女王の女王   作:アスランLS

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いよいよ1年生編もラストスパートです。


選抜種目試験

 

3月8日、月曜日。

クラス内投票を終えた俺達Aクラスの教室には、先週まで40あった机が1つ減っていた。

戸塚弥彦の退学。

有栖の指示に従うままに彼を蹴落としたクラスメイト達も、大抵はどことなく憂鬱そうな様子であった。

みんな自身の将来のためAクラスで卒業できるように有栖に従っているし、戸塚がクラスにとって最も不必要だということを否定する者も、たぶんランスを除けばいないんだろうけど……だからと言って退学してほしいほど嫌っていたわけでもないんだろうね。

戸塚に対して全く何も思うところがないのはせいぜい、自己中の極み橋本、どこまでも他人に無関心なマスミン、生粋の畜生こと有栖……そしてある意味有栖以上に畜生な俺の4人くらいかな。

どことなく重苦しい雰囲気が払拭されることなく、ホームルームを告げるチャイムが鳴り真嶋先生が入ってきた。

 

「ではこれより、今年度最後の試験を発表する。今回の特別試験はこの1年間の集大成となる。知力、体力、連携、はたまた運……様々な能力が求められることになる」

 

なるほど、随分とごった煮感が強い試験みたいだね。

 

「各クラスの総合力を競う『選抜種目試験』……ペーパーシャッフルのときと同様、ルールに従って対決クラスを決めて行われることになる」

 

おっ、幸先良いな。

有栖はコージーとの一騎討ちを求めている以上、BクラスやDクラスは正直邪魔でしかないからね。もしバトルロイヤル形式なら、また俺が馬車馬のごとく働かされてたよ多分。

 

「お前達に分かりやすくするため、これらの白いカードと黄色のカードを用いて説明していく」

 

そう言って真嶋先生はトランプサイズの2種類のカードを黒板に貼り付け並べていく。10枚の白いカードは何も書かれておらず、38枚ある黄色いカードには1枚ずつに生徒の名前が書かれているけど……有栖の名前だけ見当たらないのは何でだろうね?

 

「まず先に説明するのは白のカードだがここには好きな種目を計10個、お前達が話し合いを経て好きに書き込んでもらう。種目の内容は両クラスへの公平性が保たれていれば……例えばほとんどのものが知らないマイナー競技やゲームといった提案者に有利すぎるものや、ルールがあまりにも難解なもの、決着が付くまでに何日もかかるもの以外なら何でも構わない」

 

なるほど……エクストリームアイロンがけとか、99年桃鉄対決とかはダメってことね。いやはや、それにしたってこれまでと違い随分と自由度の高い試験だ。

 

「それと引き分けも起こらないようルール調整が必要になる。たとえば将棋で千日手が起きた場合持ち駒の数で勝敗を決まる等、ちゃんと白黒付くよう徹底してルールを決めなければ採用されないと思え」

 

ふむ……ここまで勝ち負けに拘るってことは、種目で決着が付くごとにクラスポイントが変動するんだろうね。

 

「実際にわかりやすく再現しよう。そうだな……本条、どんな種目を選ぶ?何でも良いから言ってみろ」

「じゃあゴボウしばき合い対決で」

「あのな、確かに何でも良いとは言ったが……まあいい」

 

何やら呆れたように溜め息をついた後、真嶋先生は白紙のカードに『ゴボウしばき合い対決』と記入した。……おいこら橋本、笑ってんじゃないよ失礼だな君は。

 

「仮にこれを種目として……勝ち負けはどう決める?」

「先に降参するか、決められた枠内から出てしまった方の負けで」

「若干物議を醸しそうだが比較的知名度が高く、ルールも至ってシンプル。おそらくは採用されるだろう。……これを9回繰り返すだけだ。そして試験の日程だが、大きく分けて3段階となる」

 

真嶋先生は日程を黒板に書き記していく。

 

 

 

特別試験

 

3/8 特別試験発表日。同日対決クラスの決定。

 

3/15 10種目の確定。対決クラスの10種目及びルールの発表。

 

3/22 試験当日

 

 

 

「そして決めてもらう種目は10種類だが、3月22日の試験当日にその内の5種目を提出してもらう」

 

なるほど……つまり5種目はブラフで、種目が発表させる15日に敵対するクラスに対して駆け引きを仕掛けられるというわけだ。例えば公開された種目に『アメフト』を加えておき、相手がそれを本命だと思えば当然猛練習に励み、当日に行われないので徒労となる。……いやまあアメフトが学校に採用されるとは思えないけどね。

 

「そうして選ばれた10種目から試験当日、学校の用意したシステムによって7種類をランダムに選び出されることになる。ちなみに7種目の途中で勝敗が決しても、種目の勝敗ごとにポイントの変動があるので最後まで行われる」

 

げっ……よりにもよって運が絡んじゃうのか。まあ説明されている限りでは何とかなるかな、多分。

 

「10種目の申請は認定されるかのチェックが必要になるので、14日の日曜日に締め切りとする。確定されなかった種目分は学校側が代案を用意するが、それでお前達が不利になるのは言うまでもないだろう。それと、同一クラス内では勝敗のルールを変えただけの同じ種目は登録できない」

 

それじゃあじゃんけん(1回勝負~10回勝負)で運ゲーに持ち込むなんて荒業は不可能な訳ね。……いやまあ俺が所属するクラス相手にそんな自殺行為する子はいないだろうけど。

 

「質問よろしいでしょうか?」

 

と、ここに来て的場が手を上げる。いつもならこの役割はランスだったけど、彼は戸塚の退学の影響で随分と元気を無くしているため、彼もそれを察して切り込みに行ったのだろう。

 

「何だ?」

「1度決定された種目は変更できますか?」

「不可能だ」

「では、1人の生徒はいくつまで種目に出ることができますか?」

「原則1人1種目だ。……口頭だけでは理解しがたい部分もあるので、詳細を記載したプリントを1枚配布する。後でコピーするなり好きにするといい」

 

ふむ、1人1種目か……やはり1年の集大成となる試験には、突出した個が集団を覆しかねないルールを選ばないか。今回は割と楽できそうだね。

 

「そしてお前達には種目以外にも『司令塔』という役割を1人用意しなければならない。司令塔は種目に直接参加できないが、大人数を束ね臨機応変な対応が求められる重要な役割だ。全ての種目に関与し補助をするライフラインと捉えればいい」

 

真嶋先生の説明を聞いたクラス中全員の意識が、俺の隣にいる銀髪鬼畜幼女に向いた。このクラスの司令塔はこの子だろうからまあ仕方ない。真嶋先生もそれをわかっているから、有栖のカードを用意しなかったんだろうね。……あと有栖、杖で足の甲をグリグリしないで。心の声を察知するほどに幼女扱いが嫌か。

 

「司令塔が関与する方法もお前達に決めてもらう。例えば将棋であれば『10分間アドバイスができる』や『1度だけ指す生徒を交代させることができる』など、お互いに平等な関与であれば構わない。そして

司令塔はクラスが勝利した際個別にプライベートポイントが与えられるが……敗北時には責任を取って退学してもらうことになる」

 

前回から引き続いての強制的な退学となると、まず間違いなく例の理事代行さんが関与しているね。有栖が反抗したせいでコージーはプロテクトポイントなんて厄介なものに守られているから、どうにかして守りを剥がしたいのだろう。

だけど今回の試験でコージーと戦う予定の有栖にとっては、この上なく都合の良い条件が整ったことになる。実力を隠している普段のコージーなら、司令塔なんてポジションに抜擢されるわけがない。だけど誰だって退学なんてしたくないだろうし、必然的にプロテクトポイントを持つ生徒が司令塔に据えられる。……ここまでは有栖の筋書き通りだね。

 

「司令塔になった生徒には今日の放課後、多目的室に集まってもらい、くじ引きで選ばれた1人にクラスを選んでもらうことになる。くじに勝った時にどのクラスを選ぶのか、クラス全員でよく相談して決めておくように。ちなみに……」

 

真嶋先生は現在のクラスポイントを書き連ねていく。対戦相手選びの参考にしろということだろうかね。

 

 

 

3月1日時点のクラスポイント

 

Aクラス……1278ポイント

Bクラス……613ポイント

Cクラス……396ポイント

Dクラス……334ポイント

 

 

 

CクラスとDクラスは拮抗しているから、今回の試験の結果次第では元の位置に戻っちゃうかもね。そしてAクラスとBクラスだけど、想定していたよりも差は大きくなかった。卍解ちゃん達がとても頑張ったからなのか、それとも俺達が緩んでいたからか。

 

「そして肝心のクラスポイントの変動に関してだが……1種目につき30ポイントが勝ったクラスに移動し、最終成績で勝利したクラスに学校側から100ポイントが与えられる」

 

つまり最大で310ポイントか。全敗しても俺達が下位に落ちることはないけどこれまでのリードを大きく失い、他のクラスにいたってはどこがDに落ちてもおかしくないという愉快な状況だ。……まあうちのお嬢様は今、とにかくコージーを打ち倒すこと以外はどうでもいいんだろうけどさ。

なお真嶋先生が去った後配布された冊子に目を通すと、種目を決める際の細かいルールは……

 

 

 

・対決種目の条件

マイナー過ぎる種目や複雑すぎる種目、またはそのようなルール設定は不許可とする場合がある。基本ルールを逸脱し改変する行為は禁止。

筆記問題などを種目にする場合、学校側が問題を作成し公平性を保つ。

 

・使用できる施設

試験当日は多目的室にて司令塔が種目進行を行う。学校内の施設は一部の例外を除き使用可能。

 

・出場人数

種目に参加する人数は交代要因を除き申請する10種目で全て違っていなければならない。最大人数は20人(交代要因を含む)で最少は1人。

必要参加人数が10人以上の種目は2つつまでしか登録できない。また、種目の人数が同じものは設定できない。

 

・参加条件

各生徒が出場できる種目は原則1つまでだが、クラス全員が種目に参加した場合は2回目の参加を、クラス全員が2回種目に参加した場合は3回目の参加を許可する。

 

・司令塔の役割

司令塔は全ての種目に関与する権限を持ち関与方法は種目を決めるクラスが定め、学校側が承認して初めて採用される。

 

 

以上となっている。

種目の決め方によっては俺が2~3回参加することも理論上可能だが、あまりにも運に依存しているため有栖はそういう戦略は取らないだろうね。この娘はアホみたいにプライドが高いから、運良く勝てただけなんて評価は屈辱以外の何物でもないだろうし。

そして肝心の、どういった形でコージーと対決するかだけど、種目及び司令塔の関与方法を選べるという自由度の高さに加え、有栖が何を好み何を得意としているかを考慮すれば、推察するのは別に難しくない。

だけど狙い通りの種目が選ばれる確率は70%……まあまあ高いけど楽観視するには不安が残る数字だ。パワプロなら怪我が怖くて絶対に練習コマンドは選べない。

 

「桐葉」

「んー?」

「一度10面ダイスを振ってくれませんか?」

「……ああ、そういうことね」

 

有栖のお望み通り懐からダイスを取りだし転がしてみる……9か。俺の幸運は際限なく万能なものでは決してないが、この程度の範囲なら割と融通が利くと昔色々と検証してわかっている。

これで9番目に決めた種目は間違いなく採用されることが決定した。

 

「すみません桐葉、貴方がその才能を好んでいないと知っていながら頼ってしまって……」

「このくらいのサポートなら別にいくらでも構わないよ。それよりも司令塔の役目を果たしなよ、皆待ってるからさ」

「それもそうですね」

 

有栖は席を立ち、クラスメイト達の注目を浴びながらいつものように教壇の前に立った。これから自分が司令塔であることと、Cクラスと戦うことを伝達する。そしてどちらも抵抗なく受け入れるだろう。

プロテクトポイントを持つ有栖が退学のリスクを孕む司令塔になるのは妥当な判断だし、そうでなくても彼女が誰かに従う光景は誰も想像できない。

そしてCクラスと戦うことに関しては、多分赤子の手を捻るよりも説得が容易だろう。

 

……つい先日までCクラスの中心だった平田洋介君の、リストラを告げられたばかりのサラリーマンのような有り様を見れば、絶好のカモだと誰もが判断するだろうからね。

 

 

 

 

 




ちなみに桐葉君が司令塔につけば、提出した5種目が確実に選択されるというヌルゲー仕様になってしまいます。

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