女王の女王   作:アスランLS

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有栖ちゃんマジじゃちぼーきゃく。


江戸の仇を長崎で

 

そして放課後。久し振りに有栖とマスミンと3人で仲良く下校……の前に有栖がコージーに用があるらしく玄関前で待機。やがてコージーがやってくると尾行期間に色々あったのか自然と警戒態勢に入るマスミンに対し、俺と有栖は友好的に話しかける。

 

「やっほコージー」

「こんにちは綾小路君。申し訳ありませんが、少しだけお時間を頂けないでしょうか?」

「別に構わないが、立ち話でいいか?」

「ええ。ですがここでは人目につきますので、少し移動しませんか?」

「ただでさえコージー目立つの苦手だもんね」

「配慮してくれて助かる」

 

俺も有栖も、何だったらマスミンも人目を引くタイプだからね。有栖としても自分の獲物を奪われたくないだろうし、万が一に備えて隠蔽工作には協力を惜しまない。

人気の無い場所への移動しながら、俺達はちょっとした世間話に花を咲かせる。

 

「それにしても皆さん、今回追加された試験はとても理不尽な内容だと思いませんか?」

「だね。退学者が出てないから無理矢理出させる……なんて説明されたけど、そもそも学校側は極力退学者を出すべきじゃないだろうに」

「そう言われてみれば、そうね。いつも冷静な真嶋先生も動揺を隠しきれていなかったし」

「うちの担任もいつもより取り乱していたな」

「それにはちゃんと理由があるんですよ」

「……アンタ何か知ってるわけ?」

「私事で恐縮なのですが、つい先日父の停職が決まりまして」

「あんたの父って……確かここの理事長よね?」

 

ありゃ意外、パピーのことマスミンに話してたんだ。

 

「まだ詳しくは聞けていませんが、何でも父に汚職の疑いがあるとか」

「あのルールや秩序に人一倍厳格な人が、そんなことするとは思えないけどね」

「ええ。勿論私や桐葉が見誤っていた、という可能性もありますが……何者かが父を引きずり下ろすために策略を企てたのかもしれません」

 

ファザコン有栖による突拍子も無い陰謀論……に見せかけた、さりげないコージーへの情報提供と忠告。君の父親

既に水面下で動いてるぞってね。

 

「ふーん……で、それが試験と何の関係があるのよ」

「退学者が出ていないことを考慮したとはあくまで建前で、その実特定の誰かを退学させるために用意された試験……と考えられませんか?」

「特定の誰かってまさか……」

 

Aクラスのゴリラ女子枠とはいえこの流れでコージーがまったく関係ないと思うほど、マスミンはおめでたい思考回路をしていない。

 

「今まで気にしないようしてたけどさ、なんでアンタは綾小路に目をつけてるわけ?」

「おや、今までは気にしていなかったのですか?」

「……当たり前でしょ」

「桐葉」

「うん嘘」

「だあああっ、相変わらずプライバシーってもんが無いわねアンタは!」

 

頭をガシガシとかきながら俺に食って掛かるけどマスミンさ、機械じゃあるまいし理由も説明されず散々尾行させられた相手に、まったくの無関心でいられるわけないでしょうが。

 

「以前から彼を知っていたから、では納得できませんか?」

「……つまりここで偶然に再会したってこと?どんな確率よそれ」

「確率はあくまで確率ですよ。ね、綾小路君」

「そうだな、サイコロを10個振って全て1が出ることに比べたらずっと現実的だ」

 

そういやそんなこともあったねえ。いやはや、時が経つのは早いもんだ。

 

「だったら手強いの?綾小路には悪いけど、とてもそうは見えないわよ」

「これまで誰に対しても無干渉無関心な貴方が、今日は随分と踏み込んで来ますね」

「誰だって気になるでしょ。アンタがそこまでこだわる相手なんて、それこそ本条しかいなかったんだし」

「ふむ、そうですね……例えば彼が、桐葉をも上回る実力者だと言ったら貴方は信じられますか?」

「流石に信じられないわよ。……え?まさか本当に?」

「まあ違いますが」

「アンタねえ!」

「今のは信じる方が悪いだろ。本条に対抗できるとしたら、それこそ高円寺しか思いつかないぞ」

 

何か白々しい謙遜してるコージーだが、「人工的に天才を作る」なんて常識からボール30個は外れた研究の最も成功した個体だけあって、そのスペックは俺や六助と比べても決して劣らない。

有栖曰く学力は俺達より遥かに上。服の上からだと正確には視えないけど、たぶん身体能力も俺より僅かに上。頭脳面も有栖が執着するくらいだから相当優秀、と。戦う内容にもよるけど、勝つには相当骨が折れそうな相手なのは間違いない。……社交性と人脈構築力は下の下だから、その手の勝負だと話にならないけど。

色々と話し込んでる内に目的の場所……特別棟に辿り着いた。

 

「ここなら邪魔も入らないでしょう。……さて真澄さん、申し訳ありませんが先にご帰宅なさってください」

「……あっそ」

「毎度苦労してるねマスミン」

「このくらいの理不尽さはマシだと思ってしまった自分を殴りたくなるわ……」

 

薄々わかっていたのか、特に文句も言わず階段を下りていくマスミン。背中が煤けて見えたのはきっと気のせいではない。またアロマキャンドルでも送っといてあげよう。

 

「それで、神室を先に帰してまで何の用だ?」

「私と綾小路君の勝負に関してです。以前次の試験で戦うと約束しましたが……もし良ければ、次回に見送っていただいてよろしいでしょうか?」

「内容は仲間同士の蹴落とし合いだし、とても勝負は成立しそうにないからね」

「オレとしては別に構わないが」

「ありがとうございます、これで心置きなくAクラスの内情に集中できます」

 

もう試験の結末まで確定させておいてどうどうと嘘を吐くねこの子も。病的に用心深いコージーならAクラスの内情なんて調査済みだろうし、100パー信じないと君もわかってるだろうに。

 

「ただ、停戦だからこそ確実に信用してもらうためにも1つ約束をします。私は今回の試験で綾小路君に対してマイナス要素、つまり批判票は決して与えません。万が一私が何かしらCクラスに関与し綾小路君が損害を被れば……そのときは私の負けで構いませんし、今後の勝負も無視して頂いても結構です」

 

現在進行形で山内君を唆してコージーを嵌めようと画策している人間から出たとは思えない、もはや自殺行為にも等しい条件付け。勿論有栖が急にトチ狂ったわけでも、コージーと戦って負けることが怖くなった訳でもなく、ちゃんとしたカラクリがあるけどね。

 

「今回オレを退学に追い込もうとしないのはわかったが、お前が手下に裏切られて退学したらどうするつもりだ」

「そんときゃ俺が助け船(金)を出すだけさ。……もっとも、そんな無駄に有栖の怒りを買うことをあの子達がするわけないだろうけど」

「試験が発表された段階で、私は皆さんの前で誰を切り捨てるか伝えておきました。クラスの方々に不要な精神的負担はかけたくありませんし」

「退学を突きつけられた奴からしたら、たまったものじゃないけどな」

「いや、ランスはアッサリと受け入れてたよ?」

 

そして自分の信念を守るために差し伸べた俺の手を振り払った。……その代償は4日後支払うことになる。

 

「葛城か……まあ妥当なところか」

「クラスに2人の頭は必要ありませんし、夏休みの試験で彼が龍園君と結んだ契約を不満に思っている生徒も多いですから」

「Cクラスはどう?六助とか危ないんじゃない?」

「当然候補の一人ではあるな。……悪いがそろそろ時間だ。友人を待たせてるのでな」

「そうですね、今日はこの辺にしておきましょう。貴方が退学にならないことを祈っていますよ」

 

有栖は一瞬監視カメラに視線を移してから、俺を連れて特別棟から出る。

……見られているかもしれないとはいえ、忠告1つするのもいちいち回りくどくて嫌になるね。

  

「ところで桐葉、BクラスとDクラスはどう動くと考えていますか?」

「Bクラスは誰も退学者を出さないだろうね。卍解ちゃんが取るであろう手段は2通り程あるけど、少なくとも誰かが切り捨てられることはありえない。Dクラスは……まあ99%リュンケルだろうね」

「彼はクラスの内外問わず嫌われていますし、私達としてもあの不利な契約を破棄できるので都合が良いでしょう。……それで残りの1%は?」

「コージーが彼を助けようとした場合かな。リュンケル本人に聞いたけど、コージーは1度自ら退学しようとする彼を何らかの手段で引き留めている。2度目が無いとは言い切れないでしょ?」

「なるほど……彼が助かる手段に1つだけ心当たりがありますが、プライドの高い彼がそれを受け入れるでしょうか?」

「ま、それはDクラスの人達の頑張り次第じゃない?」

 

少なくともコージーが持ちかければリュンケルは確実に拒絶するし、石崎君達舎弟軍団に頼み込まれてもたぶん首を縦に振らないだろうね。……となるとやはり、リュンケルにはバレないようこっそり救うしかないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日に引き続きカラオケルームにて、俺と有栖と山内君は悪巧みを再開する。ノートに書き留められた、コージーと親しくない生徒を俺と有栖が一人一人チェックしていく。

 

「……以上計21人、綾小路君に批判票を入れるグループの方々ですね」

「たった1日でよくそれだけ集めたもんだね」

 

特定の人物をターゲットにして退学に追い込む……口で言うのは簡単だが、相当上手い立ち回りを要求される。特定の誰かを退学にしようなんて言い出したら、逆に退学に追い込まれてもおかしくはないからね。誰だって仲間を切り捨てるよりかは罪人を裁く方が抵抗なくできるだろうし。

 

「やはり櫛田さんに仲介役を頼んで正解でしたね」

「まあ、ね。2人の言う通りだったよ」

「それで結局どういう風に頼み込んだの?泣き落としはやったの?」

「だ、だからそんな格好悪いことするわけないだろ!」

 

泣き落としをしたらしい。

 

「それではまた明日、これからは誰を引き込めばいいのかは私の方から連絡致します」

「わかった」

 

山内君が部屋から出ていった後、チェスでも指しながら今後の方針について話し合う。

 

「さて、このままいけばコージーに批判票が集まってめでたくゲームオーバー……とはいかないんだよね」

「ええ。用心深い彼はもし自分が狙われていると知らなくても、試験の性質上何かのきっかけで自分に批判票が集まる可能性を排除しない。となれば間違いなく試験前日辺りに対策を打つでしょう」

「クラスに不必要な生徒がいることを皆の前で証明する、とかね」

 

成績不良や素行不良だと該当者がいくつか出てきちゃうかもしれないけれど……例えば他クラスの生徒と結託して、自分のクラスに損害を出そうと考える生徒なんてのがもしも存在したとしたら、これほど都合の良い生け贄はいないよねぇ。

 

「はい、ここでルークでビショップを狩る」

「……リザインです。また負けてしまいましたね」

「今回は俺が先攻だったからな。後攻ならどうせ結果は逆だっただろうよ」

「では私達もそろそろ帰りましょうか」

「はいよー。……それと有栖、ウチのクラスの票操作はもう済んだの?」

「ええ。貴方と葛城君と戸塚君以外の37人には、誰に賞賛票を入れて誰に批判票を入れるかまで細かく指示を出しておきました。皆さんがちゃんと指示を守ってくれたらプロテクトポイントは私が受け取り、退学者は予定通り()になります」

「ちゃんと俺に30票くらい批判票入れるよう言っといた?俺がプロテクトポイントなんて貰ってもただ持て余すだけだろうし」

 

どうせ有栖が退学したら俺もさっさと辞めるんだし、プロテクトポイントなんて無駄極まりない。

 

「ええ、その点は抜かりありません。順当に行けば他クラスからの賞賛票は貴方と一之瀬さんが双璧でしょうし」

 

有栖も似たような理由でプロテクトポイントなど別に欲しがらないんだけど、コージーを退学させるよう指示してきた人物のことを考えれば、持っておくべきだと判断したようだ。この試験をコージーが乗り切った場合、最後の特別試験も退学が大きく絡む内容になるだろうからね。

寮に戻った俺達は一度ロビーに寄り、ある人物のポストに()()()()()()()()を投下してからエレベーターに乗る。最後の仕込みも終了したことだし、後は野となれ山となれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして()()()()()()()山内君が泣きついてきたのは、投票日前日の放課後のことだった。

 

「なるほど……私達が協力して綾小路君を退学にしようとしていたことも、貴方をこの試験後Aクラスに迎え入れることも、全てバレてしまいましたか」

 

なんか神妙そうに頷いちゃいるが、少なくともコージーが狙われていることがバレたのは、例のグループに軽井沢ちゃんを加えるよう薦めた有栖のせいだったりする。彼の話ではホリリンが全てを見抜いて、クラスの前で彼を晒し者にした……という内容だが実際は毎度恒例コージーの仕込みで、軽井沢ちゃんからリークした情報をそのままホリリンに流したのだろう。

櫛田ちゃんと並び女子の中心である軽井沢ちゃんを引き込めば、コージーへの批判票を一気に集められると唆したが、実はコージーの持ち駒である彼女にそんな裏工作を説明すれば秒でバラすに決まっている。グループに誘う過程でコージーやそのお友達に告げ口したら標的にする……なんて脅しをしていようが、その程度ものともしないくらいには彼に依存しているみたいだし。そして……

 

「しかし君をAクラスに引き入れることまでバレてるとはビックリだ。……そのことは俺達3人しか知らない筈なのに、どうして漏れたのかね?」

「な、何が言いたいんだよ!?さっきも言ったけど俺は誰にも喋っちゃいないからな!」

「うるさいな、そういきり立たないでよ。君が嘘をついていないことくらいわかってるさ。……考えられるのはこのカラオケルームでの密会、それも混合合宿直後にした取引を盗み聞きされてたってことかね。それ以降の密会を知られてたなら、俺達が君に賞賛票を入れることまで漏れちゃってる筈だし」

「だ、だからなんだってんだよ!俺は悪くねえからな!?」

「わかってるから少し落ち着きなよ。盗み聞きを見逃した俺にも落ち度はある。心配しなくても今回の件で君に責を問わないよ」

 

このタイミングで俺達に愛想を尽かされればゲームオーバーなので、山内君は必死に自己保身に走って責任逃れしようとしているが……一昨日俺がコージーのポストに取引の一部始終を録音したボイスレコーダーを投入したことが原因なので、マジで彼に責任はこれっぽっちもない。

しばらく目を閉じ考えを巡らせ(るフリをし)ていた有栖が、目を開けつつ溜め息をついて山内君を見据えると彼は露骨にビビり散らした。……楽しそうだねこの娘。

 

「仕方がありませんね、この辺りが引き際でしょう」

「ひ、引き際ってなんだよ?まさか俺を見捨てるつもりじゃ……!」

「そんな訳ないじゃないですか。あわよくばプロテクトポイントも回収しておきたかったのですが、ここから山内君がトップを取ることは流石に不可能だから諦めましょう……という意味です。後は予定通り私達Aクラスが貴方に賞賛票を入れて守り、試験終了後に2000万ポイント支払い貴方を引き入れましょう」

「な、なあ……そんな回りくどいことしなくても、今すぐ俺をAクラスに入れてくれないか?それなら─」   

「投票日にAクラス中の批判票が集まりかねないよ?これまで仲間だった生徒よりも、これまで敵だった生徒を切る方が心情的に楽だろうし」

「ええ、たとえ私達が呼び掛けても流石に耳を貸してくれないでしょうね」

「うぐっ……わ、わかったよ……!」

 

結局最後まで不安そうにしたまま、山内君はとぼとぼとカラオケルームを後にした。

もう彼は崖っぷちの状況にある。俺達Aクラスが投じると約束した賞賛票しか拠り所が無い。大丈夫、俺はAクラスに守られてる……そう信じて投票日を迎えるしか道は残されていない。

 

 

そして彼は裏切られ、崖から転落する運命にある。

 

 

ことの発端は混合合宿で有栖を誤って突き飛ばして転ばせ、あまつさえ有栖をどんくさい呼ばわりしたこと。

恨みは蛇よりも執念深く根に持つことに定評のある有栖は、コージーと事を構えるまで暇だったこともあって復讐を計画した。ただ退学させるだけではつまらない、彼にはこの世の地獄を味わってから脱落してもらおう……と。

 

 

薄汚い裏切り者の烙印を押され、クラスの全員を敵に回した挙げ句、最後には裏切られてこの学校を去る……それが彼の味わう地獄だ。

 

 

「ところで有栖、ネタバラシは今でも良かったんじゃない?人が絶望に落ちるところが大好きなのに、その瞬間を見なくてもいいの?」

「たしかに大好きなのは否定しませんが彼の性格上、プライドを投げ捨ててみっともなく許しを請う光景が目に浮かぶでしょう?私、見苦しいのは嫌いですので」

「なるほど、酷い女だ」

「ふふ、よく言われます」

 

 

 




はい、山内君脱落決定です。
原作だとAクラスと結託した理由が有栖ちゃんとの交際目的でしたが、この作品ではクラスへの明確な裏切りですのでヘイトが増してるでしょうね。
ただまあ、彼は原作と大差ない最期を迎えるのでまだマシな部類です……残りの2人よりは。
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