とうとうお気に入り数がナッパの戦闘力を越えました!書き始めた頃はここまで行くとは夢にも思わなかったですね。
学年末試験が終わって数日が経ち、今日からついに3月となる。試験の結果が伝えられる3月1日月曜日の早朝、俺は瀬川先輩に頼んで貸してもらった道場の隅でマスミン、ファルコン、橋本のAクラス3幹部に格闘技を教えていた。ここ最近始めた日課だが、
「……はい、今日はここまでだよ。最初の頃はお粗末だったけど、段々と動きが良くなってきたね」
俺の体を壊さないギリギリのラインを攻めたハイパースパルタ特訓を受け、その場に倒れ伏し肩で息をする3人にそう告げると、マスミンが俺に恨みがましい視線を向けてくる。
「ハァ……ハァ……ま、毎回思うけどさ、こ、こんなことする……ハァ……意味あんの?」
「だから前に有栖も言ったでしょうが。みやびん会長が学生同士の多少の喧嘩を緩和されたってことはだよ、これからは荒事を乗り切る能力がより重要になってくる筈さ。ねえ瀬川先輩」
「え?あ、ああ。たしかにあいつが意味のないことをするとは思えねぇし、十分ありえるかもな」
朝練を終えて片付け作業に入っていた瀬川先輩に尋ねると、やや肯定よりの返事を返してきた。
「でも本当に良かったのか?そんな隅っこを貸すだけで1日1万ポイント払うなんてよ」
「大した出費でもないし構いませんよ。この特訓はあまり他クラスには知られたくないっすから、遠慮なく部費に……っと、今年は対外試合で大きな実績を出したから、部費は潤沢だったっすね。ある程度貯まったら部員の皆さんの小遣いにでもすればいいんじゃないですかね?」
「おいなんで急に投げ遣りになった?……まあ確かに、今年の空手部は凄く活躍したよなぁ。団体戦でもIHに行けたしお前は個人戦で優勝したりと、高育始まって以来の快挙だとウチの担任にも誉められたよ」
中学運動部で目に見える実績を出した生徒は、大抵スポーツ推薦で設備の整った私立にいくので、うちの運動部はどちらかと趣味の範疇に収まっている。そんな中、高校総体出場ひいては優勝を果たした空手部は、確かに歴史的快挙と言っても過言ではないだろうね。……まあひとえに俺やチカちゃん先輩のお陰なんだけど。
「でも来年はどうすっかなあ。緒方先輩達は引退するしお前は辞めちまうしで、全国に行くなんて夢のまた夢だぜ。……なあ、大会のときだけでいいから戻ってきてくれねぇか?」
「丁重にお断りしますね。元々手っ取り早くポイントを稼ぐために入っただけだし、勝つとわかりきっている勝負ほどつまらねーものは無いっすから」
「そうか……そうかぁ」
普段はケン坊のようなオラオラ系の先輩が、本気で部の未来を憂いているのかいつになく落ち込んでいる。
うんまあ確かに、全国行きを決めた団体戦のメンバーで残っているのはもう瀬川先輩だけだし、その瀬川先輩にしたって地区大会後半ではほぼ毎試合負けてたしで、来期は早々と地区予選で敗退するかもしれないね。
チカちゃん先輩に比べたら実力リーダーシップ共に大きく劣ることを、この先輩が内心気にしていることは勿論知っているけど……武道家なんだから自分で立ち直って欲しいというのもあるし、特に助け船を出すことなく3人を連れて道場を出る。
まあ全国出たことだし、今年の一年生に有望な新人がいる可能性は低くはない。そう悲観したものでもないだろう。……たぶん。
「……なあ本条、1つ聞きたいんだが」
「んむ?何だいファルコン」
「俺には空手、神室には合気、橋本には柔道を重点的に教えていたが……お前、どれだけの種類の格闘技を修めているんだ?」
「んー……結構多いんじゃない?小さい頃から飽き性で、ある程度できるようになるとすぐ別の競技に手を出す、ってのを何回も繰り返していたから」
だから純粋な空手の腕前では瀬川先輩はともかく、チカちゃん先輩やコランダム先輩とかには劣ってたりする。まあ致命的な程開いてるわけでもないから、身体能力差と「眼」でどうとでもひっくり返せるんだけど。
【学年末テスト成績優秀者一覧】
1位 Aクラス 坂柳有栖 900点
1位 Aクラス 本条桐葉 900点
3位 Cクラス 幸村輝彦 833点
4位 Cクラス 高円寺六助 829点
5位 Bクラス 一之瀬帆波 825点
6位 Aクラス 葛城康平 823点
7位 Cクラス 堀北鈴音 821点
8位 Aクラス 的場信二 803点
9位 Dクラス 椎名ひより 798点
10位 Bクラス 二宮唯 795点
学年末テストが返却された。難易度は過去最高だったがどのクラスからも退学者は出なかったとのこと。真島先生曰く、誰1人赤点をとることなく1年を終えたのは俺達が初めてだそうだ。めでたいめでたい。
成績上位陣の顔ぶれはほとんど変化していないものの、注目すべき点はいくつかある。
1つ目は幸村君の躍進。彼はこれまで運動を伴う試験では満足な結果を残せなかった分、得意とする勉学でクラスに貢献しようと必死で努力したのだろう。あと、コージー達と頻繁に勉強会を開いているのも要因かな。2つ目は卍解ちゃんの奮闘。試験前に主に有栖のせいで色々と大変なことがあって、とても試験勉強が捗るような精神状態じゃなかった筈なのに、しっかりとベスト5に食い込んできている。
そしてうちのクラスはというと、俺と有栖の決着がまた付かずじまいだったのは置いていて……とうとう戸塚がファルコンの点数を下回り、名実ともにAクラス1の称号を獲得した。何やら色々と見苦しいことを喚いてはいたが、負け犬の遠吠えというやつだろうね。あとマスミンのクラス順位が18位とクラスの平均点をかろうじて上回っていた。まあ有栖の趣味をかねた執拗なマンツーマン指導の賜物なので、本人はちっとも嬉しそうじゃなかったけどね。
それから肝心のクラス平均点は当然4クラス中トップだったが、懸念事項が1つある……Bクラスとの差が以前よりも縮まっている。有栖が全力で指揮を取った2学期末のときは当然にしても、2学期中間よりもその差がずっと小さくなっている。俺と有栖を除外して勝負すれば、かなり良い勝負なくらいには。
Bクラスが奮闘したことも一因ではあるけど、それ以前にうちの子達の緊張が大分緩んできてしまっているのだろう。まあクラスポイントが1つ下と500ポイント以上離れてちゃ、危機感が欠如しちゃうのも無理ないかな。あまりに目に余るようなら有栖から何かするだろうし、当面は放っておくか。
そして発表が一段落してから真島先生は、最後の特別試験が3月8日に行われると俺達に伝えた。
昼休み。いつものメンバーと食堂にて昼食を共にした後、1度お花を摘みに別れたので1人で教室に向かってる途中……
「フライドチキン♪フライドチキン♪カロリー的には軽くない♪フライ(級)のボクサーまず食べない♪……おや、ホリリンじゃないか」
何やら思い悩んでる様子のホリリンが歩いていたので声をかけると、心の底から嫌そうな視線を俺に向けてきた。相変わらず嫌われてるようだね。
「……いつも能天気そうで羨ましいわね。わざわざ呼び止めて何の用かしら?つまらない用件なら帰らせてもらうわ」
「ありゃりゃ、いつにも増して刺々しいね。どしたの、おにーちゃんとまた何かあった?」
「っ、なんであなたがそれを……!?まさかどこかで覗いてたの!?」
「今の君を見ればすぐわかるよ。焦燥と諦め、自分への怒りが入り混じったような表情だ」
「……話には聞いていたけど、プライバシーも何もあったものじゃないわね。勝手に心の奥に土足で踏み荒らされた感じがして、とても気分が悪いわ」
「俺は何も心が読めるわけじゃないんだから、あっさりと見抜かれたのはわかりやすい君が悪いのさ」
侮辱ともとれる俺の返しにホリリンは不愉快そうに顔をしかめる。既に嫌われてる相手になら配慮する必要も無く雑に扱えるから楽だね。
気丈なこの子が目に見えて落ち込んでいる光景は、1学期中間前の初対面時、コランダム先輩とのイザコザがあったとき以来1度も見ていない。あのときの様子からして兄妹間の仲はお世辞にも上手くいっていないようなので、大方ろくに相手にもされず気落ちしていたのだろう。
「しかしコランダム先輩も冷たい男だねぇ、何の意味があって妹を拒絶なんてしてるのやら」
「何も知らないくせに勝手なことを言わないで」
いつもの数十倍敵意のこもった目で睨まれる。……薄々わかっていたがこの子相当なブラコンだね、あの娘を思い出して何だか懐かしい気持ちになるよ。
「確かに君達の間に何があったかなんて知らないけどさ……兄が妹を拒絶し遠ざけるなんて、よほどの理由が無ければ決して許されざる暴挙だよ?俺も1人の兄としてそこは譲れないかな、うん」
「……あなた、妹がいるの?どう見ても末っ子にしか見えないのに」
失礼な。
「いるよ、1つ年下のかっわいい子が。身内贔屓かもしれないけどホリリンの1.25倍は可愛いね、うん」
「身内贔屓ならそんな控えめにしなくてもいいでしょ……だいたいなんで刻んだのよ?」
「じゃあ何さ、100阿僧祇倍可愛いとでも言えば満足かい?」
「そういう問題じゃ……もういいわ、あなたと話してると頭痛が酷くなる一方よ」
こめかみを押さえて何かを諦めたように深く溜め息をついた後、ホリリンは何かを決意した表情で真っ直ぐに俺と向き合った。
「1年生最後の特別試験は勝たせてもらうわよ。あなた達Aクラス……いえ、兄さんが注目しているあなたに勝つことができれば……!」
「注目というよりは警戒に近いと思うけどね。まあかかっておいでよ、相手したげる」
どちらにせよ次の試験はコージーとの約束があるため、Cクラスとバチバチやり合うことは確定事項だ。コージーや六助ならともかく、この子が俺に勝つのはまず不可能だろうけど……まあ挑戦するのは自由だからね。是非とも頑張ってほしいものだ。
そして放課後になり、俺は有栖に連れられて彼女の部屋に来ていた。
「それで話ってなんだい?今度の特別試験の対策、はまだ詳細が分からないし違うか」
「いえ、今度の特別試験対策で合っています。行われるのは明日からだそうですが」
ふむ?確か真嶋先生は3月8日って言ってた筈……何らかの事情でもう1つ余分に追加されたってこと?だったら1年生に伝わってる筈だし、対策ってことは有栖は試験の詳細まで知っている、となると考えられるのは……
「例の、坂柳パピーが失脚したと情報を送ってきた奴かい?」
「察しが良くて助かります。ええ、急遽特別試験が追加されることと、その試験の内容について……そしてその試験で綾小路君を退学に追い込めという指示をメールで受けとりました」
「その指示内容からして……コージーパピーがもう動き出したみたいだね」
「でしょうね。おそらくこの指示を送ってきたのは、お父様を陥れ後に理事長に座るであろう人物でしょう」
ややファザコンの気質がある有栖は父親を嵌めたことがよほど許せないのか、握りしめた杖でミシミシという嫌な音を出す。おい、病弱キャラ捨ててんじゃないよ。
しかし、コージーたった1人を退学させるためだけに、無関係な159人を巻き込むとは……あの人はよほどコージーにご執心なんだね。
「コージーを退学かー……1億分の1くらいを考慮して聞くけど─」
「言われずとも勿論従いませんよ。綾小路君は私の獲物ですし、お父様にオイタをしたような方の命令など聞きたくありません。そもそも誰にも従わないからこその坂柳有栖ですから」
「うんうん、有栖がいつも通りで安心したよ。……それで俺に何をさせるつもりだい?こうしてわざわざ話すってことは、結構重要な役割を務めるんだろうね」
「ええ、今回はあなたがキーマンとなります」
俺は有栖から試験の詳細について、そして俺にして欲しいことを全て説明され……思わずやれやれと肩を竦める。ほんとこの子はもう、次から次へと悪いことを思いつくね。
今回の試験、有栖の思い通りことが運べば……3人の生徒がこの世の地獄を見ることになる。
そして翌日の朝、ホームルームのチャイムと同時に真嶋先生が、いつもより明らかに険しい表情で教室に入ってきた。実情を知っている俺や有栖はともかく、何も知らないクラスメイト達はその異様な雰囲気に困惑しているようだ。教壇に立った真嶋先生は少しばかり躊躇したそぶりを見せた後、やがて重々しく口を開いた。
「──お前たちに、伝えなければならないことがある」
教師の意地なのか冷静に振る舞おうとどうにか取り繕っているが、喉の奥から絞り出されたようなその声から、生徒達の多くは内心の葛藤を察したようだ。
「3月8日から始まる特別試験が、1年度における最後のだとお前達に伝えた。試験の内容は異なれど、それが例年通りの流れだ。……しかし今年は、去年までとは少しだけ状況が異なる」
「状況、ですか……」
「本年度はまだ1人も退学者が出ていない。この学校の歴史上一度も無かったことだ」
「……?何か問題があるのでしょうか?まるで退学者が出ていないことが、学校側に何か不都合であるかのような言い方ですね」
ランスのもっともな指摘に、しかし真嶋先生は辛そうに顔を歪める。あまり突っついてやるなよ、きっと真嶋先生としても納得がいってないんだからさ。内心では辛いんだよこの人も、共感はしてあげられないけど。
「退学者を出さないことを理想とするのは、我々としても当然のことだ。しかし時には私達教師の予測すら越えた事態になることもある」
これまで試験に対する不平不満に対して全て毅然とした態度で切り捨ててきた真嶋先生に、こうまで歯切れの悪い反応をされれば、これから伝えようとしていることに彼が内心ではまるで納得していないとランス達も察した。
でも残念ながら彼はあくまで学校という組織に属する教師。学校の意向をねじ曲げられたりはせず、できることはただ俺達に指示を伝えることだけ。
「学校側はお前達1年生から1人も退学者が出ていないことを考慮し……
特例措置として追加の特別試験、『クラス内投票』を今日より行うことが急遽決定された」
さて、始まってしまいましたね……よう実1年生編で最も後味の悪い結末と名高い10巻が。