女王の女王   作:アスランLS

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有栖「2期、13話まであったんですね。危うく見逃すところでした」
桐葉「有栖とコージーの邂逅が30秒くらいで終わったことに思うところはあるけど、軽井沢ちゃんに佐藤ちゃんにリュンケルにホリリンと、コージーのヒロイン候補が勢揃いだったね」
有栖「約1名おかしいですよね」


信念はときとして地獄の扉を開く

 

「な、なんですかそれは!誰も退学者が出なかったから特別試験を追加なんて……いくらなんでも理不尽過ぎますよ!」

 

不満を隠しきれず戸塚が喚くが、真嶋先生はそれを咎めようともせず視線を逸らす。他の生徒も戸塚を諌める余裕もなく不満と困惑、そして恐怖を隠し切れないようだね。

どんな内容でも特別試験は、生徒にとって負担がかかるものだ。下位クラスなら下克上を狙うチャンスが1つ増えるのでともすれば歓迎するべきかもしれないけど、最上位クラスの俺達にとってはただ余計なリスクを増やすだけ。それに退学者が出ないことが原因で行われる特別試験など、嫌な予感しかしないだろうね。

しばらくクラス中がざわついていたが腐ってもAクラス、真嶋先生の辛そうな表情からこの人にとっても不本意であることを察し、いつものように代表してランスが尋ねる。

 

「先生、その『クラス内投票』とはどういう内容なのですか?」

「……試験の内容は至ってシンプル。お前達は5日後にクラスメイトに対して評価を付け、自分が最も高く評価したクラスメイト3名に『賞賛票』を、逆に最も低く評価したクラスメイト3名に『批判票』を、そして他クラスで最も評価している生徒1人に対して『賞賛票』を1票投じる……大まかな試験内容は以上だ」

「……そ、それだけですか?」

「ああ」

 

戸塚は呆気に取られているようだが、ランスを始めとしたクラス内でも頭の回る生徒は今のシンプルな説明だけで、この試験の全容が見えてしまったようだね。

真嶋先生はチョークを必要以上に強く握り絞め、試験内容を黒板に書き進めていく。 

 

「そして投票の結果獲得した賞賛票が最も多かった生徒には、特別報酬として新しく導入される新制度……『プロテクトポイント』を与える」

 

今まで聞いたことのないポイント。名前の響きからしてなんか自身を守ってくれそうな謎の制度に、クラスのほぼ全員が興味を示した。

 

「プロテクトポイントを所持した生徒は、犯罪行為等よほど悪質な理由でない限り、1度退学処分を受けてもそれを取り消すことができる。ただしこのポイントは他者への譲渡はできない」

「た、退学を取り消せる!?」

「実質2000万プライベートポイントに匹敵、あるいは凌駕する程の価値があるだろう。まあ退学する心配の無い生徒、あるいは自力で退学を取り消せる生徒には然程価値が無いかもしれんが」

 

真嶋先生がチラリとこちらを見る。

ふむ、確かに俺からしたら特に欲しいとは思えない。そして退学に片足浸かっているような生徒や卍解ちゃんのように生真面目な生徒が持っていたところで、プロテクトポイントを真に使いこなせはしない。反面有栖やリュンケル、みやびん先輩のような外道共が持てば極めて恐ろしい武器となるだろうね。……有栖、足踏まないでよ痛いな悪かったよもう。

 

「それほど破格な報酬をわざわざ用意するということは、下位に選ばれた生徒は……」

「……ああ。すでに説明した通り、今回の追加特別試験は『退学者が出ていない』という事態を解消するために実施されるものだ」

 

実情は少し異なるのだけど表向き学校側としては、この追加特別試験で退学者を出す必要があるというスタンスを取っている。それを達成するためにどんなペナルティが設定されたか、察することのできない生徒はこのクラスには1人もいない。それでもどうか予想が予想が外れて欲しい、抱いた最悪の懸念が杞憂であって欲しいと、ほとんどの子がそう願っていることだろう。

 

だけど残念……現実はそんな甘い願望を、いとも容易く打ち砕く。

 

「クラス内で最も批判票を集めた生徒には……この学校を退学してもらう」

 

 

 

 

 

 

 

【追加試験・クラス内投票】

 

試験内容……5日後の投票日に賞賛票、批判票をそれぞれ3票ずつクラスメイトの誰かに投票し、首位にはプロテクトポイントが与えられ、最下位は退学処分となる

 

ルール①……賞賛票と批判票は互いに干渉し合い、賞賛票から批判票を引いた票数がその生徒の評価となる

 

ルール②……自身に投票することはできない

 

ルール③……同一人物へ複数回投票すること、無記入、棄権等の行為は一切不可

 

ルール④……首位と最下位が決まるまで試験は何度でも繰り返し行われる

 

ルール⑤……他クラスの生徒にも1賞賛票を1票投票する。こちらも無記入は認められない。

 

ルール⑥……唯一の抜け道として、プライベートを2000万ポイントで退学を免除できる。

 

ルール⑦……他クラスの生徒からポイントを借りる、または貸すことのできる額は500万ポイントを上限とし、この規程を破った生徒は退学処分とし、クラス内投票はその生徒を除いて行われる。

 

 

以上が真嶋先生の説明した内容だ。抜け道は2000万ポイントを用意することのみで、例えば賞賛票と批判票をコントロールして全員の評価を0で揃えようが再投票となるだけで何の意味もない。

 

「後はお前達が話し合い、結論を出すことだ」

 

真嶋先生が話を終え教室から出ていくと、クラスのほとんどが有栖の判断を仰ごうと視線を向ける。

既に戸塚とランスを除けばこのクラスは有栖の支配下にある。仮に自身が生け贄に選ばれたらその生徒は猛反発もするだろうが、一先ずは有栖がどういう考えなのかを仰ごうとする。……そして勘のいいクラスメイト達は、有栖がどういう答えを出すか薄々予想している。

 

「今回の試験、葛城君に退場していただきます」

 

立ち上がることもなく名指しした有栖に対し、当然予想していたのかランスは目を閉じ腕を組んだまま黙っている。そんなランスに代わって噛みつくのは勿論隣の席に座るこの男……

 

「ふざけんなよ坂柳!」

「やめろ弥彦」

「やめませんよ!誰1人退学することなく試験を終えられるのに、なんで葛城さんが退学しないといけないんだよ!」

「誰一人退学することなく、ですか」

「この期に及んでしらばっくれんなよ坂柳!本条が2000万以上ポイントを持ってることはもう知れ渡ってんだ!それを使えば─」

「何故わざわざ葛城君のために、そんなことをしなければならないのですか?」

 

首を傾げながら心底理解できないと言わんばかりの有栖の態度に戸塚は二の句を失い、しかしその一方ランスは有栖の返答を予想していたのか相変わらず目を閉じたまま。

 

「今回の試験は一見、クラスメイトを無理矢理切り捨てさせられる理不尽な内容でしょう。しかし少し見方を変えれば、クラスにとって不要な生徒を何のリスクも無く取り除くチャンスでもあります」

「何を、言ってるんだお前!?葛城さんが……不要な生徒だと!?」

「葛城君が指揮を取った2つの特別試験で彼はクラスに大損害を与え、その後私が指揮を取ってからもずっと私の方針を批判し邪魔をしてきました。言うまでもなく私が指揮を取った試験では全て好成績を終えることができたので、葛城君の妨害はクラスにとって有害にしかならないと判断せざるを得ません」

「そんなの結果論だろ!クラスのリーダーだからって、何をやっても良いと思うなよ!」

「クラスの為を思えばこそ、ですよ。それに彼が退学すれば龍園君と結んだ契約も無効になり、無用なプライベートポイントの流出を抑えられます」

 

ランスを慕うが故に感情的に喰って掛かる戸塚を、有栖は理論を纏い次々と冷徹に切り捨てていく。

……さて、そろそろ良いかな。

 

「このように葛城君を切るメリットは多々あれど、残すメリットは何もありません。わざわざ桐葉が頑張って貯めた財産を投げ打つ理由なんてどこにも─」

「はいストップ有栖。たしかに彼は君にとって不要な存在なんだろうけどさ、彼にもう一度チャンスを与えてやりなよ」

「……と、言いますと?」

 

首を傾げる有栖の質問に答えることなく、俺は今もなお目を閉じたままのランスと戸塚の席へと歩み寄る。そして彼等に向かって優しく語りかける。

 

「もしこの学校に残りたいなら助けてあげるよ」

「ほ、本当か本条!?」

「まあ端金だし、助けを求められたら手を差し伸べるのが俺だしね。……ただまあ、俺からすればはした金でも2000万はやっぱり大金だ。それを肩代わりしてもらうんだから、当然これまでのようなスタンスでいることは許されない。……何が言いたいかわかるよね?」

「……今後一切坂柳のすることに異を唱えず、黙って従い続けろ……そう言いたいんだろう?」

「流石ランス、話が早いね」

 

ランスは早くから有栖の邪悪さを見抜き、派閥争いに敗北してからも己の信念に従い有栖にずっと反発し続けてきた。今回の試験で退学者を出したくなければ、その掲げた信念を捨てる必要がある。

個人的に信念を持った人は大好きだけど……今回ばかりはその信念を投げ捨てることをお薦めするよ。

 

「そ、そんなことで良いのか!?」

「うん、約束するよ。何だったら今この場で2000万を渡しても構わない」

「引き受けましょう葛城さん!坂柳や本条は気に入りませんが、今はとにかく退学を避けるべきです!」

 

戸塚お前さ、助けを請う相手に対してちょっと正直過ぎない?まあ俺は別に気にしないけどさ。

目に見えて嬉しそうな戸塚に対し、ランスは目を開き申し訳なさそうな視線を戸塚にやってから、毅然とした表情で俺を真っ直ぐ見据える。……まったく、男の子してるなあ。

 

「悪いが断らせてもらう」

「か、葛城さん!?どうしてですか!?」

「俺は自分の掲げた信念が正しいと信じて坂柳と対立した。満足の行く結果を残せはしなかったが、奴のやり方が間違っているという考えは今も変わらん。……坂柳の走狗に成り下がってまで、俺は生き残りたいとは思わない」

「で、でも……!」

「それにこの条件を飲んでしまえば、坂柳の悪事の片棒を担がなくてはならなくなるかもしれん。先日の一之瀬にしたようなことを、な」

 

ランスは真面目で誠実、非道な行いに対して嫌悪感を覚える絵に描いたような好青年だ。先日の卍解ちゃんへの仕打ちのようなことを自分が行うなど、考えただけで身の毛のよだつ思いを抱くだろうね。

 

「ふむ、実に見上げた志だね……でもいいの?俺が手を差し伸べるのはこれっきりで、当日気が変わっても絶対に助けてあげないよ?」

「結構だ。俺が退学する方針に異論は無い。……だが1つだけ約束をしてくれないか?俺を退学させた後は弥彦を排除しようとしたり、非道な行いを強要するようなことはやめてくれ」

「ふーん……だってさ有栖」

「ええ、構いませんよ。葛城君の意向を汲んでそのように致しましょう」

 

人柱になる者が早々に決まったことで、まるで追加試験など無かったかのように教室がいつもの空気になる。

ランスは1人になるため席を立ち廊下へ向かおうとするが、それを戸塚が引き止める。

 

「葛城さん、本当にこれでいいんですか!?」

「ああ。俺が我が身可愛さで非道な行いをすれば、両親や妹はきっと悲しむだろう。……お前にはこれまで幾度と無く助けてもらったな、感謝する」

「葛城さん……」

「だがこれからは坂柳についていけ。お前はこのままAクラスで卒業し、栄光を掴むんだ。……それが俺からの最後の指示だ、弥彦」

「……う、くっ……!」 

 

優しく肩に手を置きながらそう諭すランスに対し、悔しさで顔を滲ませながらも戸塚は必死に首を縦に振った。

これまで共に歩んできた友人同士の別れ……それを目の当たりにした俺の心は、これ以上無いくらい冷めきっていた。

別にこの手の人情話が嫌いな訳ではない。お互いを想いやる偽りの無い信頼関係、それは尊び慈しむべきなのだろう。

 

だけど、俺は彼らの末路を知っている。

 

残念だけどランス、お前は選択を致命的に誤った。お前がどうしても有栖に迎合したくないのなら、不義理だろうが俺の2000万で免除された後に自主退学すべきだった。

もう俺にはどうすることもできない。選択を間違えた代償は重く、5日に彼らはこの世の地獄を見ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。今日もいつものような有栖達とご飯を食べる予定だったけど、食堂で一人寂しく本なんか読んでいる可哀想な子を見かけたので、ドタキャンするとメールしてから彼の向かい側の席に座る。

 

「……お前か。俺に何か用かよ」

「もしかしたらもう会えなくなりそうだから、親睦でも深めようかなって」

「クク、もうすぐ退場する相手と仲良くなろうってか?酔狂も度を越せばただのバカだな」

 

龍園翔、通称リュンケル。

彼は間違いなく退学候補筆頭だろうね。これまでの恐怖政治にはクラスの子達もうんざりしてるだろうし、我慢してついて行った結果がDクラスへ転落。批判票を投じても何の罪悪感も湧かないという素晴らしい人材だ。

 

「しかし食堂で弁当なんか広げやがって。営業妨害も良いところだな」

「いいじゃないか別に。俺は昔から自分の口に入るものは、極力自分で作ることにしてるの」

「普段あれだけちゃらんぽらんな生き方しておいて、一丁前に潔癖気取りか?笑わせる」

「何さその言い方。俺は最適な栄養を摂るために10年以上、ほぼ毎日同じ食事を食べ続けるくらいきっちりしてるんだよ?」

「そこまで行くともうただの病気だ」

 

外部から称賛票を集めようにも、この子は他クラスから嫌われてるし警戒もされている。彼が退場して欲しい生徒は数多だが、残って欲しい生徒はほぼ0だろう。

そして何より本人に残るつもりが欠片も無いことが致命的だ。退学がほぼ決まってるというのに、俺の眼を通して視ても彼は欠片も動揺していない。

 

「ねえリュンケル」

「あ?」

「返答はわかりきってるけど一応聞くね、助けてあげようか?」

「はっ、寝言は寝て言え」

「だよね。それじゃごちそうさま」

 

食事を終えた俺は席を立つ。

俺が手を貸さずとも助かる手立てはある。これまでクラスポイントよりプライベートポイントを重視してきた彼なら、既に思いついていてもおかしくはない。 

だけど彼は何もせず裁かれるだろうね。誰のためかは知らないけど─たぶん表向きリュンケルを引きずり下ろしながら、今もなお彼を慕っている石崎君のためだろうけど─、彼はクラスの望むままこの学校を去ろうとしている。

ここで消えるには惜しい人材だけど、彼の意思を尊重してあげるべきだろう。死に行くものにかまけてないで、俺は俺のやるべきことを遂行しようではないか。

俺は携帯電話を取り出し今回のイベントの主役に、放課後会いたいという旨のメールを送る。予想通り余裕を無くしているらしく、了承の返信はすぐに帰ってきた。

 




原作を既読済みの方は桐葉君の台詞をよく読めば、5日後葛城君にどんな地獄が待っているか予想できると思います。

原作とは違ってクラス間のポイントの貸し借りに制限かついたのは、万が一桐葉君が綾小路君を助けるため2000万貸さないようあの人がルールにねじ込みました。
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