
「「ふんっ!」」
第六感でも働いたのか、二人は前と後ろから非常に息の合った連携で俺にクロスボンバーを浴びせる。どちらも平均的な女子高生以下の筋力とは言え首を狙われたら結構痛い。
「ひどいねえ、いきなり何するのさ」
「何か失礼な気配を感じました」
「同じくです」
なんてこった、どうやら俺の思想・良心の自由はこの娘らに剥奪されているらしい。悲しくても桐葉君は泣かない、男の子だもん。
「まあいいや、おはよっす茜さん」
「むっ、随分と馴れ馴れしい挨拶ですね。先輩に対する敬意が欠けてます」
「後輩から2000万借金する先輩に払う敬意なんてこんなもんでしょ」
「……そう、ですね」
「冗談だからしょげないでよ。茜さんは今でも俺の一番尊敬する先輩だから。何かいい感じの弱味ができたんで、好き放題玩具にしようと思ってるだけだから」
「最悪ですこの後輩!?」
うがーっと両手を振り上げて怒りを露にする茜さん。この人からはストレスを和らげる成分が絶えず分泌されてると思う。ストレスなんて感じたことしばらくねーけど。
「それでどしたの?教室の行き方わからなくなっちゃった?」
「あなたに大恩はありますが流石に〆ますよ!?……これ、この前お世話になったお礼です」
そう言ってやや頬染めつつ明後日の方を向きながら、茜さんは包装からして義理だとわかるよう配慮の行き届いたチョコを手渡してきた。
「当然義理ですからねっ。そこんところ勘違いしないように!」
「そんなツンデレのテンプレみたいな釘刺されなくても知ってるよ。じゃなかったらどっかの誰かさんの怒りを買って、また退学に追い込まれかねないよ?」
「失礼なこと言わないでください。私はそんな器の小さい女ではありませんよ」
「はいはい、目が全然笑ってないよまったく。……というかそんなことどうでもいい。コランダム先輩にもちゃんと渡すんでしょうね?」
茜さんの両肩を掴んで問い詰めると、顔を真っ赤にして露骨に動揺し始める。
「も、勿論ですよっ」
「ちゃんと本命のヤツでしょうね?」
「ほっ!?」
この反応の時点で九分九厘確定したが、念のため彼女の鞄に手を入れコランダム先輩宛のチョコを取り出したが……
「あぁっ、何するんですか!?」
「……茜さん、どういうことですかな?ラッピングといい形といい大きさといい、俺宛のチョコとほとんど同じものに見えるんですけれども」
「……ほ、堀北君にはいつもお世話になってるけど……私がそういうチョコを渡しても迷惑に思われるだけだと思うし……」
何やら言い訳染みたことを、顔を真っ赤にしてごにょにょと並べる茜さん。実はそうじゃないかと危惧してたけど、まさかここまで……
俺は天を仰ぎ一度大きく深呼吸してから、コランダム先輩用の義理チョコを……
「こんの……
バカタレがぁぁあああぁぁあああああ!」
「にゃあぁぁぁぁあああぁぁあああああ!?」
バッキバキに砕けるように茜さんに叩きつけた。
桐葉君は興味の無い相手でも、友好的に接すれば友好的に対応してくれます。一目置いている相手から敵意をぶつけられると面白がります。しかし興味の無い相手から敵意をぶつけられたら、今回のように割と雑に扱います。
もうすぐ卒業だと言うのに、この期に及んであれこれ理由つけて義理を渡そうとする茜先輩には、流石の桐葉君もイラっとした模様。