女王の女王   作:アスランLS

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有栖「今回の桐葉、物凄くお節介を焼いてますね」
桐葉「お前の次くらいに大事な人だからね」
有栖「そして一之瀬さんは完全に見殺しですね」
桐葉「ぶっちゃけ気に入り具合はケン坊と大差ないからね」


背中を蹴り飛ばせ

 

「な……ななな、何んてことしやがるんですかあなたはぁぁぁあああああ!」

 

愛しのコランダム先輩のために用意したチョコ(義理)を粉砕された茜さんは、当然のごとく激昂して俺に詰め寄る。元が元なので怒り狂っていても大変可愛らしいが、今回ばかりは和んではいられない。

 

「やかましいこのヘタレ団子が」

「ヘタレ団子!?」

「有栖とマスミン先に教室行っといてー。このおバカな先輩に少し活入れてやらなきゃならないから」

「わかりました。行きますよ真澄さん」

「……まあ、私らには関係ないか」

 

校舎に入っていく2人を見届けつつ、予想外の狼藉に呆気に取られている茜さんを容赦なく責め立てる。

 

「なあ茜さん、アンタらもうすぐ卒業だぜ?この後学年末テストやら最後の特別試験やらが控えてるんだから、実質今日が想いを告げるラストチャンスなんだぜ?だというのに義理チョコで置きにいくってアンタさぁ……引くわ」

「引くんですか!?」

「いや引くでしょ。この期に及んで日和るとかチキンにも程があるわ」

「で、でもですよ!本条君も言った通り3年生には最後の特別試験が控えていて、私達はAクラスで卒業できるかどうかの瀬戸際で、堀北君はとっても忙しい筈です!私と堀北君は卒業後も関わりがあるので、何も高校の内に行動しなくても─」

「二の足を踏む理由を他人のせいにするなよ」

 

往生際の悪い茜さんの言い分をバッサリと斬って捨てる。目の前にあるチャンスをみすみす逃す奴は、この先どれだけチャンスがあろうと逃し続けるだけだ。

 

「あのさ茜さん……なんで卒業後もコランダム先輩がフリーで居続けるなんて甘い考え持ってんの?」

「そ、それは……」

「容姿端麗、文武両道、社交性やカリスマも申し分無い男を、世の女性達が放っておくわけないでしょうが。むしろ高校3年間フリーだったことが奇跡に近い」

「っ……」

 

まあ女子の先輩方に聞き込み調査をしたところ、コランダム先輩が茜さんを差し置いて誰かと交際するとは思えないからだったんだけど。

 

「茜さんがモタモタしてる間にどこぞの馬の骨がコランダム先輩と添い遂げたら、きっと死ぬまで後悔するよ?違う?」

「違……

 

 

 

 

 

 

 

……わないに決まってますよ!ええそうです認めます、私は堀北君のことが大好きですよ!一年生の頃からずっと好きでしたよええ!あの人が他の誰かと添い遂げるなんて、考えただけで胸が苦しくなります!」

 

抑え込んでいた感情が爆発したように、茜さんは俺の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす。興味深そうに見物していた周囲の生徒達がギョッとなってのけ反るが、茜さんは構わずに押し込めていたものを全て爆発させる。しかし……

 

「……だけど、どうして私が告白なんてできますか!誰よりも堀北君がクラスのために自分を犠牲にしたか知っていながら、誰よりも堀北君の足を引っ張ってしまった私に……そんな資格ある、わけ……」

 

勢いは最後まで続くことなく萎んでいき、とうとう彼女の目からは涙が零れ落ちる。

俺の眼はあらゆる隠し事を見抜く。

先日の混合合宿でみやびん会長に嵌められクラスに膨大な不利益をもたらしたことによる罪悪感が、茜さんの心の内に巣食っていたことも勿論知っていた。そして、だからこそ俺は心底感服させられた。そんなものを抱えておきながら、みやびん会長の暴挙に気づいていたのに好奇心で止めようとしなかった俺を、拒絶しなかったこの人に。

 

 

 

 

 

 

……それらを踏まえた上で俺がこの人にかける言葉は、やはりこれが相応しいだろう。

 

「ゴチャゴチャうるせぇ。四の五の言ってないでさっさと当たって砕けろバカ」

「「「ええーーーーー!?」」」

 

茜さんも野次馬していた周囲の生徒も、予想外の返答に開いた口が塞がらない様子。

茜さんは強い人だから薄っぺらい慰めなんかで絆されたりはしないだろうし、だからって根気強く説得なんてしていたら日付が変わってタイムオーバーだ。

極論この人が抱える罪の意識なんて今はどうでもいい。そんなものは適当にコランダム先輩にでも丸投げすればいい。

今俺がすべきは彼女の背中を、理屈を無視して無理矢理蹴っ飛ばすことだ。

 

「なんか『告白しない理由』ばかりポコポコ湧いてくるみたいだから、俺が『告白しなければいけない理由』をプレゼントしてあげる」

「は……告白、しなければならない?」

「茜先輩さ、結果として俺の2000万で退学を免れたよな。アンタはあのとき『そのことには感謝してる』と言っていたけど……そのことに偽りは無いよね?」

「え?も、勿論無いですけど……」

「感謝してるなんて口で言うだけなら簡単だけどさ、ちゃんと行動で示してもらいたいわけ」

「ま、まさか……」

 

俺が何を言いたいのか察したのか顔を青ざめさせながら震えだす茜先輩に、俺は鞄から綺麗にラッピングされたハート型の箱を手渡す。

 

「こんなこともあろうかと本命チョコは俺がちゃんと用意しておいたから、今日中にこれ渡して告白するように。あ、これはお願いじゃなく命令だから拒否権は認めないよ♪」

「やっぱりぃぃいいい!?おかしいでしょどう考えても!私が告白することが、どうしてあなたへの感謝に繋がるんですか!?」

「俺はいつ茜さんがコランダム先輩に告るんだろうなあって、それはもう凄く楽しみにしてたんだよ?つまりあの2000万は、そのために支払ったと言っても過言では無い。……アンタが行動しないままなら、あの2000万は完全に無駄金になっちゃうのさ」

「うぐっ……!」

 

金を貸した側は借りた側よりも圧倒的に優位に立てる。こんな穴だらけの理論でも容易く言いくるめられてしまうほどに。

 

「で、でも本命のチョコを他の人が用意するのはマズいでしょう!?こういうのは自分で手作りしないと意味が─」

「学生の手作りなんて市販のチョコレートを溶かして、ちょっと形を変えて固め直しただけの手作り(笑)だろ?そんなお手軽なものに付加価値なんて生まれないよ」

「わあああー!?言ってはいけないこと言った!この男絶対言ってはいけないこと言っちゃいましたっ!?」

「想いってやつは作るときじゃなく、渡すときに込めるべきでしょ。どうしても俺の手製が気にくわないなら本命チョコは俺のせいでグチャグチャになったことにして、その辺のコンビニで既製品でも買って渡せばよろしい」

 

こう言っとけば心優しいこの人は、俺の作ったものを無下にはできなくなるだろう。ちなみに俺の用意したチョコはハート型の形かつ、表面にホワイトチョコで『I love you』と大々的に書かれた、言い逃れの余地の無いド直球の本命仕様となっている。これならあの腐れ朴念仁も茜さんの好意を疑えまい。

さてそろそろ朝礼の時間だから、最後に発破をかけておこうか。

 

「あまり失望させないでよ?このままだと俺、告白1つできないようなつまらねー女のために、2000万ドブに捨てた愚か者になっちゃうよ。……信じてるよ茜さん、アンタは俺が最も尊敬してる先輩なんだから」

 

俺の嘘偽りない心からの激励に茜さんは目を丸くし、やがて可笑しそうに笑いだした。

 

「……ひどい人ですね、あなたは」

「知ってる」

「礼は言いませんよ。義理とはいえ苦労して作ったチョコを爆砕されてますし」

「いらない」

「……ほんとに玉砕したら、たぶん私泣いちゃいますよ?」

「フラれたらチカちゃん先輩にでも慰めてもらってね」

「焚き付けるだけ焚き付けて、あなたは慰めてはくれないんですね……」

「ごめんね、俺好きな人いるから」

「やっぱりひどい人ですね」

「だから知ってるよ」

 

そう言い残し門を潜りつつ、眼で茜さんの心境が変わったかちゃんと確認しておく。……やれやれ、どうやらやっと腹を括ったみたいだね。世話の焼ける先輩だよまったく。

 

 

 

 

 

 

……その日の放課後、『ちゃんとしっかり考えた上でお前の気持ちに答えたいから、少しだけ待っていて欲しい』と返事を保留にされたと茜さんからメールが来た。眼鏡カチ割ってやろうかと割と本気で思ったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の朝。

今日は学年末テストを見越した仮テストが行われる。成績には反映されず、あくまでも現在の自分の学力を試すため、学年末テストの難易度を理解するためのテストらしい。

当然全ての生徒が真剣に取り組むべきテストなのだが、何故かそれぞれの教室が随分と騒がしい。

 

「なんか随分浮き足立ってるね」

「そうですね。教室に入ったら橋本君に聞いて見ましょう。私が頼んでもないのに色々と調べてるでしょうし」

「最近はなんかコージーをつけ回してるっぽいな。足が速いだけじゃあいつの興味を引くとは思えないから、きっと彼の実力の片鱗を嗅ぎつけたんだろうけど……アレ放っといていいの?」

「別に構いません。彼程度なら容易にあしらわれるでしょうし」

 

酷い言われようだな橋本も。

教室に入るとAクラスも例に漏れることなく、他の3クラスほどではないが少しざわついていた。……妙だね、何人かがやけに不安そうにしている。

有栖はこのクラスの中核を成すメンバー……マスミン、ファルコン、橋本を自分の席に呼び寄せ、誰か聞き耳を立てていないか調べろと俺に目配せする。俺は教室中の生徒、特に今も有栖と敵対しているランスと戸塚を念入りに観察した結果、大丈夫だと判断し有栖に右手でオーケーサインを見せる。

 

「それでは橋本君、何があったか教えてください」

「また真偽不明の噂話が、今度はAクラス以外のクラスの掲示板に書き込まれていたそうだ。しかも今度は一之瀬ではなく、やはりAクラス以外のクラスの奴等を無差別にな」

 

そう言って橋本はBクラスの掲示板が表示された携帯画面を見せてくる。……Bクラスの浜口君はカンニングをしている、Cクラスの真鍋ちゃんはイジメを行っていた、Dクラスの本堂君はデブ専……噂の種類や悪質さの程度、真偽が全部バラバラで統一性がまるで無いね。共通しているのは精々、Aクラスの生徒の噂は1つも無いってことだけか……。

 

「1億分の1くらいは俺の予想が外れてるかもしれないから、まあ一応確認しておくけど……これ、有栖の指示じゃないよね?」

「はい、私も今初めて知りました」

「なんだ、そうだったのか。……まあ確かに姫さんが糸を引いてるなら、こんなAクラスを疑ってくださいと言わんばかりの方法は取らないか」

 

橋本は一瞬意外そうにするも、すぐに納得したように頷く。先日の話し合いでの渡辺君の台詞からして、Bクラスは橋本が坂柳の指示で今回の件に深く関わっていると思っているようだ。まあこんな胡散臭さが全身から滲み出ている軽薄な男を普通は疑わない方が難しいし、有栖も問い詰められてもあえて疑われるような態度ではぐらかせと指示していたらしい。

結論を言えば主な実行犯はマスミンともう1人で、橋本は回ってきた噂を右から左へ流しただけ……俺と同じく単なるデコイだったりする。散々見当違いの相手に振り回されたBクラスはご愁傷さまだ。

 

「それで、どうするんだ?このままじゃBだけでなく、CとDも敵に回すことになるぞ。かと言って否定したところで信じちゃくれないだろうし……」

「いえ、せっかくですからこの成り済ましも利用させてもらいましょう」

「は?」

 

やや焦ったように問う橋本に、有栖は満面の笑みで橋本に返事する。まあそりゃ嬉しくなるだろうね……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「真澄さんと鬼頭君はしばらくの間、寮にいるとき以外はずっと私と行動を共にしてください」

「はいはい」

「……わかった」

 

要するに実力行使や闇討ちに備えたボディーガードということだろう。有栖は己の弱点を誰よりも理解しており、だからこそ易々とそれを突かせはしない。 

 

「橋本君はこれまでと同じく持ち前の軽薄さを活かして、口で否定しつつも掲示板の実行犯が自分であるかのように振る舞っていてください」

「いい加減怒ってもいいと思うんだ俺。……だけど手が早いDクラスの石崎や伊吹ちゃんは、Bクラスと違って暴力も辞さないぜ?それにアルベルトに出てこられたら、俺じゃどうしようもねぇよ」

「その点は心配入りません。……桐葉、お手数をかけてしまいますが頼めますか?」

「あいあいさー。正直やる気が起きないけど、まあ仕方がないから引き受けたよ」

「頼むぞ本条、学年末テスト前に怪我とか御免だし」

 

とりあえずAクラスの方針は決まったが……さて、この先どういう結末を迎えるのかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

肝心の仮テストは、まあ多分いつも通り満点だろう。

これまでの試験と比較しても難易度はかなり高くなっていたが、俺や有栖の学力は今さら高1の範囲で躓くようなレベルをとうに超えてしまっている。クラスメイト達も流石は最上位クラスだけあって、間違っても赤点なんて無様な成績を取ることは無いだろう。

 

「桐葉、私はBクラスの方々に用事があるので先に帰っていてください」

「あー、卍解ちゃんのこと?」

「はい。昨日から続けてご病気でお休みなされているようなので、落ち込んでいるようなら励ましの言葉でもかけようかと」

「お前本当に性格悪いね」

「ふふ、よく言われます」

 

そう言って有栖はマスミンとファルコンを連れて教室を出た。

なんでも卍解ちゃんは風邪を引いて体調を崩しているらしいが、タイミングがタイミングなだけに真偽は定かでは無い。自分が追い込んだことが原因かもしれないのに、あの娘は相変わらず清々しいほど外道だね。

 

……まあ、別にどうでもいいか。このまま呪縛を克服できず潰れるようなら彼女はそれまでだ。多少気に入ってはいたが有栖や茜さんほどじゃないし、あれこれ世話を焼いてあげる義理も無い。自力で解決できないなら()が上手くやってくれることを祈っておくといい。

今俺がやるべきことは、10日後に行われる学年末テスト対策だ。高1のレベルでは躓かないと自負してはいるけど、些細な気の緩みは失点に繋がるからね。ほんの僅かな時間すら疎かにはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……だと言うのに、

 

「よう石崎、話がしたいなんて何の用だ?」

「何の用だ、じゃねえよ橋本。本条まで連れてきてどういうつもりだ。俺は1人で来いって言った筈だ」

「そっちこそアルベルトを連れてきてるだろ。なあに、ちょっとした用心のためさ」

 

なんで俺は橋本と2人で、見るからにご立腹なDクラスの生徒達(と何故かコージーグループの面々)に囲まれてるんだろうね。というか最近よく四面楚歌な構図になるのは気のせいかな。




※堀北元会長は茜先輩の好意にマジで気づいていなかったそうです。
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