女王の女王   作:アスランLS

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正直中間テストで赤点回避なんてAクラスからしたら障害でも何でもないので、ここからはあと2.3話くらいで一巻終了です。


女王、暗躍

 

中間テストまで残り二週間。

朝のホームルームで真嶋先生から、テスト範囲の大幅な変更をしたことを伝えられた。一見信じられないような暴挙に思うが、二週間前にテスト範囲が発表されたと考えればさほど慌てる必要は無いだろう。ちなみに例の過去問は今朝の登校時にコンビニでコピーをとって有栖に渡しておいた。このままだと有栖の派閥は大きくリードするだろう。……このまま順当にいけばだけどね。

 

「なあ、本条……」

「む?」

 

ただ今昼休み。いつものように有栖及びパシリ軍団と食堂にてランチタイムを満喫中に、橋本が苦虫を噛み潰した表情で俺と、あと俺の弁当を交互に見る。

 

「今日までずっと言おうか迷ってきたけど、我慢できないから言うわもう。…………なんでお前の弁当の中身、毎日毎日同じなんだよ!?」   

 

何かと思えば人の弁当へのダメ出しだった。よく見ると有栖以外のメンバーも皆微妙な表情を浮かべている。

 

「ほう?君達俺が考案した完璧な栄養バランスの弁当にケチをつけるつもりかね?」

「いやいやバランス云々じゃなくて!来る日も来る日も寸分の違いも無い画一的な食事を見せられる俺達の身にもなってくれよ!弁当だけじゃなく食べ進める順番や食べ終わる時間もほぼ一緒だし、何か恐怖すら湧いてくる!」

 

いやそんなこと俺に言われても、これが俺のルーティンなんだから諦めてくださいとしか言えないぞ。

 

「この件で桐葉に何を言っても無駄ですよ皆さん。桐葉は自分で料理を作る場合、三食とも全く同じ料理をひたすら食べ続けますから」

「……姫さん、それマジ?」

「マジです。私が知り合った頃には既にこうでした」

「怖っ……ロボットかよお前」

「失敬な、誰がドラえもんだ」

「言ってねぇよ!?」

 

俺にとって食事は肉体造りのプロセスでしかない。別に毎度同じ料理を食べることを苦に思わないし、むしろいちいち栄養バランスを計算し直す方が面倒極まりない。食事において楽しむとは、俺にとっては味を楽しむのではなく、一緒に食卓についた人との触れ合いを楽しむことを指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃりゃ……すっかり遅くなっちまったな」

 

久し振りに空手部へと顔を出したら、道場にはテスト前だというのに猛練習に励む部員達の姿が。なんでも個人戦は俺が結果を出すと約束した一方、主将達は主将達で団体戦で全国を本気で目指すそうだ。そんな熱い志を聞いたからには俺も手助けしたいと思い、ついつい最終下校時刻まで指導に熱が入ってしまった。一旦寮に帰り急いで夕食と明日の弁当の準備を終えた後、ルーティンの一部になっている鍛練をして……気がつけば10時を回ってたとさ。

 

「睡眠不足になっちゃ流石に本末転倒だし、流石に夜の自習はパスするか……おや?」 

 

こんな時間に寮から長い黒髪が特徴的な女子生徒が出ていくのが見えた。それだけなら不思議に思いつつも放っておくのだが、間髪入れずに茶髪の男子生徒が出てきて女子生徒の後を追っていった。俺もまだまだ青二才、好奇心には勝てず二人の後をつけることにしたのだが、寮の裏手で俺の目にしたのは会長さんが黒髪ちゃんを投げ飛ばそうとしているのを、茶髪君が手を掴んで押し止めている光景だった。……いや、どういうこと?

俺が不思議に思っていると、会長さんは茶髪君へ標的を切り替え襲いかかる。会長の暴力の嵐を茶髪君は非常に手際良く捌いているが……流石に止めに入った方がいいよねこれは。

俺は懐からあるものを取り出し、会長さんと茶髪君の間を高速で横切った。

 

「っ、本条……むっ!?」

「兄さん!?」

 

会長さんの妹だったらしい黒髪ちゃんが驚いたのも無理は無い。俺が先ほど用意したのは数本の細いワイヤー……それらが会長さんの両手両足に巻き付いているのだから。というか茶髪君ノーリアクションかい。さっきの攻防といい、かなり大物だね君。

 

「……何の真似だ本条」

「いやこっちの台詞っすよ会長さん。茜先輩に生徒会の品位がどうたらと偉そうに説教してたくせに、自分は暴力万歳とか流石にちょっと引きます」

 

色々と世話になったけどそれとこれとは話が別だ。しばらく無言で睨まれたが、やがて会長さんは溜め息をついて両手を上げた。

 

「一年に諭されるとは俺もまだまだ未熟だな。もう戦闘の意思は無いから外してもらえるか?」 

「了解っす、助かりましたよ会長さん。あんたと敵対して茜先輩に嫌われでもしたら、俺はショックであと70年くらいしか生きられないところでした」

「いやそれ十分長生きだろ。天寿全うしちゃってるよ」

「おっ、流石イケメンだけあって鋭い指摘。だけど甘いな茶髪君、俺はドラえもんの誕生をこの目で見届けるまで絶対に生き延びてやる」

「ど、ドラえ……何……?」

 

瞬間、時が止まった。

黒髪ちゃんと会長は信じられないものを見る目で茶髪君を凝視し、俺もワイヤーを巻き取りつつ驚愕を隠せない。いったいどういう生い立ちなら、現代日本でドラえもんを知らないまま高校生になれるんだ……?

しばらく沈黙が続いたが、会長さんは一度咳払いをして気を取り直す。

 

「……見事な体捌きだな綾小路。何か格闘技を習っていたのか?」

「ピアノと書道なら」 

 

ふむ、茶髪君の名前は綾小路君か……ピアノと書道をリアルファイトでどう役立てろと?仮に実力を隠したいのだとしたら、しらばっくれ方が下手過ぎるぞ。

 

「本条といいお前といい、新入生にはユニークな生徒が多いようだ。……それに鈴音、お前に友達がいたとは正直驚いたぞ」

 

ふむ、会長妹は堀北鈴音ちゃんね。……というか会長さん、その言い草酷くね?

 

「綾小路君は友達ではなくただのクラスメイトで、そっちの男は知り合いですらありません」

 

こっちもこっちで酷かったよ。初対面の俺はともかく、綾小路君ちょっと悲しそうな顔してるじゃん可哀想に。

 

「相変わらず、孤高と孤独を履き違えているようだな。……綾小路、這い上がりたければ死にもの狂いで足掻け。生半可な努力と覚悟では、こいつには決して届かない」

 

一瞬俺の方を一瞥してから、そのまま会長さんは綾小路の横を通り過ぎ闇へと消えていった……いやもう9時だよ?寮に帰れや。

 

「……いやはや、災難だったね君達。いったい何があってああなったのさ?」

「あなたには関係ない話よ」

「わーおすごい塩対応。もしかして余計な真似だった?だとしたらごめんね」

「いやそんなことない、助かったぞ。正直あのままだとヤバかった」

 

ヤバかった、ねぇ……?

 

「……どういたしまして、と。遅くなったけど自己紹介をしようか、俺は一年Aクラスの本条桐葉でーす」

「A、クラスっ……!」

 

おっと見事に敵愾心の篭った目だこと。まあ確かに俺達は狙われる立場だけど、そんな親の仇を見るような目で睨まなくても良いじゃないか怖いなぁ。

 

「俺は1年Dクラスの綾小路清隆だ」

「Dクラス……ミスターのいるクラスだね」

「……ミスター?」

「Mr.シックスこと高円寺六助、お友達なんだ」

「高円寺に……友達……!?」

 

重ね重ね酷いなオイ。Dクラスってそんなに友達いない子多いの?

 

「……それで君は?」

「あなたに名乗る必要性を感じないわ」

「じゃあこれからゴキブリちゃんって呼ぶね?」 

 

突然脇目掛けて手刀を繰り出してきたので払い落としておく。随分と情緒不安定だね君。

 

「……っ!?」

「気に入らないからって暴力に訴えてもダメだぜ?挨拶もろくにできないような奴は何されても文句は言えないからね。……たとえ最下位のクラスに振り分けられようとね」 

「っ!……堀北鈴音、よ……!」  

 

今にも歯軋りしそうなくらい、悔しそうな目で睨めつけてくる堀北ちゃん。この子やっぱりあれか、自分がDクラスということに心底納得できてないクチだな。こういう子はひたすら這い上がろうとするだろうから嫌いじゃないよ……黒髪だし。

しかしDクラス、か。例の0ポイント事件もあって、正直ミスター以外には期待してなかったが……随分と面白い奴等が集まってるじゃないか。

 

「じゃあ俺はもう寮に戻るよ。どうやら堀北ちゃんは俺が嫌いみたいだし。……あ、それと綾小路君」

「ん?なんだ?」

「君の実力について詮索はしないけど、どうやら君は随分前に出るのが嫌みたいだな。……君のこと、ウチのボスには秘密にしといてあげよっか?」

「実力?なんのことかはわからないが、秘密にしといてくれるというなら是非とも頼む。俺は事なかれ主義だからな。お前みたいな凄い奴を従えてる奴になんか、絶対目をつけられたくない」

「了解了解。それじゃあまた今度ね」

 

何か言いたげな堀北ちゃんを無視して俺は寮へと戻る。まあそう焦るなよ、ぶつかる機会はすぐにでもあるさ。

 

 

 

 

……さて、あの二人のアダ名は何にしようか。茶髪君と黒髪ちゃんだと該当者多すぎるしなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中間テストまで残すところあと1週間。

いつも通り有栖達と食事を済ませた後、借りたい本があったので図書館に向かう。流石国が運営する学校、既に絶版になった本とかも結構あるため最近気が向けば寄るようにしている。

テスト間近ということもあって、図書館にはクラス学年問わず大勢の生徒が黙々と勉強して……っと、数人の生徒が何やら言い争い始めたぞ。マナーがなってないなぁ……ってあれ?ホリリン(堀北妹)とコージー(綾小路)もいるじゃん。

 

「私達を悪く言おうが構わないけど、あなたもCクラスでしょう?正直自慢できるクラスではないわね」

「C~Aクラスなんて誤差みたいなもんだ。お前らだけは別次元だけどなぁ~」

「随分と不便な物指しね、私からすれば別次元と言えるのはAだけよ」

 

話の内容からしてDクラスとCクラスの揉め事かね……っと?クラスメイトであろう生徒達と勉強していたシャケ子ちゃんこと一之瀬が、あの集団へと一人で近づいていく。まああの子の性格からして争いを止める気なんだろう。

ふむ、奇しくもB~Dの生徒が揃うことになる……ああしまった、面白いこと思いついちゃった。そうと決まれば俺はちょっとした準備を済ませてから、借りた本を片手にシャケ子ちゃんの後に続いた。

 

「相変わらず真面目で優しい子だね君は」

「え?……あっ、本条君久し振り。もしかして止めるの手伝ってくれるの?」

「流石に無いとは思うけど、1億分の1くらいの可能性で君が痛い目に合う可能性があるでしょ?女の子には優しくってのが、まだ死んでないお爺ちゃんの遺言だから放っとけないぜ」

「まだ死んでないなら遺言じゃないけど、ありがとね。……はい、ストップストップ!」

 

俺とシャケ子ちゃんは一触即発の両者の間に割って入る。今更だが最近の俺喧嘩の仲裁すること多いな。水を差されたのが気にくわないのか、Dクラス側の赤髪君が食ってかかる。

 

「んだテメェ等は?部外者が口出すなよ」

「部外者と言われても、この図書館を利用してる一人として、騒ぎを見過ごせないかな」

「ヤンチャするなら外でやりなさいな、まったくもう。人が必死に勉強してるのに妨害しやがってよー」

「いや待てなんだその手に持った『世界の不思議な植物』って本は!?明らかに勉強してなかっただろテメェ!」

「それからそっちの君らも挑発が過ぎるぞ。試験前でノイローゼだからって八つ当たりはやめなさい」

「無視すんなコラ!?」

 

ヤンキーみたいな見た目と性格してるのに、中々ツッコミスキルがあるじゃないか赤髪君。

 

「お、おい行こうぜっ。こいつ多分Aクラスの本条だ。こんなことで揉めたとあの人に知られたら……!」

「だ、だなっ」

 

何やら怯えた表情でCクラスの生徒達は、そそくさと図書館から去っていった。うーむ、一方的に知られてるというのはあまり愉快な話じゃねーなー……今度メアドでも聞きに行こ。

 

「君達も勉強を続けるなら大人しくやろうね、以上っ。……あっ、本条君もありがとね」

「ほいほーい。それじゃあ試験頑張ってねシャケ子ちゃん」

「だからそのアダ名はやめてよ!?」

 

クラスメイト達のところへ戻っていくシャケ……一之瀬ちゃんに続き、俺も色々と用件を済ませたので図書館から出ていく。ちょっとした出来心だから悪く思わないでくれよ有栖、暇で暇で仕方がないんだ。

 

 

 

 

やっぱりシャケ子は不服みたいだし変えるしかないか……よし、あれにしよう。




有栖「常日頃からワイヤーなんて持ち歩いてるんですか?」
桐葉「それも企業秘密だ」
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