女王の女王   作:アスランLS

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私も後学のためよう実の二次小説には結構目を通しましたが、戸塚君が有能な作品はまだ見たことがないですね……。


中間テスト終了

 

「……俺達に過去問を渡す、だと?」

 

中間テスト5日前。

Aクラス教室にて、過去問を片手に俺は葛城とその派閥メンバー達と接触した。有栖の派閥は図書室で勉強会を開いているため、完全にアウェー状態だ。うむ、周りから敵意の篭った視線をビシバシ感じるぜ。特に戸塚から。

 

「そ。1年1学期中間考査は毎年同じ問題が出題される。つまり上級生から問題用紙を入手できれば、中間テストでどんな問題がでるかわかるってことだ」

「で、でまかせ言うな!坂柳派のお前の言うことなんか誰が信じ──」

「待て弥彦。……本条、その仮説の根拠は何だ?それを聞かないことには、そんな話信じるわけにはいかん」

「ヒントなら露骨な程転がっていたでしょうが。不自然な難易度の小テスト、全教科の大幅な範囲変更、それに真嶋先生の『クラス全員が満点も可能』という言葉……本当は君もわかってるでしょ?俺の言ってることが嘘じゃないと」 

 

俺や有栖には及ばないが、葛城も頭の切れる男だ。学校側の出した回りくどい手がかりを疑問に思っていた筈。その上で俺の説明を聞いたのだから、全ての点が線でつながっただろう。

葛城が俺から過去問を受け取るのを渋るのは、それとはまったく別の理由からだ。

 

「まあ信じないなら別に構わないけどさ、このままだと葛城派は一気に衰退していくぜ?」

「……なんだと?」

「何のために有栖がお前に一騎討ちを申し込んだと思う?有栖に負けないためには満点に近い点数を取る必要がある以上、お前はこのテスト期間中必死に勉学に打ち込んできたんだろうな……派閥メンバーに勉強を教えることが疎かになるくらいにさ」

「っ!?」

「ようやく気づいたみたいだな。このままだと葛城派の成績は坂柳派に惨敗するだろう。そうなれば……」

「中立の関心が大幅に坂柳に大きく傾く、か……」

「なんで俺達が負けるって決めつけてんだよ!?」 

「逆に勝てると思ってんの?多分有栖は今回、ひたすら派閥メンバーの学力向上のみに心血を注いだぞ」 

 

神室とか鬼頭の目が日に日に死んでいってたから間違いない。

 

「それなら葛城さんが坂柳に勝て──」

「言っておくが有栖は俺の知る限り、満点以外の点数を取ったことないからな」

 

まあ俺もだけど。

絶句する戸塚及び葛城派に囲まれながら、俺は心の中でそう付け足す。

 

「……いったい何を企んでいる?」

「あー?」

「坂柳の策略は正直予想外だった。このままいけば奴に敗れることも、それを避けたくばその過去問に頼るしかないこともわかった。……だが本条、何故坂柳派筆頭のお前が奴の邪魔をする?いったい何が目的なんだ?」

「何って、嫌がらせだけど」

「「「……え?」」」

 

葛城が、戸塚が、いや葛城派の全員が一人残らずポカンとした表情になる。

 

「最近有栖がお前らとの政戦ごっこに夢中でよ、全然構ってくれなくて拗ねてんだよ。それでちょっと邪魔してやろうと思ってね」

「何だその理由!?面倒くさっ!」

「知らなかったのか?おそらく俺はAクラスで……いや、学年で一番面倒臭い男だぜ?」

「いや何で誇らしげなの!?そのドヤ顔やめろ腹立つわ!」

 

ほう……無能だと思っていたが、中々のツッコミスキルじゃないか戸塚。

 

「一応言っとくけど、過去問を使っても勝てるとは思うなよ?俺と有栖の思考レベルは拮抗している。俺が過去問という答えに辿り着いたということは、有栖も派閥メンバーに過去問を共有してると考えた方がいいよ。それじゃあ頑張ってね、応援してる」

 

渡す物も渡したし、俺はさっさ帰りますかね……と思った束の間、葛城に肩を掴まれ引き止められる。 

 

「待て本条。過去問のことは感謝するが……最後に一つ聞かせろ。お前は本当に坂柳がクラスを率いることが正しいと思うのか?あの女は危険すぎる」

「ふーん?……どうやら、有栖の本性には気づいてるみたいだね」

「悔しいが、坂柳は俺よりもリーダーの資質がある。奴が本気でリーダーを目指していたなら、俺と拮抗することなど無かった筈だ。……今の状況は、奴が意図的にこうなるよう誘導したとしか思えない」

「お見事、大正解だよ。……有栖はこの政戦ごっこを楽しむためだけに、クラスを真っ二つに割ったのさ」

 

パチパチとわざとらしく拍手してから、葛木の推測を肯定してやる。俺と有栖はSシステムを初日で解き明かした。当然、A~Dクラスが実力順になっていることも。

そのとき格下のB~CクラスよりもAクラス同士で争った方が楽しめる確率が高いと考えた有栖は、策略を巡らせて葛城と自分を支持する人間が半々になるよう調整したのだ。

 

「葛城さん、なんでそんなこと黙ってたんですか!?そのことをバラせば、坂柳を支持している連中もあいつを見限──」

「らないよ残念ながら。有栖を慕う連中はあの子の人徳に惹かれた訳じゃないからね。有栖が勝ち続ける限り、あの子の地位は揺らがない」

「……つまり坂柳にクラスを牛耳らせないためにはやはり、俺が奴に勝たねばならん訳か」

「そゆこと。まあ今回の勝負じゃ引き分けにするのが精一杯だろうから、お前が有栖を失脚させたきゃ今後の君の頑張り次第だよ」

 

そう助言し、今度こそ俺は教室を後にしようとするが……

 

「待て本条、肝心の質問に答えてもらってない。……何故お前は坂柳に従う?私利私欲のためにクラスの不利益をも厭わないような奴に、クラスを率いる資格があると思っているのか?」

「まあ確かに、有栖のしたことはとても褒められた内容じゃないけどさぁ……あいつの他に適任がいないんだから、しょうがないじゃないか」

 

少なくとも俺は絶対に嫌だ。つまらねー奴等を管理、統治するなんて正直面倒極まりない。他に適任がいないなら引き受けるけど、そうじゃないならそいつに丸投げする。

 

「適任なら、葛城さんがいるだろうが!」

「他の奴等にとっちゃ葛城で構わないかもしれないけどさ……俺、自分より頭悪い奴には従えないんだわ」

「っ!お前えええっ!」

 

完全に葛城を下に見た俺の発言に、頭に血が上った戸塚は俺の胸ぐらを掴み上げる。随分と慕われてんなぁ葛城。

 

「止せ弥彦!」

「痛いなぁ。離せよ」

「図に乗るのも大概にしろよ本条!」

「最終通告だ。離せよ」

「坂柳の犬風情が、葛城さんに舐めた口叩きやがって!ちょっと勉強ができるからっていい気になるなよ!」

 

葛城の制止や俺の忠告にも耳を貸さず戸塚は恫喝を続けるので、俺は戸塚の腹に右手を添えて……

  

「っっっぅぐぁっ!?」

 

震脚と共に思いっきり掌底を打ち込む。後方へ吹っ飛ばされた戸塚は勢い余って机を何台か薙ぎ倒し、その場に倒れこんだ。それと同時に受け身を取りつつ俺も後ろに倒れておく。

  

「弥彦っ!?」

 

慌てて葛城が駆け寄り戸塚の容態を確認する。意識が朦朧としているものの幸い怪我はしていないことに安堵し、非難するように俺を睨めつけた。

 

「ありゃりゃ、やってしまったなー。つい監視カメラがある教室内で暴力行為を振るってしまったなー」

「本条、貴様……!」

「それでどうする葛城?とりあえず咄嗟にカメラ越しだと事故に見えるようにしといたけど、一部始終を見ていた君は学校にこのことを訴えるか?だとしたら俺も一方的に罰せられるのは嫌だし胸ぐら掴まれて恫喝されたことを引き合いに出すけど、そうしたら喧嘩両成敗で二人とも罰せられるだろうね」

 

少し試すように葛城に問いかける。もしも有栖が葛城の立場なら迷うことなく学校側に訴えるだろう。クラス自体にも多少の被害は出るだろうが、各派閥への被害は天と地ほど離れている。ポーンの犠牲でクイーンを貶められるのだから、葛城が本気でリーダーになりたいなら迷う必要はない。だが……

 

「……いや、お前には過去問の借りがある。弥彦には訴えさせないし、俺の方から学校側に事故だと口裏を合わせておく。内輪揉めでクラスポイントを減らされるわけにはいかないからな」

「…………そりゃどうも。それじゃあ俺はもう行くから、戸塚が起きたらごめんって伝えといてよ」

 

敵意と警戒が混ざった視線を浴びながら、俺はようやく教室を後にする。どうやら葛城は有栖同様俺も危険人物だと認識したようだが、俺も俺で予想通り過ぎる結果に非常に落胆していた。あの体たらくではとても有栖には敵わない、どころか勝負にすらならないだろう。

せっかく千載一遇のチャンスをくれてやったのに……葛城よ、お前のそれは手堅いんじゃなくただ臆病なだけだぜ。あの様じゃ有栖どころか、Cクラスのあいつにも勝てないよな。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、結局今回も引き分けか。……一応聞いておくけど、俺の渡した過去問は見た?」

「見るわけないじゃないですか。もし仮にそれで貴方との長年の勝負に決着が着いたとしたら、私は一生後悔しますよ。完璧な形で貴方に勝利しなければ、私は納得できません。それに……」

「あの程度のテストをノーヒントで満点取れないようじゃ、俺と張り合う資格すらないよね」

 

中間テスト終了日の放課後、俺と有栖は久し振りに二人で下校していた。

今回の中間テストで、坂柳派と葛城派の戦いは引き分けに終わる。トップ二人は当然満点としてその配下、さらには無派閥の生徒達まで皆全教科満点かそれに近い点数を叩き出した。真嶋先生曰く、五教科の平均点は96.3と歴代でも最高点だそうで、Aクラス独走体勢により一層拍車をかける…………ことはなさそうだ。

Bクラスの平均点は93.4、Cクラスは90.1、歴代最低と蔑まれているDクラスでさえ88.6と、どのクラスも軒並み好成績を叩き出しているのだ。この結果は明らかに全クラスがテスト前に過去問を手に入れたからだろう。

いやー、どのクラスも中々侮れないなー(棒)。

 

「ともかくこれで葛城派との力関係は拮抗したまま……どころか、俺の見立てじゃ多少向こう側が有利といったところだね」

「ええ、葛城君も抜け目の無い方です。過去問を入手するだけならともかく、中立の生徒にも共有するとは」

「まあ中立の何人かは実は中立のフリした有栖の手下だが、それを抜きにしても現状ではやや優勢に傾いたな。いやあ困った困った。

 

 

それで有栖、どこまでがお前の筋書き通りなんだい?」

「貴方が過去問を他のクラスにバラまいたことと、戸塚君をノックアウトしたこと以外ですよ、まったくもう」

「テヘペロ」

「可愛いですけど誤魔化されませんよ」

 

そう……俺が今回独断で行ったのは他の三クラスに過去問を贈与したことと、戸塚に寸剄をぶちこんだだけだ。まあつまり、葛城に過去問を渡したのは有栖の指示ということなる。

 

「それじゃあ答え合わせといこうか。真嶋先生からSシステムの全容を説明され、クラスが二つに割れたあの日の放課後、俺はお前の指示で上級生から過去問を入手した。そのときには既にクラス全員で過去問を共有すること……もっと言えば、1学期の間は葛城派を存続させることに決めていたな?」

 

四月当初の予定では、1学期が終わる頃までに有栖は葛城派は潰すつもりだった。方針を大幅に変更したのは、どうやら葛城派が生き残ってた方が都合が良いらしい。

 

「となるとだ、これはあくまで推測になるが……近いうちにお前がクラスの指揮を取れない状況が待っているんじゃないか?」

「ええ、その通りです。あの日の昼休み真嶋先生に、今後行われるポイントが大幅に移動する試験について聞きに行きました。今回の中間テストでボーナスとして最低100クラスポイントが入るということは……」

「今後のテストではクラスポイントは然程変動しないとみていいだろう。学校側は各クラスに競合を促したいだろうから、今後学力以外の分野でポイントが大幅に変動する試験があるんだろうね」

「しかし今後行う予定の試験の内容を事前に知りたいとなれば、当然膨大なポイントが要求されることは間違いありません。実際100万ポイントも要求されましたが……」

「俺がかき集めたから余裕で払えるな、準備しといて正解だったぜ。ただお前も俺と同じくネタバレが嫌いだから、試験の内容なんざ普通は事前に知ろうとは思わない。……が、自分が参加しない試験なら話は別」

 

たとえば肉体的に大きな負担がかかる試験なんてものがあったら、心疾患の持ちのこの子が参加できる訳がない。

 

「ええ。私が真嶋先生に要求したのは、『この一年で私が参加できない試験の実施日と内容』です。あ、内容は他言することを禁じられているので話せませんよ」

「いらんわ」

 

ネタバレ嫌いだって言ってるでしょうが。

 

「……それで?その試験の実施日が1学期中、もしくは夏休み中だったりしたわけだ」

「夏休み中に2つ実施されるそうです。たとえ1学期中に葛城君の派閥を潰したとしても、私が参加できない上貴方にその気が無いのであれば、おのずとクラスメイトの多くは葛城君を頼るでしょう」

「それで特別試験で実績を出せば、不死鳥のごとく葛城が息を吹き返しちゃうだろうね。そんなことになるくらいなら葛城には1学期の間は頑張ってもらって、特別試験ではあえてクラスを取り仕切らせ……」

「盛大に失敗して転落してもらいましょう。そういう思惑もあって今回の試験では葛城派には、私の派閥より僅かに優位に立ってもらったのです」

「これで次の期末試験で多少打ち負かしても派閥は存続するだろうし、特別試験ではさぞや功を焦ってくれるだろうな。……後で嵌めるために偽りの勝利でぬか喜びさせておくとは、いやはや相変わらず実に悪辣な手口だね有栖」

 

答え合わせが終わり俺がそう締め括ると、有栖は不服そうに頬を膨らませる。なんだよ可愛いなオイ。

 

「悪辣とはなんですか失礼な。全部予想した上で止めもしない貴方も同罪じゃないですか。……だいたい、何で葛城君や他クラスに塩を送るような真似をしたんですか?」

「最近お前が構ってくれなくて寂しかったんだよ。言わせんな恥ずかしい」

 

実際は暇を持て余した思いつきでしかないのだが、葛城へ過去問を渡すときにでっち上げた理由をそのまま流用すると、有栖は少しきょとんとしてから嬉しそうに微笑んだ。この子は俺が焼き餅を焼いたりすると割と喜ぶ。

 

「ふふ、それは申し訳ありません。ではちょうどテストも終わったことですし、今日は久し振りにどこかへ出掛けましょうか」

「やったー。どこ行く?植物園?」

「そんな施設ここには無いでしょうに……そうですね、とりあえず私の行きつけのカフェで構いませんか?」

「はいよ。それじゃあエスコートはお任せを」

「ふふ、それでは頼みましたよ」

 

有栖がAクラスのトップになる頃には、各クラスの結束も強まり、クラス間の争いは一段と激化しているだろう。いやはや実に楽しみだ、が……とりあえず今は有栖とのデートを楽しもうか。

 

 

 




次回、エピローグです。桐葉君が独断で接触した各クラスの人達の話になります。



余談ですが、決められた時間に決められた食事以外を極力摂らない桐葉君は、有栖ちゃんと一緒に行ったカフェで水だけ注文して店を出ました(笑)。
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